死に戻りのクリスティアナは悪妻となり旦那さまを調教する

あとさん♪

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十し。アレがない

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「わたくしとしては、季節のおりおりに子どもたちの成長ぶりを確認していただきたいものですわ。
 そして顔を合わせたら挨拶くらいしてください。社交の場では、立場が下の人間から話しかけてはいけないけれど、相手はご自分のお子ですからね? 家族ですからね? 立場云々の話ではございませんでしょ? おはようやおやすみなさいを伝えるのは当たり前のこととご承知おきくださいませ!
 あとは……そうね、月に一度でもいいからあの子たちとお話しする時間をとってくださいませ」

 旦那さまがお忙しいことは充分承知しております。できればそのお忙しいお仕事をセーブしてもらいたいですけど……。無理かしら。無理ならべつにいいのだけど。

「……善処する」

 あら。なんだか神妙な顔をした旦那さまがそうおっしゃいました。
 ちょっと意外。そんなことできないと却下されるとばかり思っていましたのに。

「だが……その、私は不用意にことばを使ってしまう。子どもたちを傷つけるかもしれぬ。それでも、いいのか?」

 なるほど。
 たしかにこの人、デリカシーがない人でしたわね。
 子どもたちが生まれたときの無神経な暴言、忘れたことはありませんわ。

 これは……なんらかの措置が必要ですね。

「では。子どもたちとの時間、わたくしも立ち会いましょう。不適切なことばを使った時点で、問答無用で踏みます。それでもよろしくて?」

「踏んで教えてくれるのならありがたい!」

 お待ちになって。踏まれるのに喜ぶのですか?
 比喩ではありませんのよ? ほんとうに遠慮会釈なく踏みますよ?

「場合によっては蹴りますが、それでもよろしくて?」

「是非ともっ!」

 いえ、是非は問うてほしいものですが。
 なんだか旦那さまのお顔がキラキラ輝いて嬉しそうに見えるのは気のせいかしら。
 踏まれたり蹴られたりするのがお好きだったとは知りませんでしたわ。

 それはともかく。

「子どもたちへの対応を変えていただけるのならば、これほど有難いことはありませんわね。
 それでは……わたくしのことなど放ってくださって構いません。どうぞ、心置きなく娼館でお好みの美人さんとねんごろになってくださいませ」

「いや、待ってくれ! そんな者はいない!」

 さきほどまで嬉しそうだったキラキラが一瞬でなくなりましたわ。

「いえいえ。そうおっしゃらず。わたくしとの閨の時間がありませんでしょ? どうせ遊ぶのならお相手の女性もお仕事だと理解している方と遊んでもらいたいものですわ」

 あのマダムの教育が行き届いているお店の【姫】たちの方が心得ていることでしょう。
 どこぞの人妻やら未亡人やらとラブアフェアを楽しまれるよりも、よっぽどマシです。

「そうでなければ旦那さま。もしや勃起不全インポテンツでいらっしゃいますの?」

「は?」
「――?!?!?!」

 いやね。旦那さまはポカンとして、ポールは声なき声をあげて驚愕しているわ。
 ポールったら、なんだか先ほどから慌てたようすで身振り手振りしています。わたくしになにか伝えようとしている? のかしら。……よく分からないわ。

「わたくしなど、こどもを生んでから用無しになりましたでしょ。捨て置かれるのも慣れましたわ。でももし障がい理由だというのならば、お医者さまにご相談なさいませ。お辛いのではございませんの? よくわかりませんけど」

 健康体ならば、それなりにそういうお相手が必要なんじゃないのかしら。
 わたくしとは一切の接触がない以上、どこかよそで発散してると思うのが普通よね。さもなければ物理的に無理インポテンツなのだと。
 幸いわたくしは、そういう欲が希薄な性質たちみたいだからなんの不満もないのだけど。

 ……ちょっとだけ、寂しいとは思いますけどね。

 初夜の晩、彼の肩に凭れてウトウトしたあの日が一番幸せだったわ。
 あの日にエリカを授かったから、それ以来夜の時間は持たなくなって……。

 ……うふふ。
 今さらあの日のことなんて思い出してもしかたないですわね。

 ようやくわたくしの言ったことばの意味を理解したらしい旦那さまが、いや違う不全インポなどではないと言っています。
 ポールは疑わしいといった表情で旦那さまを見ています。

 べつにわたくしにとっては、旦那さまが不全でもそうでなくとも変わりはないのですけどね。

「さようでございますか。それならばなおさら、旦那さまが娼館で羽目を外されたとしても、わたくしとやかく申しませんわ。お好きになさればよろしいかと」

 今生では好き勝手すると決めましたけど、やっぱり旦那さまの自由まで奪う権利はわたくしにはないと思いますの。ね? わたくしはわたくし。旦那さまは旦那さまで好きに生きれば良いのよ。


「ちょ、ちょっと、待ってください奥さまっ! その、口を挟んで申し訳ありませんがっ」

 ポールが蒼白な顔で声をあげました。
 本来、家令であるポールが主人格であるわたくしたちの会話に参加することはありません。
 こちらから意見を述べるよう命じない限りはね。
 だれよりもそれを理解しているはずの彼が口を挟んでくるのですもの。もう辛抱できない! って感じなのかしら。

「さきほど奥さまは、閨の時間がないと、子どもを生んでから捨て置かれている……とおっしゃいましたか?」

「そうよ」

「あの……アレがない、という意味……ですか?」

「なにを今さら聞いているの、ポール。わたくしたちが夫婦の寝室を使っていないことを、あなたが知らないわけないでしょ?」

 わたくしたち夫婦の寝室は、使われなくなって久しいのです。埃避けの布で覆われている家具がもの哀しさを表現している状態。
 そんな状態を家令であるポールが知らないわけはありません。
 王宮でのお仕事や領地経営のことならすべてを把握していなくとも致し方ないでしょう。ですが屋敷内で起こっていること、それも主人の動向を知らないで仕事なんてできませんわ。

「いや、ですが、あの……奥さまの寝室もありますのに?」

 そりゃあ、わたくしの私室のベッドもそれなりに広いですけど。

「旦那さまはわたくしの部屋になど来たことありませんよ?」

「はあ?!?! そんなはずありませんっ!!!」

 血相を変え大きな声を出したポール。
 どういうこと?

「私は奥さまの寝室から出てくる閣下を何度もお見受けしておりますっ!」

「え?」

 ポールは血相を変えたまま、旦那さまに詰め寄りました。

「どういうことですか、閣下! 私はてっきり、夫婦の時間は奥さまの寝室で取っていると思っていましたよ?!」



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