最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
97 / 123

96話

しおりを挟む

 前回、フェリシテ様と再会してもすぐに場面が変わることもなく、1週間ほど同じ時を過ごした。

 つまり何かその場面で為すべきことがあるということ。

 ーーきっと、全てをやり直す為に必要なアクションを取ることで次に進んでるんだ。

 

 一番最初に過去に来た時は、ジュンさんの薬小屋でフェリシテ様と再会してすぐに次の場面に飛んだ。

 あの時はレオンがフェリシテ様に“魔女狩り”によって不幸になった未来の話をしたのよね‥。

 次の場面は郊外の街の中。
魔女狩りを防ぐことによってレオンの存在が消えてしまうのは嫌だと泣き喚いていた私の背中を、フェリシテ様は優しく何度も撫でてくれた。

 結果、バートン卿が“避難するのはどうか”と提案してくれたことで、魔女狩りが行われる期間の間に魔女たちを避難させるという方向に話が進んで‥その後すぐに飛ばされたのよね。


 そうして次は森の中だった。
1週間の間、フェリシテ様とも沢山会話をしたし、魔女たちやカマル殿下とも話す機会があったけど‥なかなか場面は移らなかったのよね。

 移ったきっかけはレオンとカマル殿下の間に起きたトラブル‥。

 一度目の時も二度目の時も、何となくキッカケは想像できる。恐らくはフェリシテ様に“魔女狩り”を認知してもらって、そのうえで“避難”という道を見つけることができたから。

 三度目の森では、改変する前に何故“魔女狩りが行われたのか”を推測して点と点を繋げることができたけど、それで次の場面に移ることはなかったのよね。

 うーん。ハッキリとした共通点が見つけられないから、この魔法の法則を理解するのが難しいわ‥。


「そもそも、基準はなんなんだろう‥」


 ここは森の拠点にある小屋のひとつ。
カマル殿下はフェリシテ様にどこかに連れて行かれた為ここにはいない。

 私たちは3人で、この魔法について議論を交わしていたところだった。

「‥‥基準‥。とりあえず今現在って改変前と大きく差異があるわけじゃないんですよね。魔女の意識が変わってるってだけで」

 何も物がない小屋の中、直接床に座って3人で向き合っている。
 許可を貰ってこの小屋に入るまでに他の小屋の中も覗いてきたけど、殆どが空室だった。

 だから恐らく、小屋は増やしているけどこの拠点で生活をする魔女自体が極端に増えているわけではない。


 私たちの行動によって、もう既に改変前と生き方が変わっている人ももちろん存在する筈だけど、確かにレオンの言う通り歴史的に何か大きな違いが起きているわけではない。


「唯一目に見えての違いといえば、この拠点の存在と言えますね」

 バートン卿の言葉に思わずハッと目を丸めた。

「確かにそうですね!きっと改変前には森にこんなに大きな拠点はないはずですよね」

 私たちが知らないだけで実は改変前にも拠点が存在していたっていうパターンもあるかもしれないけど、無い可能性の方が大いにある気がするわ。

「ということは、歴史的に今のところ大きな差異はないけど、“拠点作り”は許されてるってことですかね‥?」

 レオンが首を傾げている。
ちなみに血だらけのマントはローラの水の魔法で洗ってもらい、今は外で干している最中だ。

「許されるって、誰に‥?」

「ん~。皇女様は強く願いながら過去に飛んできましたよね?基本的に魔法って自分の魔力を元に“ああしたい”っていう何か明確な思いがあってそれが形になるものだと思ってるんですけど」

「あ、うん‥。全てをやり直せるほどの過去に戻りたいって願ったわ」

「でもその“全てをやり直す”ってのは、まっさらな状態から何もかも全て新しく作り出すってわけじゃないですよね」

「え?えぇ。‥それはもちろん」


 私が望んだのはお父様とロジェが幸せに暮らしていて‥

 護衛の皆も、離宮の皆も、王宮の人たちも、魔女狩りのせいで不幸になった人たちも、みんなみんなその苦しみや悲しみから解放された世界‥。

 ーーーもちろん、レオンには隣にいて欲しい。

 何度も何度も、ずっと心の奥で願い続けてきたこと。


「魔法を発動させた皇女様の願いこそが基準だと思いますよ、俺は。‥‥その願いに繋げる為に許されるか許されないか、なんじゃないですかね。漠然としすぎてますし、そもそもあの果実食べてからの途方もない魔力での魔法なので‥ちょっと桁違いすぎて色々と予想つきませんけど」

「え‥‥‥?」

 聞き返したのは理解ができなかったからじゃない。

「‥?どうしましたか?」

「じゃあ‥‥私は思い描く通りの世界を作れるってこと?」

 目を見開いたまま尋ねると、レオンは困ったようにこめかみをぽりぽりと掻いていた。

「いや、仮定ですよ?さっきも言いましたけど、正直桁違いすぎてよく分かりません。“思い描く通りの世界”っていうと神様レベルの力なんですけど、俺たちのどの行動がどう未来に影響するのかなんて分かりませんし、“基準”とひと言で言ってもある意味無限だと思うんですよ」

 ああ、聞かなきゃよかったわ。
さっきまでは分かりやすくてスッと入ってきた気がするのに途端に分からなくなってしまった。

「基準が無限ってどういうことよ‥!」

「例えば皇女様が“帝国民たちを幸せにしたい”と願っていたとしても、その皆って一体何処の誰ですか?って話ですよ。何丁目の誰々をどんな風に幸せにしたいって願ったわけじゃないですよね?」

「‥そうね‥‥。そこまで具体的には‥」


 身近な人たちは具体的に思い描けても、さすがに魔女狩りで悲しい思いをした人たちをひとりひとり思い浮かべることなんて不可能だわ。


「例えば不幸から救いたいって願いも‥‥‥例えばですよ???極論ですけど、もしもその人にとって“死ぬ”ことが救いだったとしたら殺して救うっていう未来がある可能性もあるってことです」


 あー‥少しだけ理解できたかもしれない。

 私が望んだことが基準になっていると言っても、きっとそれはあまりにも抽象的でぼんやりとした理想なんだ。


「‥大筋は分かったけど、結局細かいところは分からずじまいってことね‥‥」

「もしその仮定が正しいのなら、ひとつ決定的な良い知らせがあるじゃないですか」

 静かに私たちの話を聞いていたバートン卿が笑う。

「‥え?なんですか??」

「皇女様の思い描く未来にはレオンも存在してますよね?」

「っ!!!!」

「ということは、きっとこの改変のあとも、そこは間違いないんじゃないですか?」


 レオンには隣にいてほしい、と‥それは確かに明確に心で思い描いていたこと‥。

 私がバッとレオンを見つめると、レオンは少し目を丸めて頬を赤くした。


「‥‥レオン」

「‥‥はい」

 ただそれだけのやりとりで胸が熱くなるのが分かる。
涙が出そうだ。‥きっと、もし本当にその仮説が正しければ‥レオンは未来でも、私の隣にいてくれるよね。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

慈愛と復讐の間

レクフル
ファンタジー
 とある国に二人の赤子が生まれた。  一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。  慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。  これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。  だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。 大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。  そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。  そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。  慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。  想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...