冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 得も言われぬ恐怖に震える体も落ち着いた頃、ダリウスを背もたれに本を読みふけっていると、ノアの腹が小気味よく鳴る。
「腹減ったかも」
「そろそろ、食堂も行くか」
 抱き込むようにして支えていたノアの本を後ろから覗き見していたダリウスは、ノアを落とさないように押しのけて立ち上がって大きく伸びる。背中がパキパキと音を立てて、長時間同じ体勢でいたことを物語っていた。

「持ってきてやろうか?それとも行く?」
「初めてだし、食堂の使い方教えてよ」
 ダリウスが手を出すと、ノアはエスコートされるべく手を添える。ぐっと力を込めノアは立たされ、さり気なく離された手は腰へと移す。女性がエスコートされるように腕を組むことはないが、ダリウスは昔の苦い日々を繰り返さないようにノアの側からは、なるべく離れないようにしていた。その行為がダリウスとノアの虫よけにもなっていることを承知の上で、あからさまに匂わせや密着をしていた。


 中央棟へは各階からアクセスが可能になっており、寮棟の真ん中から一本ずつ渡り廊下で繋がっていた。
 ノアは賑やかな食堂へ踏み入ると、食欲をそそるいい匂いに笑みを深めた。
(いい匂い、なんだかいろんな匂いが混じって宿り木亭の食堂みたいだ)
 食堂に姿を見せたノアとダリウスは、食堂中の視線を集めたが、二人は気にすることなく入口に立つ使用人に声を掛ける。
「ノアじゃん、いつ来たの~?」
「一緒に食べようよ、四人いたら全種類頼んでシェアできるし!」
 食堂に向かえば見知った顔がちらほら目に入った。真伸びしたような口調でピンクの唇に指を当てるあざと可愛いカーステン・モーラン。陽キャの代表のような明るさと社交的なビィクトル・アークライト、ともにノアの幼馴染である。
 使用人にビィクトルの提案通り全種類のメイン料理を頼む。もちろんデザートは忘れない。

「久しぶり~」
「飲み物シードルがあったから、瓶で頼んだよ」
「ノア、こちらに」
「ありがとうダリウス」
 観葉植物のおかげで少し目隠しできる一番端っこに陣取ると、トレーに載せた料理を使用人が運んでくる。入口の使用人たちと違い、食事の世話は上級使用人が担っているようだ。
 「この食堂、平民は見当たらないんだね」
 ノアはシードルのグラスを口にしながら、行儀よくないと知りつつ辺りを見渡す。礼儀正しく席に座る子息・子女が目に入り、誰に聞く風でもなく言葉が口から滑り出た。
「平民は一階下だね、このフロアには基本ベガ棟からしか入れない、アルタイル、デネブの子は使えるみたいだけどあえてこんなとこ来ないよね!あとは壁の向こう側に購買があって、一階下がアルタイル、デネブ、アンタレス、サジッタ用かな。流石に王族と平民がご飯一緒に食べるとかありえないでしょ?」
 カッシェは高位貴族らしい物言いで、配膳された煮込み料理を口にする。
「カッシェ、少し煮込み貰うよ。でもさ一年は、専攻がないから、身分とか関係なくクラスは一緒だな」
 カッシェの煮込み料理を小皿に盛り、ビィクトルはカッシェの言葉に付け加えながら煮込み料理に舌鼓を打つ。
「誰かと同じクラスになればいいけど、不安になってきちゃった」
「そこは貴族への配慮があるんじゃないか?特にノアとカッシェは配慮がないと俺達の命が危ない」
 ダリウスとビィクトルは、お互いにそこは必要だとうなずき合い、ダリウスはなれた手つきで焼かれた肉を、綺麗に切り分けそれぞれの皿に盛っていく。昔、王族主催のお茶会にてノアとカッシェに慇懃無礼に言い寄ってきた集団が、後々爵位を下げられ親から領地へ謹慎処分をくだされるだけに留まらず、幼馴染みであるダリウスとビィクトルは過酷な訓練と女性の扱いをヴェンディエール辺境伯とモーラン侯爵に叩き込まれた。もちろんダリウスとビィクトルが自ら志願したのだが、全力で後悔したことは間違いない。

