冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 夕食後、約束通りノアの部屋の執務室で、二人掛けのソファにカッシェとビィクトルが座り、向かいの二人掛けにノアが、一人掛けにレノとダリウスがそれぞれ腰を下ろした。
「自己紹介は不要だよな?」
 口火を切ったのはレノで、三年前の冒険者試験からこれまでの経緯を差し障りない形で説明した。使い魔に関しては、実物を見せたほうが早いだろうということで、手っ取り早く召喚することにした。

「小さくな、リオン」
 レノは小さくと呼びかけ、グリフォンの名を呼ぶ。それを受けるようにリオンは中型犬くらいのサイズで召喚された。
「すでに、このグリフォンたちに魔法陣は必要ないんだ」
 レノに甘えるように近寄ってくるリオンの頭を撫でる。
「ノアも出来るの?同じこと」
 カッシェが目をキラキラと輝かせて、ノアに机越しに身を乗り出す。
「出来るよ。小さくだよ、ガウェイン」
 ノアの呼びかけにもグリフォンは応え、中型犬くらいのサイズで召喚される。リオンとガウェインは再び召喚されたことが嬉しいようで、体を擦り付け合ったりしていた。2体で戯れるさまはなんとも可愛らしい。
「こいつらは移動のときに助かるし、何より元の大きさなら戦える、そのへんのD級冒険者ぐらいまでなら、リオンとガウェインのほうが強い。本来なら魔法陣なんかで呼んでくるような奴らじゃないんだが、好奇心だけは旺盛だからな」
「なるほど、だから魔法陣で来ちゃったのか。大丈夫かなと思ってたのに」
 ため息をつきガウェインを手招きすると、顎をそっと撫で、目を合わせるために、撫でている顎を掴んだ。
「イタズラが成功して喜んでるんなら、しばらく呼んであげないから覚悟してね」
『ご主人の魔力に応じただけだ!しばし我を呼ばぬご主人が悪い。決してイタズラではない!』
 ガウェインは言い訳を口にしているが、ノアとレノ以外にはクェクェと鳴いているようにしか聞こえない。
 ノアはある程度の事までは何事もなかったようにしているが、逆鱗に触れると使い魔はそれは怖い目に合うと知っているのでガウェインの焦りの言い訳も然るべきことだ。
「さて話を戻すが⋯」
 ダリウスは言葉を続けようとするレノを片手で止める。その表情は心配そうに眉が下がり、現状に動揺を隠せない。
「ノアはどうしたい」
 空白の三年間を聞いてダリウスは、自分の立場を決めかねていた。ノアがレノがいいと言うのならば、当然今の立ち位置を譲るのはやぶさかではない。指輪を交換するほどの思いならば、レノにノアを任せられると見込んでいるからだ。
「ん?変わらないよ。ダリウスはいつもそばにいてくれるし、レノは相棒だからね」
「全然意味わかんない!ノアは、ダリウスとソレを二股するってこと?!」
「今まで通り、ダリウスとは仲良くするし、レノとは相棒として付き合うよ」
 何事もないように言ってのけたノアは、興奮して真っ赤になるカッシェに言い聞かせるように現状を話す。
「それは難しいだろうな。世間は公爵家令息と侯爵家令息を二股かけて、弄ぶ辺境伯令息と、そう噂するはずだ。その噂だとノアに遊んでもらえると勘違いしたバカが近寄らないとも言い切れない。そんな危険な目には遭わせられない」
「言わせたい奴には言わせておけばよくない?それに、レノが宰相の末っ子だなんて入学式で知ったばっかりだし、ダリウスだって、色々と困るでしょ?」
 ノアは自分だけじゃないと主張したいようだったが、ダリウスは首を左右に振りそれは大丈夫だとノアの頭を撫でた。
「それで言ったら、俺は別に困らない。辺境伯との約束はノアが安全に過ごせることだからな」
「昔とは違うんだから、いざとなったら…」
 ダリウスとノアのスタンスは基本的に違う、ダリウスは前もってリスクを回避したいのに対して、ノアは飛んでくる火の粉は振り払うが外野が何を言おうと気にしない。が、攻撃されたら倍にして返す苛烈な性格なのだ。

