94 / 123
93話
しおりを挟む初めて過去の中で朝日を浴びた。
気持ちの良い朝。この集落は色んなところに魔法が溢れていて、森の真ん中だというのにとても便利だった。
水を操る魔女が全身を綺麗にしてくれたり、わざわざ汲まなくても透明なお水を飲むことができたり。
それに、動物たちと会話ができる魔女が夜通し動物たちにお願いして集落を守ってくれたりした。
私は昨夜、フェリシテ様と夜更けまでお喋りを楽しんだ。
フェリシテ様が時折大昔のとっておきの話をしてくれると、それがあまりにも面白くて涙が出るほど笑ってしまったりした。
日中はまたみんなで今後の話を相談し合いながら、フェリシテ様や他の魔女たちの手伝いをして過ごす。
カマル殿下が私に近付く度に、レオンはまるで番犬の如くその場に現れ、カマル殿下を牽制していた。
その度に表情を歪め、苛立ちを露わにしていたカマル殿下は、1週間後の夜にとうとうある事件を起こしたのだ。
「え?レオンがいない‥?」
バートン卿が私とフェリシテ様にそう報告してきた。
なんでも、カマル殿下を含めた男性陣たちが魔光虫を捕っている最中にレオンが忽然と姿を消したらしい。
「か、滑落したとか、川に流されたとかだったらどうしましょう‥」
慌ててオロオロする私に、フェリシテ様は落ち着け、と声を掛けてくれた。
「滑落はどうか分からないが、少なくともここらの川はちょろちょろ流れる程度のもので、大人が溺れ死ぬようなものじゃない。よし、魔女総出で探しに行こう」
雲が空を覆っていて月明かりが少ない。松明の火で辺りを照らしても、照らせる範囲が狭くて遠くまで見渡せない。
「レオン!」
何度も大きくレオンの名を呼ぶ。だけど反応はない。
「これ、落ち着け」
フェリシテ様はそう言うけど、私は落ち着くことなんて出来なかった。
ーーフェリシテ様が他の魔女たちに指示を出している最中のことだった。
突然カマル殿下に腕を引かれた。
頬を泥で汚した彼は、必死の形相で私にだけ聞こえるボリュームで「こっちにレオンが‥!」と言う。
私はハッと目を丸めて、カマル殿下に導かれるままに走った。
「ーーー皇女様!」
バートン卿は走り出した私たちの後を追いながら、咄嗟に私を呼んだ。思わず振り返ると、バートン卿は“しまった”という顔をしている。
私たちが未来から来たという話は伏せていたから、カマル殿下の前では誰も私を“皇女様”と呼んでいなかった。
「‥‥‥‥皇女様?」
カマル殿下が足を止めた。
私を見るその顔は真剣そのものだった。
「カ、カマル殿下!とにかくレオンの元に‥!」
「おい。どういうことだ?サマンサ。この広い大陸に帝国はカートライトだけ。それなのに‥王女じゃなく、皇女‥?」
カマル殿下に握られている手首にキリッとした痛みが走った。痛みに一瞬顔を歪めると、カマル殿下はハッとして力を少し緩めた。
「まずは、レオンのところに案内してください」
「‥‥‥‥‥お前と2人で話したかったから、あいつの名前を出しただけだ」
「え‥?」
そのためにわざわざレオンが見つかったような演技をしたということ‥?
私は握られていた手を無理矢理振り解いた。ちょうど駆けつけたバートン卿が、カマル殿下の様子を見ながら口を開く。
「‥‥カマル殿下。失礼ですが、貴方の従者たちはどちらへ?」
「‥‥‥貴様、俺を疑ってるのか?」
カマル殿下はそう言ってギロリとバートン卿を睨むが、バートン卿はもちろん怯まない。
‥私と話がしたくて、演技までしたくらいだもの。レオンをどこかに連れ去って、従者たちに見張らせてる可能性は大いにある。
「お願いします‥!カマル殿下!レオンの居場所を教えてください!!」
「っ、俺は知らないってば!!!」
ちょうどその時、雲の切れ間から月が一瞬顔を出した。
カマル殿下は眉を釣り上げ、唇を尖らせ、まるで駄々を捏ねる子どものような顔をしていた。
「‥そう、ですか‥‥。すみません」
ーーーフェリシテ様の方へ戻ろう。獣道をこれ以上先に進んでも、魔光虫がいる水辺の方とは逆方向だ。
そう思って踵を返そうとした時、私を見つめるカマル殿下の後ろに影が見えた。
「っ?!?!」
ぬっと姿を表したその影は、突然カマル殿下の首を後ろから締め上げ、暫くするとごろんっと地に投げ飛ばしてしまった。
カマル殿下は地面に転がった後、苦しそうに咽せ続けている。
「‥‥レオン‥!」
現れたのはレオンだった。レオンは無表情だけど、どうやらかなりの怒りを纏っているように感じる。
恐らくバートン卿の読み通り、カマル殿下が仕組んだことだったのかもしれない。
「‥‥‥‥こいつをここで殺すのは、いけないことなんですよね?」
静かに確認するように、レオンはそう言った。
「ハッ、俺を殺す??何を言ってーーー」
カマル殿下は会話の途中で突然動かなくなった。たぶん、レオンが魔法を使ったんだと思う。
「駄目よ、レオン。未来がまだどうなるか分からないから、手を出しちゃ駄目」
レオンは夜の狼のように鋭い目をしていた。
よく見ると、レオンのマントに血が沢山付いている。
「レオン、怪我をっ‥」
「返り血です。全部」
「えっ」
「こいつの従者たちと揉みあったんです。でも殺してませんよ、たぶん。ここには魔女たちが沢山いるから、きっと命を取り留めるはずです」
「レオン‥‥」
レオンはやっと私を見ると、小さく「すみません」と言った。
「久しぶりにキレちゃいました」
レオンがそう言った途端、ピタッと止まっていたはずのカマル殿下が動き出す。どうやら魔法を解いたみたいだ。
「あ?!なんだぁ?!」
「‥‥‥とっとと様子見に行かないと、あんたの従者たち死にますよ」
レオンが冷めた目つきでそう言うと、カマル殿下はハッとした表情を浮かべて獣道の奥の方へと走っていった。
「災難だったな。突然襲われたのか?」
「はい。あっちの奥から皇女様の声がしたとかなんとか言って誘い出されまして。必死で走る俺の頭を棒で後ろからガツンと。一瞬グラついた隙に従者たちに縛られて‥‥。おかげでタンコブできましたよ」
いてて、と痛がる素振りを見せるレオンだけど、カマル殿下の従者たち‥いつも姿を見せているわけじゃないけど10人以上は居たと思うんだけど‥。
まぁレオンには魔法があるから、何とか脱出することができたんでしょうね‥。
「大丈夫?レオン‥」
そう声をかけた途端、皮膚の表面にぱちぱちと刺激を感じ始めた。
「あっ、これ‥」
「飛ばされますね」
ヒュンッと一瞬足元から冷たくなって、体が弾けるような感覚に襲われる。
あぁ、次の場面に飛ばされるんだわ。
ーー今回はカマル殿下とのトラブルがキッカケということ‥?
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる