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第十六章

冬籠もり明け一発目の種ガチャ!

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 すると、家の方から何かが飛んできた。
 妖精姫ちゃんだった。
 わたしが持っているゲートボールの石(仮)の元までやって来ると、ジッと凝視する。
 そして、蟻さんに向かって何かジェスチャーをする。

 え?
 もっと欲しいの?

 すると、蟻さんは前足を振りながら”これだけしかない”と手振りをする。
 妖精姫ちゃんが”また手に入ったら持ってきなさい”と言い、蟻さんが”それは保証できない”とかやっている。

 何なの?
 これ、そんなに良いものなの?
 例の大きい魔石みたいに希少なの?

 まあ、わたしでは妖精姫ちゃんの言葉は聞き取れないから、聞いても仕方が無いだろうけど。
 とりあえず、姫ちゃんが欲しがっていることは分かったので、訊ねてみる。
「交換するのはスモモで良い?
 それとも、砂糖大根てんさいの方が良いかな?」
 すると、妖精姫ちゃんとやり取りをしていた蟻さんが、前足をこちらに向けてくる。

 おっ!
 種だ!

 久しぶりの種ガチャがやって参りました!
 今回は何だろう?
 わたしは受け取った種を掌にのせて、眺めてみる。

 茶色っぽい種……。
 うん、分からん。
 残念ながらレモンでは無いようだ。
 米や大豆でも無い。
 う~ん。
「あ、タマネギだったら嬉しいんだけど……」
と言うも、蟻さんからは”そういうのは良いから、早く!”という様なジェスチャーしか帰ってこない。

 せっかちだなぁ~

 仕方が無く、足元に落とそうとして、妖精姫ちゃんに止められる。

 え?
 大木の近くに?
 何で?

 すると、「ちょっと待ちなさい!」とイメルダちゃんが慌てた様に駆けてくる。
 お供の近衛騎士妖精の白雪ちゃんもその後を飛んでいる。
 イメルダちゃんは側まで来ると、少し息を乱しながらも、強い口調で言う。
「種を植える時は、わたくしに言いなさい!」
「あ、はい」
 イメルダちゃんは、わたしの掌にある種をじっと見つめる。
「何の種かしら?
 穀物では無さそうだけど……」
 すると、妖精姫ちゃんが”大したものじゃ無い! 大木の端の方にでも植えておけば良い!”と何やら妙に力が入った身振り手振りをする。

 すると、イメルダちゃんは冷めた目を姫ちゃんに向ける。

「小麦やキャベツの種ですら捨てたあなた達が、わざわざ大木の側に育てさせるんだもの……。
 悪い物のはずが無いでしょう!」
 妖精姫ちゃん”そんなこと無いよぉ~”と言うように、視線を泳がせる。
 イメルダちゃんはそんな姫ちゃんからわたしに視線を向けると言う。
「サリーさん、これは一旦、倉庫の近くで育てましょう。
 何が育ったかを確認した後、場所を移すか検討するというので良いと思うわ」
「そうだね」
と言うわけで、わたし達は移動する。
 蟻さん達も、結界沿いを遠回りしつつ、極力近い場所に移る。

 さてさて、何が育つのかな?

 地面を少し掘ると、そこに種を落とす。
 軽く土で塞ぐと、白いモクモクをそこに被せた。
「育てぇ~!」
 モクモク育っていき――あ、これ木になるのか!
 イメルダちゃんを少し下がらせて、大きく育つ木を見守る。
 えええ?
 結構、大きくなるなぁ~

 ……え?

 いや、何というか……。
 普通の木にしか見えないんだけど。
 なんか、葉っぱが少々変わっているだけの……。
 前世の街路樹――それを一回り大きくしたみたいな木だった。

 視線を蟻さんに向ける。

 蟻さんは何やらジッと育てたばかりの木を見上げていた。
 そして、こちらに顔を向けると、顎をカチカチ鳴らしながら身振り手振りをする。

 え?
 木の実?
 え?
 ああ、スモモ?
 スモモが欲しい?
 いや、この木は?
 え?
 早く?

