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本編

24.宴

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 ひとしきり本邸宅内厨房の使用人の皆さまに大騒ぎを提供した後(お騒がせ申し訳ありません)、私はハンナによって連れ出され、入浴、お着換えを済ませました。因みに旦那さまは、精霊王さまが早々に床に下ろしてしまったので、ギルベルトがまたしても足首をむんずっと掴んで引きずって連れていかれました……ホント、旦那さまの扱いって、…むにゃむにゃむにゃ。

 夕闇が押し迫った頃、私の誕生日を祝って、宴を開いて貰えるとのこと! なんて勿体なくもありがたいお話でしょう!
 出席してくれるのはお義父さま、お義母さま、旦那さまの弟である、シュテファンさまとカミルさま。そしてそして! 私の2番目の兄である、セドリック兄さまです。わざわざ私の為に来て下さいました! ……というか、本来ならセドリック兄さまが私の婚礼に親族代表として出席して下さる予定だったのよね。

 そもそも、私たちの婚姻式の日取りは、急遽決定したのです。アウラード我が家側から、そろそろ婚姻式の日取りを決定しませんか、とお伺いのを出したら、その返事は“可及的速やかにアリス嬢との婚姻式を行います”という(これ、緊急事態の時に使うモノなのです)で届けられた決定事項のお返事。○○日という指定日は、僅か2週間後。辺境伯家という上位からの決定事項に、私は慌てて馬車に飛び乗ったのですよ? なんせ、王都からこの地まで馬車で10日掛かりますからね! いえ、婚約期間は3年あったので私のお仕度はほぼ済んでいたのは幸いでした。けれど、私の家族の予定まで考慮されなかった急な婚姻式の為、アウラード我が家側ではてんやわんやの大騒ぎでしたよ。騎士団や魔法騎士団にお勤めの他の兄たちは、お休みを取るのに半年以上前に申請しなければならない為に断念。姉は臨月の妊婦で我が家に里帰り中。当然、長距離移動は無理。母はその姉の付き添いで身動き取れず、父は丁度ぎっくり腰をやっちゃってました。あれは動かせません。そして幼い弟妹だけでの片道10日の旅路はとても許可できず。次期当主として家督を継ぐ為の修行中だった次兄は(他の兄弟に比べて)自由時間をとれるから出席可能だと、当初は思われていたのだけど、急な商談が入ってしまってこれまた欠席に。

 この婚姻式を急に挙げる事になった理由ですが。
アウラード我が家から、そろそろ婚姻式の日取りを決定しませんか、というお手紙を受け取ったフィーニス側では、当の本人が6か月以上魔の森から帰還しない、なんて状態だったそうで、お義母さまがキレたのだとか。
“可及的速やかに、嫁ちゃんを迎え入れましょう! 息子イザークには精霊王さまを通して帰還を促しましょう! えぇ、不意打ちだろうと構いはしませんっ!”とお義母さまが急遽、決定してしまったそうで。(その辺の事情は旦那さまが逐電していた2週間の間に聞きました。お義母さま、私に泣いて謝られてましたものねぇ)……だからこそ、馬車から降りてすぐ旦那さまに対面、からすぐの婚姻式と披露宴、という怒涛の強行突破スケジュールになったのですから、ねぇ……いけない、遠い目をしてしまうわ。

 まぁ、そんなこんなで慌ただしく婚姻式を挙げてしまったのだけど、当初出席予定だった次兄のセドリック兄さまと今日会えるなんて、嬉しいです!

……ところで、6か月も魔の森から帰らなかったなんて、旦那さまはいったい何をなさっていたのでしょう? スタンピードそのものは、だいぶ前に収束したと伺っていたのですが。居残りの宿題でもあったのかしら。


「アリス! 久しぶりだ、元気そうで良かった」

 私が支度を整えて応接間へ行くと、セドリック兄さまが立ち上がって出迎えてくれました。この兄は私と同じ色彩を持っているので、なんとなく自分を見ている気分になります。私よりちょっとだけ背が高い、中肉中背といった体型は、フィーニス的には貧弱と分類されるかもしれません。
 剣も魔法も才が無いと早々に見切りをつけ、自分はアウラードを継ぐと宣言した兄は努力型の秀才だと思います。そして商才もあった為に、父の興した商会の会頭も務めています。ちなみに、23歳独身です。誰か良い人いないかしら。

「私は元気よ! セディ兄さまもお元気そう! みんなは元気? お姉さまの出産は済みました?」

 抱擁しながら問い掛ければ、お姉さまは3人目の出産を無事成し遂げたとの事。3番目はお姫様だとか! 姪は初めてです! 早く会いたいけど、会える日は最短でいつになるのかしら。

 久方ぶりの兄との会話を楽しんでいたら、部屋の扉がノックされて旦那さまが入室してきました。
私と同じ色彩の兄を見て、ちょっとびっくりしているみたい。

「初めまして。イザーク・ヴァルクです」

「初めまして。二番目の兄のセドリックです。セドリック・ケイレブ・アウラードと申します。以後、お見知り置きを。いやあ、それにしても、まさかあのフィーニスの英雄が義弟になるなんて! 感激ですよ!」