「とりあえず出ている情報を逆手に取って、王家のお茶会でノアを守ったのが実はレオナルドで、それがきっかけで貴族でいることが嫌になった二人は冒険者になってお互いを助け合って生きてきた、それを俺達三人が陰ながら応援していたというシナリオでいくしかないだろうな。多少辻褄合わせが必要かもしれないがな」
「プロパガンダか」
 ダリウスの提案を受け、ビィクトルはなにか考え込むように黙り込んだ。こういう悪巧みをするとき、ダリウスとビィクトルは生き生きとして、そういうことに向いているのだろうと思う。直情型のカッシェと自分本位で猪突猛進型ノアには理解しがたいことだった。

 ノアは、王家のお茶会以来、強くなりたいと常々思っていた。多少、冒険者への憧れだけでやりたいと思ったのも嘘じゃない。だが、剣はからっきし駄目だ。上がっていくのは魔法能力だけ、辺境伯領でどれほど無力さを感じたか。
 魔法能力は磨けば磨くほど幅が広がっていくので、それはそれで使える力になっていくので極められればとは考えていた。
「ねぇ!ダリウスはノアのこと好きじゃないの?!」
 カッシェが空気を読まず爆弾を投下した。その言葉にレノの眉毛がピクリと動いた。
「幼馴染としては好きだが、恋愛感情ではない。大事にしたいとは思ってるが伴侶としては⋯」
「伴侶としては?」
 カッシェがダリウスの言葉を繰り返しながら、ゴクリと唾を飲み込み、ノアより緊張した面持ちで次の言葉を待っていた。
「俺の手には負えない」
「なに、それ!意味わかんない!」
「カッシェ、そこからはデリケートな問題だから、部外者が口出ししたらダメだ」
 ビィクトルは頬をぷっくりと膨らませ怒り出したカッシェを宥めるように、肩に手を回し抱き寄せる。
「カッシェに簡単に、分かりやすく言ってしまえば、俺はノアでは勃たない」
 ダリウスの投下した言葉により、空気が凍ったように温度が下がった。能面のように表情を無くしたノアは、ダリウスに視線だけで息の根を止められそうな冷たく鋭い眼差しを向ける。
「悪かった、ちょっと言い方がまずかった、すまん」
 ダリウスは両手を上げ降参のポーズを取ると、ノアに謝った。
「わかってるならいいけど」
 ノアは可愛いやキレイは素直に受け入れるのに、一方的に性の対象として見られることを極端に嫌う。
「全く、全然無理なの?!」
「全く、全然無理だ」
 同じ言葉を繰り返しダリウスはカッシェに、きっぱりと言いきった。
「もういい!帰る!」
 二人の態度に何を感じたのかカッシェはビィクトルの腕を振りほどき、さっさと部屋を出ていった。
「とりあえず三人で話してみなよ、俺達はそれに沿って動くから、じゃ」
 ビィクトルは慌てる様子もなく一言残すと、ダリウスの肩を軽く叩き、カッシェの後を追って部屋を後にした。
 
「で、どうする」
 気まずげな空気の中、ダリウスはノアに話を振る。ノアはどこか他人事のような態度でダリウスへ目を向けた。
「どうするも、僕はこのまま変わらない。変える気もない。それにレノとはそんな仲じゃないし」
「今、返事待ち」
 やっと口を開いたレノは、言いにくそうにボソッと呟いた。
「そう、そうなると話は変わってくるよ、俺はノアを守れる男でなければこの場所を譲る気はない」
「強さは保証する。けど僕の隣って譲らなきゃいけない立ち位置なの?反対側にいればよくない?」
「恋人は二人もいらないだろ」
 三者三様、自己主張の塊なのだが、会話が噛み合っているようで、噛み合っていない。
「恋、人」
 レノの言葉にノアは考え込むように、眉間にしわを寄せる。まるで難解な問題に直面したように渋い表情だ。
 ノアは気づいていないが、ダリウスの性的な言葉には過剰に反応するが、レノの性的な言葉には少し考えるような、戸惑うようなそんな反応を返す。
「まずは、二人の問題を解決しろ、いいな?」
「ダリウス、答えはもう出てるでしょ」
「どこがだ、全く解決してないだろ。ノア、現実から目を背けても、後で困るのはお前だぞ」
 ダリウスはノアの意地固な態度に、訝しげに眉を顰める。ノアは無意識にレノとの関係性を言葉にするのを避けているのではないのかと。
「二人で話せ、俺とはその後にしよう。それとレオナルド、ノアの意志は無視するなよ」
 仕方なくダリウスは、他人が知るべきことではないことは二人で話し合わせることとした。釘を刺すことは忘れずに。
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