冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 一晩中考えたが、答えなど出るはずもなく、何の答えも出ないまま翌日を迎えた。
 窓の外が白みはじめ、そのあたりでようやくノアは目を閉じ、つかの間の解放を味わった。が、半刻ほどでダリウスに起こされ、寝不足で痛む頭を無理やり覚醒させた。
「寝不足か?」
「うん、ちょっとね」
「朝ごはん持ってきてやるから、もう少し寝ておけ」
 調子の悪そうなノアを覗き込むと、おでこ同士をくっつけて熱を測り、そのままベッドへと寝かした。
「ありがと」
 ノアは再び夢の住民となり、ダリウスは外で待つ二人に声をかけ三人で食堂へと向かった。



 はじめての授業は召喚魔法。生涯を共にする使い魔と契約する事となる。中にはすでに契約している者もいるようだが、授業の一環なので必ず一人一体を召喚することとなる。
 生徒の危険が伴う授業は一学年全員が参加し、5クラスの担任プラス専門分野の先生が、演習場に勢揃いしていた。
「では、配布された魔法陣を使って、それぞれ使い魔となるものを召喚してください」
 魔法学の先生が声を掛けると、まずはSクラスが召喚を始める。使い魔は猫のような小さいものから、鳥のようなものまで様々だ。やはりというべきか、レノはグリフォンを召喚していて、周りから歓声が響いた。

「じゃ、僕たちもやる?」
 人の輪から、少し離れた隅の方でカッシェは、嬉しそうに呪文を唱えると、可愛らしい小鳥を召喚した。使い魔は魔力量だけで決まるのではなく、召喚者の見た目も関係するのだろうか。
 続いてビィクトルがケットシーを召喚し、ダリウスはフェニックスの幼体を召喚した。それだけでもすごいことなのだが、二人とも目に見えて興奮してはしていない。さも当然とでも言いたげな態度だ。
「次は僕の番かな」
 呪文を唱えることもなく、ノアは魔法陣に魔力を注ぐと、魔法陣からお茶目にくるっと回転して出てくるグリフォンが召喚された。大きさといい、模様といい、レノのグリフォンと対を成すと一目でわかる成体だった。
 グリフォンが姿を表すと騒然とする事態になった。番なのに別々の召喚者に召喚されるグリフォンは極めて稀なのである。
「まあ、こうなるよね…」
 ノアは、はは、と乾いた笑いをこぼして、グリフォンの顎を撫でる。グリフォンは気持ちよさそうにクルクルと喉を鳴らし、「大好き」という気持ちを全身で表しながらノアに甘えた。
 騒然とする周りを置き去りにし、ノアはグリフォンが満足するまで首や胸の羽毛の中まで撫でてやる。
「ノアール・ヴェンディエール。そのグリフォンは元々契約しているのか?」
 中央で生徒たちを見ていた魔法学の先生がグリフォンを指しながら、声をかけてきたので小さく頷く。
「レオナルド・ロイヴァンクリフト。こちらへ!」
 同じくグリフォンを召喚したレノを招き寄せる。レノより先にレノのグリフォンは嬉しそうに近づいてくると、ノアの頭に顎を擦り付け、クェクェと何かを訴えているようだった。
「痛いよ、リオン」
 訴えるのを止めないグリフォンの鼻を少し強めに叩くと、名前を呼んでやる。楽しそうに2頭のグリフォンは低い咆哮をあげた。
「2頭は番だな?」
「そうです、俺達が卵から孵して、育ててたら勝手に番になったんですよ」
 ノアの脇に到着したレノは、これ見よがしにノアの腰に手を回すと、ダリウスの方をちらりと見て、面白そうに口角を上げた。
「先生、新しく召喚したほうがいいですよね?」
 腰に回された手をさり気なくはたき落とすと、ノアは魔法学の先生から新たな魔法陣を受け取る。再び呪文を唱えることもなくノアは魔法陣に魔力を注いだ。
 魔法陣が土の上に触れる前に魔法陣からはフェンリルの幼体を召喚した。
「犬かな?」
「フェンリルだろ」
 レノは魔法学の先生から魔法陣を受け取ると、小さく呪文を唱える。黒猫を召喚した。レノにしては可愛らしい感じがして、ノアは片眉をあげた。
「黒猫、可愛いね」
 レノの肩でドヤっている黒猫に微笑むと、ノアはキャンキャンとうるさい子犬を抱き上げた。
「エルヴィラ」
 レノは肩に乗っている黒猫に名付けて、額に口づけを落とす。黒猫は不満そうに小さくニャンと鳴くとレノの肩から飛び降りた。
「ブレイズ」
 ノアはノアで、抱き上げた子犬に名付けて、額に口づけを落とした。名付けられた瞬間ブレイズは目を輝かせ、きゃうきゃうと話しかけるように鳴いた。契約が安定してないせいか、意思の疎通はまだ難しいようだ。
 名は、使い魔と目があった瞬間に浮かんでくると言われている。浮かんでこないということは、契約が成立せず召喚されてもお前のものにはならないという、使い魔側からの主張だ。

