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第十四章

面倒くさくなりそうな予兆

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 ぱぉぉぉん!

 巨象さんの一頭が鳴いた。
 リーダーでない、若そうな一頭だ。
 痺れが切れたのか、一歩前に出た。
 それを、巨象さん(リーダー)が鼻で制す。
 巨象さん(リーダー)は不満そうな若そうな一頭を、額で押しながら下がらせた。
 そして、まるでわたしから興味を失ったかのように、視線を外し、失神している白大ネズミ君を鼻で拾いながら食べ始める。
 だけど、分かる。
 リーダーの意識は、こちらに向いている事を。

 ……。
 ……。

 わたしも視線を外し、白狼君達を見る。
 少し離れた所に集まり、震えている一同が見えた。
 ただ、流石というか、白狼君(リーダー)はこわばった感じながらも、一頭だけ、ややわたし側で立ち、こちらを注視していた。
 わたしが『行くよ』と言うと、もう一頭を振り向き、軽く吠えると、彼とともにわたしの元に来た。
 わたしは、白いモクモクで二頭を掴むと、白狼君は逃げるように駆け始めた。
 他の子達も、置いてかれたらたまらないという必死さで付いてくる。
 視線をチラリと巨象さんに向ける。
 白大ネズミ君を咀嚼する巨象さん(リーダー)がこちらを見ていた。

 わたしはそっと視線を外す。

巨象さんあれは不味いから、倒す必要なんて無い」
 何となく、呟いた。

――

 町の近くにある林に到着したので、白狼君達と別れる。

 途中、棘大狐とげおおきつねを見つけ、白いモクモクで捕らえてあげたから、特に不満そうにはしなかった。
 ……あの狐、めちゃくちゃ不味いんだけど、本当に良かったのかな?
 まあ、白大ネズミ君やうねり虫君を食べる白狼君彼らだから、まあ、大丈夫なのかもしれないけど。

 ここまで来る途中に思ったんだけど、毎年、巨象さんらが白大ネズミ君を食べているんだとしたらだ……。
 ハリソン衛兵長とのあの時、白大ネズミ君を全部倒していたら、かなり大変な事になっていたのではないかな?

 あれだけの量を食べていたのに、それが食べられなくなったら、ひょっとしたら、人間の町を襲っていたのかもしれない。
 あの巨象さんにとって、セルサリの町を囲う壁なんて、薄いベニヤ板ぐらいの障害にすらならないから、あっという間に壊滅していたと思う。

 無論、あの時、全滅させたとしても、さっきの量に比べて何分の一程度でしか無い。

 別の集まりが増えていき、結局、巨象さんの食料になっていたかもしれない。

 ただ……。
 賭けをするのは止めよう。

 正直、巨象さん達が一斉に町を襲ったら、わたしでは防ぎきれる自信が無い。
 わたしにだけ向かってくるならともかく、散らばったら、手の施しようが無いのだ。
 テュテュお姉さんが言っていたのは、これのことかもしれない。

 うん、生態系に影響があるような事はしない。
 そうしよう!

 そんな事を考えつつ、門に到着する。
 門番のジェームズさん達に挨拶をしつつ、中に入る。
 あ、ジェームズさんを見ても、怖くなくなった。
 弱っている頃の恐ろしい顔を見たから、健康状態の顔なら、なんともなくなったみたいだ。
 まあ、そんな事が無くても、いつかは慣れたと思うけどね。

 冒険者組合に到着したので、その戸を開ける。
 受付にいた受付嬢のハルベラさんがぱっと笑顔になり、立ち上がった。
 ……わたしは、そっと戸を閉める。
 ま、顔を出したから、良いかな?

