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第十四章

巨大な彼、登場!

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 ん?
 白いモクモク?
 ああ、白狼君(リーダー)達がまた引っ張ってくれるって事?

 ……君らに余り貸しを作りたくないんだけど。

 どうしても! って感じだったので、またお願いする。
 おお!
 またしても、ガンガン加速する。
 ……ひょっとして、遅すぎてストレスだったのかな?
 わたしだって、雪さえ無ければ君らにだって負けないんだけどね!
 なんて思っていると、遠くから澄んだ音が聞こえてくる。

 これ……。
 まさか!?

 ハリソン衛兵長が使っていた、あの笛の音だ!
 白大ネズミ君を集めるあの笛を、誰かが使っているってこと!?

 その音のする方に視線を向けて――目を瞬く。

 何か、巨大な建造物のような物体が幾つも建っていたからだ。
 ……いや、”立っていた”だ!
 わたしは息を飲む。
「あ、あれって……。
 巨象さん?」

 ママの洞窟付近に時々現れる、巨大な象だ。

 見た目は前世、インド象、そのままだ。
 灰褐色の体に長い鼻、白くて大きい牙に大きな耳……。
 だけど、致命的に違う箇所があった。

 それは、この世界の象さんは恐ろしいほど巨大という事だ。

 いや、前世の象さんだって大きいよ?
 でも、この世界の象さん、それに輪をかけて大きいのだ。
 大人になると大体、前世の五階建てのビルぐらいだ。
 中心にいる――多分、リーダーらしき象さんは、それより二回りほど大きい。

 異世界の象さんマジヤバい!
 魔獣だからだろうけど!

 あと、巨象さんには前世の象さんと違う箇所が――。

 ん?

 速度が落ちたので、白狼君(リーダー)に視線を向ける。
 ああ……。
 まあ無理も無いけど、びびっちゃってる。
 巨象に顔を向ける白い毛の背中が、震えているようだった。
 リーダーがこれだ。
 他の子なんかは逃げ出すどころか、気絶せんばかりにガクガク震えている。
 こりゃ駄目だ。
『あれは危険だから、今日の所は帰りなさい!』
 がうがうがぉ~ん! と言いつつ、リーダーともう一頭を掴んでいる白いモクモクを外そうとするも、何故か加速するものだから、しっかり掴み直してしまった。

 え!?
 何!?

 白狼君(リーダー)に視線を向けると、何やらこわばった感じながらも、こちらを向きながら、”我らは、ご主人とともに!”とでも言っているように「がぅん!」と吠えた。

 えぇ~!
 ホント、妙な所で律儀なんだよね、君たちは!

 ……いやまあ、彼らの足なら、最悪、逃げられるか。
 巨象さん、足はそこまで速くないし。

 そんな事を考えつつ、引かれるままにする。
 巨象さんらは前方左側に居るようだ。
 ぶつかるわけでは無いけど、近づいているのは確かだ。
 頭数は……結構多い。
 大人は四十頭ぐらいか?
 足下にいる小さな子供を入れると、六、いや七十頭ぐらいかな?
 先頭に立つ、巨象さんが鼻を振りながら何やらやっている。
 あれ?
 鼻の先になんか持っている?
 ……あれ、魔鳥かな?

 右後方から地を揺らす音が聞こえる。

 振り向くと、思わず顔を引きつらせた。
 雪煙を上げながら、凄まじい勢いで何かが突っ込んでくる
 あれは……白大ネズミ君!?
 うわ!?
 とんでもない大群になっている!
 十万近いんじゃないかな!?
 そんな彼らが、一斉にこちら側に向かってくる。
 こちら側と言っても、わたしの方では無い。

 巨象さんの方だ。

 あ、ひょっとしてあの鳥の鳴き声で白大ネズミ君を呼び寄せているって事!?
 何考えてるの!?

