冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 食堂の観葉植物で目隠しできる一番端っこの四人がけの席が定位置となりつつあった。
夜だと窓に反射する4人の姿がこっそり見られるので、観葉植物の向こうといえど、席の取り合いは行われていた。
 今晩のメニューは、焼いた肉かパスタ、副菜は野菜のマリネ、デザートには、果物とちょっとしたお祝いのケーキがついてくる。
 またもや四種類をバラバラに選んでシェアを決め込んだ4人は、配膳された食事を眺める。カッシェは自分の皿の前にビィクトルの皿のお肉をひと切れフォークで刺した。
「美味しかったら、もう少し持っていきな。パスタ美味しくなかったか?」
 パスタに一度手を付けたが、その後手を付けずにビィクトルの皿の肉を食べたカッシェに、ビィクトルは肉を小さめに切ってカッシェ側に寄せた。
「好きな味じゃなかった」
 唇を尖らせて再び肉を口にする。ビィクトルは肩を竦めると、自分の皿とカッシェのメイン料理の皿を交換した。少しトマトの酸味が強いなと独り言ちて、ノアとダリウスに食べるように促した。
「寮でなんかあったのか?警備隊が来てたみたいだが」
「ああ、少しな」
 ダリウスはトマトパスタを空いた小皿に取ると、一口味わう。ノアは促されたが、自分の皿のマリネを静かに咀嚼して首を横に振る。まだ体調が悪いのかと気遣うビィクトルに口を開かず首を再び横に振る。
 ちらっと、ノアの様子を窺うようにダリウスに目配せしたが、一瞬で無表情になり感情が読み取れなかった。
「ケンカした?」
 カッシェはノアのパスタに手を付けると、こちらは好みの味だったようで、嬉しそうに小皿に盛り始めた。
「してないよ。ちょっと、ね⋯」
 ノアは意味深げに笑うと、ダリウスに視線を流したが二人の視線が合うことはなかった。なにか言いたげだったが、ダリウスの許可が下りなかったのか、顔を横に振った。
「結局、蚊帳の外か」
「今、ここだとマズイ」
 ビィクトルが再びダリウスに目をやると、気まずそうに目をそらされ口ごもる。
「わかった、食後な」
 ビィクトルは小さく言って、ダリウスの香草焼きを皿ごと奪い取った。付け合せの芋をノアの方に向けると、嬉しそうに芋だけを自分の皿によけた。
 ダリウスはいつも通りの行動を取っているようで、自然と気持ちがノアを避けていた。
 ノアは付け合わせの芋、特に塩のみのシンプルな味付けのものを好んでいて、主食がそれだけでも良いとまで言わせるほどだ、それをダリウスが知らないはずがない。なのに、それがついているにもかかわらず、ノアに差し出さないのは、絶対におかしい。なんかあったに違いないと推論し、ビィクトルは結論を出した。



 食後、ノアの部屋に集合かと思いきや、ノアとカッシェはそれぞれの部屋へと送られ、ダリウスとビィクトルは二人だけで今後の話をするようだった。
 取り残されたノアは、なんとなく疎外感を覚えたが、あの二人が相談してるときは任せることにしていた。余計なことをして、大事になっても良くないからだ。

 ベッド脇に腰掛け、再び手に戻ってきたオニキスの指輪を右手で撫でる。
「永遠の絆、か⋯⋯」
 相棒で、背中を預けられる大切な人。ノアの中でそんな立ち位置のレノ。だが、レノは言った「意味を知ったから追ってきた」と。
 ノアは自分の中で、なにか燻り始めたのを感じたが、そのなにかをはっきりと形にできない。

 コンコン。
 窓を外から叩く音が響いて、その方向に顔を向ける。窓の外にはへばりつくレノの姿があった。
「なにしてんの」
 へばりついた窓の隣を開けると、ノアはレノを招き入れる。
「噂を聞いて、表ではまだ声かけないほうが良いかと思って」
 レノは色々情報収集をして、学院とノアの状況を把握してくれていたようだ。実際、あのお茶会以来、社交行事には出ていない。12歳になった途端、冒険者をしているのだから参加する以前の問題だが、世間はそうは見てくれない。あのお茶会で本当はなにかいかがわしい事があって、表に出られないのではないか。だからあんなに厳しい沙汰が下ったのだと。
「噂って?」
 ノアはベッドの上に座ると、レノの手を引きベッドの上に招き入れた。靴をベッド脇に脱ぎ招かれるままにベッドへ上がり、壁を背に座り、後ろから抱え込むようにしてノアを自分の前に座らせた。
「色々だよ!下世話なのから、悪い方向のまで」
「あー、もうすでに誰かのお手付きで囲われてるとか?」
「ニールセン侯爵子息の、公然の恋人」
 ノアの頭に顎を乗せ、低く唸りながら、絞り出すように言うと、レノはノアの両手のひらを絡ませながら握りしめた。
 レノが後ろでどんな表情をしているかは、わからない。ただ、レノに握りしめられた手のひらは魔力の譲渡のときのようにほんのり温かい。
「ダリウスとは、そう誤解させるように振る舞ってるだけ、だよ」
「じゃあ、俺とは?」
 ノアの言葉に被せるように言って、レノは緊張しているようにコクリと小さく喉を鳴らす。
「相棒でしょ!それ以外にある?」
「あってほしい。あの朝、隣にお前がいなくて、指輪も違うし、戻ってくるとは言ったものの、何時とかは言わなくて、あっ俺を捨てて帰ったんだと思ったら、ちょっと絶望だったんだけど、そんなときでも腹は減るし、宿り木亭の食堂行ったらおばちゃんが、とうとう誓ったのね!って朝からお祝い肉くれて、ルディとかもすげー祝ってくれて、流石になんのことわかんないって言ったら指輪交換する意味教えてくれて」

「⋯⋯そん時、自分の気持ち自覚した」

 一旦言葉を区切ると、吐き出すようにそれでいて大事そうに言葉を紡いだ。
「えっ⋯⋯」
 レノに後ろから頭頂部にキスされ、ノアは言葉を失った。
「そこまで考えてたわけじゃない。ただ離れてもまた一緒に冒険がしたいって思ったから。とりあえず自分の義務を果たして戻ったら、元の状態に戻れるってそれだけを考えてて」
「⋯⋯やっぱりな、お前ならどっちもありそうとか、思ってたよ」
 ため息を付くと手を解き、レノは抱えていたノアを自分の方に向かせると、今まで見せたことのないような真剣な目でノアを見つめた。
 ダリウスに接するように、最初は風除けになればくらいの気持ちでレノと触れ合って、最初は戸惑っていたレノもそれが当たり前みたいに慣れてきたから、なにも言わなくてもこの関係は続くものだと思っていた。
「だから、今から考えて、俺とのこと。相棒か恋人か、それとも両方か。お前が選んだ答えなら受け入れる」
「すぐには無理」
 少し距離を取るように後ろへ下がる。逃さないとばかりに手を伸ばされ、左手が握りしめられた。
「ちょっとでも、俺と離れたくないとか、キスしたいとか、一生側にいたいとか思わなかった?」
 問いかけるように言葉を紡ぐと、レノは空いている右手でおとがいに指をすべらせ、軽く唇を重ねた。
 それは一瞬の出来事でノアは抵抗する間もなく、受け取るほかなかった。
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