7 / 66
7.「だからお嫁さんが欲しくなって」……は?
しおりを挟む(え? 本気で? 口実だったのではなく?)
更にウィルフレードは驚きの内心を吐露する。
「僕の弟が結婚してね。これがもう、こっちが呆れるほど愛妻家になってしまって、もうこの兄を構ってくれないんだ!」
「……はぁ」
憤懣遣るかたなしといった風情が見受けられることに驚きである。本音だと解るからなおさら。
(結婚したのなら、それが当然なのでは?)
リラジェンマは母とは違い、相手の心の機微の細やかなところまでは把握できない。
だがウィルフレードが、いま本音で話しているのは伝わってくる。一人称が『ぼく』になっているし。
そして彼女の記憶が確かならば、王太子はもう24歳になっているはずで、彼の弟である第二王子はリラジェンマの二つ上の21歳のはずなのだが。
成人は男女ともに16歳のはずだが、それはウナグロッサだけの常識なのだろうか。このグランデヌエベでは違うのだろうか。成人をすぎた兄弟は結婚しても妻より兄を優先するものなのだろうか。
(ええと……だいぶ、ブラコンなのかしら?)
「だからお嫁さんが欲しくなって」
弟に結婚を先越されたから自分も焦って相手を見繕った。
一見、一理あるような言い訳ではあるが、だからといって隣国の王太女をむりやり指名しなくてもいいのではないかと、リラジェンマは思う。過去に親交があり知己で相思相愛の相手ならともかく、自分たちは初対面だ。変ではないか?
「……国内で適当に見繕ってはいかがでしょう」
「うーん。かれこれ10歳の時から探してはいるんだけどね、だれも彼もピンとこなくてねぇ」
「……はぁ」
(ピンとこない……えぇえ? 王太子ともあろう者が自分で伴侶を選ぶの? 国王陛下が決めるものではないの?)
高位貴族の縁組など政略結婚が定番だ。だいたいは親が決めた相手を伴侶にするものだ。王族ならなおのこと。
そう思っていたのだが、グランデヌエベでは違うようだ。
「だから丁度いいし、お嫁においで♪」
「ちょうどいい」
明るく。あくまでも明るくあっけらかんと口にするウィルフレードの様子にリラジェンマは軽く眩暈を覚えた。
(えぇぇぇぇ? 自分で決めるならそこには好みってものがあるのでは? ちょうどいいなんて理由で決めていいの?)
好みがあるからこそ、ピンとこないという理由でいままで婚約者がいなかったのではなかろうか。
そういえば年配の侍女ハンナもウィルフレードが連れて来た女性というだけで、諸手を挙げて賛成しているような風情だった。
「そう。ちょうどいいだろ? 僕は君がそうだと思ったし」
(そうだってなに? なんのこと⁈)
結婚は家のため、国のためにするもの。
今までのリラジェンマの常識ではそういうものだった。だが、ウィルフレードの行き当たりばったりな物言いは彼女のいままでの常識から遥かに逸脱した理論を展開している。
「わたくしにはウィルが何を言っているのか、もう、何がなんやらさっぱり解りません。ことばの違いにしても解らなすぎる」
混乱をきたす話をされ戸惑っているのだと伝えれば、ウィルフレードはあくまでも笑顔である。ときおり本音を見せつつ王太子の仮面を被ったりもする。だから一層リラジェンマは混乱する。
「えぇー? ちゃんと受け答えできてるよ?」
朗らかな明るい笑顔はだれからも好かれるだろう。そんな表情を向けて、なのに王太子の仮面を被りこちらを観察もする。本音と建前の絶妙なブレンド具合がいっそ天晴れというべきなのか。
「基本的な言語は同じですから、意味は分かるのですが、なにかこう……肝心なところで理解がさっぱりなのです」
おもに常識とか常識とか常識とか。
「そうなの? ま、いいや。その話はおいおいで」
ケロっとした軽い笑顔でウィルフレードは言うが。
『おいおい』? これから徐々に、とか時間が経つにつれてだんだんと、といった意味だったと記憶している。
そんな適当で悠長なことを言っていて良いのだろうか。
そして何よりも、このウィルフレード・ディオス・ヌエベという男はこんなに行き当たりばったりな人間なのだろうか。
戸惑うしかないリラジェンマを知ってか知らずか、ウィルフレードはにっこりと王太子の笑顔で彼女に指し示した。
「さあ、着いたよ。グランデヌエベの第一神殿だ」
8
あなたにおすすめの小説
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
妹の身代わりの花嫁は公爵様に溺愛される。
光子
恋愛
お母様が亡くなってからの私、《セルフィ=ローズリカ》の人生は、最低なものだった。
お父様も、後妻としてやってきたお義母様も義妹も、私を家族として扱わず、家族の邪魔者だと邪険に扱った。
本邸から離れた場所に建てられた陳腐な小さな小屋、一日一食だけ運ばれる質素な食事、使用人すらも着ないようなつぎはぎだらけのボロボロの服。
ローズリカ子爵家の娘とは思えない扱い。
「お義姉様って、誰からも愛されないのね、可哀想」
義妹である《リシャル》の言葉は、正しかった。
「冷酷非情、血の公爵様――――お義姉様にピッタリの婚約者様ね」
家同士が決めた、愛のない結婚。
貴族令嬢として産まれた以上、愛のない結婚をすることも覚悟はしていた。どんな相手が婚約者でも構わない、どうせ、ここにいても、嫁いでも、酷い扱いをされるのは変わらない。
だけど、私はもう、貴女達を家族とは思えなくなった。
「お前の存在価値など、可愛い妹の身代わりの花嫁になるくらいしか無いだろう! そのために家族の邪魔者であるお前を、この家に置いてやっているんだ!」
お父様の娘はリシャルだけなの? 私は? 私も、お父様の娘では無いの? 私はただリシャルの身代わりの花嫁として、お父様の娘でいたの?
そんなの嫌、それなら私ももう、貴方達を家族と思わない、家族をやめる!
リシャルの身代わりの花嫁になるなんて、嫌! 死んでも嫌!
私はこのまま、お父様達の望み通り義妹の身代わりの花嫁になって、不幸になるしかない。そう思うと、絶望だった。
「――俺の婚約者に随分、酷い扱いをしているようだな、ローズリカ子爵」
でも何故か、冷酷非情、血の公爵と呼ばれる《アクト=インテレクト》様、今まで一度も顔も見に来たことがない婚約者様は、私を救いに来てくれた。
「どうぞ、俺の婚約者である立場を有効活用して下さい。セルフィは俺の、未来のインテレクト公爵夫人なのですから」
この日から、私の立場は全く違うものになった。
私は、アクト様の婚約者――――妹の身代わりの花嫁は、婚約者様に溺愛される。
不定期更新。
この作品は私の考えた世界の話です。魔法あり。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」
まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。
私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。
私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。
私は妹にはめられたのだ。
牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。
「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」
そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ
※他のサイトにも投稿してます。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。
ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。
こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。
(本編、番外編、完結しました)
辺境伯へ嫁ぎます。
アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。
隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。
私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。
辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。
本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。
辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。
辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。
それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか?
そんな望みを抱いてしまいます。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 設定はゆるいです。
(言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)
❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。
(出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる