冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 グレイシアに着くと、そこには日払いで雇われたであろう冒険者たちが待ち構えており、転移陣から出てきた順に迷宮へと出発していった。全員を集めて出発するという、まどろこしいことはしないようだ。
 指示系統は、Sクラスは護衛、王族、担任、各班長2名に対して、Aクラス以下は護衛、担任、各班長12名となっており、Sクラスは少しめんどくさい。
「ノア!」
 迷宮入り口で声をかけられ、振り返れば馴染みの冒険者でもあるルディが、意地悪そうな笑みを浮かべて近づいてくる。
「⋯ルディ」
「さっき、レノも見かけたぜ?」
「うるさいよルディ、嫌味言うためにワザワザ来たの、暇すぎない?それとも⋯」
 わざわざ生徒の列を掻い潜って近づいてきたルディは、ノアの肩に手を置こうとしてダリウスに阻まれる。
「こいつに触れないでもらおうか」
「レノ以外にも、騎士ナイト付きとは、さすがノアだ」
 やれやれと肩を竦めるルディは、一部の冒険者の方に視線だけ投げかけ、ダリウスの隙をついてノアの肩を抱き寄せると耳元で囁いた。
「⋯あいつらには気をつけろ、いつもの結界は張っておけ」
 すり抜けられたノアの周りはルディの行動に言葉を失い、凍りついたように固まった。ノアは最初こそ呆気に取られていたが、ルディの言葉に我に返り、肩にあったルディの手を軽く払った。
「ルディ」
 ダリウスはルディに噛みつきそうなほど鋭く睨みつけ、それを抑えるようにダリウスの腕を軽く叩くと、ノアはルディの胸元に手をおいた。
「学院の生徒には、無闇に触れないでいただいた方が、お互いのため、ですよ」
 ノアは貴族然とした微笑みをルディに向けると、ダリウスにエスコートされ迷宮へと入っていく。その後をカッシェとビィクトルが続き、最後に魔法師の護衛が追従した。
「ノア、さっきの冒険者は⋯」
「色々と、面倒を見てもらった人だ、後で連絡を入れておくよ」
 ダリウスにこっそり耳打ちすると、ノアはにっこりと満面の笑みを浮かべる。ノアがこの笑みを浮かべる時は、腹の中では言葉に言い表せない憤りに支配されているときが多い。
 なぜなら先程、ルディが示した冒険者たちは、ノアとレノが冒険者になって間もない頃、迷宮の外れで性的に襲ってきた輩たちだった。あの時、レノもそれなりに幼気いたいけな少年だった。
 いっときグレイシアの迷宮から姿を消したようだったが、今回の割の良い依頼に食いついて戻ってきたようだった。
 案の定、あの下卑た笑みを浮かべ、ノアの全身と顔を見て舌なめずりし、なにかを企んでいるに違いなかった。

 ノアは、ルディの忠告通り、自分とカッシェの周りに薄い膜のような結界を張る。万が一、薬を嗅がされたり飲まされたりしたとき防げるように。
「すみません、この班のリーダーは?」
 迷宮に入ってすぐあたりで、魔法師の護衛が班の在り方を確認するように声を掛ける。
「リーダーは俺、ダリウス・ニールセン。でも、決定権はノアール・ヴェンディエールにあります」
「野生の勘はノアのほうが正しい」
 ダリウスは護衛に答えて、それを受けるようにして、ビィクトルが言葉を続けた。いつもは横やりの多いカッシェだがこういうときは、我関せずで口を挟まない。
「わかりました。ノアさん、貴方は冒険者なんですね。剣はお強いんですか?」
 ノアは分かりやすく媚を売ろうとする護衛に苦笑いをする。こういうあからさまなのは、珍しいことじゃない。何らかの形で貴族と接点を持っておけば、損はない。
「あー、冒険者ではあるけど、魔法師なので」
「えっでも指輪、」
 ノアのちらっと見えたであろう指輪の石を指摘して、顔を上げた護衛はノアのはにかんだような笑顔に言葉を失った。
「これはちょっとワケアリで」
「そうなんですね⋯⋯ッヒェ」
 遠くから鬼のような形相で、護衛は食い殺さんばかりの視線に晒され、喉の奥に悲鳴が吸い込まれた。
「なにかありました?」
 変な声を発した護衛に、ノアはきょとんとして面食らい、後ろに気配を察し振り返る。遠くの方で軽く手を挙げるレノが見て取れた。
「班分かれたの、気にしてんね~」
「ダリウス」
「とりあえず、サクッと済ませますか!」
 わざわざノアの肩を抱きしめると、遠くのレノに手を振る。貴族の目のない場所でのダリウスは案外フランクだ。ノアたちにとってはこっちのダリウスの方が普通なので、いつもの貴族然としているダリウスが違和感でしかないんだが、口にはしない。
「では、ダリウスさん先頭をお願いします。私は後方を」
「先頭は僕だよ、魔法はどうしてもヘイト取っちゃうから」
 護衛に被せるように言って、先頭を歩き出した。ノアに続いてダリウスが歩き、カッシェ、ビィクトルと続いた。護衛は、返事もなく後方を守るように後ろを気にしながら最後をついていく。その動きはどことなく貴族じみていて、平民上がりの魔法師とは違う印象を受けた。
「おいで、ブレイズ」
 ノアは、指を鳴らして大型犬ほどのフェンリルのブレイズを召喚する。初めて召喚した頃よりも、確実に大きくなっているのが実感できるサイズだ。
 ブレイズはレノに似た銀毛をたなびかせて、如何にも王者な風格で登場した。
『ご主人、うさぎがいっぱい!』
「狩っておいで、無理ならこっちに追ってきていいから」
 中身が子供っぽいのが玉に瑕だが、ノアの合図を待っていたかのように、ブレイズは尻尾を大きく振り、興奮を高めるように声高に鳴いた。
「これで、しばらくは安全だね」
「もう、あんなに大きくなったの?」
「レノが魔力球で、とってこいやり過ぎて、大きくなっちゃって」
 小鳥を肩に乗せたカッシェは、ノアの肩に頭を乗せた。すくすく育った他の2名と違い、ノアとカッシェはどんぐりの背比べよろしく地道に身長を伸ばしていた。
「可愛がりすぎじゃない?」
「ね、僕よりも可愛がってくれるから、育っちゃう」
 ブレイズの周りをフォローするようにスカイビットを狩りはじめたダリウスは、赤い髪をなびかせ、ノアたちを気にするように視線を流しながらスカイビットを一掃していく。
 一層目は難なく進み、二層目に入った途端、不穏な空気がノアたちを包む。息苦しさを感じたカッシェはビィクトルに手を伸ばし抱きついた。
「なに、これ」
「ホントに二層か?」
 ビィクトルはカッシェの背を撫でながら、先頭を歩くノアに声を掛けるが、緊張の空気を孕みノアは答えることなく様子を探るように辺りを見回していた。
 ブレイズは緊迫する主の様子など気にすることもなく、ノアの傍らで嬉しそうに尻尾を振って命令を待っていた。
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