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第六章

パンを作ろう!

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 温かぁ~い!

 ママのモフモフの体にしがみつき、思う。
『小さい娘、小さい娘はお寝坊さんね』
と聞こえてきたけど、気にしない。
 だって、ママったらこんなに柔らかくて、温かくて気持ちが良いんだもの。
 ずっと抱きしめていたくなったって、仕方が無い。
 目を閉じ、ママのモフモフ毛皮に顔を沈める。
 モフモフ、モフモフ……。
 モヨモヨ……。
 あれ?
 なんかちょっと違う?

 目を開くと、何か大きくて柔らかな谷間が見えた。
 へ?
 すると、頭上から声が聞こえてくる。
「サリーちゃん、おはよう」
 視線を向けると、ニコニコ顔のヴェロニカお母さんがこちらを見ていた。
「いいのよ、サリーちゃん。
 ここではわたくしがお母様代わりになってあげる」
 へ?
 状態を確認する。
 わたし、なんかヴェロニカお母さんに抱きついていた。
 ヴェロニカお母さんも優しく抱き寄せて来ているので、抱き合う形だ。
「ひゃぁぁぁ!」
 慌てて、離れると転がる。

 恥ずかしい!
 恥ずかしい!
 恥ずかしい!

 顔が火照ってしょうが無い!
 小説などで良くある、友人のお母さんをママ呼ばわりするとか、学校の先生をお母さんと呼ぶとか、そのレベル――いや、それ以上の恥ずかしさだ!
「ああああああ!」
 何て苦悩をしていると、「どうしたの?」という心配そうな声が聞こえてきた。
 視線を向けると寝間着のままのイメルダちゃんだった。
 ケルちゃん達もなんだなんだという風にこちらを見ていた。
 そんなわたしの妹ちゃん的女の子に、ヴェロニカお母さんは楽しそうな顔で「サリーちゃんは可愛いってだけのことよ」などと言っている。

 や~め~て~!

 顔を洗ったり、シャーロットちゃんの着替えのお手伝いをしたり、ケルちゃんをワシャワシャしたりする。
 赤鶏さんの様子を確認しつつ、大麦を与えた。
 そして、朝ご飯を作る。

 ご飯と言っても、簡単なスープと昨晩に引き続き、町で買ったパンを用意するだけだ。

 ケルちゃんには弱クマさんのお肉を焼いて、町で売ってた木製の器に乗せ、三首それぞれの前に置いてあげて完了だ。
 え?
 ああ、水ね。
 はいはい。
 白いモクモクで出した水を同型の器に入れて置いてあげる。
 そうこうしている内に、スープがしっかり煮込めた様子だったので、スープ皿によそい並べる。

「ご飯出来たよぉ~」と皆を集合させる。

 席に着くと、皆が食前のお祈りを始めるので、終わるのを待つ。
 ふむ、ママ用のお祈りを作るのに参考になる。
 お祈りが終わったので、手を合わせて「頂きます!」をする。
 わたしだけかと思ったら、シャーロットちゃんもしてくれた。
 可愛い!
 ニッコリ微笑み合った。
「じゃあ、わたくしも」とヴェロニカお母さんもしてくれる!
 ……。
 イメルダちゃんを見ると、なにやら恥ずかしそうにするも「……頂きます」をしてくれた!
 抱きしめたくなるほど、可愛い!

 実際やったら怒られるからやらないけど!

 突き動かされそうになった衝動をぐっとこらえてスープを一口――良くも悪くもない味だ。
 ただ、どのスープも似たような感じになっている気がする。
 もう少し、バリエーションを増やしたい。
 何が増えれば変えられるかなぁ。
 卵、赤鶏さんに期待だ。
 キノコ、そういえば育てようと思って忘れていた。
 トマト、味が劇的に変わるだろうから、切実に欲しい。
 そういえば、乳製品もあった。
 町に売ってないかなぁ。

 そんなことを思いつつ、パンを手に取る。

 Web小説に良くある酵母菌を使わない石のような固いパン――ってほどではないけど、堅くて、食べると口の中がモソモソする黒色のパンだ。
 あと、ちょっと酸っぱい。
 パン屋のおばちゃんに、詳しくは教えられないとかもったいぶられたけど、材料は小麦ではないとのこと。
 ライ麦かな?
 千切って、一口食べる。
 ……一日経った今、堅さがさらに増していた。
 いや、ライ麦パンはライ麦パンで、好きな人は好きなんだろうと思う。
 慣れ親しんだ人ならなおさらだろう。
 でも、前世日本人たるわたしとしては、小麦のパンが食べたい。

 そして、出来れば食パンが食べたい!

「フフフ……」
「……サリーさん、食事中に変な含み笑いをするの、やめなさい」
「……ごめんなさい」
 イメルダちゃんに怒られてしまった。
 でも、思わず笑ってしまったのもしょうがないのだ!
 なぜなら、わたしは既に、パン作りの準備が完了していたからだ!

