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レノと別れて、家に戻れば相変わらずの日常が待っていた。
実家の訓練場は、常に屈強な体躯の男たちが、戦場さながらの剣の打ち合いをしていた。
大剣の者もいれば、レイピアという細身で先端が鋭く尖った刺突用の片手剣の者もいる。魔法以外のありとあらゆる剣と武術がそこではひしめき合っていた。
「相変わらずひょろいな!」
馬鹿にする言葉とともに重い一撃を受ける。受ける武器は双剣だ。大剣で打ち込んでくる男の口元が憎らしげに歪んでいた。大剣の男の名は、ブライアン・ヴェンディエール。ノアの実の兄で魔法しか使えない弟を嫌っており、事あるごとにこうした嫌がらせという名の稽古をしかけてくる。
双剣で受け止めきれなかったノアは、後ろへ弾かれ尻餅をつくと、周りの外野からの野次に唇を噛み締めた。
「うざっ、もう飽きた」
双剣をその場に投げ捨て、そのまま地面に大の字に横になった。戦場さながらの剣の打ち合いのど真ん中だというのに、周囲の状況などお構いなしだった。
「ノアール危ないわ」
大の字になったノアに危ないと言いつつも、助けようとはせず、ノアの方へ向かって攻撃をしようとした複数人をレイピアで相手をする女性は、ルイーゼ・ヴェンディエール。ノアの実の姉である。
「氷壁」
寝転がりながら、右手を上げ上空に向かって魔法陣を起動すると、魔法なら誰にも負けないとばかりに、自分の周りを取り囲むように氷の壁を築いた。
「雷撃槍」
訓練場を駆け巡る雷が動きを封じるように降り注ぎ、攻撃し合っていた男たちが雷を避けるように防御するが、触れるだけで感電する威力のある攻撃に、男たちは手も足も出ず、地面に無残にも転がった。
立っていられたのは防御結界で雷を避けたブライアとルイーゼだけだった。
ヴェンディエール辺境領。
ガタイの良い屈強な男揃いの領で、魔法よりも武術と剣術に長け、王立騎士団並みの武力であらゆる敵を抑え込み払いのけると名高い領である。敵に回せばものすごく厄介になることは間違いない。
ノアは、ノアール・ヴェンディエールといい、厄介で枷にしかならない肩書きは、ヴェンディエール辺境伯爵家の末っ子である。
四年前、十一歳の誕生日を迎えたノアは、十五歳になったら王立学院に入るので、十二歳から冒険者をやらせてほしいと誕生日のプレゼントとして願い出た。当初は、また馬鹿なことを言い出したと本気に取り合ってもらえなかったが、一年間かけて、両親と兄たちを説き伏せ、冒険者としての第一歩を踏み出した。
そして約束どおり十五歳には連れ戻され、明日には王立学院の寄宿舎へ入寮が決まっていた。さらに明後日には王立学院の入学式が控えており、スケジュール的には忙しい。
稽古場を感電者で使えなくし、追い出されるように自室へと戻ってきた。
久しぶりに帰ってきた部屋は、寒々しくだだっ広い。ノアはため息をつき、ベッドに乗せてあるスーツケースを避けながら寝転がる。
(・・・レノ)
レノを思い、冒険者の指輪を見つめていたが、そっと指輪に口づける。
(三年間ずっと一緒にいたからかな、いないことに違和感)
宿で、レノと二人狭いベッドでくっついて寝ていた頃が、すでに懐かしい。一週間しか経ってないのに、もう会いたい。
「ノアール、支度は整った?」
ノックとともにひょっこり顔を見せたのは、一番歳の近い姉ルイーゼだった。ノアの一番の理解者で協力者でもある。
「っ!姉さま・・・」
部屋で支度をしている風を装っていたノアは、慌てて身を起こし姉の方へ顔を向けた。
「どうしたの?学院へは行く約束でしょ?」
「行くよ、約束だから」
見られたかも?と思いが横切ったが、触れられないのでそのままスルーを決め込み、いかにも少し休憩してただけと、ベッド脇のサイドテーブルに積み上がった本を、スーツケースに入れる。
「支度手伝ってあげようか?」
そっとベッドに腰掛けると、せこせこと動くノアをルイーゼは優しく微笑み見つめた。
「いやいいよ、自分でできる」
冒険者になる前にあらかた片付けた部屋は、生活に必要なもの以外はほとんどない。
「ねぇ指輪、誰の?」
そっと、右手の中指の指輪をほっそりとしたルイーゼの指で指さされ、誤魔化せたと思っていたノアは、ごくりと唾を飲み込む。
(見られてたのか・・・)
「僕のだよ」
「誤魔化しても無理よ、誓いみたいに口づけてたじゃない。あとそれ、剣士用の指輪よ」
言葉もなく衝撃を受けたノアは、何もかもバレてる現状に赤面し、ベッドに頭を付けて身もだえた。
(なにそれ!剣士用とか聞いてないんだけど!)
