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第十三章

優しい人、来る!

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 白狼君(リーダー)のそばにいる、もう一頭も見たことがある。

 多分、群れの中では中心に近い子だろう。
 リーダーほどではないけど、彼らの中では大柄だ。
 いや、それはともかく、こんな吹雪きそうな時に、こんな所にいたら帰れなくなっちゃうのに……。
 いや、彼らなら大丈夫なのかな?
 よく分からないので、彼らの前に止まって訊ねてみる。
『どうしたの?
 帰らないの?』
 うぉんうぉんうぉぉん? と訊ねてみたら、背を向きつつこちらを振り向く。

 ん?
 一緒に帰ろうってこと?

 まさか、獲物が取れなかったから、帰りに期待って話なの?
 いや、二頭しかいないって事は、それはないかな?
 そんなことを考えていると、白狼君(リーダー)が少し歩き始める。
 どうやら、わたしの右手から伸ばし、木を掴んでいる白いモクモクが目当てのようで、近づくとそれに向かってジャンプする。
 なんだか、白いモクモクに背中を当てようとしているようだ。

 え?
 白いモクモクで背中を掴む?
 ひょっとして、犬ぞりみたいにわたしを引っ張ってくれるって事なの?
 え?
 大丈夫?

 あ、でも、ソリも無い、荷物もほとんどない、ほぼわたし一人分のを引っ張るだけだから、余裕かな?

 確かに、今の状態で進むより、彼らに引っ張ってもらった方が早いだろう。
 少し悩んだけど、お願いすることに。
 ケルちゃんがソリに縛られている様子を思い出しながら、白いモクモクで白狼君達を掴む。

 大丈夫?
 首とか苦しくない?
 平気?

 完了すると、白狼君達が一気に駆ける。
 がくんとの衝撃後、凄い勢いで引っ張られる!
 早い!
 雪と風が体中に凄い勢いでぶつかってくる!
「わっと!」
 バラスが崩れそうになるのを何とか堪える。
 多分、雪のない平地ならわたしだってこれぐらいの速度なら出せるだろうけど、雪の上を、他力で引っ張られるのはかなり勝手が違う。
 こぶになっている部分を滑り上がり「ひゃ!」と声が出た。
 いやいやいや!
 地面に着地しないんだけど!
 なんか、タコみたいに引っ張られるまま、地面すれすれを飛んでるんだけど!
 しばらくすると、スキー板が地面に着地、跳ねる跳ねる!

 なんかこれ、無茶苦茶おもしろいんだけど!

 思わず笑顔で「やっほぉ~!」とか声に出ちゃった。
 そんな声を出したからか、さらに加速する白狼君達、凄い! ママの背中に乗っている時とは違った楽しさがある!

 水上スキーだっけ?
 気分的にはそんな感じだ。

 これ、ひょっとして、スキージャンプみたいにすると、本当にタコみたいになるのかな?
 こぶを発見して、ジャンプ――板を逆八の字にして――バランスが崩れて「わ!?」と声を漏らす。
 左足を何とか地面につけ、「わっ!? わっ!?」危ない!
 何とか踏ん張り、両足を地面につけて滑る。

 うわぁ~久しぶりにヒヤリとした!

 まあ、今世の場合、転がったとしても、怪我をすることもなかっただろうけど……。
 白狼君に”何してるの?”って呆れた顔をされるのは避けたい。
 ……いや、今こちらを見た白狼君(リーダー)、そんな顔をしてた!

 恥ずかしい!

 ん?

 何かが集団で駆ける気配を感じる。
 雲が出て薄暗いのと、雪とで見難いけど、あれは多分、白大ネズミ君だ。
 さらに増えたっぽい感じがする。
 離れるように進んでいるからか、こちらには気づいてないようだ。
 白狼君が狩って欲しがるかな?
と思ったけど、白狼君(リーダー)は一瞥しただけで、先に進んでいった。


 そんなこんなやっているうちに、平原と我ががある森の境までやってきた。
 白狼君達が減速したので、白いモクモクを外すと、Uターンしつつ平原の方に戻っていく。
 そして、一度、こちらを振り向くと「がうっ!」と一吠えすると去っていった。
 ひょっとすると、わたしに元気がないと思って気を使ってくれたのかな?

