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第二章
前兆
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「……陛下が、俺の身柄を拘束しようと躍起になってる?」
ディブロはロドスと対面に座り、その間に立つニーシャから信じられない報告を受ける。
先の戦争こそ終息したものの、国王率いる一派はまだ諦めておらず、アングラウス王国へ反攻作戦を企てようとしていた。
その中でも王子がご執心の男の身柄を押さえれば、どうとでもできると本気で信じているという。
妄執じみた言動に追随する者もいるが、その他の兵士や重鎮たちは王を見限り始めているというのだ。
「貴方を囚えて殿下との交渉材料にするつもりのようです。 番い云々については把握していないと思います」
「それは、関係するのか?」
「もちろんですよ。 ディブロさん、番いというのは一人しかいないんです、一人生において他にいない、だからこそ獣人は番いと出会うとその人を渇望するんです」
「……そういうものなのか」
「ええっ、だから私としては貴方を強奪しようとする不届き者共を生かしておくつもりはないですね。 ニーシャ、それで見逃していた王族の返答は?」
「無条件でこちらの条件を呑むと確約してもらっていますが、反故にするようなら殲滅しろと根草たちに命じています」
「よほどのことがない限りは問題ないはずだが、少し厄介な状況だな……」
隙あらば反撃しようとするのは納得できる部分もあるが、そこになぜ自分がいるのかとディブロは疑問で仕方がない。
ニーシャの番いは人生で代わりの効かないものと説明されても、現実感というものが希薄だった。
迎え撃つ気満々でいるロドスの顔は余裕を感じさせるも、どこか影を落とした部分もあり、それがとても気になった。
「何か杞憂なことでもあるのか?」
「色々とありますよ。 まぁ確実に言えるのは……、どれくらい潜伏していると思う?」
「城下はさほどでもないでしょう、曲がりなりにも結界は張られていますし、不用意に侵入すれば兵士たちに気づかれますからね」
「……いるな」
「ええっ、認めたくないですが、間違いなく」
自国が再び侵攻してくる、しかも自分を標的としているのなら被害は桁違いに大きくなる可能性もあるだろう。
ニーシャの報告だけでも、王が正気を保っていないのはディブロにも分かるが、それを含めても主従の顔が険しすぎた。
まるで他にも問題があるような言い回しだと勘繰っていると、表情を読み取ったようにロドスは答える。
「何を話しているのか、と思っているでしょうね。 端的にいえば、他勢力もまた貴方の身柄を拘束しようと蠢いているんですよ」
「……はっ? な、何でだよ?」
「貴方がイングリットの後継者だからです。 かつて紺碧の魔女と畏れられ、聖女としても崇められたアリーシャ殿に並ぶ、器の持ち主なのですから」
「色々やりたい放題できますよね、今なら。 言葉にするのも憚られるような、非人道的な実験の数々を……」
厳しい顔つきで、名指しされるように自らの状況が危ういと伝えられ、ディブロは理解が及ばない。
祖母の名もそうだが、身に覚えのないことを言われるのもあるが、そこまでの危険が迫っているとはとても現実的ではなかった。
ただ狼と猫の顔は至って真剣であり、嘘偽り冗談を宣わっているわけではないのが分かる。
「……待ってくれ、訳がわからない。 後継者って、家は兄貴が継ぐはずだぞ?」
「形だけですよ、技術と知識は既に貴方へ引き継がれています。 アリーシャ様が身罷られた瞬間から、貴方がイングリットのすべてを継承しているんです」
「ど、どういうことだよ!?」
「すみません、これ以上詳しく話す時間が惜しいのも事実。 終わったらきちんとお話するので、今は目先の事態解決のため、協力してもらいますよ?」
「……あとでちゃんと話してくれよ」
「もちろん。 ニーシャ、しばらくディブロさんの護衛を頼む」
「殿下の護衛はどうされるのです?」
「ラウジットに任せるつもりだ」
「…………」
