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第九章

共同作戦、最終日!2

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「こ、これは……」
「話には聞いていたが……。
 これほど、巨大じゃったとは……」
「それをたった”三人”で……」
 横たわる偽鹿ボス君を取り囲み、巨熊の団、火蜥蜴の団、小白鳥の団の面々が、口々になにやら言っている。
 う~ん、皆、見た目の大きさに騙されてるなぁ。
 蹴った感触で言えば、正直、鹿さん(本物)に比べて軟弱すぎるほど軟弱だった。
 余りに抵抗が無さ過ぎて、跳び蹴りをしたわたしのバランスが崩れてしまったほどだ。

 地面に転がるのは、何とか踏ん張ったけどね。

 その後、赤鷲の団の皆と、雄にターゲットを絞り倒していき、成果としては、ボスを含めて十頭――ちょっと情けない成果だけど、追い立てるのが主目的だったことだし、上々じゃないかな?
「流石、赤鷲の団ね。
 サリーちゃんも見直したんじゃないの?」
「その話はもういい!」
 小白鳥の団団長のヘルミさんが悪戯っぽく言い、赤鷲の団団長のライアンさんが嫌そうに苦笑した。

 偽鹿ボス君を含む偽鹿君は、赤鷲の団が狩った事にした。

 はじめ、ライアンさんは「流石に手柄を全て譲られるのは……」と難色を示していたけど、組合長のアーロンさんやヴェロニカお母さんに目立たないように言われたし、わたし自身も面倒ごとに巻き込まれたくなかった。
 だから、赤鷲の団に押しつけることにした。
 もちろん、お肉は良い所を優先的に頂くけどね。

 って、今はそれどころじゃなかった。

「大丈夫、痛くない?」
 擦り傷だらけの顔をゆがめながら地面に腰を下ろす、同い年冒険者のアンティ君のそばで膝を突き、顔をのぞき込む。
「こ、これくらい平気だ!」なんて言ってるけど、目が潤んでるし、やっぱり痛いんじゃないかな?
 他の冒険者の皆は、配置位置が良かったのか、怪我もなく何頭も狩れてたけど、どうやら同い年冒険者のアンティ君の所には凶暴な雌鹿さんが突っ込んできたとのことだった。
 奮戦したらしいけど、相手はかなりの強者だったらしく、吹き飛ばされてしまったと、アンティ君は悔しそうにしてた。

 そうかぁ~
 雌鹿さんにも強いのが居たんだね。

 これは完全に盲点だった。
 予定より早く逃げられ、慌ててしまったこともあり、雄にしか注意が行かなかった。
 だけど、そりゃ、雌鹿さんにだって、強いのが居てもおかしくないよね。
「ごめんね」と謝ると、「何でサリーが謝るんだ!」と怒られてしまった。
「悪いといったら、赤鷲――いいや、違う!
 強敵だったとはいえ、後れをとった俺のせいだ!」
 そして、何故か偽鹿ボス君をキッと睨み、アンティ君は続ける。
「俺はもっと強くなる!
 赤鷲のライアンさんよりも強くだ!」
 う~ん、ライアンさんよりもかぁ~
 いや、それはまあ……。

 簡単じゃないかな?

 正直、強くなりたいんであれば、もっと高い位置に目標を持った方がよいと思うけど……。
 まあ、一歩一歩、着実にってのも必要っていうしね。
「大丈夫!
 アンティ君ならライアンさんより強くなれるよ!」
とにっこり微笑んであげると、同い年冒険者のアンティ君、ちょっと驚いたようにこちらを向き、すぐに視線を逸らしながら「……おう」と言った。
 あれ?
 急にぎこちなくなったみたいだけど、どうしたんだろう?
 顔も、何か真っ赤だし。
 すると、後ろの方から声が聞こえてきた。
「あれ、天然かしら?」
「天然みたいね」
 振り向くと、小白鳥の団のクッカさんとリリヤさんがわたし達を見ながらボソボソと話していた。
「え?
 何?」
と訊ねると、何故かニヤニヤした嫌な笑みを浮かべながら、「大丈夫。サリーちゃんはそのままでいて!」などと言ってた。

 何が!?

――

 我が家に到着!
 荷車を引きつつ、結界の中に入った。
 ん?
 妖精ちゃん達がニコニコしながら飛んでくる。
 わぁ~
 お出迎えに来てくれたの?
 え?
 お土産?
 ……無いけど。

 スーッと去っていく。

 えぇ~
 あれだけ砂糖をあげたのに、その態度は無くない?
 プリプリ怒りつつ、荷車の荷物を下ろす。
 狩りの成果であるお肉の他に、早めに出来たという窓ガラスがある。
 これは、物作り妖精のおじいちゃんに渡せばいいかな?
 そう思っていると、妖精メイドのサクラちゃんが近寄ってきた。
 え?
 窓ガラスはサクラちゃんが運んでくれるの?
 大丈夫?
 あ、メイドちゃん達が集まってきた。
 これだけいれば大丈夫かな?