 その場を離れようとするも、扉が凄い勢いで開き、受付嬢のハルベラさんが飛びついてきた。
「なんで、中に入らないの!」
「いや、なんか面倒な事になりそうだったから」
「面倒な事なんて無いわよ!」
 わたしは組合の中に引きずられるように連れ込まれた。

 中に入ると、凄く面倒そうな光景が広がっていた。

 小白鳥の団のお姉さん達が、何やら「ふざけんじゃないわよ!」とか怒声を上げていて、男の冒険者の人たちが何やら、宥めたりしている。
 受付嬢のハルベラさんに「どうしたの?」と訊ねるも、美人な受付嬢さんは苦笑しながら「サリーちゃんは気にしなくて良いのよ」と言いつつ、奥まで引っ張っていく。

 まあ、小白鳥のお姉さん達は別にしても、受付嬢のハルベラさんがこんなに必死になる理由も、直ぐに分かった。
 血の匂いがするからだ。

 受付カウンターの脇に怪我をした人が二十人ほどいて、組合の職員さん達に包帯とかを巻いて貰っていた。
 わたしが到着すると、皆ほっとした顔になる。
 男の職員さんが「サリーちゃん、着いて早々申し訳ないけど、治療をお願いできないかな?」と言ってきた。
 無論、問題ないので「うん」と頷く。

 一見すると、ひっかき傷が多い。

「傷は洗った?」と訊ねると「もちろんだ」と頷いてくれる。
 そこを怠ると大変な事になるんだけど、まあ、異世界だってそりゃ常識だよね。
 一番酷そうな人から、体力回復魔法プラス治療魔法の同時掛けをする。
 真っ青な顔をしたお兄さんで、意識が無く、胸に巻かれた包帯が赤黒くなっていた。
 しばらくした後、職員の人に指示をして、包帯を外して貰う。

 外された包帯から、少し血がこぼれたものの、直ぐに傷が塞がっていく。

 顔色もだんだん良くなっていくのを見て、怪我をして、ぐったりとしていた他の冒険者の皆が盛り上がる
「おお!
 やるなぁ!」
「流石は”犬耳の治療師”だ!」

 え?
 わたし、そんな呼ばれ方をしてたの!?

 これ、帽子だし、そもそも、狼の耳なんだけど!?
 だけど、そんな突っ込みをしている場合じゃないので、癒やす事に集中する。

 うん、これぐらいで大丈夫かな?

「そんな態度がイライラするのよ! 分かる!?」とかいう小白鳥の団団長のヘルミさんの声が聞こえてきたけど、今はそれどころじゃない。
 場所を移動しつつ、他の怪我人を癒やしていく。
 途中、魔力欠乏を心配されたけど、問題ないと答えておいた。
 植物育成魔法に比べて、さほど魔力を使わないから、問題ない。

「絶対わたし達を舐めてる! そうでしょう!?」「違うって言ってるだろう!」「とにかく二人とも落ち着けって!」とますます、怒鳴り声に力が入る小白鳥と他の人たちの声をBGMにしつつ、全ての怪我人を治療し終えた……。

 いや、いい加減、五月蠅いよ!

 流石に、注意しに行こうかと、体をそちらに向けた時、受付カウンターの奥から荒々しい足音が聞こえてきた。
 視線を向けると、青筋を額に浮かべた組合長のアーロンさんだった。
「やかましいわぁぁぁ!
 何をギャアギャア、言ってやがる!」
 怒気の籠もったその声に、わたしは思わず「ひゃ!」と声を漏らしてしまった。
 わたしだけでなく、小白鳥やその周りの人は勿論、他の冒険者や職員さんもビクっ! っと震えていた。

 いや、本当に怖いから!
 何か、巨象さんより怖い!

 小白鳥の団団長のヘルミさんがビクビクしながらも、言い返す。
「く、組合長、だってこいつが……」
「はぁん!?
 いつまでグダグダ言ってやがるんだ!
 そんな下らないことをやってるぐらいなら、家に帰って武器の手入れでもして来い!」
「え、でも……。
 ううう、はい……」
 小白鳥の団団長のヘルミさんも、眼光鋭いおじいちゃん組合長に睨まれて、頷くしかないようだ。

 気の強い系美人さん……。
 ちょっと泣きそうになっている。

 組合長のアーロンさんは、小白鳥の団の皆に、「さっさと帰れ!」と怒鳴り、追い出すと、視線をこちらに向けた。

 ちょっと、ビクっとしてしまったわたしを見て、おじいちゃんな組合長さんは苦笑しつつ、「サリー、手当が終わったらちょっと来てくれ!」と言った。
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