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第一章 ユキ
花瓶
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学校も夏休みに入る。
蝉の声がミンミンとせわしく聞こえてくる。
じりじりとした暑さで額からゆっくりと汗が伝った。
僕は制服の袖で額の汗を軽く拭った。
年々酷くなる異常気象に身体は持つのだろうか。
図書館で浅野に会うことがなくなった。
花火大会の日以来、姿を見ない。
僕はどんな顔して会えばいいのかと悩んだものだったが、杞憂だっただろうか。
連絡しても音沙汰がなかった。
正直気まずかったからこうして日があいてよかったのかもしれない。
夏休みはたまに心に会い、宿題をして過ごすことが増えた。
この夏の蒸し暑さは体力も根こそぎ奪っていきそうだった。
水筒のお茶は必須だ。
「あの、ユキくん。花火大会のことなんですけど・・・」
本を読んでる僕に心がおそるおそる尋ねてきた。
「・・・何?」
本のページをめくりながら僕は問い返した。
「浅野さんに会わなかった?」
「え?」
「いえ、何でもないです。あの日以来、連絡取れていないんですよね?」
「うん。携帯も出ないし、家はいつもいないって言ってたし・・・探す宛がなくて」
「そうでしたか・・・」
心も沈んだ声だった。
「ユキくん、元気出してください。学校できっと会えるよ」
心が僕の手の上に重ねるように手をのせた。
心は優しく僕に微笑んでいた。
会った時に何を話せばいいのか、どんな顔をすればいいのか。
自問自答は堂々巡りをしている。
答えは何も見つかっていなかったが、浅野と話すことはしないといけない。
逃げずに顔を見て・・・話せるのだろうか。
夏休み中に浅野に会うことはついになかった。
学校がまた始まった。
学校に行くと浅野の机の上に花が飾られていた。
足がその場から凍り付いたように動けなくなった。
視界がぐらぐらとする。視点が定まらない。
声が出せない。
・・・なんだこれ。何の冗談だ。
ホームルームで先生が告げる。
全然言葉が頭に入ってこない。
浅野は夏休み中に倒れて亡くなった、と。
淡々と告げて去って行く。周りの反応も薄い。
フールスクールではこんな扱いだった。
こんなにあっさり。あんなに人気だったのに。
どうして夏休み中?何故???
でも、そうだった。僕が周りに無関心で見ないふりをしていただけで
フールスクールではこれが日常だった。昨日までいた人が亡くなること。
1年生の時もクラスに花瓶が増えていった。見ないふりをするしかなかった。
同級生が次々と消えていく。自分の精神を守るために、見えていないことにするのが一番良かった。
そして二年生になって僕は人と関わってしまった。
白い空間、僕の隣にあった砂時計がいつのまにか倒れていた。
悪い夢のようだった。たいした礼も言えていない、まだ浅野のことを知れていない。
花火大会の時のこと、問い詰めることも怒ることもできていない。
学校に行けば、またあれは冗談だからごめんって言ってくると思ったんだ。
いつもみたいに調子よく僕に絡んできて・・・。
あまりよく覚えていない。
気づけば帰る時間になっていた。
保健室に立ち寄った。浅野と出会った場所だ。
保健の先生は僕をみつけると笑いかけてきた。
1年生の時はよく世話になっていたから先生とは顔見知りだ。
「浅野くんのこと聞いた?夏休みに神社で倒れて亡くなったんだって」
「・・・・神社?」
僕はその言葉に顔を上げた。
「そう。彼、心臓が弱かったから・・・」
「元々長くないとは聞いてたの。夏休み前にここに来て、せんせい愛してるよって
3番目にって。いつもの調子で言ってきたの。それが最期。笑っちゃうでしょ」
先生の声は震えていた。
「あの子、ひねくれてるけど悪い子ではなかったと思う。澤木くんのこともよく話してたよ。
一応、友達なんだって。真面目すぎて損するって言ってた」
・・・心の言葉がよみがえる。
――――花火大会の日、浅野くんに会わなかった?