 ……宙を飛ぶ妖精メイドちゃん達がガラスを運ぶ絵は、シュールだった。

 う、うん。
 ありがとう……。

 お肉を持って家に入ると、イメルダちゃんがテーブルについて、何やら書かれている紙を眺めていた。
 わたしに気づくと「お帰りなさい」と言ってくれた。
「ただいまぁ~」
と声をかけつつ、台所から出てきたシルク婦人さんにお肉を渡す。
 そして、イメルダちゃんに訊ねる。
「何をしてたの?」
「冬ごもりの用意の進捗を調べていたのよ」
 おお、そうなんだ。
 あ、今気づいたんだけど、イメルダちゃんの肩の上に妖精姫ちゃんが座っていて、わたしと目が合うとにこやかに手を振ってくれた!

 可愛すぎる!

 ほんわかしながら手を振り返しつつ、イメルダちゃんに訊ねる。
「どれくらい進んでいる?」
「もう、終わりに近づいているわ。
 あとは窓ガラスがくれば――」
「あ、窓ガラスはもう、揃っているよ。
 さっき、サクラちゃんが運んでいった所」
「そうなの?
 じゃあ、後は設置するだけね」
 そう言いながら、万年筆を手に取り、紙に何やら書き込んだ。
 そして、完了したものを読み上げてくれる。
 凄い!
 わたしが気づかなかったことも、妖精ちゃん達にお願いして、終わらせてくれていた!
 流石は我がの宰相様だ!
 その事を絶賛すると、ちょっと顔を赤めながらも、ちょっと口を尖らせつつも、言う。
「何言ってるのよ!
 これぐらい誰だって出来るわよ」

 え!?
 なに、この宰相様、可愛すぎるんだけど!

「好き!」
と抱きつくと、「きゃぁ!」と悲鳴を上げつつ、ペチリと頬を叩かれてしまった。
「何で抱きつくの!」
と、顔を真っ赤に染めたイメルダちゃんに怒られてしまった。
「いや、可愛らしすぎるから……」
「そんな訳の分からない理由で抱きつかない!」
なんて、プリプリしながらお説教をされてしまったけど、えぇ~……。
 仕方がないと思うけどなぁ。
 あと、抱きついたことにより、イメルダちゃんの肩から転げ落ちた妖精姫ちゃんにも怒られてしまった。

 それはまあ……。
 ごめんなさい。

――

 食料をもう少し育てるために外に出る。
 町のこともあるしね。
 多めに作っておこう。
 あと、山羊さん達の牧草や大麦も念のために、もう少し作っておこう。
 あとは、干し肉とかベーコンも……。
 まだまだ、やることが多いなぁ。
 優先順位としては植物育成系となる。
 寒さがこれ以上厳しくなったら、必要となる魔力量がかなり多くなってしまうからだ。
 あ、でも白狼君達と狩りの約束したなぁ。
 物作り妖精のおじいちゃんとも製鉄の約束も……。

 忙しい!

 近づいてくる気配を感じ、視線を向けると蟻さん達だった。
 ん?
 結構な数いるなぁ。
 三十匹ぐらい?
 どうしたんだろう?
 蟻さん達は全員、鉱物を前足で抱えていた。
 いつもの鉄鉱石だけでなく、魔石とかキラキラした宝石っぽい石もある。

 結界のすぐそばまで来ると、それらを山積みにし始めた。
 そして、わたしに前足を振る。

 ん?
 え?
 わたしに?
 果物と交換して欲しいの?
 え?
 くれるの?

 どうやら、お世話になったお礼とのことだった。

 春が来たら、また宜しく?
 うん、そうだね。
 宜しくね!
 でも、本当に貰っていいの?
 え?
 お返しをくれるなら、断らない?

 ……蟻さんは、どこまで行っても、蟻さんだなぁ~

 仕方がないので、皆に、お気に入りっぽいスモモとリンゴを抱えられるだけ持たせてあげた。
 蟻さん達、表情は分からないけど、凄く喜んでいた。

「ひょっとして、もう、冬ごもりするの?」
 訊ねると、蟻さんはコクコクと頷いた。

 そうなんだ……。
 なんだか、寂しくなるなぁ。
「元気でね」
と手を振ると、コクコクと頷きつつ、さっさと戻っていった。

 ……いや、もうちょっと、しんみりとかさぁ~
 そういうの、無いのかなぁ~

 まあ、蟻さんにそんなものを求めても、詮無きことかもしれないけど。
 去りゆく、蟻さんの背を眺めていると、白い何かが落ちてきた。
「あ!?」

 見上げると、大きめの雪が一つ、二つと落ちてきた。

 ついに、冬が静かに、流れ込んできた。
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