……夫と兄が普通に握手して挨拶を交わす姿を目にするのは感慨深いです。

 この次兄は如才が無い、というか口が巧い、というか。にこにこと笑顔で相手の懐にすっと入り込むという特技を持っています。初対面の人こそ、商談のチャンスだ! と言って憚らない人なので。案の定(?)旦那さまとも普通に会話しています。

 というか、旦那さま、普通に会話出来るのですね……旦那さま本人から口下手だと、そしてピアからも会話をしない人だと聞いてたから、なんだか意外だわぁ……
 いけない、いけない。旦那さまは討伐連合軍総指揮官を務められるお人でした! つい、虐げられているお姿ばかり目についてしまってたけど、本当は凄い人なのでした! そうよね、私もお会いする迄は……

「奥様。大広間に皆さま、お揃いになられました。ご移動をお願いいたします」

 ハンナに促されて場所移動です。旦那さまがすかさずエスコートの為に手を差し出してくれます。……なんとも面映ゆいですが、嬉しいものです。

  大広間では、お義父さま、お義母さま、旦那さまの弟である、シュテファンさまとカミルさまがお待ちでした。皆様に笑顔で出迎えて貰えるなんて、私は幸せ者です!
その場で兄を紹介したら、皆さま口々に私と似ていると好評でした…………順番としては、私兄に似ているのですがね。

 堅苦しくならないように、と立食形式にしてくれた宴は、お部屋の中央に色とりどりに盛られたお料理の数々がありました! お肉料理が中心ですが、私がここに来てから美味しいと言った甘味も、沢山用意されていました。それを自由に好きなだけ取り分けて食べていいのだとか! 堅苦しいマナーとか気にしなくていいなんて気楽だし、素敵ですねぇ。

 立食のままでは疲れてしまうだろうからって、ゆったり座れる長椅子やソファも用意されて、なんだか自由な宴です。これもフィーニスの流儀なのかもしれません。堅苦しい決まり事が少ない、とても自由で居心地が良い時間です。
 私は長椅子に座り、旦那さまが私の隣に座ってあれこれハンナたちに指示しています。座っているだけで、お皿に少しづつ盛られたご馳走がサイドテーブルに来るし、ちょっと喉が渇いたなぁと思えば果実水からワインまで、少しづつ揃って。私は好きな物を選ぶだけ。なんとまぁ、贅沢なことです。

 屋敷内の使用人たちも代わる代わる訪れては、私にお祝いの言葉をくれます。彼らもフィーニスの一員なのですね。さっき厨房に出現した時に驚かせてしまった料理長と目が合うと、彼はにかっとおひさまのような笑顔で私を見てくれました。使用人の皆が一緒に笑顔でお料理を取って食べているのを見ると、なんだか私もとても嬉しくなります。

 その中でピアがこっそりと「お兄さま、よく似てらっしゃいますねぇ! お二人とも、とても可愛いです」と言ってました。良い笑顔だったので、悪気が無かったと思いますが、私的には兄に聞かせたくない言葉です。そして私、気が付きましたよ! 兄もそんなに背が高くないのです。(私よりは高いけど) この辺境の地では“大きく、筋骨隆々な男らしい男”がモテるのです! その範疇に無い、細くて小さい兄は“可愛い”に分類されてしまうのだと! 確かに甥っ子が生まれた時、『小さい! 可愛い!』と思いましたもの。小さい事はつまり、可愛いという事なのです。その証拠(?)にカミルさまから“可愛い”を連呼されている我が兄。複雑な顔をしていますが、堪えて!! カミルさまに悪気は一切無いと伝えておいた方がいいかもしれません。カミルさまから解放させる為に、兄に話しかけましょう。

「あぁ、そう言えば、兄さま。ナスルのお祖母様がこの地で崇拝されてるって、兄さまはご存じでしたか?」

「え? 本当に? そりゃあ、強い人だったらしいけど、崇拝?」

やはり兄さまも初耳らしいですね。びっくりした顔をしてます。

「はい。なんでも“魔戦場のミハエラ”という二つ名をお持ちなのだとか……」

 そう言いながらお義父さまに視線を向ければ、話題はミハエラお祖母さまの事に移りました。その昔、(実に前回の大規模スタンピードの時だとか。約45年前のお話ですって!)お義父さまのお父様が目撃した実際の話として、魔物に囲まれた状態で結界を張り、悠々と昼寝をしていた若き日のミハエラお祖母さまの雄姿を伺いました。

「へぇぇ……そんな逸話を持った人だったとは、知らなかったなぁ……」

お兄さまも感心(半分呆れ)したみたい。

「ですよねぇ! 私もここに来てから知りましたもの。身近過ぎると意外と知らない事もあるのですねぇ」

「お前がモテてたのも、俺、知らなかったぞ」

は?
いきなり、何を言い出すのですか? セドリック兄さま?

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