最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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93話

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 初めて過去の中で朝日を浴びた。
気持ちの良い朝。この集落は色んなところに魔法が溢れていて、森の真ん中だというのにとても便利だった。

 水を操る魔女が全身を綺麗にしてくれたり、わざわざ汲まなくても透明なお水を飲むことができたり。
 それに、動物たちと会話ができる魔女が夜通し動物たちにお願いして集落を守ってくれたりした。

 私は昨夜、フェリシテ様と夜更けまでお喋りを楽しんだ。
フェリシテ様が時折大昔のとっておきの話をしてくれると、それがあまりにも面白くて涙が出るほど笑ってしまったりした。

 日中はまたみんなで今後の話を相談し合いながら、フェリシテ様や他の魔女たちの手伝いをして過ごす。

 カマル殿下が私に近付く度に、レオンはまるで番犬の如くその場に現れ、カマル殿下を牽制していた。

 その度に表情を歪め、苛立ちを露わにしていたカマル殿下は、1週間後の夜にとうとうある事件を起こしたのだ。


「え?レオンがいない‥?」

 バートン卿が私とフェリシテ様にそう報告してきた。
なんでも、カマル殿下を含めた男性陣たちが魔光虫を捕っている最中にレオンが忽然と姿を消したらしい。

「か、滑落したとか、川に流されたとかだったらどうしましょう‥」

 慌ててオロオロする私に、フェリシテ様は落ち着け、と声を掛けてくれた。

「滑落はどうか分からないが、少なくともここらの川はちょろちょろ流れる程度のもので、大人が溺れ死ぬようなものじゃない。よし、魔女総出で探しに行こう」


 雲が空を覆っていて月明かりが少ない。松明の火で辺りを照らしても、照らせる範囲が狭くて遠くまで見渡せない。

「レオン!」

 何度も大きくレオンの名を呼ぶ。だけど反応はない。

「これ、落ち着け」

 フェリシテ様はそう言うけど、私は落ち着くことなんて出来なかった。

 ーーフェリシテ様が他の魔女たちに指示を出している最中のことだった。

 突然カマル殿下に腕を引かれた。
頬を泥で汚した彼は、必死の形相で私にだけ聞こえるボリュームで「こっちにレオンが‥!」と言う。

 私はハッと目を丸めて、カマル殿下に導かれるままに走った。

「ーーー皇女様!」

 バートン卿は走り出した私たちの後を追いながら、咄嗟に私を呼んだ。思わず振り返ると、バートン卿は“しまった”という顔をしている。

 私たちが未来から来たという話は伏せていたから、カマル殿下の前では誰も私を“皇女様”と呼んでいなかった。

「‥‥‥‥皇女様?」

 カマル殿下が足を止めた。
私を見るその顔は真剣そのものだった。

「カ、カマル殿下!とにかくレオンの元に‥!」

「おい。どういうことだ?サマンサ。この広い大陸に帝国はカートライトだけ。それなのに‥王女じゃなく、皇女‥?」

 カマル殿下に握られている手首にキリッとした痛みが走った。痛みに一瞬顔を歪めると、カマル殿下はハッとして力を少し緩めた。

「まずは、レオンのところに案内してください」

「‥‥‥‥‥お前と2人で話したかったから、あいつの名前を出しただけだ」

「え‥?」

 そのためにわざわざレオンが見つかったような演技をしたということ‥?

 私は握られていた手を無理矢理振り解いた。ちょうど駆けつけたバートン卿が、カマル殿下の様子を見ながら口を開く。

「‥‥カマル殿下。失礼ですが、貴方の従者たちはどちらへ?」

「‥‥‥貴様、俺を疑ってるのか?」

 カマル殿下はそう言ってギロリとバートン卿を睨むが、バートン卿はもちろん怯まない。

 ‥私と話がしたくて、演技までしたくらいだもの。レオンをどこかに連れ去って、従者たちに見張らせてる可能性は大いにある。

「お願いします‥!カマル殿下!レオンの居場所を教えてください!!」

「っ、俺は知らないってば!!!」

 ちょうどその時、雲の切れ間から月が一瞬顔を出した。
カマル殿下は眉を釣り上げ、唇を尖らせ、まるで駄々を捏ねる子どものような顔をしていた。

「‥そう、ですか‥‥。すみません」

 ーーーフェリシテ様の方へ戻ろう。獣道をこれ以上先に進んでも、魔光虫がいる水辺の方とは逆方向だ。

 そう思って踵を返そうとした時、私を見つめるカマル殿下の後ろに影が見えた。

「っ?!?!」

 ぬっと姿を表したその影は、突然カマル殿下の首を後ろから締め上げ、暫くするとごろんっと地に投げ飛ばしてしまった。

 カマル殿下は地面に転がった後、苦しそうに咽せ続けている。

「‥‥レオン‥!」

 現れたのはレオンだった。レオンは無表情だけど、どうやらかなりの怒りを纏っているように感じる。

 恐らくバートン卿の読み通り、カマル殿下が仕組んだことだったのかもしれない。

「‥‥‥‥こいつをここで殺すのは、いけないことなんですよね?」

 静かに確認するように、レオンはそう言った。

「ハッ、俺を殺す??何を言ってーーー」

 カマル殿下は会話の途中で突然動かなくなった。たぶん、レオンが魔法を使ったんだと思う。

「駄目よ、レオン。未来がまだどうなるか分からないから、手を出しちゃ駄目」

 レオンは夜の狼のように鋭い目をしていた。
よく見ると、レオンのマントに血が沢山付いている。

「レオン、怪我をっ‥」

「返り血です。全部」

「えっ」

「こいつの従者たちと揉みあったんです。でも殺してませんよ、たぶん。ここには魔女たちが沢山いるから、きっと命を取り留めるはずです」

「レオン‥‥」

 レオンはやっと私を見ると、小さく「すみません」と言った。

「久しぶりにキレちゃいました」

 レオンがそう言った途端、ピタッと止まっていたはずのカマル殿下が動き出す。どうやら魔法を解いたみたいだ。

「あ?!なんだぁ?!」

「‥‥‥とっとと様子見に行かないと、あんたの従者たち死にますよ」

 レオンが冷めた目つきでそう言うと、カマル殿下はハッとした表情を浮かべて獣道の奥の方へと走っていった。

「災難だったな。突然襲われたのか?」

「はい。あっちの奥から皇女様の声がしたとかなんとか言って誘い出されまして。必死で走る俺の頭を棒で後ろからガツンと。一瞬グラついた隙に従者たちに縛られて‥‥。おかげでタンコブできましたよ」

 いてて、と痛がる素振りを見せるレオンだけど、カマル殿下の従者たち‥いつも姿を見せているわけじゃないけど10人以上は居たと思うんだけど‥。
 まぁレオンには魔法があるから、何とか脱出することができたんでしょうね‥。

「大丈夫?レオン‥」

 そう声をかけた途端、皮膚の表面にぱちぱちと刺激を感じ始めた。

「あっ、これ‥」

「飛ばされますね」

 ヒュンッと一瞬足元から冷たくなって、体が弾けるような感覚に襲われる。

 あぁ、次の場面に飛ばされるんだわ。
ーー今回はカマル殿下とのトラブルがキッカケということ‥?

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