最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
73 / 123

72話

しおりを挟む


 王宮のホールでは操られた近衛兵達が暴れ、正常な近衛兵達との争いが起きていた。
 斬りつけ合う人々、あちらこちらで飛び散る鮮血。叫んで逃げる人、転んで命乞いをしてる人。

 ‥‥この惨状を見てダンスパーティーを思い出すなんてどうかしてる。ホールでくるくるとワルツを踊るように、大勢の人々が舞い散っていく。

「操られている近衛兵達の数が多いですね。魔女は私たちの元に来るまでに予め多くの近衛兵達を駒にしていたようです」

「‥‥すごい力を持っているのね」

 魔女の母が酷いことをする度に、心に幕が掛かっていくみたい。心がボロボロにならないよう、幕を張って心を直接傷をつけられないようにしているのかもしれない。
 そうでもしないと、真っ直ぐ立つことすらできない。

「魔女の母と呼ばれる人ですからね。いくら衰えていても魔力はやはり桁違いです。‥‥皇女様、王宮に裏口はありますか?あのホールを突っ切るわけにはいきません」

 欄干からホールを見下ろしながらレオンは言う。
私は10年以上前の記憶を巡らせてから、東の方を指差した。

「あっちの奥に従者用の階段があって、そこを降りると厨房が‥。奥には食材庫があって、その中には通用口があったはずよ」

「分かりました」

 レオンはくるっと方向転換をしてまた走り出した。靴を脱げばきっと私だってまともに走れるはず。だけどレオンがあまりにも軽々と私を持ち上げていて、その上スピードもものすごく早い。
 意地を張って我を通すよりも、このまま抱えて走ってもらった方が効率がいいんだから素直に抱えられるとしましょう‥。

 ただ、こんな状況でこんなことを思うなんてどうかしていると思うけど‥レオンの力強さを肌で感じているせいか胸の辺りが変にくすぐったい。

 ーー今レオンが私たちの味方なのだとしても、レオンが猫であることには変わりない。私を抱えるこの手で私の首を絞めたのも事実。いまの私はレオンしか頼れる人がいないけど、彼に心を開いてはいけない。レオンの腕に抱えられながらぼんやりとそんなことを思った。

 
 食材庫は石壁で出来ていて、木の棚には様々な食材が置かれている。

「よくこんな場所ご存知でしたね」

「‥‥小さい頃ロジェとかくれんぼをしたことがあったの」

 きらきらと輝く、幼い頃の記憶。
ーーーロジェは今も操られたまま、バートン卿と対峙しているのかな。お父様も、ノエルとテッドも‥。

 レオンが通用口の戸を開けた。
ヒュー、と夜風が吹いて緑の草を揺らしている。そう、お父様の元へ向かったのは夕食後だった。だから今はもう月が煌々と辺りを照らす時刻。

「ーーーーねぇ、レオン、日付が変わったらもう今日をやり直せないわ」

 操られている人たちが沢山いる。ホールで斬り合い亡くなった人も沢山いる。今日を終えたらもうその事実を覆すことができなくなる。

「‥‥朝からリセットをしても、魔女も私たちと同じように記憶を持ったまま朝を迎えます。私たちを血眼になって殺そうとしている魔女に優位な状態で朝が来ることになる。次はもうこうして逃げ出すことも不可能かもしれません」

「‥‥‥ここから‥‥どこに行くの?どうやったら使える魔法が増えるの‥‥?ねぇレオン、私本当にみんなを救えるの‥‥?」

 ーー夜風が頬を撫でる。ほのかに声が揺れた私の感情を、レオンは見逃さなかった。私の体を抱えるレオンの腕にギュッと力が入った気がした。

「ーーーー皇女様の体を操った時は、魔女がその体に入り込んでいましたよね。いま王宮で複数人を操っていますが、あれは体に入り込まない代わりに効果が短時間なのです。そして、多くの魔力を使った後は必ず反動がある」

「‥反動?」

「ええ。あんなに大勢の人々を一度に操ったのです。きっと魔女は暫く魔法を使えない。魔法の箒に乗って飛んでくることもできないはずです」

 つまりその間に何とかするってことなんでしょうけど‥。
私が言葉を出せずにいると、レオンが再び言葉を落とした。

「‥‥朝からのリセットではなく、もっと過去に戻りましょう」

「え‥?過去‥?そんなことできるわけ‥」

「朝に戻るのだって十分“過去”ですよ。魔法はひとりひとり扱い方も出来ることも違う。いま現在の朝に戻るのとはきっと条件なんかも変わるでしょうけど、きっと不可能ではないはずです」

 どくん、と心臓が大きく高鳴った。
 ーーそんなことできるわけない、と心のどこかで思っていても、レオンの言う通り既に嘘みたいなことができてしまっているわけで‥。リセット魔法と同じように時間に関する魔法ならば、もしかしたら不可能ではないのかもしれない‥。

 それができるなら‥‥。もしかして、今までの悲劇を‥全て巻き戻せる‥‥?



 ーーレオンは私の体を下ろすと馬小屋の中の馬を一頭連れてきた。私を馬に乗せ、レオン自身も私の後ろに跨る。

「っ、こ、怖いわ」

 何とか横向きに座ることが出来ているけど、馬に乗るなんて人生で初めてのこと。

「大丈夫です。俺の方に体重掛けて、しっかり俺の服を掴んでて下さい」

 いつのまにか一人称が俺になってるわ‥。レオンが何やら合図をすると、馬は足を動かし始めた。

「ひっ、うご、動いてるわ」

「動かしてるんですから当然ですよ」

 ゆっさゆっさと右に左に体が揺れる。恐らく体幹がしっかりしていないせいね‥。レオンの服をぎゅっと掴みながら、私はしばらく慣れるまでの間ずっと小さな悲鳴を上げ続けていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...