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第一章 ユキ
日常
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図書館に行くと僕は本を開いた。
前までは一瞬で本に集中できていたが、今はそれは不可能に近い。
でも、不思議とそれは嫌じゃなかった。
心境の変化なのか、僕がこの環境に慣れてしまったのか、もう分からない。
・・・一言で言うと周りは賑やかだ。
浅野の姿を見て顔色を変え、心は立ち上がる。
「浅野さんはどうして毎回毎回来るんですか!?」
「え-?ユキくんのお友達だから?」
「学校でも図書館でも一緒なんですよね!?」
「そうだよー仲良しだからね」
「ずるいです、私だってユキくんとだけの時間がほしいです」
「あはは、絶対やだ。そんな時間あげない」
と、浅野と心は毎度口論になっている。
・・・静かに本が読めなくなってしまった。
ここが昔の図書館だったら放り出されているレベルでうるさい。
今の図書館は閑散としていて古い。
図書館内は少し埃っぽい。紙媒体の本を好む人は減ってしまった。
季節は流れ、花火大会の日は近づいていた。
花火大会は必死の心の攻防も叶わず、三人で行くことになった。
浴衣は必須と懇願され、僕は浴衣を引っ張り出して着た。
薄暗くなり人通りも増えてきた。浅野は時間近くになるとふらっと現われた。
浴衣を着ていたが、髪色が派手なのでマッチしてるとは言いがたかった。何人か女の子に声を掛けられ、笑顔で断ることを何度もしていた。浅野は芸能人ではないかというぐらい目立つ容姿にオーラを持っている。声を掛けられるのも仕方がないと思えた。
神社の石段で待っていると彼女は現われた。心が髪を団子にして簪をさしていた。
薄い桃色の花だ。
水色の爽やかな柄の浴衣がとてもよく似合っていた。
「ユキくーん、お待たせ」
手を振って駆け寄ってくる。
「待った?」
「いや・・・そんなには。5分だけ」
僕は答えた。
「あ、心ちゃん、今日は可愛いね」
浅野が今日は、を強調して微笑む。
「・・・悪意を感じます」
心がむっとした顔をする。
「どうして?褒めてるのに素直じゃないなあ」
「心はいつも可愛い」
僕が遮ると浅野がは?と言った。
「だから、今日は、じゃない。今日もだ。」
僕は言い返した。ちゃんと訂正するべきだ。
僕は心に微笑みかけた。
心は目を見開いて僕を見ていて固まっていた。
その顔は林檎のように真っ赤だ。
「・・・心?」
僕が呼びかけると心は小さな声でありがとう、嬉しいと答えてきた。
僕は思ったことを言っただけだ。
「あーあ・・・無自覚ってどうなの、それ」
浅野がため息をついていた。
「行くよ、馬鹿なお二人さん」
浅野が僕らの手を引っ張る。
金魚すくいに射的、悔しいけど浅野がぶっちぎりで上手だった。
二人の笑い声がはじける。
お祭りも友達と来るのは初めての経験だ。
「ユキくん、下手だなあ」
網が見事に綺麗に破れた僕を見て浅野が笑う。
「浅野が異常に上手すぎるんだよ」
僕は答えた。金魚すくいのお店が潰れてしまうレベルだ。
浅野は器用に網で確実にすくっていた。
「コツを掴むと簡単なんだよ」
腕まくりし、また金魚をすくう。
心はユキくん負けないでと僕を応援していた。
「浅野さんなんかに負けないでっ」
「うわ、ひどい言いようだなあ。そう言われると完全勝利したくなるよね」
不適な笑みを浮かべ浅野は勝った。
というか僕が途中で止めた。全ての金魚をとってしまう勢いだったから。
そして浅野の横で見ていた子供たちはすげええと言って盛り上がっていた。
浅野は家では飼えないから欲しかったらあげるよーと言って子供たちにあげていた。
屋台の焼きそば屋に速水がいた。見間違いかと思ったけど、速水だ。
地元の人と普通に話している。
そして普通に笑っていた。
僕は、焼きそば買ってくると言うと二人を待たせることにした。
「焼きそば、三つください」
僕が言うと見たことのある人物の視線がこちらを向く。
「毎度」
