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番外編 ~ひたすら甘い新婚生活 & これからの二人 ~ など
覚悟は決まってる
しおりを挟む初めて入った夫婦の部屋は柔らかい白を基調としていて、調度品も明るい雰囲気でまとめられていた。
静かな部屋にはまだ続いているはずの宴の喧騒は聞こえてこない。
ひとりベッドの上で所在なく手を組んだり下ろしたりを繰り返してルークを待つ。
ちらりと下ろした視界に入ってきた色に、急に羞恥心がこみ上げてきていたたまれない。
あんなこと言わなければ良かったかもと少しだけ思った。
湯冷めをしないようにと羽織ったローブの襟元を引っ張り肌を隠す。
肩から落ちないよう紐を結び直していると扉が叩かれた。
驚きに手元が狂って歪んだ紐を直し終わる前にルークが入ってくる。
「待たせてごめん、フェリシア」
ベッドに乗り上げてきたルークへ手を伸ばすとその頬はひんやりとしていた。
「湯冷めしたの?」
「少し頭を冷やした方が良いかなと思って」
暴走してるって忠告もされたしと微かに照れの混じった返答に言葉に困る。
「ごめん、困らせるつもりじゃないんだ。
でも、自分でも自覚してるけど浮かれてる」
珍しく苦笑を見せるルークに少し緊張が解ける。
浮かれてると素直に口に出されるとくすぐったい。
少しだけ膝を進めてルークに近づく。
近しい者にしか許されない距離が嬉しくて表情が緩む。
同じことを考えていたのかふわっと笑んだルークに自然に口づけられた。
軽く触れた唇はすぐに離れていき、また口づけられる。
口づけられるたびに幸せが全身に広がっていった。
されるがままに口づけを受け入れているとルークが困った顔をする。
「フェリシア、そんなに蕩けた目をしないで」
理性が飛びそうになる、そう囁いたルークが私の頬を撫でる。
そんな無理を言わないでほしい。
だって気持ちよくて幸せで何も考えられなくなってしまうんだもの。
何も言えずに黙っているとルークの手が乱れたままの襟元に伸びた。
紐を解いても?と問う声は確認でしかなく、小さく頷くと同時に紐が引かれた。
はだけたローブから深紫のツヤのある光沢をした布地が現れる。
肩ひもを縁取るレースや施された刺繍は黒。
艶やかな紫の生地には花が刺繍されていてとても美しく可愛らしい。
濃い色味は肌の白さを際立たせ、胸元の切れ込みから覗く控えめなふくらみに視線を誘導させる。
腿をわずかに覆う程度の短い丈はとても煽情的だった。
裾の方に一羽だけ描かれた蝶は全体より少し明るい紫で、非常に凝った作りをしている。
黒と紫のウエディングドレスは嫌。
代わりにルークしか見れない夜着にその色を使うのはどうかと誘導したのは私だけど、ここまで凝った物を作るとは思わなかった。
すごく綺麗だけれど、これを着せたいと作ったルークの思考を想像すると恥ずかしい。
とはいえ夜着はとても綺麗で、まさに誂えたごとく似合っていた。
ルークの瞳が注がれているのを感じるとそれだけで羞恥に身体が熱くなった。
自分からローブの袖を抜き、夜着だけの姿になるとルークの息が揺れたのを耳が捉える。
「フェリシア……。
俺をどうする気?」
深紫の瞳が危うく煌めく。
俺が冷静でないのはわかっているでしょうと囁く。
わずかに上擦った声に口が勝手に笑みを作る。
冷静でいてほしいなんて思わない。
この先の行為に恐れや不安がないなんて言わないけれど、でも。
「好きにしてほしいの」
ルークはずっと私の想いや状況を慮って自分の気持ちを押し殺していた。
そうさせてきたのは私。
そんなルークだから守られてきたことも。
理解していて、それでも隠さない本当のルークを見たい、教えてほしいと思ってしまう。
「ルークがしたいことを思いのままにして?」
「意味はわかってると思うけど……。
フェリシアが思ってるほど俺は大人の男でも我慢強いわけでもないよ?」
結婚式のことだって暴走しかけたしと脅すような囁きは低く、けれどちっとも怖くない。
だって、ルークが言ったのよ。
『俺に愛される覚悟を決めておいてくださいね』って。
私だって、ずっと覚悟はしてきたんだから。
「ルークに愛される覚悟はできてるわ。
だから、我慢しないで教えて……?」
私しか知らないあなたを……。
そっと身を乗り出して耳元へ落とした囁きに返ってきたのは、手首を掴む力強い手の感触だった。
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