「ノアール、だ・れ・の?」
顔を掴まれ、視線を合わせられ、一言、一言、区切られ、さらにはなにもかも見透かされるように、にっこりと笑みを深める姉にノアはなにも言えず言葉に詰まる。
「・・・!」
「ノアールの好きな人?」
(僕の好きな人?)
姉の言葉にきょとんと目を丸くし、言葉もなくふるふると首を横に振る。
「レノとはそんなんじゃない」
一旦言葉を区切ると、ノアはふんわりと微笑み、とても大事そうに言葉を続けた。
「信用できて背中を預けられる大切な人」
「三年の間にそんな人ができたのね、でもなんだか、ノアは寂しそう」
優しく髪を撫でられ、ノアは唇を尖らせ、姉に甘えるような視線を向け、ボソボソと話し始める。
「レノに、学院のこと言ってない。家のことも貴族だってことも、なにも言えなかった…」
冒険者になり始めた頃は、そんなに深く考えていなかった。身分とか立場とか、なにも考えなくてもいいくらい自由で、充実して楽しかった。
「そう、それは苦しいわね。学院が終わって、冒険者に戻ったらいいじゃない。辺境伯領なんて、脳筋のお兄様たちに任せておけばいいの。私もその時にはお嫁に行ってるかもしれないから、ついていってあげられないけど、そのときはちゃんと自分で謝るのよ?」
そう言って、姉は抱きしめてくれた。レノが魔力を譲渡してくれた時のようにほのかに温かい。
「うん、次会ったら…」
小さくつぶやき、次は隠し事しないように、レノが納得するまで話そうと誓った。
実家の訓練場は、常に屈強な体躯の男たちが、戦場さながらの剣の打ち合いをしていた。
大剣の者もいれば、レイピアという細身で先端が鋭く尖った刺突用の片手剣の者もいる。魔法以外のありとあらゆる剣と武術がそこではひしめき合っていた。
「相変わらずひょろいな!」
馬鹿にする言葉とともに重い一撃を受ける。受ける武器は双剣だ。大剣で打ち込んでくる男の口元が憎らしげに歪んでいた。大剣の男の名は、ブライアン・ヴェンディエール。ノアの実の兄で魔法しか使えない弟を嫌っており、事あるごとにこうした嫌がらせという名の稽古をしかけてくる。
双剣で受け止めきれなかったノアは、後ろへ弾かれ尻餅をつくと、周りの外野からの野次に唇を噛み締めた。
「うざっ、もう飽きた」
双剣をその場に投げ捨て、そのまま地面に大の字に横になった。戦場さながらの剣の打ち合いのど真ん中だというのに、周囲の状況などお構いなしだった。
「ノアール危ないわ」
大の字になったノアに危ないと言いつつも、助けようとはせず、ノアの方へ向かって攻撃をしようとした複数人をレイピアで相手をする女性は、ルイーゼ・ヴェンディエール。ノアの実の姉である。
「氷壁」
寝転がりながら、右手を上げ上空に向かって魔法陣を起動すると、魔法なら誰にも負けないとばかりに、自分の周りを取り囲むように氷の壁を築いた。
「雷撃槍」
訓練場を駆け巡る雷が動きを封じるように降り注ぎ、攻撃し合っていた男たちが雷を避けるように防御するが、触れるだけで感電する威力のある攻撃に、男たちは手も足も出ず、地面に無残にも転がった。
立っていられたのは防御結界で雷を避けたブライアとルイーゼだけだった。
ヴェンディエール辺境領。
ガタイの良い屈強な男揃いの領で、魔法よりも武術と剣術に長け、王立騎士団並みの武力であらゆる敵を抑え込み払いのけると名高い領である。敵に回せばものすごく厄介になることは間違いない。
ノアは、ノアール・ヴェンディエールといい、厄介で枷にしかならない肩書きは、ヴェンディエール辺境伯爵家の末っ子である。
