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きみがいないのに日は昇る
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物理で暴走し、病院送りにされたリオネル青年。
麺が平った状態で仙人期間をすごしておりましたことをここに報告します。
おセンチ妄想以外、大したことはしていない。
****************
彼女が去ったと気づいたあの日、私は寮室で暴れに暴れたために呼ばれたババビアゴ様に昏倒させられ研究所内にある診療所に拘束された状態で保護されたらしい。
その後、王都最大の病院に入院し身の回りのことができるまで回復するのに今日まで3年以上の時間が過ぎていた。
1年365日。8760時間。
すなわち1年には525,600分あるというのにその3倍以上の時間が過ぎていたが、自分の中の時間はあの日のまま止まっているような感覚である。
窓の外にはアンが好きだったメラの木同様大きく育った同種の木が植えられていた。それを見つめているだけの日が過ぎていた。
アンがいなくても日は昇り沈む。
そんな世の理が私には信じられなかった。
研究も、爵位も、日常生活ももうなんだってどうなったっていいんだと思う日々の中でも瞼を閉じれば浮かぶのはアンの姿や香ばかりだ。
時間が経ってるはずなのに、褪せることのない幻影に会えない苦しさが収まることがない。
医師は日にち薬などというがそんなのは気休めか、または浅い愛の果てについて語っているに過ぎない。
私の愛を見縊らないでもらいたいと思う。
何もせずに月日を無為に消費している気もするが、いつかまたアンにあいたいという希望を捨てたわけではない。
だが、アンを見て触れて嗅いでという行為をしていなければ己の体を動かすエネルギーが枯渇しているため体が動かないのだ。
その証拠に、体は動かないが頭は働いているため次々と研究や事業のアイデアや構想などは浮かんできている。
たまにやって来ていた研究所の職員やマントデドラゴ社の従業員に気が乗れば口述で書き留めてもらい必要な資料として渡していた。
この狭い病室の中で動くと言ったら排泄の際に移動することぐらいの生活の中、日に数十歩という運動量しかこなしていなかった自分はほとんど歩けない生活をおくるまでに衰えていた。
ある日、研究所の上司が病室にやってきた。
3年待ったが研究所に戻れそうにないならば離職してもらわねばならないとのことだった。
上司は休職期間も口述での論文作成などでこちらの首を繋いでいてくれたが、さすがにこれ以上の特別待遇ははかれないと申し訳なさそうに伝えてくれた。
態度の悪い職員だった私にここまでしてくれていたことを知り逆に申し訳なさに居た堪れなくなった。
自分の能力に胡座をかき、アンとの時間欲しさによくわがままをいってこの上司を困らせていた。
部下にも相当苦労をかけたことを詫びていると伝えて欲しいと上司に頼んだ。
上司は非常に驚いた顔をしていたがわかったよと言ってくれた。
忘れないうちに、と個室に置いていた私物の入った袋を置いて行ってくれた。
そこには動かなくなっていたアンから貰った懐中時計が入っていた。
上司が朝にやって来てその午後には、懐かしい顔の男がやってきた。
寮管のハリー・ウィトワ氏だった。
アンに出会った衝撃の初対面の日に居合わせた男だ。
この男を当初はアンの婚約者ではないかと疑ったのは懐かしい思い出だ。
当時はA,B棟のみ寮管をしていたが、今は貴族家へ婿入りした爵位持ちとなってA~C棟すべての寮の管理者をしているらしい。
アンが研究所を去るときに推薦したとのことだった。
貴族家といっても領地なしで研究所の事務官勤めであるため家族向けの寮に移りくらしながら今もあの寮の管理をしているとのことだった。
寮室にあった荷の処分をお願いしていたため、処分しきれなかったものを今日はここに運び入れてくれた。
主に父から受け継いだ蔵書の類だが大部分は寄贈し、リストを起こした書籍だけ運び入れてもらった。
そしてベッドの足元に置かれたのは鍵をつけた箱。
アンと出会ってからマントデドラゴ社で開発した軽量小型金庫だ。
これは伝説のドラゴンにいかような攻撃をされても壊れない仕様を目指し作ったもので中身はアンに関連した物品である。
彼女からもらった贈り物の包み紙はもちろん、記念日に行った観劇の半券や初デートで彼女が口元を拭いた紙ナプキン、手紙などを保管していた。
ウィトワ氏はアンの思い出話をしたそうだったが、マリアンヌの名前を出した時の私の顔を見てその話題を振ることをしなかった。
さらにその後、ババビアゴ様とサシャ・ルーポ侯爵令嬢改めサシャ・デルソル子爵夫人という珍しい組み合わせがやってきた。
今日は久しぶりに人に会い過ぎてかなり疲れてしまった。
そこに落とされた爆弾発言。
開口一番。
