冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 ダリウスが食堂に入ると、小声でヒソヒソと話す声が増えたのが分かった。
 昨日まで、ノアのそばにはダリウスがいたが、今日はレノに取って変わり、下世話な噂話の格好の餌食だ。
 人の不幸は蜜の味といったところか。
「ダリウス、同じメニュー頼んであるぞ」
「ああ、ありがと」
 ところがである、ダリウスとレノは険悪とは言い難い、どちらかというと仲が良い。
 噂は、憶測が憶測を呼び真実すらも覆い隠す。その言葉通りざわめく声は、止むことを知らない。本人たちそっちのけで明日には新たな噂が出回っていることだろう。
「あっちの席じゃなくていいのか」
「そっちに混ぜてもらうわ」
 ノアのもの言いたげな視線をスルーして、ダリウスは食堂の観葉植物で目隠しできる一番端っこの四人がけの席ではなく、その隣の6人がけに腰を落ち着けた。
 ノアを挟んでダリウスとレノは横並びに座る。向かいの席は空席だが、座れる勇気のある者はいない。
 席につくと使用人が眉一つ動かさず、当然とばかりにいつものように配膳していく。
「あっちの二人はまだ来なさそうだな。ノアもいるか、塩」
 レノは向かいの席に視線を流し、真ん中の塩に手を伸ばす。スクランブルエッグに塩をかけ、ノアの方に塩を渡した。
 ノアは黙ってそれを受け取ると、スクランブルエッグとサラダに塩をかけ、元あった場所へと戻した。
「今日は、部屋で食べてるかもな」
 ダリウスは独りごちて、ノアの食器に乗る一通りを口にする。レノは3人分の紅茶を注ぎ、その一つに口をつけ、そのままノアのトレーへと置いた。
「視線が煩わしいな」
 レノは不躾な視線で三人を、舐め回すように見る外野に聞こえるように悪態をつくと、しんっとさざめきが静まる。
「二人のせいでしょ」
 ノアは蒸し鶏を一口サイズに切ってかぶり付くと通常より長く咀嚼する。咀嚼が終わると無言で残りの蒸し鶏をレノの皿に移動させる。
「好きじゃない?」
「匂いが好きじゃない」
 レノはノアから移動された蒸し鶏を口にすると、残念そうに口角を歪め、口にした肉を咀嚼する。
「香草蒸しか⋯」
「俺も実はそれ苦手」
 レノの言葉に、ダリウスは肩をすくめると、自分の皿をレノの方へと差し出す。レノは蒸し鶏を半分だけ取って皿を差し戻した。
「半分は食えよ」
 皿を戻されたダリウスは、渋々といった体でサラダとともに蒸し鶏を咀嚼する。
「レノは1限なに」
「あーうちは、歴史」
 レノのクラス、Sクラスは成績優秀者か王族・公爵で構成されており、ほぼ平民はいないはずだが、どこにでも例外はあるようで、教会からは聖女が1名、平民が2名紛れ込んでいた。
 平民2名が何者なのかは、関わり合いがない以上、興味ない。
「歴史ね~復習と王族の系譜でも教えてくれんの?」
「あと、国の成り立ちね」
 目を伏せつまらなさそうに紅茶に口をつけたノアに、聞き知った声がして顔を上げるとビィクトルとカッシェが、空いた席に座るところだった。
「ビィクトル、カッシェ!おはよ」
「おはよ、ノア」
 二人が席につくと使用人がトレーをもって配膳していく。皿に小盛りされたサンドイッチとサラダ、それからビィクトルがヨーグルトでカッシェがプリンというメニューだった。
「ノアもプリン欲しい?」
 配膳されたカッシェのプリンに釘付けになっていたノアは、カッシェの言葉に首を横に振る。
「明日そっちのにするから」
 ノアが飲み干したカップを置くと、ダリウスが二杯目の紅茶を注ぎ、ビィクトルからヨーグルトが手渡された。
「⋯ありがと」
 手渡されたヨーグルトには、ノアの好きなベリーのソースが掛かっており、最初からノアへの貢物としてビィクトルが注文してくれたと見て取れた。

「甘やかし過ぎじゃない」
 隣の普段はノアたちが座る席に座っていた黒髪を肩口で切りそろえた少年が、これ見よがしに声高に批判する。周りも同調するように騒ぎ立てた。
