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愛の巣籠、冬籠カウントダウン その1
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「カヴァリエレドラ帝国の宰相補佐様が?なんてっ?」
あまりにも予想外の言葉を父に投げられ応答がお粗末になってしまうマリアンヌに対し、父カルドは大きなため息をつきながら手元の厚紙で覆われた釣書を2人の間にあるテーブルに置く。
「お前に婚姻を前提とした視察への同行を依頼して来ている」
なんで、婚姻を前提としたお付き合いならぬ視察?
はて意味がわからない、と一蹴して執務室に入って来た目的である人工河川流通網の最終工事確認書を広げ出すマリアンヌ。
「そんな世迷言は置いておいてですね、河川幅に合わせた運搬船のパターンを絞りたいので検証実験の日程を早めに立てたいのでこちらをご覧ください」
父の持って来た釣書には1ミリの関心も見せず、なかったことにする娘に対し父も困り顔で応戦する。
「マリー、、、この話、とりあえず受けないと反乱罪適用とか言われかねないのだよ。とりあえず会って話をするだけでも応じてくれないかい?」
「・・・反乱罪って、、、なんでそんな脅しが可能なんですか?」
話が見えなさ過ぎて気持ちも悪いので、急ぎの案件を抱えてはいるがとりあえず父の話を聞こうとするマリアンヌは部屋に控えていたリリーに茶の用意を頼んだ。
「それで、誰が何の目的でこの未婚なのに子持ちもうすぐ四捨五入30歳の世でいう”オバサン”に婚姻を申し込むのですか?その背景は?怪し過ぎますね」
令嬢らしからぬ腕組みで眉間に皺を寄せ、父に凄むマリアンヌ。
父も渋顔で天井を見上げている。
「うぅ~ん、まず相手が誰が、というところから話すか」
マリアンヌたちの住むパチャンドラ王国の属する大陸の覇者、カヴァリエレドラ帝国。
その宗主国の皇太子側近として仕える宰相補佐アデラール・ゴライアス侯爵令息23歳からの婚姻の申し出である。
しかして、マリアンヌ名前を聞いたこともその存在すら今まで知らなかった。
「全くもって存じ上げません」
「そうなの?マリーは人の名前を覚えるのあまり得意ではないし、王都にいるときにどこかでであってるとかはない?」
頭を捻りに捻るが、実のところ男性との関わりはリオネルにかな~り制限をされていたので”若い男性”というだけで記憶に残る人は限られてくる。
当然研究所内にいる人ではないだろうし、可能性があるとすれば数回連れて行ってもらった国外視察の際に知り合った人だろうか。
だが、当時を思い出すが年齢がかなり上の、いうなればおじいちゃん世代ばかりだったような記憶しかない。
「う~ん、リオネル様に男性の交友関係はかなり絞られていましたから妙齢の男性となると所外ではまず会うことはなかったのですよね」
なんだ、その束縛エピソード怖っ、と父はおもったがここはとりあえずスルーする。
「そうか、では。向こう側が一方的にマリーを知って婚姻を求めているということか」
「そうかもしれません、しかしなぜ婚姻を前提という話から視察同行へと繋がるのですか?全くもってそこに因果関係も脈絡も感じられないのですが」
「それについてだが、人工河川流通網の特許申請は社会基盤にかかるものなので帝国管轄なのは理解しているか?」
もちろんだ、土木系の技術や構想に係る知財特許は軍事転用の可能性をもつので先の多国間戦争条約以降帝国管轄の特許として管理することとされているのだ。
「直接帝都の特許管理省へ申請し、そちらで査定後に特許の設定を各国に下ろす流れだったかと」
「そうだ、それで間違いない。しかし、今回は査定も通り特許設定を王国中央に下ろす最後の段階で、宰相補佐殿が直接王都へやって来て申請者のお前に会わせろと掛け合いに来たそうだ」
なんでっ!?と思ったが、何か思うところがあったのだろうか。
帝国の宰相補佐ともなれば、ありとあらゆる分野においての懸案事項がないか検討しなければならないので事情があったのかもしれない。しかし、なぜ婚姻???
