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しばらくは、そんなうだうだとした学院生活を満喫していたノアたちだったが、春から夏へ移りかわり新緑が眩くなった頃、夏季休暇前の実技試験が行われる。試験内容は、グレイシア迷宮の第2層の踏破。良くも悪くもメンバー次第で難易度が変わってくる。
「最大10名までの班で、なるべくクラスで班を作るように」
担任はそれだけ言って、班決めの申請用紙を配ると黒板脇の自分の椅子に座って、後は勝手にやれとばかりに腕組をした。
「なんで実技試験、迷宮踏破なの?」
「軍への貢献度を上げるため、爵位を受ける前にやらせるんだ。爵位を受けてから、万が一出兵したときに経験がありませんは通用しないだろ?」
冒険者の真似事が不服そうに唇を尖らすカッシェに、言い聞かせるように説明するビィクトルは、カッシェに話かけようとするクラスメイトを一瞥して、そっと視界から隠すように囲い込んだ。
「そうだよね~3年後には爵位受ける人間もいるしね」
「そう、だな」
ノアの言葉に言いよどむダリウスは、申請用紙に4人の名前を書き、担任へ提出するために席を立った。
「ダリウス、爵位のことまだ気にしてんの?」
「複雑なんじゃない?お兄さん、婚外子だし」
「だな」
浮かない顔して戻って来るダリウスに聞こえないくらいの声で会話する3人を、このクラスのカースト上位でもある一団が静かに見ていた。
なにかをするでもなく、見ているだけ。もちろん3人共、存在には気づいているが、歯牙にもかけず無視していた。
「出発は明後日、必要なものは学院で用意するので、体調管理だけ気をつけるように。それでは、本日は解散とする」
提出された申請書をまとめ、ささっと出ていってしまった。相変わらず担任のやる気は、全く無いようだ。
実技試験、当日。
今年の実技試験を祝福するような、晴れやかな青空が広がり、大人の心配を余所に生徒たちのテンションは高く、異常な雰囲気を醸し出していた。
5クラス+騎士団、魔法師団合わせて、総勢350名が演習場に集められ、出立式が行われたのち、転移陣でグレイシアへ移動をはじめた。
騎士団、魔法師団からは、団長含む精鋭6名と魔法師団4名がSクラスの護衛についているところを見るに、家格に合わせて護衛が配置されているようだった。
Aクラスは、魔法師団が6名と騎士団から4名が護衛につき、Sクラスとの対比で配置されていた。
「魔法師団長は不在のようだな」
「へぇ、見てみたかったかも」
ダリウスの言葉に何気なく返し、チラッと護衛⋯魔法師たちをダリウスの影から盗み見る。本気を出されたらわからないが、いい線まで行けるのでは?とノアは薄くほくそ笑んだ。
「止めておけ、全ての手を明かしているとは限らない」
人の悪い笑みを浮かべたノアに、ダリウスではなくビィクトルが釘を刺す。
「知り合いでもいる?」
「母方の従兄弟がいる、魔法師団長の遠縁で、それなりの地位にいるらしい」
「どーせ、Sクラスの方にいるんでしょ?」
転移陣の順番を待つ間、護衛から遠ざけるように、ダリウスはノアを腕の中に囲う。ダリウスは転移陣の中からレノの鋭い視線を感じたが敢えて無視を決め込んだ。
「その、喧嘩っ早いのはどうにかしてくれ」
「待って、ケンカは売ってない、向こうから突っかかってくるから仕方なく」
内緒話のように小声で話す二人に、少し離れた護衛2人が舌打ちをする。遠征とは名ばかりで、遊びに行く貴族がいちゃついているとでも思っているのだろう。
「貴族は後ろで大人しくしてろって、話し」
「団長が守ってるんだから、あっちは害はないだろうが、こっちは守るに値するのか疑問だ」
「まあ、死ななきゃ怪我ぐらいどーってことないっしょ」
脅すように物騒な事を言う護衛を一瞥すると、ノアは心底バカにしたような表情で見つめた。
「お前らに守ってもらわなくても結構」
囲い込んでいたダリウスの腕に腕を絡ませ退け、ノアは軽口を叩く護衛を真正面に見据えながら、吐き捨てるように言い放った。
「貴族か貴族で無いかで、対象を馬鹿にするような護衛って役に立つの?」
「ガキが生意気な口聞きやがって!」
前に出てきたノアを掴み上げようとして、護衛は後ろから伸びてきた手に止められた。
「いい加減になさい、貴族の子供相手にして損をするのは貴方がたですよ」
伸びてきた手の持ち主は、手入れされた長い黒髪を腰まで伸ばし、魔法師らしい生意気な目つきの美丈夫は、軽率な発言をした護衛たちを窘める。
「ほら、ノアもね?」
黙って行く末を見守っていたカッシェがノアの腕にそっと手を置き、この場は引くようにとノアを宥めた。
「カッシェ⋯」
「ここは堪えて?ね?」
「えっ嫌だけど」
「イヤじゃなくて、順番が来たから行こう」
カッシェが手を離すと、ダリウスとビィクトルに抱えられるように転移陣へ移動する。
「今のがビィクトルの従兄弟?」
「そうだけど、ほんと止めてね、ノア」
「みんなして⋯僕からは売ってないでしょ、売られるから買うんだよ」
不貞腐れるようにダリウスとビィクトルにされるがままになっていたノアは、顔だけ後ろへ向ける。