四年前、十一歳の誕生日を迎えたノアは、十五歳になったら王立学院に入るので、十二歳から冒険者をやらせてほしいと誕生日のプレゼントとして願い出た。当初は、また馬鹿なことを言い出したと本気に取り合ってもらえなかったが、一年間かけて、両親と兄たちを説き伏せ、冒険者としての第一歩を踏み出した。
そして約束どおり十五歳には連れ戻され、明日には王立学院の寄宿舎へ入寮が決まっていた。さらに明後日には王立学院の入学式が控えており、スケジュール的には忙しい。
稽古場を感電者で使えなくし、追い出されるように自室へと戻ってきた。
久しぶりに帰ってきた部屋は、寒々しくだだっ広い。ノアはため息をつき、ベッドに乗せてあるスーツケースを避けながら寝転がる。
(・・・レノ)
レノを思い、冒険者の指輪を見つめていたが、そっと指輪に口づける。
(三年間ずっと一緒にいたからかな、いないことに違和感)
宿で、レノと二人狭いベッドでくっついて寝ていた頃が、すでに懐かしい。一週間しか経ってないのに、もう会いたい。
「ノアール、支度は整った?」
ノックとともにひょっこり顔を見せたのは、一番歳の近い姉ルイーゼだった。ノアの一番の理解者で協力者でもある。
「っ!姉さま・・・」
部屋で支度をしている風を装っていたノアは、慌てて身を起こし姉の方へ顔を向けた。
「どうしたの?学院へは行く約束でしょ?」
「行くよ、約束だから」
見られたかも?と思いが横切ったが、触れられないのでそのままスルーを決め込み、いかにも少し休憩してただけと、ベッド脇のサイドテーブルに積み上がった本を、スーツケースに入れる。
「支度手伝ってあげようか?」
そっとベッドに腰掛けると、せこせこと動くノアをルイーゼは優しく微笑み見つめた。
「いやいいよ、自分でできる」
冒険者になる前にあらかた片付けた部屋は、生活に必要なもの以外はほとんどない。
「ねぇ指輪、誰の?」
そっと、右手の中指の指輪をほっそりとしたルイーゼの指で指さされ、誤魔化せたと思っていたノアは、ごくりと唾を飲み込む。
(見られてたのか・・・)
「僕のだよ」
「誤魔化しても無理よ、誓いみたいに口づけてたじゃない。あとそれ、剣士用の指輪よ」
言葉もなく衝撃を受けたノアは、何もかもバレてる現状に赤面し、ベッドに頭を付けて身もだえた。
(なにそれ!剣士用とか聞いてないんだけど!)
「ノアール、だ・れ・の?」
顔を掴まれ、視線を合わせられ、一言、一言、区切られ、さらにはなにもかも見透かされるように、にっこりと笑みを深める姉にノアはなにも言えず言葉に詰まる。
「・・・!」
「ノアールの好きな人?」
(僕の好きな人?)
姉の言葉にきょとんと目を丸くし、言葉もなくふるふると首を横に振る。
「レノとはそんなんじゃない」
一旦言葉を区切ると、ノアはふんわりと微笑み、とても大事そうに言葉を続けた。
「信用できて背中を預けられる大切な人」
「三年の間にそんな人ができたのね、でもなんだか、ノアは寂しそう」
優しく髪を撫でられ、ノアは唇を尖らせ、姉に甘えるような視線を向け、ボソボソと話し始める。
「レノに、学院のこと言ってない。家のことも貴族だってことも、なにも言えなかった…」
冒険者になり始めた頃は、そんなに深く考えていなかった。身分とか立場とか、なにも考えなくてもいいくらい自由で、充実して楽しかった。
「そう、それは苦しいわね。学院が終わって、冒険者に戻ったらいいじゃない。辺境伯領なんて、脳筋のお兄様たちに任せておけばいいの。私もその時にはお嫁に行ってるかもしれないから、ついていってあげられないけど、そのときはちゃんと自分で謝るのよ?」
そう言って、姉は抱きしめてくれた。レノが魔力を譲渡してくれた時のようにほのかに温かい。
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