入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~

紗綺

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〜甘い学園生活送ります〜

お互いに嬉しい

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お昼までの講義を終え、グレイス様と約束した食堂まで向かう。
途中向けられる視線には様々なものがある。
単純な好奇心、悪意、心配、欲望、無関心もあり、多種多様な人間がいるなと実感する。
より多く感じるのは好奇心だった。

その中に近づいて来る悪意混じりの興味を感じ取る。
人の流れに逆らうような動きに幾人かの注意が引き付けられる。
朝のようにまた絡まれそうだ、と思ったところで可愛らしい声で後ろから呼びかけられた。

「フェリシア様、お先にテーブルにどうぞ。
グレイス様が奥のテーブルをお取りしていますの」

振り向くとウェーブしたふわふわの茶髪を揺らした女子生徒がにこっと笑いかけてくれた。
彼女がグレイス様が言っていた一人なのだと察してありがとうございますとお礼を言い、すでに席に着いているグレイス様のもとへ向かう。
こちらに向かっていた男子生徒は不満げな顔をして方向を変えた。流石に他の生徒が隣にいる状況で絡んでくる勇気はなかったのだろう。
テーブル着くとグレイス様へ誘ってくれたお礼を告げる。
先ほど声を掛けてくれた女子生徒もすぐに合流し、改めてお礼を言うとわずかに頬を赤らめて恐縮していた。

自己紹介を終え、それぞれの専攻の話を軽くして本題に入っていく。
やっぱりというか話題は私の婚約破棄についてだった。
とはいえ元婚約者が学園内で不貞行為に及んでいたことは噂が本当かどうかだけで終わり……、私とルークの話をあれこれと聞かれている。

「入学式で一緒にいらしゃった方はフェリシア様の大切な方ですの?」

一人が聞くと次々と関連づいた質問が飛んでくる。

「ええ、ルークは幼い時から側にいて……、とても大切な存在、ですね」

「フェリシア様と同じくハイラル家の色をお持ちですけれど、ご親戚ですか?」

「従兄妹にあたります」

ひとつ答えるたびにきゃあっ、と華やかな声が上がる。
近くのテーブルが空いているのはグレイス様たちが視線で牽制しているからでしょう。
一部だけを聞いて噂を広げられることはなさそうでほっとしている。

「あのあのっ、フェリシア様っ!」

食堂前で声を掛けてくれた子が興奮した様子で身を乗り出す。
どうしました?と首を傾げて問いかけるとさらに頬を紅潮させた。
可愛らしい声に可愛らしい表情、可愛らしい振る舞い。こういう方は私の周りにはいない。自分とは全く違うので普段より柔らかい態度を取ってしまう。

「お願いです、もう一度で良いので男子生徒の制服を着た姿を見せてくださいませんか?!」

「えっ……?」

予想外の話題に目を瞬く。
戸惑っていると他の方まで一緒になって見たいと言い出しました。

「お願いします!
入学式ですごい美少年が現れたって話題になっていたんですけど、ちらっとしか見れなくて。
その特徴どう聞いてもフェリシア様なんです!」

「あ、お願いできるのなら私も見たいです!」

「私も! 入学式では前の席だったので見られなかったんです!」

「ええと……」

何とはなしにグレイス様の方を見ると私も見たいわと微笑まれた。
男子生徒の制服も部屋にあるので見せるのは簡単だけれど。
と、ひとつ閃く。
ここ最近悩ませられている問題が解決するかもしれない。
そう思ったら自然と微笑んでいた。




教室に入り本を読みながら講義の始まりを待つ。
早朝の静かな空気は読書が進んで良い。開いたノートに気になったことを書き写していく。
段々と人が増えていくのが空気でわかった。
しばらくすると教師が入ってきたので本を閉じて顔を上げる。
目が合った教師が唖然とした顔をするが、一瞬で気を取り直して講義を始めた。
髪を耳に掛けようとした指が空を切る。
そうだった、つい癖で。
口元を釣り上げて毛先に触れる。
この作戦はやっぱり有効だったんだなとほくそ笑んだ。

幾つか講義を終え、昼食の時間になる。
この時間まで実に快適に過ごせていた。
グレイス様とは今日は講義が被らないが廊下ですれ違ったときにウインクをしたら驚きに口を開けていた。
口元に指を当てたらすぐに口を押えていた。悪戯に成功した気分。
今日は午後すぐは講義を入れていないため図書館に併設されたカフェテリアに行くことにした。
軽い昼食を取ってお茶を飲んでいるとグレイス様たちが近づいてくる。

「フェリシア様!」

驚きと喜色の籠った呼びかけにテラスに出ませんかと提案する。
図書館に併設されたこのカフェテリアでは図書館の本も持ち込み可能で読書をしている生徒もいるため、おしゃべりをするなら外の方が気をつかわなくて良いとの判断だ。

テラスに出て丸いテーブルまで案内し椅子を引く。
どうぞと微笑むと彼女たちはにかみを見せ腰を下ろした。
グレイス様はそこまでしなくてもと言っていたけれど、私が楽しんでいるのだと気づくと黙って引かれた椅子に座った。

「フェリシア様! 素敵です!!」

「昨日の今日でそのお姿を見せてくださるとは思いませんでした、ありがとうございます」

きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ皆様に口元を綻ばせる。喜んでくれて良かった。
もちろん皆様を楽しませるためでもあるけれど、自分のためでもある。

「喜んでもらえたならうれしいです。
それに、最近周りが騒がしくて困っていたのですが、皆様の提案のおかげで今日一日とても静かに過ごせました」

純粋に気づいていない者もいるけれど、男装した私に気づいている生徒もいる。
けれど昨日までと違い視線があってもすぐに逸れたり驚きに目を見張るだけで何も言ってこない。
とても快適だ。

「まあ、それではこれからずっとそのお姿で登校を?」

「そうですね。
しばらくはこの姿でいようかなと思います」

新たにルークとの婚約が結ばれれば興味本位の男性は近づいて来なくなるだろうし、それまでの辛抱かな。

「この姿でも皆さん仲良くしてくださいね?」

小首を傾げてあざとく微笑むと皆様頬を紅潮させもちろんです!と答えてくれた。


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