彼は焼きそばを炒めた。野菜や肉の焼かれる良い匂いがする。
「・・・えっと、同じ学校の人?何でここにいるんだ?」
「・・・速見だ。祭りの手伝い。毎年頼まれて引き受けてるだけだ。あの二人とまだ一緒にいたんだな」
「友達だから」
「・・・そういうふうには見えねえけど。
あんた、鈍いんだな」
焼きそばを3つパックに入れて渡される。
「いつか後悔する」
それだけ短く伝えてくる。
「しない」
僕は否定した。お金をぴったり渡す。二人と一緒にいることを後悔なんて絶対にしない。
ほぼ他人のこいつに言われたって何の説得力もない。
僕がいたいからいる、それでいいんだ。
まだ何も失っていない。大丈夫。
僕は振り向いた。
それはまるでスローモーションだった。
浅野が心の腕を掴み口づけていた。
そしてその視線は心を見ていなくて僕を見ていた。
俺はきっと―――――――――――好きなんて生易しい感情じゃない、俺は貴之に特別依存してるんだ
視線が絡み合う。
僕は焼きそばを落とした。走り出す。後ろから、名前を呼ばれた気がした。
二人のところに戻れなかった。
きっとこれが物語なら二人の間に入って心に何してるんだと言う。
でも現実は二人から目を逸らして僕は逃げただけだった。
人通りが少ない河原まで移動すると僕は息をついた。
久しぶりに走ってしまった。
携帯がずっと鳴っている。
心からだ。
「ユキくん、何処?」
電話に出たけど僕は無言だった。
「一緒に、二人で花火見ようっ」
その声にふいに涙が出そうになった。
うん、と答えた声が震えてしまった。
どうすればいいか分からない。だって僕にとって二人はどちらも大事な存在だ。
でも今は心に会いたい。
「・・・河原にいる」
花火が上がり始めた。どうしようもない、ただ突っ立っていることしかできない。
心が走ってきてくれた。ほっとする。
まるで迷子になった子供のような気分だった。
僕は心を抱き寄せた。衝動的なものだった。
そうしたかった。
心は抵抗もせず何も言わなかった。強く抱きしめるとそっと抱きしめ返してくれた。
前までは一瞬で本に集中できていたが、今はそれは不可能に近い。
でも、不思議とそれは嫌じゃなかった。
心境の変化なのか、僕がこの環境に慣れてしまったのか、もう分からない。
・・・一言で言うと周りは賑やかだ。
浅野の姿を見て顔色を変え、心は立ち上がる。
「浅野さんはどうして毎回毎回来るんですか!?」
「え-?ユキくんのお友達だから?」
「学校でも図書館でも一緒なんですよね!?」
「そうだよー仲良しだからね」
「ずるいです、私だってユキくんとだけの時間がほしいです」
「あはは、絶対やだ。そんな時間あげない」
と、浅野と心は毎度口論になっている。
・・・静かに本が読めなくなってしまった。
ここが昔の図書館だったら放り出されているレベルでうるさい。
今の図書館は閑散としていて古い。
図書館内は少し埃っぽい。紙媒体の本を好む人は減ってしまった。
季節は流れ、花火大会の日は近づいていた。
花火大会は必死の心の攻防も叶わず、三人で行くことになった。
浴衣は必須と懇願され、僕は浴衣を引っ張り出して着た。
薄暗くなり人通りも増えてきた。浅野は時間近くになるとふらっと現われた。
浴衣を着ていたが、髪色が派手なのでマッチしてるとは言いがたかった。何人か女の子に声を掛けられ、笑顔で断ることを何度もしていた。浅野は芸能人ではないかというぐらい目立つ容姿にオーラを持っている。声を掛けられるのも仕方がないと思えた。
神社の石段で待っていると彼女は現われた。心が髪を団子にして簪をさしていた。
薄い桃色の花だ。
水色の爽やかな柄の浴衣がとてもよく似合っていた。
「ユキくーん、お待たせ」
手を振って駆け寄ってくる。
「待った?」
「いや・・・そんなには。5分だけ」
僕は答えた。
「あ、心ちゃん、今日は可愛いね」
浅野が今日は、を強調して微笑む。
「・・・悪意を感じます」
心がむっとした顔をする。
「どうして?褒めてるのに素直じゃないなあ」
「心はいつも可愛い」
僕が遮ると浅野がは?と言った。