僕は急いで電話を掛けた。
「心、聞きたいことが・・・花火大会の日、浅野は・・・」
心がしばらく沈黙して息づかいだけが聞こえた。
「・・・言うか迷ってたんだけど、ユキくんなら分かるかもしれないから言うね」
「私、浅野さんに・・・急にキスされたの。それで突き飛ばしたら、ユキくんが走っていく背中が見えて、浅野さん泣いてた。
今ので俺の気持ち、貴之に伝わったからそれでいいやって涙零しながら笑ってた。
でもその後すぐユキくんのこと追いかけて走っていって・・・それから」
・・・僕は嗚咽が出て心とはもう会話ができなかった。
「ユキくん・・・?どうしたの?大丈夫・・・?」
「ごめん、また話す」とそれだけ伝えると電話を切る。
意味不明だ。全然伝わってないよ、浅野。
でももっと馬鹿なのは間違いなく僕だ。
「先生、僕はちゃんと言えなかった。浅野は僕のこと特別だって言ってくれたんだ。
でも僕も浅野が特別で大事な友達だって、伝えれなかった。気付けなかった」
「最初から分かりにくかったから仕方ないわよ。
澤木くん、熱出して寝こんだ日に、浅野君が見ていてくれたことがあったのよ。
知らないでしょ。冷えピタ貼って、心配そうに顔を覗き込んでた。
私が来たら後は任せます、って今のは内緒でって」
僕のせいだ、浅野が死んでしまったのは。
あの時、僕が逃げなければ。向き合っていれば、浅野はきっと今も生きてた。
・・・どうすればいい、どう償えばいい。
そこからまたふらふらと保健室を出てどうやって帰ってきたのか覚えていない。
僕は下駄箱で人にぶつかった。
・・・見覚えのある人物だと思ったら生徒会長だった。
ぼんやりと視界の中で彼が目を大きく見開くのは見える。
くせっ毛のある細い髪に大きな目が特徴的な人だ。
「君、大丈夫?」
僕の異常に気付いたのか問いかけてくる。
僕はのろのろと頷くと彼の横を通り過ぎた。
心に、浅野のことは話せそうになかった。彼女も責任を感じてしまうに違いない。
・・・これは心が知らなくていいことだ。
僕は心に嘘をついた。浅野は体調を崩したが元気にしていると。
人と深く関わらない方がいい。
いつか、後悔する。速見の言葉が真実味を増す。
違う、僕は・・・。
頭が痛い。きーんと鈍い金属がぶつかるような音がずっとする。
学校に浅野がいたのはまるで幻のように日常が過ぎていった。
賑やかに僕の側にいた声は、今はもう側にいない。
蝉の声がミンミンとせわしく聞こえてくる。
じりじりとした暑さで額からゆっくりと汗が伝った。
僕は制服の袖で額の汗を軽く拭った。
年々酷くなる異常気象に身体は持つのだろうか。
図書館で浅野に会うことがなくなった。
花火大会の日以来、姿を見ない。
僕はどんな顔して会えばいいのかと悩んだものだったが、杞憂だっただろうか。
連絡しても音沙汰がなかった。
正直気まずかったからこうして日があいてよかったのかもしれない。
夏休みはたまに心に会い、宿題をして過ごすことが増えた。
この夏の蒸し暑さは体力も根こそぎ奪っていきそうだった。
水筒のお茶は必須だ。
「あの、ユキくん。花火大会のことなんですけど・・・」
本を読んでる僕に心がおそるおそる尋ねてきた。
「・・・何?」
本のページをめくりながら僕は問い返した。
「浅野さんに会わなかった?」
「え?」
「いえ、何でもないです。あの日以来、連絡取れていないんですよね?」
「うん。携帯も出ないし、家はいつもいないって言ってたし・・・探す宛がなくて」
「そうでしたか・・・」
心も沈んだ声だった。
「ユキくん、元気出してください。学校できっと会えるよ」
心が僕の手の上に重ねるように手をのせた。
心は優しく僕に微笑んでいた。
会った時に何を話せばいいのか、どんな顔をすればいいのか。
自問自答は堂々巡りをしている。
答えは何も見つかっていなかったが、浅野と話すことはしないといけない。
逃げずに顔を見て・・・話せるのだろうか。
夏休み中に浅野に会うことはついになかった。
学校がまた始まった。
学校に行くと浅野の机の上に花が飾られていた。
足がその場から凍り付いたように動けなくなった。
視界がぐらぐらとする。視点が定まらない。
声が出せない。
・・・なんだこれ。何の冗談だ。
ホームルームで先生が告げる。
全然言葉が頭に入ってこない。
浅野は夏休み中に倒れて亡くなった、と。
淡々と告げて去って行く。周りの反応も薄い。
フールスクールではこんな扱いだった。
こんなにあっさり。あんなに人気だったのに。
どうして夏休み中?何故???
