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第十一章

サックサクのあれ

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 とりあえず、妖精ちゃん達の出入り口はそのままということになった。
 いつもお世話になってるからね。

 イメルダちゃんとしては「その分、冬ごもり前に砂糖などを沢山上げたでしょう」ということだったし、わたしとしても同感だったけど、まあ、手芸妖精のおばあちゃんをはじめとする皆が、こちらに来るための出入り口はどちらにしても必要だ。
 こちら側の食料を勝手に食べないように、と釘を差すにとどめた。
 イメルダちゃんも「わたくし、定期的に在庫を調べるから、勝手に食べれば分かるから!」と怯える妖精ちゃん達に一睨みをしていたから、まあ、大丈夫でしょう。

 その後、手芸妖精のおばあちゃんに解れた掛け布団を直して貰ったり、朝御飯を食べたりした。

 ご飯を食べた後、動きやすい格好に着替えて、皆で運動室にて軽く動いた。
 運動をしようと言った時は、何故そんなことをしないといけないのか訝しげにしていたイメルダちゃんをはじめとする面々だったけど、「冬ごもりの期間、動かないでいると太る」と言ったら、ヴェロニカお母さんがやる気を見せ、それに引きずられる形でイメルダちゃん、シャーロットちゃんも行うことになった。

 運動室の内周を五周歩いた。

 シャーロットちゃんと手をつなぎ、皆でおしゃべりしながら歩くの、結構楽しかった!

 その後、ラジオ体操を行う!

 まあ、ラジオ体操といっても、前世の記憶が曖昧なわたしだから、正式なものからは結構ずれてしまったと思う。
 でも良いのだ。
 要するに体を動かせれば良いのだ。
 間、フェンリル(狼)のポーズを混ぜたら、イメルダちゃんが恥ずかしがったり、シャーロットちゃんは面白がったりして、結構楽しかった。
 終わった後、「これ、定期的にするから」と宣言すると、イメルダちゃんは不満そうにしたけど、ヴェロニカお母さんには「体を動かして気持ちが良かったわ」と意外なほど好評だった。

 運動が終わり、軽いお昼として焼き芋を食べた後、文字の勉強をする。

 毎日コツコツとやっているけど、まだ始めたばかりだから、日本でいうとひらがながようやく書けたレベルか。
 でも、ヴェロニカお母さんからは「サリーちゃんは覚えが早いわ」と褒められ、俄然やる気をみなぎらせている。

 よし、やるぞぉ!
 冬ごもり期間中に、本を一冊読めるようになってやる!

 などと気合いを入れていたら、妖精姫ちゃんが飛んできた。
 そして、何かを訴えかけてくる。

 え?
 何?

 すると、ヴェロニカお母さんが言う。
「サリーちゃん、ほら、伝説の甘味を作ってくれるって言ってたじゃない」
 ……そういえば、そんなことを言っていた気がする。
 でもまあ、今度で良いんじゃない?
 なんて内心を察したのか、妖精姫ちゃんが食べたい食べたいとアピールしてくる。
 えぇ~
 仕方がないなぁ。

 昨日思いついたのは、伝説なんて仰々しい物ではないが、簡単で、結構美味しいお菓子だ。

 台所に移動して食材を探す。
 といっても、食パンと砂糖だ。
 夕飯用に取って置いたのを使うか……。
 また作ればいいし。
 なんて、呟いていると、シルク婦人さんに肩を叩かれた。

 え?
 夕飯用のパンはシルク婦人さんが作ってくれる。
 じゃあ、お願いしようかな?
 パンとまな板、そして、砂糖や菜種油の入った壷を手に取り、中央の部屋食堂に戻る。

 皿も用意して置いた方がよいかな?

 振り返ると、シルク婦人さんが皿と揚げた物を置くバット、菜箸さいばしを持ってきてくれた。

 ありがとう!

 まな板の上で白いモクモク包丁を使い、食パンの四方にある耳を切り取り、白い部分も短冊のように切っていく。
 それが終わった後、白いモクモクで鍋を作り、油を入れる。
 シルク婦人さんがそれを指さし言う。
「普通の鍋」
「え?
 ああ、普通の鍋で代わりになるかってこと?
 ……もっと丈夫なのの方がよいかな?」
 シルク婦人さんの方でも、揚げ物が作りたいってことかな?
「物作り妖精のおじいちゃんに作ってもらえるよう、お願いしておくよ」と言うと、シルク婦人さんはコクコクと頷いた。
 そうこうしている内に、油が温まってきた。
 これぐらいかな?
 油の中にパンの耳を入れる。
 バチバチいいながら揚がっていく。
 ふむふむ、良い感じだ。
 菜箸さいばしでつまみ上げると、バットの上に置く。
「何作ってるの?」
「トンカツ!?」
とイメルダちゃんやシャーロットちゃんが近寄ってくる。
「近づき過ぎちゃ駄目だよ」と注意した後、教えて上げる。
「これはトンカツではなく、おやつだよ」
「おやつ?」
 シャーロットちゃんがバットの中を覗こうとするので、見やすいように下げて上げる。
「揚げたパンに砂糖をちょっとかけたら完成するの!」
「なんだか簡単な料理ね」
とイメルダちゃんが言うけど、簡単でよいのだ。
 美味しければね。
 シルク婦人さんが近づいてきて、揚げパンを眺める。
 そして、ナイフとフォークを使い、サクサク鳴らしながら半分に切る。
「どれどれ」と言いつつ、シルク婦人さんから渡されたフォークを持つと、揚げパンをパクリとする。
「うん、サックサクで美味しい!」
 シルク婦人さんにフォークを返すと、婦人さんも同じように試食をする。
 満足できる味なのか、コクコクと頷いて見せた。
 じゃあ、ちゃっちゃと揚げていきますか。


 シルク婦人さんが入れてくれたお茶を飲みながら、揚げパンを食べる。
「サクサクしてて、甘くて美味しい!」
「本当ね」
「わたくし、香ばしいから耳の部分の方が好きかも」
 シャーロットちゃん、ヴェロニカお母さん、イメルダちゃんの感想も上々だった。
 例のテーブルの上にあるテーブルで食べる妖精姫ちゃんも満足そうに頬張っている。

 うむうむ、満足だ!

 シルク婦人さんのアイデアで用意してくれたジャムを塗ってもなかなか美味しい。
 こちらも満足だ!
 ただ、夕食分のパンを使用したので、要するに四枚分で作った。
 なので、数が少なく、妖精ちゃん達皆には行き届かなかった。
 よって、物陰から不満げな目で見てくる子などが何人もいる。

 ……ごめん、今度はもっと多く作るよ。

 そんなことを考えていると、ケルちゃんが近寄ってくる。
 え?
 ケルちゃんも食べたかった?
 ん?
 違う?
 センちゃんがなにやらわたしの袖を噛んで引っ張ろうとするので、ついて行くと、玄関だった。

 え?
 外に出たいの?
 でも、吹雪が……。

 そこで気づいた。
「あ、吹雪が止んでる!?」
 一枚目、二枚目の扉を開けて、外を見る。
 まぶしいってほどではないけど、明るく感じた。
 風がずいぶん落ち着いているし、降雪も減っている。

 うん、明日ぐらいには、止むかもしれない。

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