 いや、それはともかく……。

『わたし達は隠れるよ!』
 がうがうがう! と吠えつつ、白狼君(リーダー)達を掴んでいた白いモクモクを外し、スキー板に角度を付けて止まる。
 以前と同じく、しゃがむと集まってきた白狼君達ごと白いモクモクで覆う。
 そんなわたし達を無視するように――白大ネズミ君らは通り過ぎていく。

 流石、この数になると、いくら白大ネズミ君でもちょっと怖い。

 白狼君達も怖いのか、何頭かはわたしの背中にくっ付き、ガクガク震えている。
 そりゃしょうがない。
 近くを走る白大ネズミ君達の足音で、地面が少し揺れてるし。
 わたしは覆っている白いモクモクを少し調整し、のぞき穴を作る。
「うぇ~」
 思わず、声が漏れてしまった。

 巨象さん達が長い鼻を巧みに使い、白大ネズミ君を捕まえると、口に運んでいる。
 ボリボリという咀嚼が響く。
 口の周りを赤く染め、涎を垂らしながら、巨象さん達はさらに鼻を伸ばす。

 ……そう、異世界の象さんは、なんと肉食なのだ。

 いや、ひょっとしたら、前世のような普通の象さんもいるかもしれないけど……。
 今世で象さんを見たら、食べられる事を警戒しなくてはならないのだ。

 白大ネズミ君も、巨象さんの体に食いついていく。

 ただ、巨象さんの皮は厚く、白大ネズミ君の牙ではとてもじゃないけど食いちぎれない。
 ひょっとすると、子供の巨象さんならいけるかもしれないけど、大人の巨象さんがしっかり守っている。
 そして、大人の巨象さんが叩いたり踏み潰した白大ネズミ君を、子供の巨象さんが食べている。
 前世のわたしが見たら、結構なトラウマものの光景であった。
 もっとも、今世のわたしは半野生で過ごしていたから、そこまでの忌避感は無い。
 多少、気持ち悪いなぁ~と思うぐらいだ。
 うっ!
 白大ネズミ君の死臭が臭い始めてきた。
 こればっかりはちょっと、慣れないかな?

 わたしが吐き気がするような臭いに顔をしかめていると、一際大きい、例の巨象さん――恐らくリーダーがこちらをジロリと見た。

 あ、あの巨象さん(リーダー)、見た事がある!
 右の耳から顔の中央まで、古い裂傷傷が白く残っていた。
 以前、あの巨象さん(リーダー)、ママに突っかかっていった事があったんだ。
 まあ、もちろんというか、ママの右前足の一撃で吹っ飛んでいったんだけどね。
 だけど、あの巨象さん(リーダー)、恐るべきと言うか、何というか、それでもなお”生き残った”の!
 熊さんですらほぼ即死するママの一撃を食らってだ。

 まあ、もっとも、ママは一撃を食らわした後、『巨象さんあれ、の肉は不味い』と顔をしかめてたから、それで助けられた感はあるけどね。

 そんな巨象さん(リーダー)はこっちをじっと見つめた後、おもむろに、鼻で掴んでいた魔鳥を、口の中に入れた。
 ピィーピィー! 鳴いていた魔鳥の声が止む。

 それを咀嚼した次の瞬間、鼻を一振りした後、地鳴りのような鳴き声を響かせた。

 爆音の様なそれが、わたし達を囲む白いモクモクを揺らす。
 巨象さんの周りに居る大半の白大ネズミ君がバタバタ倒れ、離れていた幾らかは、とても敵わないとようやく察したのか、散り散りに逃げていく。
 その間、巨象さん(リーダー)はこちらから一切、目を離さない。
 その体格に比べて小さな目、その中の瞳から、ドロリとした殺気が漏れていた。

 なにさ!
 やるつもり!?

 わたしは周りを覆っていた白いモクモクを解除する。
 姿を現したわたしを、巨象さんはギラリと睨んでくる。
 わたしも、鋭くにらみ返した。
 ひょっとしたら、ママへの恨みをわたしで晴らそうとしているのかもしれないけど、お生憎様だ!

 わたしだって、フェンリルママの娘だ!

 巨象さんぐらいに舐められてたまるか!

 白いモクモクを両手に集める。
 拳と拳を胸の前で合わせた。
 わたしの両手に魔力のグローブが現れる。

 魔力が空気を爆ぜる音が聞こえる。
 白狼君達が慌てて、わたしから離れる気配を感じる。

 だけど、わたしの目は巨象さんを離さない。
 巨象さんも、わたしから目を離さない。

 ……。
 ……。

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