「だから、今日は、じゃない。今日もだ。」
僕は言い返した。ちゃんと訂正するべきだ。
僕は心に微笑みかけた。
心は目を見開いて僕を見ていて固まっていた。
その顔は林檎のように真っ赤だ。
「・・・心?」
僕が呼びかけると心は小さな声でありがとう、嬉しいと答えてきた。
僕は思ったことを言っただけだ。
「あーあ・・・無自覚ってどうなの、それ」
浅野がため息をついていた。
「行くよ、馬鹿なお二人さん」
浅野が僕らの手を引っ張る。
金魚すくいに射的、悔しいけど浅野がぶっちぎりで上手だった。
二人の笑い声がはじける。
お祭りも友達と来るのは初めての経験だ。
「ユキくん、下手だなあ」
網が見事に綺麗に破れた僕を見て浅野が笑う。
「浅野が異常に上手すぎるんだよ」
僕は答えた。金魚すくいのお店が潰れてしまうレベルだ。
浅野は器用に網で確実にすくっていた。
「コツを掴むと簡単なんだよ」
腕まくりし、また金魚をすくう。
心はユキくん負けないでと僕を応援していた。
「浅野さんなんかに負けないでっ」
「うわ、ひどい言いようだなあ。そう言われると完全勝利したくなるよね」
不適な笑みを浮かべ浅野は勝った。
というか僕が途中で止めた。全ての金魚をとってしまう勢いだったから。
そして浅野の横で見ていた子供たちはすげええと言って盛り上がっていた。
浅野は家では飼えないから欲しかったらあげるよーと言って子供たちにあげていた。
屋台の焼きそば屋に速水がいた。見間違いかと思ったけど、速水だ。
地元の人と普通に話している。
そして普通に笑っていた。
僕は、焼きそば買ってくると言うと二人を待たせることにした。
「焼きそば、三つください」
僕が言うと見たことのある人物の視線がこちらを向く。
「毎度」
彼は焼きそばを炒めた。野菜や肉の焼かれる良い匂いがする。
「・・・えっと、同じ学校の人?何でここにいるんだ?」
「・・・速見だ。祭りの手伝い。毎年頼まれて引き受けてるだけだ。あの二人とまだ一緒にいたんだな」
「友達だから」
「・・・そういうふうには見えねえけど。
あんた、鈍いんだな」
焼きそばを3つパックに入れて渡される。
「いつか後悔する」
それだけ短く伝えてくる。
「しない」
僕は否定した。お金をぴったり渡す。二人と一緒にいることを後悔なんて絶対にしない。
ほぼ他人のこいつに言われたって何の説得力もない。
僕がいたいからいる、それでいいんだ。
まだ何も失っていない。大丈夫。
僕は振り向いた。
それはまるでスローモーションだった。
浅野が心の腕を掴み口づけていた。
そしてその視線は心を見ていなくて僕を見ていた。
俺はきっと―――――――――――好きなんて生易しい感情じゃない、俺は貴之に特別依存してるんだ
視線が絡み合う。
僕は焼きそばを落とした。走り出す。後ろから、名前を呼ばれた気がした。
二人のところに戻れなかった。
きっとこれが物語なら二人の間に入って心に何してるんだと言う。
でも現実は二人から目を逸らして僕は逃げただけだった。
人通りが少ない河原まで移動すると僕は息をついた。
久しぶりに走ってしまった。
携帯がずっと鳴っている。
心からだ。
「ユキくん、何処?」
電話に出たけど僕は無言だった。
「一緒に、二人で花火見ようっ」
その声にふいに涙が出そうになった。
うん、と答えた声が震えてしまった。
どうすればいいか分からない。だって僕にとって二人はどちらも大事な存在だ。
でも今は心に会いたい。
「・・・河原にいる」
花火が上がり始めた。どうしようもない、ただ突っ立っていることしかできない。
心が走ってきてくれた。ほっとする。
まるで迷子になった子供のような気分だった。
僕は心を抱き寄せた。衝動的なものだった。
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心は抵抗もせず何も言わなかった。強く抱きしめるとそっと抱きしめ返してくれた。
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