でも、そうだった。僕が周りに無関心で見ないふりをしていただけで
フールスクールではこれが日常だった。昨日までいた人が亡くなること。
1年生の時もクラスに花瓶が増えていった。見ないふりをするしかなかった。
同級生が次々と消えていく。自分の精神を守るために、見えていないことにするのが一番良かった。
そして二年生になって僕は人と関わってしまった。
白い空間、僕の隣にあった砂時計がいつのまにか倒れていた。
悪い夢のようだった。たいした礼も言えていない、まだ浅野のことを知れていない。
花火大会の時のこと、問い詰めることも怒ることもできていない。
学校に行けば、またあれは冗談だからごめんって言ってくると思ったんだ。
いつもみたいに調子よく僕に絡んできて・・・。
あまりよく覚えていない。
気づけば帰る時間になっていた。
保健室に立ち寄った。浅野と出会った場所だ。
保健の先生は僕をみつけると笑いかけてきた。
1年生の時はよく世話になっていたから先生とは顔見知りだ。
「浅野くんのこと聞いた?夏休みに神社で倒れて亡くなったんだって」
「・・・・神社?」
僕はその言葉に顔を上げた。
「そう。彼、心臓が弱かったから・・・」
「元々長くないとは聞いてたの。夏休み前にここに来て、せんせい愛してるよって
3番目にって。いつもの調子で言ってきたの。それが最期。笑っちゃうでしょ」
先生の声は震えていた。
「あの子、ひねくれてるけど悪い子ではなかったと思う。澤木くんのこともよく話してたよ。
一応、友達なんだって。真面目すぎて損するって言ってた」
・・・心の言葉がよみがえる。
――――花火大会の日、浅野くんに会わなかった?
僕は急いで電話を掛けた。
「心、聞きたいことが・・・花火大会の日、浅野は・・・」
心がしばらく沈黙して息づかいだけが聞こえた。
「・・・言うか迷ってたんだけど、ユキくんなら分かるかもしれないから言うね」
「私、浅野さんに・・・急にキスされたの。それで突き飛ばしたら、ユキくんが走っていく背中が見えて、浅野さん泣いてた。
今ので俺の気持ち、貴之に伝わったからそれでいいやって涙零しながら笑ってた。
でもその後すぐユキくんのこと追いかけて走っていって・・・それから」
・・・僕は嗚咽が出て心とはもう会話ができなかった。
「ユキくん・・・?どうしたの?大丈夫・・・?」
「ごめん、また話す」とそれだけ伝えると電話を切る。
意味不明だ。全然伝わってないよ、浅野。
でももっと馬鹿なのは間違いなく僕だ。
「先生、僕はちゃんと言えなかった。浅野は僕のこと特別だって言ってくれたんだ。
でも僕も浅野が特別で大事な友達だって、伝えれなかった。気付けなかった」
「最初から分かりにくかったから仕方ないわよ。
澤木くん、熱出して寝こんだ日に、浅野君が見ていてくれたことがあったのよ。
知らないでしょ。冷えピタ貼って、心配そうに顔を覗き込んでた。
私が来たら後は任せます、って今のは内緒でって」
僕のせいだ、浅野が死んでしまったのは。
あの時、僕が逃げなければ。向き合っていれば、浅野はきっと今も生きてた。
・・・どうすればいい、どう償えばいい。
そこからまたふらふらと保健室を出てどうやって帰ってきたのか覚えていない。
僕は下駄箱で人にぶつかった。
・・・見覚えのある人物だと思ったら生徒会長だった。
ぼんやりと視界の中で彼が目を大きく見開くのは見える。
くせっ毛のある細い髪に大きな目が特徴的な人だ。
「君、大丈夫?」
僕の異常に気付いたのか問いかけてくる。
僕はのろのろと頷くと彼の横を通り過ぎた。
心に、浅野のことは話せそうになかった。彼女も責任を感じてしまうに違いない。
・・・これは心が知らなくていいことだ。
僕は心に嘘をついた。浅野は体調を崩したが元気にしていると。
人と深く関わらない方がいい。
いつか、後悔する。速見の言葉が真実味を増す。
違う、僕は・・・。
頭が痛い。きーんと鈍い金属がぶつかるような音がずっとする。
学校に浅野がいたのはまるで幻のように日常が過ぎていった。
賑やかに僕の側にいた声は、今はもう側にいない。
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