 食事も終盤に差し掛かり、カッシは思い出したようにほくそ笑む。
「ねぇねぇ、そういえば知ってる?宰相様のとこの末っ子。家出中らしいよ」
 仕入れたばかりの噂話を面白そうにロにし、カッシェはパンを小さくちぎって口へ運ぶ。
「ふぅん?それってなにか重要?」
「その末っ子、入学式の総代挨拶する予定になってるんだから、次席のダリウスには重要でしょ?」
 ノアとカッシェの会話に口を出さず、聞く側に徹していたダリウスは思い出したように、食事していた手を止め眉間に皺を寄せた。
「首席でその態度なら、ダリウスがやったほうが良くない?ん~!これ美味しいよカッシェ」
 料理に飽きたノアは、口直しにデザートのプリンを食べ始め、美味しかったのかカッシェの口元にプリンを乗せたスプーンを寄せた。
「ん~美味しい!お返しにショコラあげる~」
 プリンを手づから食べさせてもらったカッシェは、煮込み料理と一緒に乗っていたショコラを小さく切ってノアにお返しする。傍から見れば二人の世界は百合を彷彿とさせる。それほど綺麗で可愛らしかった。
「もういらないなら、残り食べるよ」
 ビィクトルはノアのトマト煮込みを皿ごともらい、大口で平らげていく。所作が綺麗なおかげで大口で平らげても下品に見えないのは特技と言ってもいいだろう。
「ノア、お腹がすいたら軽食は部屋のキッチンで作れるから、パンだけもらっていこうか」
 お腹がすいたという割には、パンにも手を付けず、サラダと焼かれた肉少々、煮込みを一口食べただけのノアに片眉をあげ、有無を言わさず、パンを脇にあるペーパーに包んだ。
「明日はもっと軽いものが良いかも、美味しくないわけじゃないけど、ちょっと重い」
(冒険者生活に慣れたせいか、貴族らしいご飯が美味しくない)
 ノアは、ごめんなさいと口にして申し訳なさそうに眉を下げた。
「僕もサラダとデザートがいいよぉ~」
「お前ももう少し食べろ、ちっちゃいままだぞ」
 残りの煮込み料理の皿をビィクトルに押し付けながら、ショコラにフォークを刺そうとしたところを阻まれ、フォークはそのまま煮込みの肉を一つ刺した。
「はぁ?!僕は成長が遅いだけなの!ビィクトルが馬鹿みたいに伸びただけでしょ!」
 フォークに刺したからにはと、渋々煮込みを口にするともそもそと咀嚼した。カッシェの口端についたソースをビィクトルが指で拭い取り、その指を舌で舐めとる。
 辺りが騒然と色めいたが、四人を気にすることなく食事を続ける。ダニエルが使用人に手を挙げると心得たとばかりに一礼し厨房へ戻り、次に姿を見せたときには美味しそうに香るティーポットとカップを乗せたワゴンを押していた。
 ビィクトルとダニエルが残りを平らげ、使用人は食べ終わった食器を片付けるのと同時に、ティーポットとカップを置いていく。ノアは、ティーポットからカップへ紅茶を注ごうとする使用人を制止して下がらせる。
(学院といえど、紅茶は一番危ないんだよね⋯)
 貴族らしい所作で紅茶を注ぐと、4つのティーカップの上で右手をかざしながら探知魔法を掛ける。探知魔法用の指輪の石に反応はない。今回は問題なく普通の紅茶だった。深読みかもしれないが用心するに越したことはない。
「問題なさそう」
「いちいち気にしなきゃ飲めないとか不便!」
 ノアから紅茶を受け取り、ビィクトルがもう片方の手で、カッシェの背を宥めるように撫でる。
「侍従を連れ歩けるのは王族と公爵だけだからな」
「その代わり、カッシェの前に僕が確認してあげるから」
 フォローするビィクトルを援護するようにノアは軽く笑み、ダニエルが紅茶を一口飲み頷くのを確認してから、ノアも紅茶へと口をつける。幼馴染たちを犠牲にしているようで心苦しいが、痛い目にあってからでは遅いと知っているので、ビィクトルとダニエルの厚意に甘んじている。
「カッシェの好きな紅茶だよ、どうぞ」
 一口、しばらく置いてから二口目を飲み、カップを置くとカッシェにも紅茶を渡す。
「ありがと」
 受け取った紅茶の暖かさにはにかみ、カップに口をつけるとコクリと喉を潤す。
(紅茶もシードルのように最初から封がしてあれば、心配しないんだけど。紅茶って毒による変化が少ないんだよね)
 紅茶を飲み干すと、大きく息をつく。身体はここに存在するのに、気持ちは冒険者として過ごした宿へ向いていた。
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