冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 強制的に二人きりにされたノアとレノは、なにかを話すわけでもなくリオンとガウェインが戯れている部屋の隅の方をボーッと眺めていた。
「ノア、俺は長くは待てない」
「待たなくてもいいけど」
 熱のこもったレノの言葉にそっけなく返すノアの瞳には、なんの感情の色は見られなかった。
「すでに辺境伯には婚約打診の親書を送ってる」
「は?僕の意思は無視?」
 ボーッとしていた所を頭を殴られたほどの衝撃を感じ、虚を突かれたように目を見開きレノを睨みつける。
「そうじゃない、外堀を埋めてるんだよ、お前がその気がなければ取り下げる」
 レノはノアの横へ座る場所を移動すると、そっとノアの左手を両手で握りしめた。
 ノアは少し手を引く素振りを見せたが、抵抗らしい抵抗はせず、大人しく手を握られた。
「ダリウスがお前に惚れてないのなら、俺は遠慮はしない」
「無理じゃない?公爵家の末っ子には婚約者いたでしょ」
「冒険者になる前に解消した。俺は公爵家では異端だからな。頭も悪いし荒くれだ、解消するといえば喜んでサインしてくれた」
「それがワイルドで格好良いっていう相手もいるかもだろ?」
「いるだろうが、俺に関係あるか?俺はお前以外に横にいてほしい相手はいない」
「⋯レノが他の子に目を向けるかもしれない」
「絶対ない」
「僕レノのこと、そんな風に考えたこと、ない」
「じゃ今、考えてくれ。ノア目を閉じろ」
 昨日の今日で一人で考えさせても埒が明かないと気付いたレノは、ノアの一問一問に答えて、そっと左手をノアの方へと移動させる。目を閉じたのを確認して親指で下唇を撫でた。
「想像しろ、俺と軽くキスして、何度も角度を変えてキスして、そのうち舌を⋯」
 耳元で艶めかしく囁くレノにドキドキしながら、言われるがままにノアは想像を働かせる。
 今まで一度も想像したことのないレノとのキス。それは想像以上に官能的で、ノアはコクリと喉を鳴らした。

 婚約者も、恋人がいたこともない。
 性的で過度な接触は、お茶会で空き部屋へ連れ込まれて、おしりや胸を触られたあの時だけ。それも服の上からだった。気持ち悪さと嫌悪しかない苦痛な時間。
 あの時とは違う。
 ノアはドキドキする胸を抑えるように、胸のあたりで右手を握り締めた。
「気持ち悪くない?」
「ない、かも」
「キスしても、いいか?」
「ダメに、っ!」
 返事の最後の言葉は合わせられた、二人の唇の間に吸い込まれた。
 レノとのキスは感情のタガが外れたかのように、抵抗なく受け入れていた。
 何度も唇を軽く合わせ、ノアを誘うように唇の間に差し込まれる舌に、身を引こうとすれば、レノの左手に阻まれ、逆に抱き込まれてしまった。
「んっ⋯⋯」
 差し込まれた舌は歯列の合間から侵入し、舌先を優しくついばまれて、ノアはぞわぞわとする感覚から逃げるように、右手でレノの胸を押した。
「っ待て!」
 離された唇から焦ったように声を出し、ノアは二人の唾液で濡れるレノの唇から目を逸らした。
「悪い⋯ちょっと調子に乗った」
 気まずそうに身をよじるレノが隠そうとしたモノが視界に入り、ノアも自分の状態に動揺を隠せなかった。ノアの動揺を瞬時に感じ取ったレノは嬉しそうに笑み、ノアを膝の上へと招き寄せ、抱え込んだ。
「気持ちよかった?」
「言わない」
「これ、このままでいいのか?」
「知らない」
「イヤじゃなきゃ俺の方にもたれて」
 顔を真っ赤にして短く抵抗するノアは、口ではイヤイヤ言いながら、言われるがままにレノの肩口に頭を寄せた。
「触っても?」
「⋯ダメに決まってる」
 口では拒否するように唇を尖らせているが、上気した頬と潤んだ瞳が物語るようにノアは欲情していた。
 ノアは自分で触ったこともあった、その時はたいして気持ちよくもなく、生理現象としてどうしようもなくなった時だけすればいいかと納得していた。
「俺が触りたい、嫌なら殴ってでも止めてくれ」
 再び重ねられた唇をはむようにして深められるノアは、レノの腕の中で蕩けさせられ、なすがままだった。
 舌が絡まり合い、それと同時に前を緩めたトラウザーズの中にレノの手が入り込んで、ゆるく立ち上がった陰茎を手のひらで包み、優しく上下させる。
「⋯あっ⋯んっ⋯」
 絡まるレノの手のひらが与える快楽に、抑えきれない吐息が音を紡ぐ。今までに味わったことのない情交にノアは戸惑いを隠せない。
「んっ⋯」
 止めどなく与えられる快楽から逃げるように身を捩るが、レノの手がそれを許さない。
「あっ、んっ!」
 侵入を許したレノの舌はノアが快楽に背中が震えるたび、吸ったり噛んだりと方法を変えて新たな快楽を教え込んでいく。
 合わせた口端からは嚥下しきれなかった唾液が艶めかしく伝って、その感覚すらもノアの気持ちを高ぶらせる一因となっていた。
「はぁっ……!」
 与えられる刺激に耐えられずノアは、腰が震えるほど快感が湧き上がって、あっけなく射精した。
 ノアは初めて人から与えられた、どうにも耐え難い射精感に荒い息を整えられず、胸が大きく上下する。落ち着かせるようにレノは背を撫で、何度もキスを繰り返した。
「大丈夫、か⋯?」
 レノは歯止めが効かず踏みとどまれなかった気まずさに、捨てられた猫のように眉尻を下げる。
「もうやだ、気持ち悪い」
 放たれた言葉が鋭利な刃物のようにレノに突き刺さり、精神的ダメージで動揺を隠せずにいたが、トラウザーズの中をしきりに気にするノアに、そっちかと口ごもりながら生活魔法の洗浄クリーンを掛けた。
「ありがと」
(どうしよう。どうしよう。どうしよう!)
 小さく礼を言うと、レノの膝の上で抱え込まれていることを思い出して、火照った顔を両手で覆った。ノアの頭の中は「どうしよう」でいっぱいだ。
「まだ、考えられない?」
 レノの問いに答えるように、ノアは顔を両手で覆ったまま横へと振る。
「レノなら、触させてあげてもいい⋯」
 レノは不快に感じない特別な存在だった。
 ダリウスの触れ方とも、ビィクトルの触れ方とも違う。
 他の誰でもない、性的に触れていいのはレノだけ。
 レノだけすべてを許せた。
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