 そうじゃないにしても楽しかったから、まあ、今度また、獲物を捕ってあげないとね。

 ……凄く楽しかった。
 凄く楽しかったんだけど、白狼君を見送っていると、一つ、ため息が出る。

 そんな自分が、なんだか嫌だった。
「良し!
 家に帰ろう!」
 白いモクモクで木を掴み、引っ張り進んでいく。
 途中にある川もぴょんと飛び越え、進んでいく。

 ん?
 雪の上に、わたし以外の足跡が見えた。

 四足歩行じゃない、恐らくかんじきを履いた二足歩行だ。
 ……。
 なんか、嫌な感じがする。
 仮に、ヴェロニカお母さん達を追ってきた人だとしても、結界があるから大丈夫だとは思う。

 でも、もしもって事もある。

 急いで先に進む。

 ん?
 あれは?

 結界の中にローブを着ているらしい人影があり、妖精ちゃん達となにやら話をしているようだった。

 ……いや、そうか!
 そういうことか!

 わたしは居ても立ってもいられず、足に力を入れて、スキー板で雪を蹴る。
 人影もこちらに気づいたのか振り返り、頭から被っていたローブのフードを下ろす。
 日が落ち掛けていて、薄暗い中、銀色の長い髪がキラキラ輝いて見えた。
 わたしは結界の中に入り、優しい笑顔で両手を広げる、その人の胸に抱きついた。
「エルフのお姉さん!
 会いたかった!」
 会いたかった!
 会いたかった!
 冬なのに、優しい草の匂いが鼻をくすぐる。

 もう、よく分からず声を上げて泣いていた。

 そんなわたしを、エルフのお姉さんは優しく抱きしめてくれる。
「あらあら、わたし達の小さい娘は、相変わらず泣き虫ね」

 久しぶりのその温かな抱擁に、わたしはようやく、救われた気がした。


 どれくらい、抱きついていたのか――ようやく落ち着いてきて、頭一つ分ぐらいは高い、エルフのお姉さんの顔を見上げる。
 切れ長で、ちょっと垂れ目気味の目が、わたしを優しく見下ろしてくれていた。

 とたん、ちょっと恥ずかしくなった。

 体を少し離しつつ訊ねる。
「エルフのお姉さん、会いに来てくれたの?」
「ええ、もちろんそうよ。
 元気かしら?」
「……色々、あってちょっと落ち込んでいたけど、エルフのお姉さんに会えて、元気になった!」
「ふふふ、そう?
 後で話を聞かせて。
 ……それだけじゃなく、色々聞きたいことが有るわ」
と言いつつ、エルフのお姉さんの背後、家のその奥に鎮座する大木を見上げる。

 まあ、そうだよね!
 こんなの、家を作った時は無かったもんね。
 あ!
 それよりもだ!

「あのね!
 わたし、名前を貰ったの!
 わたし、”     ”っていうの!」
「あら、そうなのね。
 良い名前ね」
 エルフのお姉さんに褒められて、凄く嬉しい!
 そういう機会が無かったもんね。
「でも、他の人は、何故かわたしの名前を聞き取ってくれないの。
 だから、人間の町の中ではサリーって呼んで貰ってるの」
と口を尖らせると「そうなのね……」と言いつつ、少しわたしの顔を見つめる。

 ん?
 何だろう?

「人間達にはわたし達の発音は聞き取りにくいのよ」
「やっぱり、そうなの?
 そういえば、エルフのお姉さんにも名前があるんだよね?」
「ええ、わたしの名は”       ”というの。
 人間にはテュテュと呼んで貰ってるわ」
「へぇ~
 テュテュお姉さんだね」
「そうね」と言いつつ、エルフのテュテュお姉さんはわたしの目の上に、右手を被せる。

 ん?
 何だろう?

 遮られた視界、その陰に、柔らかな緑色の魔力が流れる。
 あ、泣いたから目が赤くなっていたのかな?
「ありがとう」とお礼を言うと、エルフのテュテュお姉さんはにっこり微笑みながら、わたしの頭を撫でてくれた。

 優しい!

 ほんわかしていると、左肩を叩かれる。
 視線を向けると、にこやかな顔の妖精姫ちゃんだった。
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