――

 朝ご飯が終わり、その片づけを終わらせる。
 そして、オムツを含む洗い物の洗濯を白いモクモクで終わらせた。
 乾燥まであっという間に終わらせて、畳もうと思ったら、イメルダちゃんとシャーロットちゃんが手伝ってくれた。
 乾燥の熱がまだ残っていて、シャーロットちゃんが「温かいね」と嬉しそうにしていて可愛かった。
 そして、お昼の準備も手早く済ませる。
 うん、これくらいで良いかな?

 そこまで終わると、いよいよ本題――パン作りだ!

 食堂の大テーブルの上を全て片づけ、その前に仁王立ちする。
 妖精メイドのサクラちゃんが興味深げに周りを飛んでいるけど、今はそのままにする。
 シャーロットちゃんが「サリーお姉様、何をするの?」と近寄ってきたけど、少し離れているように指示をした。
 うむ、始めるか。

 まずは昨日の内に準備しておいた、小麦粉の入った袋をテーブルの上に置く。

 収穫した小麦を白いモクモクで乾燥させ、脱穀を行い、さらに乾燥させた物をゴリゴリ製粉を行い、さらに白いモクモクを網状にしてふるいに掛けた物だ。
 白いモクモクをふるい状にするのが一番大変だった。
 苦労に苦労を重ねて何とか有る程度、粉だけに選別できたんだけど、そこで気づいた。
 ふるいって、町で売ってないかな?
 町でパンが売られているのだ、普通にあるんじゃないかな?
 いやいや、それはともかくだ。

 次に瓶をテーブルに置く。
 酵母菌である。

 これも昨日の内に完成させた。
 ガラスの瓶を煮沸しゃふつ消毒して、切り分けた林檎(種とヘタは除外)と水を入れる。
 地下冷凍室に移動すると、そこで瓶を白いモクモクで包み、植物育成魔法の要領で菌を活性化させる。

 この時、種があると発芽してしまうので注意が必要だ。

 なぜ寒い所で行うかは、雑菌までも活性化させるのを防ぐためだとWeb小説には書かれていた。
 まあ、納得の理由だね。
 泡がプクプク出てきたら完成だ!
 これ、今回は一発で出来たけど、洞窟に住んでいた時は結構失敗続きで、凹んだなぁ。
 エルフのお姉さんの助力も有り、何とか完成させたけど。
 さらに、瓶に入った塩(岩塩をこれでもかってぐらい細かくした奴)、煮沸消毒したまな板を並べる。
 そして、ちらりとシャーロットちゃんに視線を向けて訊ねる。
「何を作ると思う?」
「え~なんだろう?」
 首を捻るシャーロットちゃん、可愛い!
「パンでしょう?」とゴロゴロルームから出てきたイメルダちゃんが言う。
「……何が出来るか、楽しみにしていてね」
「うん!
 楽しみ!」
「だから、パンでしょう!?」

 わたし達”二人”は微笑み合うのだった。

 左手から出した白いモクモクをボール状にする。
 その中に、小麦粉、塩、砂糖、そして、酵母を入れて混ぜる。
 右手から出した白いモクモクをカップ状にして水を張り、お湯にする。
 それをボールに入れて混ぜる。
 そして、ひたすらねる。
 まな板の上に置いてさらにねた後、ちょっと置く。

 その間、妖精メイドのサクラちゃんが入れてくれたお茶を三人で飲みながら待つ。

「しばらくすると膨らんでくるはずだから」
「え~そうなの?」
と不思議そうな顔でシャーロットちゃんはパン生地を眺めている。
 イメルダちゃんも感心したように見ている。
「パンを作る所なんて初めて見たけど、こんな風にするのね」
「いや、わたしの作り方は白いモクモクを多用するから、多分、一般的ではないと思うけど」
「まあ、そうね」
「あと、作ってるのパンとは限らないんだけど」
「じゃあ何よ」
「それは出来てからのお楽しみで!」
「いや、パンでしょう?」

 しばらく待っていると、パン生地がプックリ膨らんできた。

「わぁ~すご~い!」と興奮するシャーロットちゃんには悪いけど、「ごめんね」と言いつつ穴を開けてガスを抜く。
「あぁ~」と悲しそうな声を上げていたけど仕方がない。
 次に進まなくてはならないのだ。

 その後、あれこれやりつつ、パン生地は完成する。

 右手から白いモクモクを出して、箱状のへこみを作る。
 そこに、パン生地を入れる。
 入れる時、膨らむことを考慮してっと。
 そこから、さらに発酵させる。

 何か、二回発酵させるってWeb小説に書いてあったような気がするので一応ね。

 二回目は酵母の時と同じように植物育成魔法の要領で活性化させる。
 一回目でもそうすれば良いかもだけど、そちらは何となくじっくりやっている。
 膨らんできたら白いモクモクに包んだ状態で熱を上げ、じっくりと焼く。
 熱が出るって事で、この作業は台所で行った。
 白いモクモクで行うのだから、問題ないと思うけど、一応だ。
 ふむ、なんだか良い匂いがして来ている!
「サリーお姉様!
 凄く良い匂いがする!」
とシャーロットちゃんが鼻をスンスンさせる。
「本当に、良い匂い」
とイメルダちゃんも少しうっとりした感じに言う。
「もうそろそろ出来ると思うから……。
 ふふふ、何が出来ると思う?」
「パン!」
「いや、だからパンでしょう!」
「正解!
 流石にこの匂いで分かるかぁ~」
「匂い以前にパンだって言ってるでしょう!」
などと、何故かプリプリ怒っているイメルダちゃんの言葉を聞き流し、白いモクモクに意識を集中する。

 うむ、良い感じかな?

