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第二章 学園生活始動
23 攻略対象達 ①
しおりを挟むレイラ様はキラキラとした長い髪を今日も靡かせながら、学園の校門がある道を歩いていた。
「あ、グロブナー様よ。今日もお美しいわ」
「あら、本当。気品が違いますわ」
「グロブナー嬢、是非ともお近づきに……!」
「いや、お前じゃ無理だ。諦めろ」
「はぁ、本当に素敵」
道を少し歩けばこの通り。容姿端麗で名家のグロブナー公爵令嬢、しかも皇太子のご婚約者であるレイラ様はみんなの憧れの的であった。
「流石ですね、お嬢様。朝からこんなに皆様からの注目を集めております。こんな主人を持てる私は鼻が高いです」
俺がそう言うと、何故かレイラ様はじと目でこちらを見つめてきた。俺は首を傾げて「どうされましたか?」と訊ねると、レイラ様はため息を漏らした。
「貴方……本当に自分の事に関しては鈍感なのね。貴方の耳はどうなってるのかしら。この注目の視線は私だけじゃないわ」
レイラ様にそう言われて、俺はもう一度周囲の声に耳を傾けた。
「はっ……マーカス様がこちらを見た気がするわ!」
「ちょっと!声が大きいわよ!はぁ、マーカス様。今日も素敵」
「平民の出だとは思えない立ち振舞いですわ。あんな方が専属従者だなんて、羨ましい……」
「なんてったって最年少の高位魔道師ですもの。平民出身でも位としては貴族と同じですわ」
「そうね、あの美貌ですもの。本当、御二人が並ぶと美男美女で眼福ですわ~」
なるほど。まさか、ご令嬢の皆様方にそんな風に思われていたとは……しかし
「まぁ、他のご令嬢の皆様にどう思われようが、私には関係ありませんからね」
俺がそう言うとレイラ様は首を傾げた。
「??どういう意味よ」
「秘密です」
俺がそう言ってレイラ様に笑い掛けると、レイラ様はほんの少しだけ頬を赤く染めた。
あぁ、今日も俺のレイラ様は可愛い。
「あ!レイラ~~!」
俺がレイラ様の可愛いさに浸っていると、後ろから笑顔で手を振りながら走ってくるフローレス嬢の姿が見えた。
「あら、アリス。おはよう」
「おはようございます。フローレス嬢」
「あ!マーカス様もおはようございます!」
フローレス嬢はそう言って飛びきりの笑顔をこちらへと向けた。すると、レイラ様はうっ!と眩しそうに手をかざして口を開いた。
「ま、眩し可愛い!!流石はヒロイン。朝ドラのヒロイン並みに眩しい」
「な、何言ってるの!可愛いのはレイラの方じゃない!」
レイラ様とフローレス嬢はそう言って「いやいやいやいや」とお互いにお互いを褒め合っている。正直、2人とも何してんですか?とツッコミを入れたくなる会話だか、周囲からの反応は少し違うようだ。
「な、なんだ!?あの可愛い子は!?」
「が、眼福だぁぁ朝から天使がふたり……」
「あ、あの組み合わせ……綺麗系と可愛い系か!?」
「いや、待てあれはエロい系と小悪魔系だ!」
「……嫌ね。本当、男ったらくだらない」
「あの子……確か平民、よね?入学式の時に確か注意を受けていた……魔力持ちの特待生だったかしら?」
「確かそうだわ。はぁ、またあんな風に走り出してみっともない。これだから庶民は」
「ええ、全くですわ。でもどうして、あの庶民がグロブナー様と?身分違いも甚だしいですわ」
ふむ。
周囲の意見は男女でだいぶ差があるようだな。まぁ、当然の反応だろう。
俺がそんな事を思っていると、レイラ様は周りの視線に気がついたのか、スッとフローレス嬢の腕に自分の腕を絡めてニコッと微笑んだ。
フローレス嬢は突然の出来事に驚き「レイラ?」と訊ねた。
「さ!親友のアリス?教室へ参りましょう?」
レイラ様が親友という言葉を強調してそう言うと、周りは当然ざわつき始めた。
「しっ!?う、うん」
フローレス嬢は少し照れながらそう答えた。すると、レイラ様は少しだけ彼女に顔を近づけて再び口を開いた。
「いい?アリス。貴方、学園では私から離れちゃ駄目よ?トイレも一緒だからね」
「ちょ、レイラ!?か、顔近くない?」
「いいから。貴方のことは私が必ず守るから。いいわね?」
「っ!!は、はい……♡」
あの~、フローレス嬢?
目が♡になってますよー?
というか、レイラ様。貴方どこぞの主人公が言うセリフじゃないですか?あ、最近冒険者の恋愛物語系の書物にハマっておりましたね、そういえば。
俺はそんな事を思いつつ、スタスタと突き進んでいくふたりの後を追おうとした。そんなときであった。
「おい、なんなんだ?なんだか、騒がしいじゃないか」
ん?この声は……
嫌な予感を抱きつつ、後ろを振り返った。すると、そこにはジェイコブ皇太子殿下とすぐ後ろに恐らく側近の2人がこちらへと向かっていた。
「……げ、攻略対象が3人も……」
レイラ様は面倒くさそうな表情でボソッと呟いた。
「ん?あぁ、なんだ。騒ぎの原因はお前か。レイラ・エミリ・グロブナー」
俺達の姿に気が付いた殿下は、目を合わせた途端ため息混じりにそう言い放った。すると、殿下の姿に気が付いた周りのご令嬢達から「きゃ~殿下~!」と黄色い悲鳴が聞こえ始めた。
あぁ。また面倒な奴に遭遇……いや、エンカウントしてしまったようだ。俺は周りにバレないよう小さくため息を漏らした。
「学園で騒ぎなんて起こすなよ、まったく。困った婚約者だな、ほんと」
殿下はそう言ってやれやれと、わざとらしく大きなため息をついた。
レイラ様に視線を移すと「ふざけんな、どっちが困った婚約者なんだよ、コルァ」と顔に書いてあった。しかし、一度深呼吸をして平静を装い、にっこりと微笑んで制服のスカートの裾を持ち上げ頭を下げた。
「……お久しぶりですわ、殿下。お会い出来て光栄です」
うん、流石です。レイラ様。
俺は凛としたレイラ様の後ろ姿に、思わずまた惚れ直しそうになった。チョロいな、俺ってば。
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