 エルヴィラは、ノアの足に前足を掛けると甘えるように体を擦り付けた。
『貴方からは、いい匂いがするから抱かせてあげるわ』
 エルヴィラから脳に直接話しかけられ、やはり普通の黒猫じゃないのかと納得し、ブレイズを下ろしエルヴィラを抱きかかえる。
『気をつけなさい、貴方嫉妬されてるみたい』
 視線をレノに流しエルヴィラは、みゃおんと周りのクラスメイトに向かって一鳴きした。周りを観察してみれば、レノに熱い視線を向けている集団の一部から、嫉妬に憎しみを織り交ぜたような黒い表情の視線を感じた。
「エルヴィラのせいでしょ、絶対」
『まあ、人のせいにしないでちょうだい。私が来る前からグリフォンの時点でそんな視線だったわ』
「⋯そうなの?」
『大丈夫よ、主が守るわ。気に入ったから私も守ってあげる』
 エルヴィラは、首を伸ばしてノアの唇にちょんと口づけた。驚きのあまり目をぱちくりと瞬いたノアだったが、そばで見ていたレノは、あからさまに怒ってエルヴィラへ手を伸すが、エルヴィラは小馬鹿にしたように鳴いたあと、はらりとノアの腕から逃げのびた。
 ノアの足元でしっぽを振りながら、大人しく待っていたブレイズはやっと自分の番が来たとばかりに目を輝かせる。
『ごしゅじん!だっこ!』
 片言は話せるようになったブレイズを抱き上げた。

「ダリウス」
 ノアに名を呼ばれるまで、ダリウスは空気となりてんまつを見守っていた。同じく空気となっていたビィクトルとカッシェもノアの手招きに我に返る。見せられている光景が夢の中のような出来事で信じられずにいた。
「ね、それとどんな関係なの?」
 いつも笑っている末っ子気質のカッシェらしからぬそれ呼ばわりに、ノアは思わず笑みがこぼれた。
 隣でそれと呼ばれたレノも苦笑いを隠せない。
「カッシェ、いちゃった?」
 ノアがカッシェの顔を覗き込むと、唇をぎゅっと結び、可愛らしく拗ねていた。
「どんな関係?僕には言えないの?」
 レノは、ノアの肩に手を回すとカッシェに、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「今は、相棒だ。これからはまだわからん」
「アンタには聞いてない!」
 代わりに答えたレノに、分かりやすく挑発されたカッシェは地団駄を踏む。ビィクトルが宥めるように背を撫でるが効果はあまりないようだ。
「レオナルド・ロイヴァンクリフト。後で話がある」
 ダリウスがレノをフルネームで呼び、一触即発な雰囲気に周りのクラスメイトが固唾を呑んで見守る。
「ノアの部屋でいい、食後に来てくれ」
「わかった」
 ノアをめぐっての争いか?!のような雰囲気だが、張本人のノアはあっけらかんと二人を見守り、さっぱり何を考えているのかわからなかった。

 こうして、授業初日は終わり、午後からは自習となった。
 ノアとレノの使い魔がグリフォンで番という衝撃ニュースは、瞬く間に全校生徒に広がり、三角関係の色恋沙汰が始まるのではという話題で持ち切りだった。
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