冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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「やばい、何も考えられん」
 やっと、一人になったノアは、これ以上ないくらい思考がぐるぐる堂々巡りしていて、制服のままベッドへ突っ伏した。

(宰相の末っ子。確か、レイノルド・ロイヴァンクリフトだったか?
 普通、繋がるかそこ⁈
 繋がらないだろう、絶対無理)

「⋯おい」
「っ!?」
 誰もいないと思っていた部屋に人の声が響き、飛び上がらんばかりに驚いたノアは、目を白黒させ声のした方に顔を向けた。
 顔を向けると、レノが自分の腰に手を当てて立っていた。
「レ、ノ⋯」
「どういうつもりだ、逃げやがってっ」
 ノアは、部屋の入口から音もなく近づいてくるレノに言葉が出ず、硬直する。怒りにも似た激情を滲ませ、唸るように低く呟いた。
 ノアは、自然と「あっ殺されるやつ⋯」と小さく呟いた。
「っんなわけねぇだろう!お前俺をなんだって思ってんだ」
「違うのか、てっきり怒ってるとばかり⋯えっ⋯と、ごめん?」
 レノに吐き捨てるように言われて、ノアは軽く謝った。あまりにも誠意が感じられない軽い謝罪に、レノは眉を顰め渋い顔をした。
「なんで、あの朝起こさなかった」
「⋯寝起き悪いから、起こすの悪いなぁって」
「はぁ?最後の別れかもしんねぇじゃん」
「えっ、最後だったの?」」
 ノアの態度があまりにも拍子抜けするものなので、怒ってるのが馬鹿らしくなったレノはベッドの脇、ノアの向かい合わせになるように腰掛けた。
「わぁーたよ。お前はそういうヤツだよ。会った頃から」
 毒気を抜かれたレノは、右手でそっとノアの左手を握ると指輪を親指で撫でた。
「説明、してくれんだろうな、これの」
 レノは諦めたように肩をすくめると、口角をきゅっと上げ慈しむように目を細め魅力的な笑みを浮かべ、左手にはめられたアメジストが光る指輪を掲げる。
(やっぱ、それだよね⋯)
 ノアは額に手を当て、諦めたようにがっくりと肩を落とす。
「レノはさ、知ってたの意味」
「意味?いんや?知ってると思うか?」
「だよねー」
「でも、今は知ってる。宿屋のおばちゃんが教えてくれた」
「僕もだよ、戻ってきてから知った」
 ノアは小さく笑い、レノの手を解くと指から指輪をはずす。
「手出して。指輪は持ち主の居場所を特定できるって聞いてたから、学院を飛び級して冒険者に戻る予定だったんだよね」
 オニキスの指輪をレノに手渡すと、アメジストの指輪を抜き取ろうとした手を握りしめられた。
「渡さねーよ?」
「はぁ?」
「意味知ったから追ってきた。幸い探知魔法も使えるし、追ったら王都だわ、学院だわで、しかたねーから、親の敷いたレールの上に乗っかってやることにした」
 握ってた手を解放すると、オニキスの指輪をあらためてノアの中指にはめる。
「なのに、一昨日辺りから追跡できねーし、まあ新入生300人くらいだし、生活してれば会えるかって思ってたんだよな、で入学式の舞台から見上げたら、お前めっちゃ目立ってて⋯⋯隣の男に腰は抱かれてるわ、耳元で囁きあっててちょっと仲良すぎねぇ?」
 嫉妬丸出しの発言にレノは気づかず大きなため息を漏らすと、ベッドに押し倒すようにノアを詰め寄る。

 ノアの上に乗った瞬間、空を切る音がして入口のドアが切り刻まれ、ドアが剣圧で吹き飛ばされた。防御結界で飛んできたものから身を守り、ノアを抱え込み、裾から隠し持っていたナイフを取り出した。
「ノアの上から退け、クソ野郎」
 姿を表したのは怒りのせいで顔が赤いダリウスで、ノアはレノの腕の中から顔を出した。その顔は呆れたように口角を上げていた。
「ダリウス⋯」
「ノア、無事か?」
「魔法禁止なんじゃないの」
「剣圧だから問題ない」
 そういう理屈ではない。
 ノアを抱えながらダリウスを睨みつけたレノは、隙を作るようにナイフをダリウスへ投げつける。レノの目論見どおりダリウスは剣を振り上げ、ナイフを叩き落とした。
 ダリウスが気をそらした瞬間、ノアから身体を離し、開け放たれていた窓から階下へと飛び降りた。
「チッ逃げたか⋯」
 急ぎ階下を確認すると、すでに少し離れたところにいるレノに、舌打ちしてノアを抱きしめながら、怪我の有無を確認するダリウス。
「ダリウス、どうすんのこれ」
 とてもこれから住めるとは思えないほどの瓦礫の山に、ノアは呆れたように部屋を見渡した。
修復レパロ
 ノアの言葉を受け箱型の魔法を出すと、箱が広がるとともに部屋が修復を始めた。積み木のように修復される様は小気味よい。
「お前に、不用意に触れるバカは分かるようにしてる」
「僕から触りに行ったのは?」
「それもわかる」
「解除しといて」
 ダリウスは不満そうに口をへの字に曲げたが、ノアの有無を言わせない瞳に、ぐっと言葉を飲み込んだ。
解除デスペル
 警備隊が駆けつけてきた頃には、部屋の惨状は元の状態に戻り、解除のためにダリウスがノアの額に口づけるという盛大なラブシーンを繰り広げていた。
「暴漢が出たと聞いてきたのですが⋯」
「いえ、なにもありません」
 額から唇を離したダリウスに、言い出しづらそうに問う警備隊長に、ダリウスは何事もなかったように笑顔で対応する。
「一応、部屋の中を確認させていただいてよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
 数人の隊員とすべての部屋、収納、ベッドの下まで、不審者がいないのを確認して、納得いったように深く頭を下げ部屋を後にした。

 抱きしめられたままのレノは、思い出したように冗談めかした口調で囁く。
「ダリウス、さっきのあれ」
「あれ?」
 ノアの言葉をダリウスは繰り返すように続ける。なんのことだかわからないとばかりに困惑して眉を下げた。
「さっきここから追い出したの、レノだよ」
「レノ⋯レノ?!」
 ぽかんとして口を開け、数秒置いて、興奮と動揺の入り混じった声音に叫んだ。
「ふふ、そうレノだよ」
 嬉しそうに微笑むノアは、この数日ではあまり見せなかった幸せそうなはにかんだ笑みを深めた。
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