最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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43話

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 2人の吐息だけが飛び交う空間。
テッドとノエルやメイドたちに不審に思われようと、リセットするから問題ない。

 私なりに考えたの。
レオンがもし猫ならば‥、この離宮で私付きの騎士をし続けている理由を。

 それはきっと私の監視役だからよね。

 だから魔女と猫に警戒されないよう、私は何も知らない哀れな皇女を演じ続けなくてはならない。
 その為にはやっぱり、『確かめたことを気付かれないように』しないと。

「ーーっ」

 レオンの腕が私の背中やお尻に伸びた。後ろからしっかり抱え込みながらのキスを堪能したいらしい。

 互いの舌を絡ませ合いながらの、甘く深いキスが続く。呼吸が乱れ、時折レオンと目が合うとその熱に燃やされてしまいそうな感覚に陥った。

 熱い‥。互いの熱も唾液も、すべてが溶け合ってる。
そろそろ頃合いかしら。レオン自身が気付かないところに傷跡をつけないと。

 ちょうどタイミングよく私たちの唇は離れた。恐らくレオンも次の段階に移ろうと思ったのだろう。
 先程までとは違って完全に雄になったレオンは私の首筋に舌を這わせた。

「っ、待って、レオン‥」

「待てません‥!」

「私からしたいの」

「‥‥‥えっ」

 レオンは少し固まったあとにカァッと頬を赤らめた。どうやら腕で口元を隠すほど動揺したらしい。
 甘いことを言ってしまうかもしれないけど‥、いま目の前にいるレオンが本当にただの騎士ならば良いと心から思う。

 レオンが見せる反応は、私にそう思わせるほどに純粋なものだった。


 私はレオンの首筋に顔を埋めた。ふわりと香る雄の匂いにくらくらしそうになる。ぺろりと舌を這わせると、レオンは小さく息を漏らした。

 互いの鼓動が聞こえてしまいそう。
レオンの肌に舌を這わせながら時折音を立ててキスをする。ちゅぷ、という普段聞かない音が静かな室内に響くと、その淫らさに消えてしまいたいほどに恥ずかしくなった。

 だけどそうも言っていられない。左手はレオンの耳を弄り、右手はレオンの髪や首の後ろを触り続ける。
 でもこの指よりも、舌や唇に注目し続けてもらいたい。鎖骨に舌を這わせ、時折顔を上げてレオンの唇にキスをする。

「ねぇレオン、シャツを脱いで」

「っ‥はい‥」

 レオンがボタンを外していくと、待ってましたと言わんばかりに私の唇も降りていく。左手で厚い胸筋に触れながらレオンの胸の周りに唇を這わせると、レオンはもどかしそうに切ない表情を浮かべた。

 レオンが堪らずに私の胸元に手を伸ばしてきた。
ーーー今だ!‥体を震わせながら、レオンの首に回している右手に力を入れる。

「んっ、」

 ‥きっと悶えた拍子に爪を立てたのだと思ってもらえるはず。レオンの首や耳にキスをしながら傷になったかを確認する。

 ーーよかった、傷になってる。


「皇女様‥俺‥」

 もう我慢できません、と言いたいのだろう。一人称が“俺”になってしまうほど必死なんだと思う。
 私はそこですかさず眉を下げた。今更だが両手で顔を隠し、心からの恥じらいを見せつける。

「‥‥ど、ど、どうしよう‥レオン‥。私、これ以上のことは恥ずかしくて‥」

「皇女様‥」

「あぁ、想いが爆発してこんなことをしてしまったけど‥冷静に考えてみたら‥‥段々と羞恥心に襲われてきたわ‥‥」

 レオンは暫く切なそうにしていたものの、直ぐに私の頭を撫でた。

 こんなことができる人が、魔女の味方であるわけがないと思う。それも、リセットをすれば分かることだけど‥。

 リセットをした時にレオンの首の後ろに爪痕があるかどうか、早く確かめないと。

「‥‥皇女様、最後にキスをしても‥?」

 もしレオンが猫であったときに違和感を覚えさせない為に、拒否するべきではないわね。

「‥ええ」


 私たちが再び甘いキスを交わす中、私は指を鳴らしてリセットを掛けた。

 ーーーリセット後、私は暫くベッドから動けずにいた。これこそ、余韻に浸るということなんだと思う。

 男女の絡みをしてしまったせいで、レオンに妙な情が湧きそうになる。初心な反応も、絶対に続きがしたかったくせに優しく頭を撫でてくれたところも、知ってしまったからこそ願ってしまう。


 レオンが猫じゃありませんように、と。


 2度目の朝の支度を終えた私は、早速レオンの元に向かった。
私に対する爽やかな挨拶はいつもと変わらない。私ももちろんさっきの出来事なんてなかったかのようにいつも通りの挨拶を交わす。

 さっきまで頬を赤くして貪りあっていたのが嘘みたい。


 レオンの雄の顔を覗き見てしまったような、罪悪感すら覚える不思議な感覚。
 でもこれらは全部確かめる為に行ったこと。私の欲を満たすためのものではない。

「レオン、なんか髪についてるわよ?」

「えっ!本当ですか?!」

「取ってあげるからじっとしてて」

「あ、ありがとうございます‥!」

 レオンはいつも通り爽やかに笑っていた。



 ーーーーーーあった。首の後ろの、爪の痕。



「はい、取れたわよ」

「すみません、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 ーーやっぱり貴方が猫だったのね、レオン‥。

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