「……そんな顔するな、あれならお前の方から言い含めておいてくれていいから」
自分はすでに絶縁している身のはず、そう訴えどもロドスの真っ直ぐな瞳がそれらを全てかき消してしまう。
身の危険に加えて、自身の周りに何が起こっているのか、把握できなくなったディブロは問いかけるも、指摘されて思わず言葉を引っ込めた。
もし本当に敵対勢力が来るならば警戒態勢へ移行しなければならない、それをよく知っているので一旦話を打ち止める。
ロドスとニーシャが話す様子を椅子から立ち上がり、静かに眺める男へ決着したように狼が近づいてきた。
「まだ話すべきことは山ほどありますが、必ず続きはお伝えするので」
「俺に、できることはあるか……?」
「残念ですが、今の貴方では足手まといです。 なので、私の帰りを待っていただけたらと」
「……!? ちょっおいっ……!?」
「安心してください、私は必ず貴方を守り、そして貴方の元へ戻りますから……」
協力も厭わないとするディブロの申し出に、ロドスは力が及ばないと告げてきたので、歯がゆさを覚える。
ただそれには及びないと、そっと手を掴まれると甲へ狼のマズルが軽く触れ、口を開いて薬指へ甘く噛み付いた。
痛みはないものの、ものすごく恥ずかしいことをされたと思い、真っ赤になる男を愛しく見つめるアングラウムの王子が身を翻す。
悠然と歩いて部屋を出ていく様は、誰も彼もを魅了する王者の振る舞いを彷彿とさせた。
見送り部屋から遠ざかる気配を感じながら、残された従者が惚ける男へ顔を向ける。
「ほらっ、だからメス犬だって言ったんですよ」
「なっ!? その言い方はやめてくれ……!」
「あーあっ、たった一晩でどれだけ調教されたんです? すっかり、雌の顔を浮かべちゃって……、股が緩すぎません?」
「おい、そろそろ怒ってもいいかな……?」
呆れて物が言えないと、ニーシャは取り込まれた男へ哀れみの視線を向ける。
そんなことはないと慌てふためくディブロの姿に説得力はなく、毒舌な猫にすれば格好の獲物だった。
自分はそんなふしだらじゃないと、別の意味で顔を赤くする男は必死に喰らいつこうとする。
結果は、完膚なきまでに敗北してしまうのだった。
ディブロはロドスと対面に座り、その間に立つニーシャから信じられない報告を受ける。
先の戦争こそ終息したものの、国王率いる一派はまだ諦めておらず、アングラウス王国へ反攻作戦を企てようとしていた。
その中でも王子がご執心の男の身柄を押さえれば、どうとでもできると本気で信じているという。
妄執じみた言動に追随する者もいるが、その他の兵士や重鎮たちは王を見限り始めているというのだ。
「貴方を囚えて殿下との交渉材料にするつもりのようです。 番い云々については把握していないと思います」
「それは、関係するのか?」
「もちろんですよ。 ディブロさん、番いというのは一人しかいないんです、一人生において他にいない、だからこそ獣人は番いと出会うとその人を渇望するんです」
「……そういうものなのか」
「ええっ、だから私としては貴方を強奪しようとする不届き者共を生かしておくつもりはないですね。 ニーシャ、それで見逃していた王族の返答は?」
「無条件でこちらの条件を呑むと確約してもらっていますが、反故にするようなら殲滅しろと根草たちに命じています」
「よほどのことがない限りは問題ないはずだが、少し厄介な状況だな……」
隙あらば反撃しようとするのは納得できる部分もあるが、そこになぜ自分がいるのかとディブロは疑問で仕方がない。
ニーシャの番いは人生で代わりの効かないものと説明されても、現実感というものが希薄だった。
迎え撃つ気満々でいるロドスの顔は余裕を感じさせるも、どこか影を落とした部分もあり、それがとても気になった。
「何か杞憂なことでもあるのか?」
「色々とありますよ。 まぁ確実に言えるのは……、どれくらい潜伏していると思う?」
「城下はさほどでもないでしょう、曲がりなりにも結界は張られていますし、不用意に侵入すれば兵士たちに気づかれますからね」
「……いるな」
「ええっ、認めたくないですが、間違いなく」
