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第十六章

姉姫ちゃん?

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 そこには、裸の女の子が宙に浮かんでいた。

 始め、四方に木枠が付けられているから、水槽か何かに入れられている様に思った。
 でも、どうやら違うようだ。
 緑色の不可思議な気体が、眠っているらしき女の子の体を抱え、持ち上げているようだった。
 白いモクモクの魔力の塊に似て無くも無いが、ちょっと違う。
 エルフのテュテュお姉さんが使った精霊魔法――それに近い気がした。

 その女の子はとても綺麗な容姿をしていた。

 ふわりと揺れる緑色の長い髪はとても艶やかで、小さく整った顔によく似合っている。
 すらりとした体つきに、長い手足をしていてとてもバランスが良く見える。
 肌も、現実味が無いほど白く透き通るようで、神秘的な雰囲気を醸し出す一因になっている。
 年の頃はわたしより少し上――高校生のお姉さんぐらいかな?
 黄金色をした巨大な羽も相まって、目がそらせない美しさがあった。
 髪にしても、羽にしても、そうだが、妖精姫ちゃんとの共通点が多い。
 ひょっとしたら、姫ちゃんのお姉さんなのかも知れない。
 視線を向けると、妖精姫ちゃんは悲しげな瞳で彼女を見つめていた。

 妖精姫ちゃんがそんな顔をする理由も分かる。
 彼女の体の多くが欠損しているからだ。

 瞑った目の、右側には眼球が無いようで不自然に凹んでいた。
 左足や右腕の先も無く、その先には緑色の気体が渦巻いている
 黄金色の羽も、左側が半分切り裂かれていた。
 白い肌にも細かな切り傷が付けられていて、前世の発行物だったらエッチな描写と言うよりも、グロ系で規制が入りそうな有様だった。

 うむ、Web小説系主人公の少年にも、余りお見せできないかもしれない。
 いや、そんなことを考えている場合では無い。

 妖精姫ちゃんがわたしをここに連れてきた理由は分かる。
 彼女に回復魔法をかければ良いんだよね。
 ママならいざ知らず、正直、わたしでは部位欠損は治せない。
 それでも、傷の幾らかは癒やすことは出来るはずだ。

 そのことを姫ちゃんに熱く伝えるも、首を横に振られてしまう。

 え?
 魔力を?
 違う?
 ……ひょっとして、育てぇ~をするの?

 妖精姫ちゃんに促されるまま、姉姫ちゃん(推定)を囲う枠に、植物育成魔法を行う。
「育てぇ~!」
 よく分からないので、いつものかけ声をやりつつ、魔力を込めると、姉姫ちゃん(推定)を取り囲んでいた緑色の気体、その色が濃くなって行く!

 え?
 もっと?

 妖精姫ちゃんに促されるまま、「育てぇ~!」を繰り返す。

 お、おお!?

 姉姫ちゃん(推定)の欠損した部分が緑色に輝きながら、徐々に再生し始めてる!
 正直、どういう仕組みなのかよく分からないけど、この際どうでも良い!
 わたしはフルパワーで「育てぇ~!」を行った。
 緑色の気体が一際強く輝き、思わず目を瞑り、顔を背けてしまった。
 ただ、それも数秒の事で、気がつくと光は収まっていた。
 恐る恐る、姉姫ちゃん(推定)の方に視線を戻す。

 おおぉ~!