「ビィクトル、スプーンちょうだい」
 ノアはその言葉に反応することもなく、ビィクトルのトレーのスプーンを受け取るとベリーの部分をすくって一口味わった。
「無視するなんて感じ悪っ!」
 吐き捨てるように言った黒髪の少年を振り返り、初めて認識する。見覚えのない相手に、にっこりと笑った。その目はこれっぽちも笑っていない。
「⋯だれ?」
「辺境にこもりすぎて、世間知らずとかっ」
「だから、だれ?」
 不機嫌さを隠さない声音で被せるように言い、ノアは同じ笑みを浮かべ続ける。
「⋯ノア、あれは」
「ダリウスには聞いてない。で、君はだれ?」
 フォローするように口を挟んだダリウスにピシャリと言葉を遮ると、ノアは再び同じ笑みを浮かべ黒髪の少年を観察するように圧をかける。
「俺の幼馴染で、アダム・フォーガス」
「レノの幼馴染?」
 誰に言うでもなくレノが口にすると、理不尽な怒りをぶつけられ不機嫌なノアがめずらしく反応を返した。
「で、その幼馴染がなんの用」
 素朴な疑問とばかりにレノをちらりと見ると、罰が悪そうに頭を掻いて視線を反らした。再びアダムを見たノアは、不機嫌を全面に出して、意地悪そうに口角を上げた。
「もしかしてレノの、元婚約者だったりする?」
「なっ!」
 図星だとばかりに言葉に詰まるアダムに、ノアは冷ややかな笑みを向けて、元の姿勢に戻るとヨーグルトと紅茶をお腹に収める。
「僕さぁ、八つ当たりみたいに喧嘩売られるの、マジムカつくんだよね」
「悪い」
 ノアはごちそうさまっと手を合わせ、同じく手を合わせたレノに視線を合わせず、今の気持ちを呟いた。
「なにしてくれる?」
 ノアは艶のある小悪魔的な笑みを浮かべて、レノの肩を2回叩いて手を置いたまま支えにして立ち上がった。
「無条件1回」
「仕方ないなあ、ホントはそんな条件じゃ足りないからね」
 口では憎まれ口を叩きながら、レノから引き出した条件に満足したように頷く。
「なに、それ」
「次なんか頼み事があるとき無条件で押し付けられるって話」
 不思議そうにするカッシェに説明し、外野と後ろで騒いでるアダムたちをやり過ごした。
「僕は行くけど、レノとダリウスは?」
「俺も行く」
 ダリウスは即座に立ち上がると、ノアの横について腰に手を添える。
「あー俺は少し用事があるから、昼食の時だな」
 チラッとアダムたちの方に視線を流すと、手を振って残りの紅茶に口をつけた。
「じゃ、また後で」
 レノとまだ食事中のビィクトルとカッシェを残して、ノアはダリウスと連れ立って食堂を出ていった。

 残されたレノは、今まで柔和な笑みを浮かべていたはずの顔を激昂した表情に変え、アダムの方へ振り返る。
「アダム、話がある、その周りの奴らもまとめてな」
 アダムたちは、虎の尾を踏みつけたようにレノの逆鱗に触れた事に気づいたのか、カタカタと震えだすのが分かった。
「ここだと、迷惑だろうから、夕方に談話室に来い」
 忘れるなよと付け加え、レノはビィクトルとカッシェに手を上げて、食堂の出入り口に向かう。
 レノの通る道はさぁーと人垣が開け、見なくてもどんな表情で歩いているか見当がついた。
「⋯ノアのこととなると、マジ怖いかも」
 サラダを咀嚼していたカッシェは、初めて知ったレノの態度に嫌そうに顔を歪め、ドン引いていた。
 ビィクトルはカッシェと自分のカップに紅茶を注ぎ、一息つくように紅茶を口にした。
「あまり触れない方がいいだろうな」
 ビィクトルはため息混じりに呟くと、カッシェの残したサンドイッチを手早く口にして、サラダを食べていたカッシェの口元に付いたドレッシングを親指で拭き取り、その指をそのまま口で拭った。
 ビィクトルは分かりやすく真っ赤になるカッシェに笑みを深める。二人だけの世界を構築し始めた二人を見ていた生徒たちは、ただそれを静かに見守ることしか出来なかった。
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