「ヴェロニカお母さん、こっち来ていて!」
と呼びつつ、慎重にパンの上部にある白いモクモクを消していく。
 実は、本来、型にくっつかないようにバターか植物油を塗らなくてはならないんだけど手持ちに無く、かといって手持ちの動物性油の匂いがするのはちょっとイヤだったので、油ほぼ無しで作っているのだ。
 鉄の型だとくっついて悲惨なことになるけど、白いモクモクの場合消すことが出来るので大丈夫だろうという安直な考えでやり始めたんだけど――洞窟にいる時は結構な数失敗したものだ。
 手伝ってくれたエルフのお姉さんからは「バターを探してきてあげようか?」などと言われたけど、近くで生産できないものを使うのは、今後毎朝作るのに不便だと断っていた。
 結局、底に関しては動物性油を塗ることになったけど、側面に関しては定期的にくっついている箇所を穴が空かない様に慎重に白いモクモクを消したりして調整し、ついには問題なく作ることが出来るようになったのだ!

 ……結局、パン自体が兄姉には不評で、一度限りの披露になったけど。

 それが今――再演されるのだ!
「ドヤ!」と気合いを入れつつ、大皿に乗せた直方体のパンは、表皮が美味しそうな焦げ茶色をしていて、香ばしい香りの辺りに漂わせていた。
 それを食堂中央の部屋のテーブルに運ぶと「美味しそう!」「本当に!」と皆が感嘆の声を上げてくれた。

 でも、まだ早い!
 切ってみないと成功か分からないのだ!

 白いモクモクをパン切りナイフの形に変え、耳の部分を慎重に切る。
 切った箇所から白い湯気がふわりと広がった。
「さて、お毒味を……」
と言いつつ、パクリと噛む。
「うまぁぁぁ!」
 思わず叫んじゃった!
 皮はパリッとしていて、中はふんわり柔らかくて仄かに甘い!
 前回作った時より確実に良い!
 切った分を一気に食べてしまいつくづく思う。

 幸せぇ~

「サリーお姉様! サリーお姉様!」
とシャーロットちゃんに服を引かれて我に返る。
 皆にも食べて貰わなくては!
「ちょっと待っててね!」
と断り皆の分を切っていく。
 取りあえず試食用って事で、薄く切る。
 席に座って貰い、皿の上に置いていく。

 ん?
 妖精ちゃん達が美味しいものかと集まってきたね。
 ふむふむ。

 早速口に入れたシャーロットちゃんが「美味しい!」と満面の笑みを浮かべると驚いた顔のイメルダちゃんも「本当、柔らかくてほんのり甘くて美味しいわ!」と絶賛する。
 ヴェロニカお母さんも目を丸くしながら「本当に美味しいわ!」と言ってくれる。
 良し!
 会心の反応だ!
 だが、まだ早い!
 わたしはとある瓶を取り出し、テーブルに置く。
 そして、蓋を開けるとスプーンを入れた。
「これを付けて食べてみて!」
 皆がパンに塗って、それを食べる。
「サリーお姉様!
 シャーロット、これ好き!」
「林檎のジャムね。
 甘酸っぱくってパンに合うわ!」
「本当ねぇ」
とこれも皆に大好評だ!
 これは、林檎に砂糖、町のおばちゃんに教えて貰った隠し味のオレンジを入れただけのお手軽林檎ジャムだ。
 これの出来も非常に良いと満足している。
 わたしもパンを切ってジャムを塗り、パクリと食べてみる。
 う~ん、美味しぃ~!

 ヴェロニカお母さん達にお代わりのもう一枚を配っていると、肩をツンツンと突っつかれた。
 視線を向けると妖精メイドのサクラちゃんで、その先にはいつの間にセッティングをしたのか、テーブルの上にあるミニチュアなテーブルと椅子、その上に座るニコニコ顔の妖精姫ちゃんがいた。

 ふむふむ。

 わたしはそんな妖精姫ちゃんの前で仁王立ちになる。
 そのただならぬ様子に、妖精姫ちゃんの表情が(え? 何?)という困惑に変わる。
 わたしは冷めた顔で言う。
「妖精姫ちゃん、このパンは姫ちゃん達が勝手に捨てた小麦で出来てるんだけど?」
 ギョッとした顔になった妖精姫ちゃんや周りの妖精メイドちゃん達が慌てて身振り手振り弁明する。

 え?
 違う?
 誤解?
 何が?

 妖精ちゃん達がごめんなさいというように頭を下げる。
 ……仕方が無い。
「もう二度と、勝手にものを捨てちゃ駄目だよ!」
と釘を刺し、パンやジャムを配ってあげた。
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