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第二章

闖入者登場!

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 国土っていうのは、いろんな意味合いがあるけれど、我が国でいえば、ママが張ってくれた結界、その中を意味する。
 微妙だけど、まあ、取りあえずそういうことにする。

 家の方に歩いていく。

 家を取り囲むように、小石が並んでいるのが見える。

 その小石は結界石だ。

 良く目を凝らすと、それら小石と小石の間は白色の魔力の線で繋がれている。
 円を結ぶ事で抗力を発揮するそれは、地面から円柱型の結界を発動させる。
 高さはママがジャンプして教えてくれた。
 前世で言う三十階建てビルぐらいかな?
 よく分からないけど。
 結構高いので、時々、魔鳥とかが結界にぶつかり落ちてきた。
 下のお兄ちゃんが喜んで食べてた。

 石と石との間が広がりすぎると結界力が弱まったり、完全に解けてしまう。
 逆に言えば、円さえ結べばそれなりの広さを結界で張る事は出来る。
 ママが言うには、助走付けての跳躍をせいぜい五、六回繰り返したぐらいだとのことだ。

 ……。

 ママって、一つの跳躍で結構な高さの山を飛び越えるような気がするけど……。
 まあ、取りあえず生活圏だけ囲めるって方向で良いかな?
 正直、ここら辺の魔獣や獣は子供でもやっつけられる程度だしね。
 気をつけるとしたら留守中に家の物を荒らされることだ。
 一瞬で成長するとはいえ、育てた果物とかを持ってかれたくないしね。

 結界石を作るのはさほど難しくない。

 右手に魔力を集めて石を作るイメージをする。
 すると、わたしの手が白く輝き、手を広げると小さい石が出来る。

 これが、結界石だ。

 後は他の石の隣に並べるだけで良い。
 そしたら、勝手につながるのだ。
 並べられている結界石を摘まむと、石と石の間の魔力の線が青白い光に変わる。
 それを、外に向かって引くと、他の石も紐でつながれているように引っ張られる。
 これ以上広がりそうにない場合は、石と石との間に、作ったばかりの結界石を置く。
 そうすると、広がる幅も増える。
 そんな所だ。
 この作業、地味に神経を使う。
 雑にやると、結界が切れてしまうのだ。
 洞窟近辺の結界を張るお手伝いをしている時に何度か、結界が切れてしまったことがある。
 だいたい、一メートルぐらいが限界のようだ。

 国境を広げる前に、幹が邪魔になるから木を伐採した理由でもある。

 因みに、わたしは簡単につまめるこの結界石だが、ママの眷属以外は触れる事が出来ない。
 もし出来るのであれば、ママと同等以上の魔力保持者という事になるらしい。
 ……何年か前に、やんちゃなドラゴンが強引に結界を崩そうとして前足が吹っ飛んでた。

 怖いねぇ~

 因みに、結界石を作るのは簡単だが、結界を張るのは難しい。
 少なくとも、わたしでは無理だ。
 今は、ママが家の地下に記された結界印があるから有効だが、これが消えたら再度張るのは出来ない。
 結界印を移動させるのも無理だ。
 そこらあたり、腰をえて教えて貰おうと思っていたのに……。
 突然飛ばされてしまった。
 せめて、予め教えてくれていたら良かったのに!
 ママの意地悪!
 それとも、結界は強力すぎるから、一人前の試験にならないと判断したのかな?
 まあ、何にしても仕方がない。
 今ある結界を広げる事から始めよう!

――

 国境を広げ、お昼を食べて一服すると、ジワリと寂しさが沸いてきた。
 家は立派だし、住むに困らないだけの物を揃えてくれたけど、家族がいない。
 たまらなくなって、外に飛び出ると
『ママぁ~!
 お兄ちゃ~ん!
 お姉ちゃぁ~ん!』
と遠吠えをしてしまった。
 ワァォ~ンと遠くまで響くものの、返事は当然無い。
 寂しい。
 家の前でウルウルしていると、何かが飛んでいるのに気づく。

 蝶々だった。

 え?
 蝶々!?

 ママの結界魔法は、通常、わたし達以外は入れない。
 物が腐ったりするから、菌などは入ってくるのだとは思う。
 だけど、魔獣や動物も、ここに進入することは出来ないのだ。
 当然、虫もである。
 なのに、目の前をひらひらと飛んでいる。
 結界を張る前にいた?
 そうなのかな?

