冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 王立学院の寄宿舎への入寮当日。
 その日の朝は、いつも以上にベッドから起き上がるのが億劫だった。

 王立学院の規定により王族、貴族、平民にかかわらず、全一年生の生徒は寄宿舎へ入寮するべし。

 そのふざけた一文により、王都に家があろうがなかろうが、寄宿舎への入寮が義務付けられている。寄宿舎は五棟に分かれており、ベガ(王族、高位貴族、公爵、侯爵、辺境伯)、アルタイル、デネブ(その他貴族、伯爵、子爵、男爵)、アンタレス、サジッタ(平民)と名付けられ分類されている。ベガ棟から繋がるさらに奥には女性のみが入寮するアストレアが存在する。
 棟の中央は、食堂、サロン、中庭などのコミュニティスペースが集まっており、各棟から直接入れるようになっているが、警備の都合上、ベガへの行き来が許されているのは、アルタイル、デネブ、アストレアのみとなっている。

 朝から辺境伯領のヴェンディエールの屋敷は騒然としていた。
「王都の屋敷への転移は半刻ほどだ!準備を怠るな!」
 長兄ウィリアムは、ノアの荷物を両肩に載せ、使用人たちに指示を出す。
「ウィル兄様、そんなに慌てなくても荷物はそう多くありませんから」
「ノアの新たな門出だ、忘れ物なんてあったりしたら、今後の生活に陰りが出るだろう?」
 ブライアンと違い、十歳離れている長兄との仲は良好で、ノアには砂糖と蜂蜜をドロドロに溶かしたくらい甘くて過保護な兄なのだ。
「とりあえず、転移して、あちらの馬車で寄宿舎へ向かおう」
「はい、ウィル兄様」
 礼儀正しく返事をして、ノアは差し出された手を取ると、仲良く転移紋のある部屋へ向かった。
 転移紋の使用を許されるのは、辺境伯と砦を守る公爵のみと公式ではなっている。それ以外にも存在すると言われているが、真相は闇の中。
 半刻を待たずに早々と転移したノアはウィリアムとともに、待ち受けていた使用人たちにより二頭立ての馬車に案内され、押し込まれ寄宿舎へ見送られた。
「相変わらず、王都の屋敷は忙しいですね」
「そうか?いつも通りだ」
(ウィル兄様に合わせて、軍隊仕込みの行動なんだろうな)
 馬車に揺られながら、横並びで座る兄をチラリと見やり、ノアは小さく笑った。王都の屋敷の人間から畏敬の眼差しを向けられていた兄を自慢に思っていた。

 まもなくして、王立学院の寄宿舎へと着いた。王都の辺境伯の館から十五分も離れていない。
 勝手知ったる場所なのか、ウィリアムはベガ棟玄関近くに馬車を止めさせ、御者を待たずドアを開けて外へと出た。
 ベガ棟玄関前は、ウィリアムの登場に俄かに色めき立ち騒がしくなる。それもそのはず、普段は辺境で活躍する兄だが一年のうち三ヶ月ほどは、社交のため王都で過ごしている。独身、辺境伯爵家の次期当主、武勲もあり、美丈夫となれば、引く手も数多。ついでに婚約者も許婚もいない。
 周りの騒がしさなど気にも留めないのか、恭しくノアに手を差し出すと、まるでお姫様でもエスコートするようにノアを馬車から降ろした。
「ありがとうございます、ウィル兄様」
 地面に足をつけ、周りを見ると見覚えのある集団と目が合い、睨まれる。
(めっちゃ睨まれたけど、あいつら辺境伯領のやつらか?)
 牽制するように目を細め視線を合わせると、これ以上にないくらい愛らしく微笑んだ。ウィリアムはそんなノアを周りから隠すように囲い込み腰に手を添え、寄宿舎へと歩みを進めた。
「あまり、かわいい顔をするな、心配だ、誰か護衛を雇うか?学院は生徒以外、行事ごとがない限り、部外者は立入禁止か⋯うーん」
 ウィリアムは玄関の受付に到着するまでに、ノアに言うではなく、ぶつぶつと独り言ちて、ノアは相変わらずの兄の様子に、周りの視線など気にすることもなく兄と寄り添って受付を目指した。
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