かつてのトラブルメーカー、否、現在進行形のトラブルメーカーことサシャ・デルソル夫人は爆弾をおとした。
「マリー、結婚するってよ」
麺が平った状態で仙人期間をすごしておりましたことをここに報告します。
おセンチ妄想以外、大したことはしていない。
****************
彼女が去ったと気づいたあの日、私は寮室で暴れに暴れたために呼ばれたババビアゴ様に昏倒させられ研究所内にある診療所に拘束された状態で保護されたらしい。
その後、王都最大の病院に入院し身の回りのことができるまで回復するのに今日まで3年以上の時間が過ぎていた。
1年365日。8760時間。
すなわち1年には525,600分あるというのにその3倍以上の時間が過ぎていたが、自分の中の時間はあの日のまま止まっているような感覚である。
窓の外にはアンが好きだったメラの木同様大きく育った同種の木が植えられていた。それを見つめているだけの日が過ぎていた。
アンがいなくても日は昇り沈む。
そんな世の理が私には信じられなかった。
研究も、爵位も、日常生活ももうなんだってどうなったっていいんだと思う日々の中でも瞼を閉じれば浮かぶのはアンの姿や香ばかりだ。
時間が経ってるはずなのに、褪せることのない幻影に会えない苦しさが収まることがない。
医師は日にち薬などというがそんなのは気休めか、または浅い愛の果てについて語っているに過ぎない。
私の愛を見縊らないでもらいたいと思う。
何もせずに月日を無為に消費している気もするが、いつかまたアンにあいたいという希望を捨てたわけではない。
だが、アンを見て触れて嗅いでという行為をしていなければ己の体を動かすエネルギーが枯渇しているため体が動かないのだ。
その証拠に、体は動かないが頭は働いているため次々と研究や事業のアイデアや構想などは浮かんできている。
たまにやって来ていた研究所の職員やマントデドラゴ社の従業員に気が乗れば口述で書き留めてもらい必要な資料として渡していた。
この狭い病室の中で動くと言ったら排泄の際に移動することぐらいの生活の中、日に数十歩という運動量しかこなしていなかった自分はほとんど歩けない生活をおくるまでに衰えていた。
ある日、研究所の上司が病室にやってきた。
3年待ったが研究所に戻れそうにないならば離職してもらわねばならないとのことだった。
上司は休職期間も口述での論文作成などでこちらの首を繋いでいてくれたが、さすがにこれ以上の特別待遇ははかれないと申し訳なさそうに伝えてくれた。
態度の悪い職員だった私にここまでしてくれていたことを知り逆に申し訳なさに居た堪れなくなった。
自分の能力に胡座をかき、アンとの時間欲しさによくわがままをいってこの上司を困らせていた。
部下にも相当苦労をかけたことを詫びていると伝えて欲しいと上司に頼んだ。
上司は非常に驚いた顔をしていたがわかったよと言ってくれた。
忘れないうちに、と個室に置いていた私物の入った袋を置いて行ってくれた。
そこには動かなくなっていたアンから貰った懐中時計が入っていた。
上司が朝にやって来てその午後には、懐かしい顔の男がやってきた。
寮管のハリー・ウィトワ氏だった。
アンに出会った衝撃の初対面の日に居合わせた男だ。
この男を当初はアンの婚約者ではないかと疑ったのは懐かしい思い出だ。
当時はA,B棟のみ寮管をしていたが、今は貴族家へ婿入りした爵位持ちとなってA~C棟すべての寮の管理者をしているらしい。
アンが研究所を去るときに推薦したとのことだった。
貴族家といっても領地なしで研究所の事務官勤めであるため家族向けの寮に移りくらしながら今もあの寮の管理をしているとのことだった。
寮室にあった荷の処分をお願いしていたため、処分しきれなかったものを今日はここに運び入れてくれた。
主に父から受け継いだ蔵書の類だが大部分は寄贈し、リストを起こした書籍だけ運び入れてもらった。
そしてベッドの足元に置かれたのは鍵をつけた箱。
アンと出会ってからマントデドラゴ社で開発した軽量小型金庫だ。
これは伝説のドラゴンにいかような攻撃をされても壊れない仕様を目指し作ったもので中身はアンに関連した物品である。
彼女からもらった贈り物の包み紙はもちろん、記念日に行った観劇の半券や初デートで彼女が口元を拭いた紙ナプキン、手紙などを保管していた。
ウィトワ氏はアンの思い出話をしたそうだったが、マリアンヌの名前を出した時の私の顔を見てその話題を振ることをしなかった。
さらにその後、ババビアゴ様とサシャ・ルーポ侯爵令嬢改めサシャ・デルソル子爵夫人という珍しい組み合わせがやってきた。
今日は久しぶりに人に会い過ぎてかなり疲れてしまった。
そこに落とされた爆弾発言。
開口一番。
かつてのトラブルメーカー、否、現在進行形のトラブルメーカーことサシャ・デルソル夫人は爆弾をおとした。
「マリー、結婚するってよ」
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