「痛い目に遭うのはどっちだろうね?」
ノアは鼻で笑って言い捨て、滅多に見せない子供らしい表情で小さく舌を出した。
「最大10名までの班で、なるべくクラスで班を作るように」
担任はそれだけ言って、班決めの申請用紙を配ると黒板脇の自分の椅子に座って、後は勝手にやれとばかりに腕組をした。
「なんで実技試験、迷宮踏破なの?」
「軍への貢献度を上げるため、爵位を受ける前にやらせるんだ。爵位を受けてから、万が一出兵したときに経験がありませんは通用しないだろ?」
冒険者の真似事が不服そうに唇を尖らすカッシェに、言い聞かせるように説明するビィクトルは、カッシェに話かけようとするクラスメイトを一瞥して、そっと視界から隠すように囲い込んだ。
「そうだよね~3年後には爵位受ける人間もいるしね」
「そう、だな」
ノアの言葉に言いよどむダリウスは、申請用紙に4人の名前を書き、担任へ提出するために席を立った。
「ダリウス、爵位のことまだ気にしてんの?」
「複雑なんじゃない?お兄さん、婚外子だし」
「だな」
浮かない顔して戻って来るダリウスに聞こえないくらいの声で会話する3人を、このクラスのカースト上位でもある一団が静かに見ていた。
なにかをするでもなく、見ているだけ。もちろん3人共、存在には気づいているが、歯牙にもかけず無視していた。
「出発は明後日、必要なものは学院で用意するので、体調管理だけ気をつけるように。それでは、本日は解散とする」
提出された申請書をまとめ、ささっと出ていってしまった。相変わらず担任のやる気は、全く無いようだ。
実技試験、当日。
今年の実技試験を祝福するような、晴れやかな青空が広がり、大人の心配を余所に生徒たちのテンションは高く、異常な雰囲気を醸し出していた。
5クラス+騎士団、魔法師団合わせて、総勢350名が演習場に集められ、出立式が行われたのち、転移陣でグレイシアへ移動をはじめた。
騎士団、魔法師団からは、団長含む精鋭6名と魔法師団4名がSクラスの護衛についているところを見るに、家格に合わせて護衛が配置されているようだった。
Aクラスは、魔法師団が6名と騎士団から4名が護衛につき、Sクラスとの対比で配置されていた。
「魔法師団長は不在のようだな」
「へぇ、見てみたかったかも」
ダリウスの言葉に何気なく返し、チラッと護衛⋯魔法師たちをダリウスの影から盗み見る。本気を出されたらわからないが、いい線まで行けるのでは?とノアは薄くほくそ笑んだ。
「止めておけ、全ての手を明かしているとは限らない」
人の悪い笑みを浮かべたノアに、ダリウスではなくビィクトルが釘を刺す。
「知り合いでもいる?」
「母方の従兄弟がいる、魔法師団長の遠縁で、それなりの地位にいるらしい」
「どーせ、Sクラスの方にいるんでしょ?」
転移陣の順番を待つ間、護衛から遠ざけるように、ダリウスはノアを腕の中に囲う。ダリウスは転移陣の中からレノの鋭い視線を感じたが敢えて無視を決め込んだ。
「その、喧嘩っ早いのはどうにかしてくれ」
「待って、ケンカは売ってない、向こうから突っかかってくるから仕方なく」
内緒話のように小声で話す二人に、少し離れた護衛2人が舌打ちをする。遠征とは名ばかりで、遊びに行く貴族がいちゃついているとでも思っているのだろう。
「貴族は後ろで大人しくしてろって、話し」
「団長が守ってるんだから、あっちは害はないだろうが、こっちは守るに値するのか疑問だ」
「まあ、死ななきゃ怪我ぐらいどーってことないっしょ」
脅すように物騒な事を言う護衛を一瞥すると、ノアは心底バカにしたような表情で見つめた。
「お前らに守ってもらわなくても結構」
囲い込んでいたダリウスの腕に腕を絡ませ退け、ノアは軽口を叩く護衛を真正面に見据えながら、吐き捨てるように言い放った。
「貴族か貴族で無いかで、対象を馬鹿にするような護衛って役に立つの?」
「ガキが生意気な口聞きやがって!」
前に出てきたノアを掴み上げようとして、護衛は後ろから伸びてきた手に止められた。
「いい加減になさい、貴族の子供相手にして損をするのは貴方がたですよ」
伸びてきた手の持ち主は、手入れされた長い黒髪を腰まで伸ばし、魔法師らしい生意気な目つきの美丈夫は、軽率な発言をした護衛たちを窘める。
「ほら、ノアもね?」
黙って行く末を見守っていたカッシェがノアの腕にそっと手を置き、この場は引くようにとノアを宥めた。
「カッシェ⋯」
「ここは堪えて?ね?」
「えっ嫌だけど」
「イヤじゃなくて、順番が来たから行こう」
カッシェが手を離すと、ダリウスとビィクトルに抱えられるように転移陣へ移動する。
「今のがビィクトルの従兄弟?」
「そうだけど、ほんと止めてね、ノア」
「みんなして⋯僕からは売ってないでしょ、売られるから買うんだよ」
不貞腐れるようにダリウスとビィクトルにされるがままになっていたノアは、顔だけ後ろへ向ける。
「痛い目に遭うのはどっちだろうね?」
ノアは鼻で笑って言い捨て、滅多に見せない子供らしい表情で小さく舌を出した。
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