Trains-winter 冬のむこう側

白鳥みすず

文字の大きさ
2 / 12
第一章 ユキ

それは必然

しおりを挟む
近くの学校のことは知っていた。
フールスクール。週末の学校。
寂れた学校で時々、子供の笑い声がする。
まだ、何も知らない子供たちだろう。

図書館への道のり、その学校の門の前を通ることがある。
その日、私はとても泣きそうな気持ちだった。足取りも重く、必死で目に溜まっていく雫が決壊しないように瞬きすらしないように耐えていた。
夕方だった。空が淡く薄紅色に染まっている時間帯。
濃い緑の門はところどころさびれている。いつからあるかは分からない。
その門の前でぼんやりと桜を眺める学生服の男の子がいた。
4月、桜がひらひらと舞う中で桜を見上げる彼はやけに儚く見えた。
体の線が細くて、顔はブルーアッシュのような長い前髪で隠れがち。だけど風が吹いた時に見えた
瞳がとても綺麗で。何を考えているんだろうと気になった。
彼の視線は桜を見ているようで何もその瞳に映していないようにも見えた。
幻想的で、思わず息を止めてしまうような空の中で舞う桜と物思いに沈む彼は私の瞼に鮮明に焼き付いた。
その日から私は彼のことばかり考えるようになった。
彼は本を片手に持っていたから、きっと本が好きなんだろうな、とか。
あの学校の生徒なのかな、とか彼のことが知りたくなった。

図書館にわざわざ足を運ぶのは珍しかった。
電子の貸し出しが主流でわざわざ本を借りにいくなんてことが少ない。

彼は、本を借りにきていた。手にとっているものは物語が多い。
こんなこっそり遠くから見ていて、私、変な人じゃないかな。
自然なきっかけ・・・ないかな。なんて考える。
何度も図書館に足を運びつつも良い方法がないかなと思考を巡らせる。
こうしていても彼と話すことはきっと叶わない。
眺めているだけでも心躍るような存在な彼だけど、どんな声をしているんだろう。
どんな表情で話してくれるんだろう。
日に日に彼への想いは募っていくばかりだった。

このことは誰にも言えなかった。
フールスクールの生徒とはそもそも関わること自体がいいとされていない。
未来がない人間と言われているからだ。

だけど、気になってしまったんだからしょうがないじゃない。
私は踏みとどまっていた自分についに言った。

・・・きっかけ、は作る。

私は本を積み上げるように歩いていたが、盛大に彼の前でこけて
本をぶちまけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...