自国が再び侵攻してくる、しかも自分を標的としているのなら被害は桁違いに大きくなる可能性もあるだろう。
ニーシャの報告だけでも、王が正気を保っていないのはディブロにも分かるが、それを含めても主従の顔が険しすぎた。
まるで他にも問題があるような言い回しだと勘繰っていると、表情を読み取ったようにロドスは答える。
「何を話しているのか、と思っているでしょうね。 端的にいえば、他勢力もまた貴方の身柄を拘束しようと蠢いているんですよ」
「……はっ? な、何でだよ?」
「貴方がイングリットの後継者だからです。 かつて紺碧の魔女と畏れられ、聖女としても崇められたアリーシャ殿に並ぶ、器の持ち主なのですから」
「色々やりたい放題できますよね、今なら。 言葉にするのも憚られるような、非人道的な実験の数々を……」
厳しい顔つきで、名指しされるように自らの状況が危ういと伝えられ、ディブロは理解が及ばない。
祖母の名もそうだが、身に覚えのないことを言われるのもあるが、そこまでの危険が迫っているとはとても現実的ではなかった。
ただ狼と猫の顔は至って真剣であり、嘘偽り冗談を宣わっているわけではないのが分かる。
「……待ってくれ、訳がわからない。 後継者って、家は兄貴が継ぐはずだぞ?」
「形だけですよ、技術と知識は既に貴方へ引き継がれています。 アリーシャ様が身罷られた瞬間から、貴方がイングリットのすべてを継承しているんです」
「ど、どういうことだよ!?」
「すみません、これ以上詳しく話す時間が惜しいのも事実。 終わったらきちんとお話するので、今は目先の事態解決のため、協力してもらいますよ?」
「……あとでちゃんと話してくれよ」
「もちろん。 ニーシャ、しばらくディブロさんの護衛を頼む」
「殿下の護衛はどうされるのです?」
「ラウジットに任せるつもりだ」
「…………」
「……そんな顔するな、あれならお前の方から言い含めておいてくれていいから」
自分はすでに絶縁している身のはず、そう訴えどもロドスの真っ直ぐな瞳がそれらを全てかき消してしまう。
身の危険に加えて、自身の周りに何が起こっているのか、把握できなくなったディブロは問いかけるも、指摘されて思わず言葉を引っ込めた。
もし本当に敵対勢力が来るならば警戒態勢へ移行しなければならない、それをよく知っているので一旦話を打ち止める。
ロドスとニーシャが話す様子を椅子から立ち上がり、静かに眺める男へ決着したように狼が近づいてきた。
「まだ話すべきことは山ほどありますが、必ず続きはお伝えするので」
「俺に、できることはあるか……?」
「残念ですが、今の貴方では足手まといです。 なので、私の帰りを待っていただけたらと」
「……!? ちょっおいっ……!?」
「安心してください、私は必ず貴方を守り、そして貴方の元へ戻りますから……」
協力も厭わないとするディブロの申し出に、ロドスは力が及ばないと告げてきたので、歯がゆさを覚える。
ただそれには及びないと、そっと手を掴まれると甲へ狼のマズルが軽く触れ、口を開いて薬指へ甘く噛み付いた。
痛みはないものの、ものすごく恥ずかしいことをされたと思い、真っ赤になる男を愛しく見つめるアングラウムの王子が身を翻す。
悠然と歩いて部屋を出ていく様は、誰も彼もを魅了する王者の振る舞いを彷彿とさせた。
見送り部屋から遠ざかる気配を感じながら、残された従者が惚ける男へ顔を向ける。
「ほらっ、だからメス犬だって言ったんですよ」
「なっ!? その言い方はやめてくれ……!」
「あーあっ、たった一晩でどれだけ調教されたんです? すっかり、雌の顔を浮かべちゃって……、股が緩すぎません?」
「おい、そろそろ怒ってもいいかな……?」
呆れて物が言えないと、ニーシャは取り込まれた男へ哀れみの視線を向ける。
そんなことはないと慌てふためくディブロの姿に説得力はなく、毒舌な猫にすれば格好の獲物だった。
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結果は、完膚なきまでに敗北してしまうのだった。
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