入学初日の婚約破棄! ~画策してたより早く破棄できたのであの人と甘い学園生活送ります~

紗綺

文字の大きさ
23 / 27
番外編 ~ひたすら甘い新婚生活 & これからの二人 ~ など

覚悟は決まってる

しおりを挟む
 

初めて入った夫婦の部屋は柔らかい白を基調としていて、調度品も明るい雰囲気でまとめられていた。
静かな部屋にはまだ続いているはずの宴の喧騒は聞こえてこない。
ひとりベッドの上で所在なく手を組んだり下ろしたりを繰り返してルークを待つ。

ちらりと下ろした視界に入ってきた色に、急に羞恥心がこみ上げてきていたたまれない。
あんなこと言わなければ良かったかもと少しだけ思った。
湯冷めをしないようにと羽織ったローブの襟元を引っ張り肌を隠す。
肩から落ちないよう紐を結び直していると扉が叩かれた。
驚きに手元が狂って歪んだ紐を直し終わる前にルークが入ってくる。

「待たせてごめん、フェリシア」

ベッドに乗り上げてきたルークへ手を伸ばすとその頬はひんやりとしていた。

「湯冷めしたの?」

「少し頭を冷やした方が良いかなと思って」

暴走してるって忠告もされたしと微かに照れの混じった返答に言葉に困る。

「ごめん、困らせるつもりじゃないんだ。
でも、自分でも自覚してるけど浮かれてる」

珍しく苦笑を見せるルークに少し緊張が解ける。
浮かれてると素直に口に出されるとくすぐったい。
少しだけ膝を進めてルークに近づく。
近しい者にしか許されない距離が嬉しくて表情が緩む。
同じことを考えていたのかふわっと笑んだルークに自然に口づけられた。
軽く触れた唇はすぐに離れていき、また口づけられる。
口づけられるたびに幸せが全身に広がっていった。
されるがままに口づけを受け入れているとルークが困った顔をする。

「フェリシア、そんなに蕩けた目をしないで」

理性が飛びそうになる、そう囁いたルークが私の頬を撫でる。
そんな無理を言わないでほしい。
だって気持ちよくて幸せで何も考えられなくなってしまうんだもの。

何も言えずに黙っているとルークの手が乱れたままの襟元に伸びた。
紐を解いても?と問う声は確認でしかなく、小さく頷くと同時に紐が引かれた。

はだけたローブから深紫のツヤのある光沢をした布地が現れる。
肩ひもを縁取るレースや施された刺繍は黒。
艶やかな紫の生地には花が刺繍されていてとても美しく可愛らしい。
濃い色味は肌の白さを際立たせ、胸元の切れ込みから覗く控えめなふくらみに視線を誘導させる。
腿をわずかに覆う程度の短い丈はとても煽情的だった。
裾の方に一羽だけ描かれた蝶は全体より少し明るい紫で、非常に凝った作りをしている。

黒と紫のウエディングドレスは嫌。
代わりにルークしか見れない夜着にその色を使うのはどうかと誘導したのは私だけど、ここまで凝った物を作るとは思わなかった。
すごく綺麗だけれど、これを着せたいと作ったルークの思考を想像すると恥ずかしい。
とはいえ夜着はとても綺麗で、まさに誂えたごとく似合っていた。

ルークの瞳が注がれているのを感じるとそれだけで羞恥に身体が熱くなった。
自分からローブの袖を抜き、夜着だけの姿になるとルークの息が揺れたのを耳が捉える。

「フェリシア……。
俺をどうする気?」

深紫の瞳が危うく煌めく。
俺が冷静でないのはわかっているでしょうと囁く。
わずかに上擦った声に口が勝手に笑みを作る。
冷静でいてほしいなんて思わない。
この先の行為に恐れや不安がないなんて言わないけれど、でも。

「好きにしてほしいの」

ルークはずっと私の想いや状況を慮って自分の気持ちを押し殺していた。
そうさせてきたのは私。
そんなルークだから守られてきたことも。
理解していて、それでも隠さない本当のルークを見たい、教えてほしいと思ってしまう。

「ルークがしたいことを思いのままにして?」

「意味はわかってると思うけど……。
フェリシアが思ってるほど俺は大人の男でも我慢強いわけでもないよ?」

結婚式のことだって暴走しかけたしと脅すような囁きは低く、けれどちっとも怖くない。
だって、ルークが言ったのよ。

『俺に愛される覚悟を決めておいてくださいね』って。

私だって、ずっと覚悟はしてきたんだから。

「ルークに愛される覚悟はできてるわ。
だから、我慢しないで教えて……?」

私しか知らないあなたを……。

そっと身を乗り出して耳元へ落とした囁きに返ってきたのは、手首を掴む力強い手の感触だった。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

そんな事も分からないから婚約破棄になるんです。仕方無いですよね?

ノ木瀬 優
恋愛
事あるごとに人前で私を追及するリチャード殿下。 「私は何もしておりません! 信じてください!」 婚約者を信じられなかった者の末路は……

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです

hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。

私を見下していた婚約者が破滅する未来が見えましたので、静かに離縁いたします

ほーみ
恋愛
 その日、私は十六歳の誕生日を迎えた。  そして目を覚ました瞬間――未来の記憶を手に入れていた。  冷たい床に倒れ込んでいる私の姿。  誰にも手を差し伸べられることなく、泥水をすするように生きる未来。  それだけなら、まだ耐えられたかもしれない。  だが、彼の言葉は、決定的だった。 「――君のような役立たずが、僕の婚約者だったことが恥ずかしい」

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】あなたが妹を選んだのです…後悔しても遅いですよ?

なか
恋愛
「ローザ!!お前との結婚は取り消しさせてもらう!!」 結婚式の前日に彼は大きな声でそう言った 「なぜでしょうか?ライアン様」 尋ねる私に彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ 私の妹マリアの名前を呼んだ 「ごめんなさいお姉様~」 「俺は真実の愛を見つけたのだ!」 真実の愛? 妹の大きな胸を見ながら言うあなたに説得力の欠片も 理性も感じられません 怒りで拳を握る 明日に控える結婚式がキャンセルとなればどれだけの方々に迷惑がかかるか けど息を吐いて冷静さを取り戻す 落ち着いて これでいい……ようやく終わるのだ 「本当によろしいのですね?」 私の問いかけに彼は頷く では離縁いたしまししょう 後悔しても遅いですよ? これは全てあなたが選んだ選択なのですから

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

処理中です...