 えぇ~

 仕方が無いので、蟻さん達が全員前足で何とか持てるぐらい沢山の、スモモを育てて、渡してあげた。
 何やら、蟻さん、何度も首をかしげながら帰って行った。

 いや、それはわたしがしたい反応だから!

 イメルダちゃんも分からないのか、「何の木かしら?」と小首を捻りながら、それを見上げている。
「う~ん……。
 なんか、見たことあるんだよねぇ~
 あの葉の形……」
 わたしが呟くと、姫ちゃんがわたしの肩を叩きながら、呆れたように首を振る。

 え?
 だから、大したものじゃないって言った?
 そこら辺にある木と一緒だから、大木の側にって事だった?

 ……いや、姫ちゃん。
 姫ちゃんがそういえば言うほど、胡散臭いんだけど。

 そんなことを考えていると、何かが近寄ってくる気配を感じた。
 視線を向けると、結界の直ぐ外に、ごっつい甲殻に覆われているいつもの兵隊蜂さんが、羽をぶんぶんならしながらホバリングをしていた。
 何やら、わたし達が見ている木が気になるようで、前足をそちらに向けながら顎をカチカチ鳴らしている。
 何?
 なんか有るの?

 顔なじみだから、まあ、良いでしょう――と言うことで、わたしが手を差し伸べて中に入れてあげようとすると、兵隊蜂さんはわたしの腕に留まって、大人しく招かれる。
 そして、結界に入ると飛び立ち、例の木の幹にくっ付いた。

 ん?
 何してるの?
 え?
 顎で幹を囓ってる?

 すると、幹から透明な液体が漏れ出始める!?

 え?
 何?
 え?
 舐めてみれば良いの?

 兵隊蜂さんに促されるまま、液体を指ですくって舐めてみる。

 あ、甘い!
 そこまで濃くないけど……。

 そこでピンとくる。

「あ!
 これ、カエデだ!
 サトウカエデだ!」
 見たことがあるのも当然だ!
 この木の葉っぱはカナダの国旗だもん!
 イメルダちゃんが不思議そうな顔でわたしを見上げる。
「サトウカエデ?
 何なの、それ?」
「この木の樹液を煮詰めると、凄く甘くて美味しい糖液になるの」
 そう考えると、現在進行形でボトボトこぼれている樹液がもったいない。
 わたしは急いで左手から出した白いモクモクでそれを受ける。
 結構、沢山出るなぁ。
 異世界のだからか、植物育成魔法で育てたからか、それとも、元々そうなのかは分からないけど。
 そこそこ、大きめに作った白いモクモクの器を結構な速度で満たしていく。
 すると、近衛騎士妖精の黒風こくふう君が物作り妖精のおじいちゃんを連れてきてくれた。
 近衛騎士妖精の青空君達も樽とか道具とかを持ってきてくれる。

 助かります!

 物作り妖精のおじいちゃんが樹液を受け止める様に樽とかを設置しているのを横目に、イメルダちゃんがジト目をしながら妖精姫ちゃんを見る。
「妖精姫ちゃん、やっぱり知ってたんでしょう」
 姫ちゃんは身振り手振りで一生懸命、”知らなかった!”とか、”びっくりだね!”とか伝えようとしてるけど……。
 絶対知ってたでしょう!
 知ってて独占しようとしたでしょう!

 全く、なんて妖精ちゃんだ!
 まあ、それこそ、知ってたけどね!

 わたしは呆れつつも、妖精姫ちゃんに蟻さんから貰った白い玉を渡そうとする。
 でも、姫ちゃんは首を横に振った。

 え?
 これはわたしが持っていれば良い?
 いや、姫ちゃんが欲しそうだから貰ったんだけど……。

 そのように言うと、妖精姫ちゃんはわたしをじっと見つめる。
 そして、首を横に振りながらため息を付くと、わたしから白い玉を取って、飛んで言ってしまう。

 えぇ~
 それ、感じ悪いよぉ~
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