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本編

12.剣術試合(1)

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 そんなこんなの毎日が4カ月。
 やはり、俺の優秀さが証明されてしまったな……。ふっ。
 学業的には教授陣に異形のモノを見る目で見張られ(いつ飽きて以前のようになるか賭けをしていると聞いた俺の心境、解って欲しい。教師が賭けって……(遠い目))、剣術の時間(専科だけどね、あるのよ。選択科目として)には、担当してくれる騎士団の現役騎士さまから驚異の存在だと言われ、とうとうやってきました剣術試合当日!

 ふっ……ジークを始め、俺を知る奴らの期待を裏切ってグループ戦を制し、決勝トーナメントに進んじまったんだよなぁ。ベスト16よ?  その 1回勝ち抜いたから、今はベスト8。凄くない?  優秀な俺ってば、やっぱ凄いよね。天は二物も三物も与えるよね。うん、皆の者。俺を褒め称えることを許すぞ。

「馬鹿野郎。オリヴァー、お前、ちょっとでも休め。寝てろ。疲労が溜まっているだろう?」

 ジークが冷たいようなことを言いつつ優しい。今も濡れタオルを俺の頭に掛けた。さっきの試合で頭をしこたま打ち付けているから、冷たいタオルが効くわ~♪

 普段は学園内平等を謳っているくせに、へんな処で身分制度持ち出す我が学園では、こういう時の俺の控室が高位貴族専用個室なんだよな。お陰で王子殿下が出入りして警護付きでいられるけどね。
 平民だと大部屋で数人が同時にひとつの部屋を使う。そんなんじゃ、ちゃんと休めないだろうし、何年か前に、有力候補を闇討ちする事件もあったとか。おっかないねぇ。まぁ、この試合の結果いかんで、今後の自分の進路が決定される輩もいるからな。他者を蹴落としてでも! って気持ちは解らんでもない。が、許されることでもない。お陰で守備隊の人が警邏に入っていたりする。
 ……ん?  もしかしてもしかすると、ウォルフ先輩、今日の警邏に当たってたりして……。

と、思ったとき、この部屋にノック3回。

『こちら、オリヴァー殿はいらっしゃいますか』

 あの声は……!

「いるぞ。入れ」

 あぁ、ジーク! 勝手に答えるな!

「失礼いたします。オリヴァー……、あ、これはジークフリート殿下。ご機嫌麗しく」

 入室したのは、案の定、俺のブルーダーの先輩だった。嫌な予感ってのは的中率高いよな。

「あなたは……たしか、去年卒業したオリヴァーの……」

ジークが先輩を問い質す。

「はい。オリヴァーのブルーダーの兄、ウォルフガング・ベルゲングリューンです。今までオリヴァーの……あぁ、いえ、オリヴァーさまの依頼を受けて、彼に剣の稽古をつけていました」

おぅ…先輩、それ、言わんでいいやつっす。

「いいですよ、ウォルフ先輩。今更俺に『さま付け』なんて、キモチワルイっしょ?」

「いや、だが、俺はもう学園生ではないし……」

「そのやり取りは、もう済んだでしょ? メンドクサイよ、毎回毎回やるのは」

「失礼、ベルゲングリューン先輩。この部屋の中だけ、今は学園生だったときと同じ口調でお願いします。僕の権限で許可します。不敬には問いません……その、オリヴァーが、先輩に稽古をお願いしていたのですか?」

ジークが先輩に確認してる……。あぁ、ヤダヤダ。

「あぁ……はい。4カ月ほど前に、オリヴァーが俺を訪ねて来て……」



 突然訪ねて来た学園時代のブルーダーの弟。オリヴァー・フォン・ロイエンタール。彼は突然の訪問を詫びてベルゲングリューンに頭を下げた。

「もう卒業したのだから、俺に敬語は不要ですよ」

「いえ。先輩は先輩です。俺のブルーダーですから」

 ベルゲングリューンは貴族ではない。平民だ。縁があって運よく貴族学園に通うことが出来、王都守備隊に就職も出来た。

「……そういえば、君は、最初からそうだったね。人を身分で差別しない。俺が名乗ったら、平民だとすぐわかっただろうに。俺をブルーダーの兄として尊重してくれた」

 自分が高等部一年生で、彼が初等部一年生のとき出会った。あの時はもっと背が低かったとウォルフガングは記憶している。

「で? どうしてわざわざ俺を訪ねてきた?」

「先輩にしか、頼めないんです。お願いします、ウォルフ先輩。俺に、剣の稽古をつけてください」

「稽古。なぜ? 学園で、いくらでもできるだろう?」

「人知れずこっそりと、したいんです。無様な姿を同級生たちに見せたくなくて」

「……相変わらず、人前では良いカッコしてるんだ?」

 この後輩は、可愛い顔して大層プライドが高く、努力している姿とか苦悩している姿を人前に晒すことを極端に嫌っていた。そんな彼が、努力とか、地道な鍛錬とかを嫌っていた彼が、わざわざ稽古の依頼をするとは。

