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番外編

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『 これどうぞ 』

「 ....ありがとう 」

フラついて歩いてたとしても、人を避けていた筈なのに陽妃は突然と俺の前に現れた

誰の差し金かと思うほどにタイミングよく現れるからこそ一瞬思考が停止したけれど、あの夜の事を思い出せばまともに目は合わせられなかった

それでも、俺に怯える様子はなく優しくハンカチを差し出す陽妃の優しさに止めていた涙は溢れそうになる

本当、一番見られたくない人に見られたと思いながら
保育園の送迎車が止まる公園へとやって来て、設置されている蛇口にて顔を洗い冷やせば向けられたハンカチを受け取り顔を拭いた

水で洗って冷やされた事で気持ちは落ち着きスッキリとした感覚はある
感情を消そうとして爆発した結果なら此が一番かも知れないと思いながら、ハンカチを見てから自分のポケットに入れる

「 洗って返すよ 」

『 えっ、いいですよ? 』

「 そうはいかないよ....はぁーぁ、調子狂うなぁ 」

『 えぇっ??なぜですか? 』

溜め息を吐いて大きく背伸びをしては蛇口へと凭れる俺に、陽妃は驚いたように情けない声を出すけれど本当に無自覚なんだと思った

「 そりゃ、情緒不安定で仕事の事で情けなく泣きべそかいてた時に見られるなんて、社会人として終わったね 」

なーむ、なんて片手を顔の前で合掌するようにしてから今は不器用にしか笑えない俺は軽く笑えば、陽妃は目を丸くしてから小さく吹き出した

『 ははっ、いいじゃないですか 』

「 えー、よくないよ 」

『 誰にでも泣くときは有りますよ。肩に力が入りすぎて疲れた時は一旦休憩しましょ? 』

「 ....休憩ね 」

不器用な笑みは簡単に消え、その優しさに心は締め付けられる

俺を嫌って欲しかったのに、嫌われてない事に嬉しくなる自身の愚かさに辛くなる

ゆるりと髪を揺らしぽんっと慰めるように俺の肩へと触れる、その手首を掴めば俺は酷い男にしかなれないと実感する

『 拓斗さん? 』

「 慰めるならさ、身体で慰めてよ 」

『 !! 』

君が俺を好きになっても、俺は君を嫌いにさせなきゃいけない
じゃないと、もし俺が悪者だと分かっても傷付くのがほんの僅かになると思うし
君の傍から離れても、俺も辛くはない

嫌っていい、嫌いになりなよ

そう思いながら驚きと戸惑いを見せる陽妃の言葉を待てば、彼は小さく決意をしたように頷いてから真剣に目を見て答えた

それは余りにも真剣に言うから、今度は俺の方が拍子が抜ける

『 女の子みたいに胸がないペッちゃんこで硬い身体で良ければ、好きにして下さい 』

「 へっ? 」

この状況で、胸なんてどうでもいいし
男の子だと知って言ってるのに俺が女の子の柔らかさを求めてることを考えた彼に不意にも笑ってしまった

「 ふはっ!そんな、どうでもいいのに! 」

『 なっ、私は真剣に思ったのに!ほら、男性っておっぱい好きな人、多いし! 』

「 誰もがおっぱいフェチじゃないし。男の子にそんなの求めてないよ、ははっ。可笑しいっ 」

いつからこんなに笑えなかっただろうか
颯の前でも下手に笑ってたからこそ、声を出して笑ったのは久々だ

肺が捻る程に声を上げて笑って、笑ったことで痛む身体が何となく嬉しくなる

『 そんな、笑い事ですか....?と言うか、拓斗さんって.... 』

「 拓海 」

『 えっ? 』

もう、陽妃に咄嗟に決めた名前なんて言われたくないし隠す必要も無いからこそ
笑いを堪えて、片手を肋骨に当てながら告げる

「 拓海、それが俺の本名 」

『 たくみ、さん....? 』

「 うん、そう呼んで 」

俺は、この子を嫌うことなんて出来なくて
その優しい笑みや天然な部分が颯に似てる陽妃から嫌われることも嫌なんだと察した

ならいっそのこと、与えられる辛さを受け入れた方が今は楽しめるんじゃないかと思うと名前を呼ばれ、もっと親しくなってもいい気がしてきた

『 拓海さん....分かりました、あ、私の陽妃はちゃんと本名ですよ!? 』

「 うん、そっか。可愛い名前だね、親のセンスがいいんだ 」

『 !あ、ありがとうございます.... 』

照れた時に目線を逸らすのも颯と同じ癖で、不器用に笑っていた俺は多分、今は優しく笑ってると思うほどに表情は柔らかくなる

『 拓海さん? 』

目線を此方へと向けるその頬に触れ、生きてる体温と柔らかな肌の心地にそっと顔を近付ければ彼は耳まで赤く染め上げる

可愛いね、狡いほどに....

「 抱き締めて、いいかな? 」

『 えっと、硬い肉でよけ....っ 』

触れてしまえば離せなくなるのをわかっていた
けれど触れないと言う選択肢は俺には到底出来なかった

頬から手を離し後頭部へと回した時には片腕でその華奢な腰を引き寄せ抱き締めていた

「 俺を、嫌いになりなよ.... 」

『 なれません....もっと、貴方を知りたいと思ってはダメですか? 』

「 俺を知ってもいいこと無いよ 」

『 それを決めるのは、私です.... 』

そっと俺の背中へと腕を回し抱き締める、陽妃に囚われたように降参だと思った

ごめん、颯....俺はこの子が本当に好きになったようだよ

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