 姉姫ちゃん(推定)の体がすっかり癒えていた。

 失っていた左足や右腕、右眼球もしっかりそろっているのが見える。
 黄金色の左羽も欠けている箇所が戻っていて、左右が同じ大きさで大きく広がっている。
 その羽はどことなく、先ほどよりも輝いているように見えた。

 大好きなお姉さんの回復が嬉しいのか、妖精姫ちゃんがニコニコ顔で抱きついてきた。
 普段は頬ぐらいで感じていた姫ちゃんの体温を全身で感じ、なんだか無性に恥ずかしくなった。

――

 姉姫ちゃん(推定)の意識が回復するには、もう少し時間がかかるとの事で、戻ることにする。
 建物から出ると、直ぐの場所にお茶会の用意がされていた。
 どうやら、ヴェロニカお母さん達はわたしが出てくるのを待っていたらしく、カットされた葡萄が手つかずのまま、皿に置かれていた。
 わたしは急いでシャーロットちゃんの席の隣に座ると、妖精姫ちゃんもヴェロニカお母さんの隣に座り、”どうぞ”と言うように手振りをする。
 ヴェロニカお母さんが「遠慮無く頂きましょう」と言うので、まずはお茶を一口頂く。

 うん、美味しい!

 どうやら、入れてくれたのは妖精メイドのサクラちゃんの様で、ティーポットの前に立っていた。
「美味しいよ」と声をかけると、ニッコリと微笑んでくれる。

 美人でいて可愛い!

 最近、シルク婦人さんに入れて貰う機会の方が多かったけど、妖精メイドのサクラちゃんも上手なんだよね。
 しかも、ここのポットはサクラちゃんにあったサイズだけど、我が家だと妖精ちゃんがすっぽり入る大きさはある。
 それを器用に使い込んでいるのだ。
 凄いと思う!

 そんな風に、心の中で絶賛していると、隣の席からシャーロットちゃんが声をかけてくる。
「サリーお姉さま!
 葡萄、凄いよ!」
「あ、うん。
 凄く大きいね」
「うん!」
 わたしの前に置かれたのは、黒紫色の皮が取られ、黄緑色の中身だけになった一粒――それを四分の一サイズにカットされたものだ。
 ママの洞窟で食べたメロンの一個を同じく四分の一にしたサイズよりも大きかった。
 味はどんなものかな?
 ナイフとフォークで切る。
 柔らかすぎてちょっと苦戦するも、何とか一口サイズにすると、パクリとする。
「う~ん、甘酸っぱくて美味しい!」
 ヴェロニカお母さんがシルク婦人さんにさせていたという皮むき済みの葡萄、それを一気に口に入れたらこんな感じかもしれない。
 シャーロットちゃんも満足できる味なのか、「本当、美味しいねぇ~」と言いながら、パクパク食べている。
 イメルダちゃんが「一口で五、六粒分にはなりそうですね」と言い、ヴェロニカお母さんが「そう考えると、贅沢ね」と笑っていた。

 そうなると、う~ん……。

「食べ物を食べる時は、ここに来れば少ないサイズで満足が得られるって事かな?」
 わたしのげんに、イメルダちゃんは苦い顔になる。
「そうかもしれないけど、わたくし、毎回ここまで登るのは嫌よ」
 まあ、そうか。
 ヴェロニカお母さんは何か言いたそうにしたけど、母親の威厳うんぬくんぬの方が勝ったのか、それを飲み込んでいる。

 ……もう、ここ最近で既に手遅れな気もするけどなぁ。

 そこで、ふと思い出す。
「物語とかだと、こういう里に入った場合、時間の進みが早いとか、中の食べ物を口にしたら出られないとか、そう言うのがあるんだけど……」
「そういえば……」
 イメルダちゃんが顔を引きつらせ、妖精姫ちゃんに視線を向けるも、姫ちゃんは笑いながら手を振って否定する。

 そういうのはない?
 そんなのがあったら、しょっちゅう、に行っている姫ちゃんにも影響がある?
 そもそも、その葡萄はわたしが育てたもの?
 まあ、確かにその通りか。

 イメルダちゃんも安心した様子ながらも「サリーさん、脅かさないでよ」と軽く睨まれてしまった。
 いや、だって物語では良くあることだし!
 そんなことをやっていると、お爺さん達がのそのそと近寄ってきた。
 物作り妖精のおじいちゃん達だった。
 皆、葡萄を抱えながら何やら言っている。
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