 妙に人の目を引く蝶だった。

 前世のテレビで見たアゲハチョウ、それよりも三周りは大きく見えた。
 黒地に青柄で、どうやら昨日の薔薇が気になるようで、その辺りを旋回している。
 ……ま、いいか。
 別に害はなさそうだ。
 それに、結界は外から入ることは出来ないけど、中から出るのは出来る。
 しばらくしたら出て行くだろう。

 などと、考えていると、突然目の前に例の蝶々が現れた。

「わっ!」と思わず声を上げてしまった。
 ちょっと、突然現れるのは止めてほしい。
 だが、そんなわたしの心情など気づかないのか、気にしていないのか、その蝶々はわたしの眼前を飛び回る。
 あれ?
 この子、蝶じゃない。
 大きな羽の中央にある体が、良くある虫の造形ではなく、人間だった。
 ストレートの金髪に、白地に金刺繍の入ったジャケットとズボン、胸元にはフサフサしたシャボタイ? だっけ? そんなのを付けている。

 有り体に言えば、テンプレ的な貴公子みたいな格好をしていた。

 妖精……なのかな?

 ちっちゃくて可愛いけど、態度がちょっと偉そうで、胸を張りながら何かを言っていた。
 ただ、何言ってるか、ぜんぜん分からない。
 口をパクパクさせているだけのように見えた。
 とりあえず、分からない事を伝えるために、欧米人が良くやる肩をすくめて、手を広げるポーズをしてみた。

 頭に張り付かれたと思ったら、叩かれた。

 しかも地味に痛い。
 わたしが反射的に払うと、さらに頭に来たのか、追撃を仕掛けてくる。
「痛い!
 止めて!
 止めてってばぁ!」
 わたしは頭を振りつつそれを避ける。
 しばらくすると、疲れたのか空中で停止する。
 それでも怒りは収まらないのか、肩で息をしつつも睨まれた。

 なんなの、この子は。

 わたしが困惑していると、薔薇を指さしながら、何かを喚いている。
 だから、言葉が通じないんだってば!
 わたしは人間の言葉、フェンリルの言葉でそれを伝えた。
 何故か、片言の外国人みたいに「わたしはぁ~あなたぁのぉ~こ~とばぁ~わかりませぇ~ん」みたいになってしまった。
 ついでに、日本語も試そうと思ったが……しっかり出てこず、上手くいかなかった。
 まあ、いいけど、ちょっと寂しかった。
 わたしが一生懸命に身振り手振りしたので、妖精も何とか察したのか、頷いて見せた。
 そして、わたしの袖を掴むと、薔薇の方に連れて行く。

 あ~なるほど。
 この薔薇が欲しいのね。

 正直、特に薔薇を必要としていなかった。
 そこまで、美味しそうには思えないしね。
 それに、蟻とのやりとりを思いだし、ひょっとしたら何か別の物と交換してくれるかもと打算もあった。
 だから、「いいよ、持って行っても」と言いつつ、薔薇の茎を摘んだ。
 棘に注意しつつ、折ろうとした瞬間、妖精にその手を叩かれた。
「痛ッ!」と声を漏らし右手を見ると、赤くなっていた。
 流石に頭に来て吠えた。
『何するのよぉ!』
 ワォォォン! と吠えると、手を振るった。
 右手を振るって、妖精を叩き落とそうとするも、スルリとかわされた。
 ムカつく!
 わたしだって、フェンリルの娘、やられっぱなしじゃないんだから!
 腰を落とし、うなり声を上げながら、歯茎を見せつつ威嚇した。
 わたしの怒りに気づいたのか、妖精は慌てて手を振りながら何かを言っている。
 だが、何を言っているのか分からない。
 っていうか、もういい!
『帰れ!
 帰れ!』
 わたしが妖精の前で両手を何度も振り下ろすと、上の方に逃げながら何かを言っている。
 だが、わたしが飛び上がるためにしゃがむと、思いの外早い速度で外に逃げていった。
 いったい何なのあいつは!
 わたしは怒りを乗せた遠吠えを一つ、上げた。
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