最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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95話

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 ーーー私たちが飛ばされたのはまたもや森の中。
茂みの中から辺りを見渡して、思わず「わぁ」と声を上げた。

 見覚えのある巨木があるから、きっと先程まで滞在していた拠点辺りだと思う。
 木製の建物の数が格段に増えている。色鮮やかな布製のガーランドが建物と建物を繋ぐように宙を彩っていた。

 雰囲気も明るくて、通りを歩く魔女たちにも笑顔が見える。
ーー恐らくまだ、魔女狩りは行われていないんじゃないかしら。

「‥‥転々と飛ばされると、望む未来に向かっているのか不安になりますね。一体ここは何年後なのでしょうか」

 バートン卿がしみじみと言葉を落とす。

「‥おっしゃる通りです。本当にこれで合っているのか‥」

 いや、そもそも‥
正解なんてあるのだろうか。

 私たちは私たちにとって都合の良い未来にしようとしてる。
考え出したらキリがないけど‥沢山の悲しみを消す方法だとしても、決してこれが正解だとは言い切れない。

 神様は怒っているかもしれない。‥でも、例えこれが人の道を背く行為だとしても、私たちは進むしかない。

「ーーーあ、あれ‥ローラじゃないですか?」

 レオンが後頭部にできたタンコブを摩りながら指を差した。
その方向にいたのは私と同じくらいの年齢の、銀の髪の美女だった。

 ローラは元々この拠点にいた女の子。多分さっきまでは10歳くらいだったはずだけど‥。

「本当だわ‥!ローラが大きくなってる‥!」

 銀の波打つ髪を揺らしながら、ローラは足取り軽くステップを踏んでいる。
 彼女は生まれた時に彼女の母から力を受け継いだ。踊ることで水の魔法を発動させることができるらしく、子ども時代にも踊っている姿をよく目にしていた。

 私たちが飛んでいる一瞬の間に、確実に皆の時間は進んでいるんだ‥。

 
 ーー増えている建物の数的に、きっと着実に“魔女狩りに向けての準備”を重ねてきたのだと思う。いつ大量に魔女たちが逃げてきてもここをシェルターとして使えるように、フェリシテ様をはじめとした魔女たちが頑張っているんだわ。

「ーーーーあぁ?!??!?!」

 突如響いた大声に、私たちは思わず声をあげて驚いた。慌てて振り返ると、私たちを指差して震え上がっているカマル殿下がいた。
 背も伸びガタイも良くなっているカマル殿下は、すっかり青年になっている。

 ここがフェリシテ様が作った拠点だからと危機感が薄れていたけど、そうか、カマル殿下もまだここにいたのね‥。

 ハッと慌ててレオンの方を見ると、案の定レオンの目が据わっている。一方のカマル殿下は長い時間の経過により怒りの感情を抱いていないみたいだけど、レオンからすれば出来立てのタンコブを摩るほど近々の出来事である。

「サ、サマンサだよな?!?!」

 そのうえ、どうやらそのレオンはカマル殿下の眼中に無い様子だ。
私は振り返ってレオンに「冷静にね」と小声で告げた。レオンは不服そうだけど小さく頷いている。

「お、お久しぶりです‥」

 私たちが未来から来たことに気付かれたら、彼は絶対に未来を知りたがる。

 適当なことを伝えても、本当のことを伝えても、カマル殿下にどんな影響を与えてしまうか分からない。
 未来を変えるために過去に来たけど、迂闊に行動することができなくてもどかしい。

「‥‥お前たち、なんか、何も変わってなくないか‥?」

 年下だったはずのカマル殿下は今はもはや年上だ。
かたや私たちは何ひとつ変わらず、着ているものさえ同じ。まぁ何を着ていたかをカマル殿下が覚えているかは別として。

「‥‥」

 なんと答えようか、と口籠もる私にカマル殿下は言葉を続ける。

「‥‥‥‥魔法か?‥‥そうだろ?じゃなきゃおかしい。お前らが突如消えたあの時からもう10年以上経ってるんだぞ‥?なぁ、レオン。お前のそのマントの血‥あの時のだろ?」

 レオンはムスッとしたまま「さぁ」と適当にはぐらかしたけれど、カマル殿下は思い悩むような表情をして「‥皇女」と呟いた。

「‥‥あの時確かに皇女と呼ばれてたよな?‥‥‥‥‥なぁ、サマンサは‥‥‥俺の子孫、なのか‥?」

 ーーーやっぱり、さすがにここまでの不審点が重なれば気付かれてしまうわよね‥。
 突然消えて突然現れ‥変化のない見た目、それに“皇女様”というワード。そもそもここは魔法が当たり前にある世界なんだから、何が起きてもおかしくない。

 時間を旅していても、不思議ではないんだ。‥ただ、

「‥‥子孫ではありません。確かにカマル殿下のおっしゃる通り、魔法で時空を超えていますが、私はカートライト帝国の者ではありません」

 私は極力顔色を変えないまま、真実と嘘の両方を織り交ぜて伝えた。
 事実、私はカマル殿下の子孫ではない。史実通りならばカマル殿下に子どもはいなかった。カマル殿下には酷だけど、私に流れているのはアロイス陛下とグレース皇后の血だ。

 誤魔化せるだけ誤魔化しておこうと思う。
彼に未来を伝えても、絶望しか与えられないのだから。


「‥‥‥未来から来てるんだよな?過去から遊びに来てるご先祖さまとかじゃないよな??なぁ、カートライト帝国の歴史について知ってることを話してくれよ」

 どうやら私がカートライトの皇女ではないという嘘を信じてくれたみたいだけど、やはり未来が知りたくて仕方がないみたいだ。
 まぁ、当然の反応ね‥。

「‥‥カートライト帝国の歴史には詳しくありません。‥すみません」

「‥‥‥‥そんなわけあるかよ。大国なんだぞ?‥‥‥まぁいい。それだけ遠い未来から来たってことにしてやる‥‥。なぁ、過去と未来が行き来できるのか??」

「‥‥今のところ、過去に飛んできて‥少しずつ未来に戻ってる感じです」

「ふーん。‥‥なぁ、少し先の未来に飛んでこの時代に戻ってくるってのはどうだ?やってみてくれないか?」


 カマル殿下は冷たい空気を放ったままのレオンをまるで気にせずに、目をきらきらと輝かせてそう言った。


「‥‥できないと思います‥」

 実際、不思議とそんな気がする。
赤黒い果実で得た爆発的な魔力。最大火力で過去に飛んできたような感覚で‥私の魔力はいまこのタイムトラベルに全て費やされているような気がする。

 過去の旅に体が慣れてきたのか、今この場で指を鳴らしても何も起きないと本能的に感じているのかもしれない。


「ーーーーそうか。まぁ、いい。俺もフェリシテにサマンサと同じ力を授けてもらえるよう頼んでみる。時空をモノにできたら怖いものなんてないだろ」


 確かに私の力は現に全てをやり直す為に使われているわけだし、この力を持ってやれることは無限にあると思う。
 カマル殿下は野心家な一面があるし、もしも本当にこの力をカマル殿下が得てしまったら‥


「‥あんたにそんな力やるわけないだろ。相変わらずお馬鹿だねぇ」

 上から降るようにして聞こえた声。
パッと顔を上げると、そこにはやれやれと笑いながら箒に跨るフェリシテ様の姿があった。

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