最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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32話

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 ーーーここでとある少年と少女の話をひとつ。



 魔女狩りはこの帝国の多くの人々から母を奪い、娘を奪い、姉や妹を奪い、友人、恋人、そして妻を奪った。

 大切な人を失った民たちは絶えず苦しみの中におり、この環境を酷く恨み、そして他者を尊ぶ心を失くしていった。

 お前の嫁の方が怪しいじゃないか!何故私の妹がーー!俺の娘は普通の人間だ!あそこの家の娘こそ魔女だろう!!ーー魔女なんて恐ろしい存在、この世から一刻も早く消せ!!

 大切な人を想うが故の負の連鎖。

 魔女ではない人々が魔女と疑われて殺されていく。人々の心はひどく荒み、各地で頻繁に暴動が起きた。
 深く傷ついた人々が幸せな家庭を壊そうと村に火を放つことまであった。それもこれも、“魔女だと思ったから焼いた”と言えば罪も軽く済んだ。

 そこまで荒れていた世の中で、時代に蝕まれた少年がひとり。父も母も数日前までは生きていた。むしろ幸せな家庭で暮らしていた筈だった。

 村を焼いた炎はあっという間に家を襲い、父と母は少年を必死で逃した末に息絶えた。

 炭になった父と母から離れることができず、飲まず食わずで何日が過ぎたことか。

「ーーーおやまぁ、あんたまで腐っちまうよ」

 そう声を掛けたのは少年とさほど歳が変わらなそうな少女だった。

「‥‥‥」

 口を開く気力もなかった少年は、虚な瞳で少女を見た。

「私もあんたと同じさ。大切なもの、ぜんぶ奪われたんだ。私の宝はね、容赦なく殺されて焼かれたんだよ。何も悪いことなんてしてなかったのに」

 少年は少女の瞳の奥に、闇を見た気がした。

「ーーーなぁ、この世が憎くないかい?‥そもそも魔女が何をしたっていうんだ。私は憎い。この世の全てが‥!!‥特に、魔女狩りを始めた皇族が憎くてたまらないね」

「‥‥‥皇、族‥?」

「あぁ。そうさ。だから私は奪ってやるんだ。皇族の宝とも言われてる、汚れのない皇女様をね」

 皇女の話は少年の耳にも届いていた。
美しい容姿に、透き通った心を持っていると巷でも噂だった。

「‥奪うって‥?殺すの?」

「はっ。簡単に殺したってつまらない。皇女の中に入って、この帝国一の汚点になってやるのよ。魔女狩りを遂行してきた皇族の宝が魔女に操られて腐るの。そして最後には皇女こそが魔女として狩られて死ぬ。‥どう?最高じゃない?」

 少年は少女が何を話しているのか理解ができなかった。彼女の口振りはまるで‥

「‥君が、魔女なの?」

 少女は口を噤んだ。この時の少女の表情は、初めて年相応のように見えた。少年の反応を探るような瞳に見えたのだ。

「‥‥‥そうよ。私が人々から忌み嫌われる魔女。あんたも私のせいで不幸になったんでしょ?私が憎い?」

 少年は魔女の言葉を受け止めたうえで真剣に考えてみた。

 魔女が憎い‥?でも魔女は“何も悪いことをしてなかった”と言っていた。なら憎いのは魔女じゃない。この不幸の連鎖をはじめた帝国が憎い。心を病んで自分の村に火をつけた人々が憎い。

 そう思った時、少年の心に久々に火が灯った。
やっとこの場から立ち上がることができる気がした。

「‥ねぇ、俺にも力をくれない?」

「ーーーえ?」

「俺、あんたの味方になるよ‥。俺もこの国に復讐したい」

 少年の瞳に嘘がないと判断した魔女は、無意識に口角が上がってしまったことに驚いた。
 無垢な少年が自分を受け止めて、賛同してくれた。魔女は自分がまだこんなにも些細なことで喜べたことを腹の中で笑った。

「あんたの名前は?」

「俺?俺はーー***」

「そう。私のことは魔女と呼びな」

「え、名前は」

「そんなもの捨てたの」

「ふぅん」

 この日、少年は魔女に拾われて生きる意味を見出した。彼は今もなお魔女の腹心として、魔女と共に復讐を続けている。

「勝手なことを‥!」

「もう皇女が死んでも良いと思ったんだ。ここまで嫌われている皇女が今更魔女として狩られても皇族たちにそこまでの影響はないと思う」

「‥‥ふん。私とあんたの仲もここまでのようね」

「それは困る」

 たまにこのように意見が割れるが、互いに信頼を置いている。
ーー2人はこうして今日も、帝国への復讐譚を着実に進めているのであった。

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