「明日から、雨が続いたらお前のせいだぞ?」

 そんな言い方で、ウォルフガング・ベルゲングリューンは後輩の依頼を受けたのだった。



「オリヴァー……お前……先輩の仕事場を荒らしに行ったのか」

胡乱な瞳で俺を見るジーク。と、ウォルフ先輩が俺を庇う。

「大丈夫ですよ、殿下。学園の卒業生も数人いるから事情は察して貰えたし、仕事が終わってからの時間に見ていたので、たいした負担にはなっていません。それに、王太子殿下の許可も下りていましたから」

「え?!」

「兄上の?!」

マジか。それは知らんかったぞ。

「あぁ。貴族学園の制服を着た学生が出入りするんだ。当然、隊の上の者はその身元を確かめに学園に連絡する。そうしたら王太子殿下が……」

「僕は一言も聞いていないぞ! 兄上~っ」

 あの人の“お見通し”はどこまでか解らないから逆に恐ろしいな。

「で、オリヴァー。俺は陣中見舞いに来たわけだが、それだけじゃない。この後の試合は、棄権しろ。それを言いに来たんだ」

 あらら。ここにも“お見通し”な人が。

「え?」

「もう、腕がもたないだろう? 剣を握る握力も落ちているし、足も挫いている。頭部への強打も見逃せない。これ以上は余計な怪我を負うだけだ。騎士科でもなく、将来騎士になるでもないお前が、ここで無茶をしたら身体を壊すだけだ。やめなさい」

「オリヴァー……」

 そうなんだよな。正直、身体はもうボロボロ。この4カ月、鍛錬を重ねたけど、足はパンパンで疲労が癒える暇はないし、正直腕も上がらない。剣を持ち続けてできた掌の豆は潰れて、更にその上に豆が出来ているような状態。ペンを持つのも苦労している。付け焼き刃ってこのことだよねぇ。
4カ月前の俺だったら、もう面会謝絶って言って入院するレベルで満身創痍だ。

「でも……いい感じに腹筋が割れてきたんだよね」

俺がそう言えば、ジークは今コイツ何を言った?  って顔して俺を見る。

「は?」

「鍛錬は続ければいい。いくらでも付き合う。だが、試合は棄権しなさい」

先輩、真面目っすね。

「んー、でもぉ」

「オリヴァー」

「次の対戦相手、クラウス先輩じゃん? 今棄権したら、“あいつ逃げたな”って後ろ指さされるよ? 俺、そんなん、嫌よ?」

「“銃騎士クラウス”か、優勝候補の!」

 そう。なんの因果か、次のトーナメントの対戦相手は騎士科三年のクラウス先輩なのだ。騎士科の超優秀学生で、去年の剣術大会の優勝者。卒業後はラインハルトさまの近衛に抜擢されるのではという噂があるほどの凄いお人なのだ。つまり、容姿もわりとイケてるお人。いるんだよねぇ、本気で天に愛されて二物も三物も与えられてる存在って。いやねぇ、オリヴィア嫉妬しちゃうわぁ。

「あと一個勝てば、準決勝なのになぁ~。ここであの“銃騎士”先輩に当たるなんて、俺ってば、ついてないねぇ」

 “銃騎士”というあだ名は伊達じゃない。剣もすげぇんだけど、実は銃の腕前もとんでもないお人だ。俺とは違い、野郎どもの羨望と憧れを一身に受けるお人。うーん、そんなバケモノと対戦すると考えるだけで震えがきそう。

「オリヴァー! 棄権しろ! 相手が悪すぎる」

顔色変えてジークが言う。

「嫌だね。名前が気に入らないし」

「……名前?」

「“クラウス”って、うちの兄貴と同じ名前じゃん。それを前に逃げるのも癪に障る。何もかも癪に障る。だから続行する」

「オリヴァー! へんな意地を張るな!」

「忠告ありがと、ウォルフ先輩。でも先輩に習ったこと、“銃騎士”に通用するか試したいってのもあるからさ。やるだけやってみるよ」

 強がって笑った俺に、ジークとウォルフ先輩は、なんとも情けない表情を浮かべていた。



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