「わざわざ宰相補佐殿が王都まではるばるやってきたことで、王国に何か利を残せないかと、出願者のお前が未婚貴族令嬢だったものだからこれまた未婚の宰相補佐殿にマリアンヌをあてがい帝国全土にこの特許事業を王国主導でと考える不埒ものが湧いて来たのかもしれないな」
「はぁ、、、なんですかそのくだらない発想」
そんな小物の発想に付き合わされたとしたら帝国の宰相補佐様もお困りだろうに、とマリアンヌはやはりこの件はしっかりさっぱり断ろうとおもった。
しかし、事態はそう簡単にはまとまりそうにもなく。
「その点に関しては、こちらの国の勇足もあったようだがどういうわけか宰相補佐殿の方からもお前自身への問い合わせが入っているとか。一度降りた特許設定許可を宰相殿自身がわざわざ条件付き差し戻しにしてまでお前との婚姻をとりつけようとしたという噂もあるらしい」
その、どういうわけか、というところを知りたいのだがおそらくここから探りを入れて対応するより条件をクリアしてさっさと特許設定をしてもらい事業を完了させた方がいいのだろう。
しかし、その条件が私の婚姻を含む必要があるというところに納得が全くもっていかない。
「事情は、わかったようなわからないような、ですがこちらも父様の巡回部隊を冬前に戻すためにも一度お歴々にお越しいただき直接交渉した方が良さそうですね」
わからないことをここでぐだぐだ論じていても時間の無駄である。
マリアンヌは父に”こちらとしてもその条件を条件付きで受けるか検討”と言った内容の返信を認めてもらい、そんな高飛車な返しで嫌われて断れたらいいなぁと言う淡い期待をのせて鳥を飛ばしてもらい先方の出方を見ることにした。
はい、では次の議題に移りま~すとばかりにマリアンヌは人工河川流通網の最終工事確認書を広げて父が冬籠前に幹線街道の検めを終え今度こそ継母の出産に立ち会えるようにすることが目下最大の彼女の関心事なのであった。
あまりにも予想外の言葉を父に投げられ応答がお粗末になってしまうマリアンヌに対し、父カルドは大きなため息をつきながら手元の厚紙で覆われた釣書を2人の間にあるテーブルに置く。
「お前に婚姻を前提とした視察への同行を依頼して来ている」
なんで、婚姻を前提としたお付き合いならぬ視察?
はて意味がわからない、と一蹴して執務室に入って来た目的である人工河川流通網の最終工事確認書を広げ出すマリアンヌ。
「そんな世迷言は置いておいてですね、河川幅に合わせた運搬船のパターンを絞りたいので検証実験の日程を早めに立てたいのでこちらをご覧ください」
父の持って来た釣書には1ミリの関心も見せず、なかったことにする娘に対し父も困り顔で応戦する。
「マリー、、、この話、とりあえず受けないと反乱罪適用とか言われかねないのだよ。とりあえず会って話をするだけでも応じてくれないかい?」
「・・・反乱罪って、、、なんでそんな脅しが可能なんですか?」
話が見えなさ過ぎて気持ちも悪いので、急ぎの案件を抱えてはいるがとりあえず父の話を聞こうとするマリアンヌは部屋に控えていたリリーに茶の用意を頼んだ。
「それで、誰が何の目的でこの未婚なのに子持ちもうすぐ四捨五入30歳の世でいう”オバサン”に婚姻を申し込むのですか?その背景は?怪し過ぎますね」
令嬢らしからぬ腕組みで眉間に皺を寄せ、父に凄むマリアンヌ。
父も渋顔で天井を見上げている。
「うぅ~ん、まず相手が誰が、というところから話すか」
マリアンヌたちの住むパチャンドラ王国の属する大陸の覇者、カヴァリエレドラ帝国。
その宗主国の皇太子側近として仕える宰相補佐アデラール・ゴライアス侯爵令息23歳からの婚姻の申し出である。
しかして、マリアンヌ名前を聞いたこともその存在すら今まで知らなかった。
「全くもって存じ上げません」
「そうなの?マリーは人の名前を覚えるのあまり得意ではないし、王都にいるときにどこかでであってるとかはない?」
