『3乙するところを2乙で食い止め連帯責任に持ち込ませる精神力』に憧れて!

川井田ナツナ

文字の大きさ
1 / 2

第1乙

しおりを挟む
「せ、せ、セ――――フッ!!」

 野良でクエストに参加していた俺は……たまに一緒になるゲームプレイヤーの『愛車はバニラさんが力尽きました』の表示を見て安堵あんどした。
 俺が生まれた時には既に存在していたこのゲームは『3乙』、つまりはゲーム内で三回『HP』がゼロになったら強制的に受注したクエストが失敗となる。
 もちろん、シングルプレイも可能だが俺は率先してパーティープレイに参加した。
 狂敵モンスターが討伐対象となるクエストほど、俺のような3乙プレイヤーはこぞって”PSプレイヤースキル”が高い人の邪魔にならないように立ち回るのが定石中の定石だが……。
 それでも運悪く……、モンスターからの即死攻撃を同じフィールド内の隅で素材採取中に食らってしまうのが俺だ。
 もちろん、そんなことを自覚している俺はプレイヤーネームを『寄生虫でおk?』とあらかじめ予告しているし、クエストが成功した際は誰よりも『皆様に感謝です!』とコメント欄を埋めて、彼らの承認欲求を満たすことに尽力する。

 要するに俺は……絶望的にこのゲームが下手なのである。

 だがなぜだろう――――。
 俺はこのゲームの世界が好きだ……。
 何度、モンスターへの攻撃が外れようが……。何度、ブロック通知が届こうが……。何度、通信が途中で遮断されようが……。
 残暑の日差しがゲーム画面に反射しようが。

 しかしなぜだろう……?
 電車を待つ駅のベンチの隅っこでゲームをしていただけなのに……。 
 背中をブスっと刺された鈍痛に……。咳き込んだ唾がゲーム機を赤く濡らす……。リアルでクエスト受注した覚えないけど……。
 日差しによる貧血か、出血による貧血か……最後に視界をよぎった空の青さに……

「1乙かよ」

 そう……ボヤくのであった。



「寄生虫さんは異世界に転生したら、ハンターになったら一番ダメな人だね!」
 この言葉に似たコメントを愛車はバニラさんに何度書かれたことだろう……。
 俺はその度に、

「バニラさんの荷台に隠れててもよろしいでしょうか?」

 そう返信した。いつもその後は既読スルーになるが、クエストが重なれば何事もなかったように会話が弾んだ。


 だが……宇宙空間のような場所で『異世界転生よろ~!』としか、言って来なかったギャル語の神様とは会話が弾む気がしなかった。
 だからこそ、コメント欄で幾多のプレイヤーたちの承認欲求を満たしてきた俺にはわかる――――ッ。
 目の前のこの女性には何を褒めた所で無駄――――ッ!

 つまり、この状況下におけるベストアンサーは……

「3乙するところを2乙で食い止め連帯責任に持ち込ませたらノーカンにしてくれ!」――――つまり、自分の望みを言う事である。

「ん?? オッケー、んじゃ頑張ってね――」

 こうして俺の……異世界奮闘記が始まった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【流血】とある冒険者ギルドの会議がカオスだった件【沙汰】

一樹
ファンタジー
とある冒険者ギルド。 その建物内にある一室、【会議室】にてとある話し合いが行われた。 それは、とある人物を役立たずだからと追放したい者達と、当該人物達との話し合いの場だった。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...