頭を捻りに捻るが、実のところ男性との関わりはリオネルにかな~り制限をされていたので”若い男性”というだけで記憶に残る人は限られてくる。
当然研究所内にいる人ではないだろうし、可能性があるとすれば数回連れて行ってもらった国外視察の際に知り合った人だろうか。
だが、当時を思い出すが年齢がかなり上の、いうなればおじいちゃん世代ばかりだったような記憶しかない。
「う~ん、リオネル様に男性の交友関係はかなり絞られていましたから妙齢の男性となると所外ではまず会うことはなかったのですよね」
なんだ、その束縛エピソード怖っ、と父はおもったがここはとりあえずスルーする。
「そうか、では。向こう側が一方的にマリーを知って婚姻を求めているということか」
「そうかもしれません、しかしなぜ婚姻を前提という話から視察同行へと繋がるのですか?全くもってそこに因果関係も脈絡も感じられないのですが」
「それについてだが、人工河川流通網の特許申請は社会基盤にかかるものなので帝国管轄なのは理解しているか?」
もちろんだ、土木系の技術や構想に係る知財特許は軍事転用の可能性をもつので先の多国間戦争条約以降帝国管轄の特許として管理することとされているのだ。
「直接帝都の特許管理省へ申請し、そちらで査定後に特許の設定を各国に下ろす流れだったかと」
「そうだ、それで間違いない。しかし、今回は査定も通り特許設定を王国中央に下ろす最後の段階で、宰相補佐殿が直接王都へやって来て申請者のお前に会わせろと掛け合いに来たそうだ」
なんでっ!?と思ったが、何か思うところがあったのだろうか。
帝国の宰相補佐ともなれば、ありとあらゆる分野においての懸案事項がないか検討しなければならないので事情があったのかもしれない。しかし、なぜ婚姻???
「わざわざ宰相補佐殿が王都まではるばるやってきたことで、王国に何か利を残せないかと、出願者のお前が未婚貴族令嬢だったものだからこれまた未婚の宰相補佐殿にマリアンヌをあてがい帝国全土にこの特許事業を王国主導でと考える不埒ものが湧いて来たのかもしれないな」
「はぁ、、、なんですかそのくだらない発想」
そんな小物の発想に付き合わされたとしたら帝国の宰相補佐様もお困りだろうに、とマリアンヌはやはりこの件はしっかりさっぱり断ろうとおもった。
しかし、事態はそう簡単にはまとまりそうにもなく。
「その点に関しては、こちらの国の勇足もあったようだがどういうわけか宰相補佐殿の方からもお前自身への問い合わせが入っているとか。一度降りた特許設定許可を宰相殿自身がわざわざ条件付き差し戻しにしてまでお前との婚姻をとりつけようとしたという噂もあるらしい」
その、どういうわけか、というところを知りたいのだがおそらくここから探りを入れて対応するより条件をクリアしてさっさと特許設定をしてもらい事業を完了させた方がいいのだろう。
しかし、その条件が私の婚姻を含む必要があるというところに納得が全くもっていかない。
「事情は、わかったようなわからないような、ですがこちらも父様の巡回部隊を冬前に戻すためにも一度お歴々にお越しいただき直接交渉した方が良さそうですね」
わからないことをここでぐだぐだ論じていても時間の無駄である。
マリアンヌは父に”こちらとしてもその条件を条件付きで受けるか検討”と言った内容の返信を認めてもらい、そんな高飛車な返しで嫌われて断れたらいいなぁと言う淡い期待をのせて鳥を飛ばしてもらい先方の出方を見ることにした。
はい、では次の議題に移りま~すとばかりにマリアンヌは人工河川流通網の最終工事確認書を広げて父が冬籠前に幹線街道の検めを終え今度こそ継母の出産に立ち会えるようにすることが目下最大の彼女の関心事なのであった。
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