最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

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96話

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 前回、フェリシテ様と再会してもすぐに場面が変わることもなく、1週間ほど同じ時を過ごした。

 つまり何かその場面で為すべきことがあるということ。

 ーーきっと、全てをやり直す為に必要なアクションを取ることで次に進んでるんだ。

 

 一番最初に過去に来た時は、ジュンさんの薬小屋でフェリシテ様と再会してすぐに次の場面に飛んだ。

 あの時はレオンがフェリシテ様に“魔女狩り”によって不幸になった未来の話をしたのよね‥。

 次の場面は郊外の街の中。
魔女狩りを防ぐことによってレオンの存在が消えてしまうのは嫌だと泣き喚いていた私の背中を、フェリシテ様は優しく何度も撫でてくれた。

 結果、バートン卿が“避難するのはどうか”と提案してくれたことで、魔女狩りが行われる期間の間に魔女たちを避難させるという方向に話が進んで‥その後すぐに飛ばされたのよね。


 そうして次は森の中だった。
1週間の間、フェリシテ様とも沢山会話をしたし、魔女たちやカマル殿下とも話す機会があったけど‥なかなか場面は移らなかったのよね。

 移ったきっかけはレオンとカマル殿下の間に起きたトラブル‥。

 一度目の時も二度目の時も、何となくキッカケは想像できる。恐らくはフェリシテ様に“魔女狩り”を認知してもらって、そのうえで“避難”という道を見つけることができたから。

 三度目の森では、改変する前に何故“魔女狩りが行われたのか”を推測して点と点を繋げることができたけど、それで次の場面に移ることはなかったのよね。

 うーん。ハッキリとした共通点が見つけられないから、この魔法の法則を理解するのが難しいわ‥。


「そもそも、基準はなんなんだろう‥」


 ここは森の拠点にある小屋のひとつ。
カマル殿下はフェリシテ様にどこかに連れて行かれた為ここにはいない。

 私たちは3人で、この魔法について議論を交わしていたところだった。

「‥‥基準‥。とりあえず今現在って改変前と大きく差異があるわけじゃないんですよね。魔女の意識が変わってるってだけで」

 何も物がない小屋の中、直接床に座って3人で向き合っている。
 許可を貰ってこの小屋に入るまでに他の小屋の中も覗いてきたけど、殆どが空室だった。

 だから恐らく、小屋は増やしているけどこの拠点で生活をする魔女自体が極端に増えているわけではない。


 私たちの行動によって、もう既に改変前と生き方が変わっている人ももちろん存在する筈だけど、確かにレオンの言う通り歴史的に何か大きな違いが起きているわけではない。


「唯一目に見えての違いといえば、この拠点の存在と言えますね」

 バートン卿の言葉に思わずハッと目を丸めた。

「確かにそうですね!きっと改変前には森にこんなに大きな拠点はないはずですよね」

 私たちが知らないだけで実は改変前にも拠点が存在していたっていうパターンもあるかもしれないけど、無い可能性の方が大いにある気がするわ。

「ということは、歴史的に今のところ大きな差異はないけど、“拠点作り”は許されてるってことですかね‥?」

 レオンが首を傾げている。
ちなみに血だらけのマントはローラの水の魔法で洗ってもらい、今は外で干している最中だ。

「許されるって、誰に‥?」

「ん~。皇女様は強く願いながら過去に飛んできましたよね?基本的に魔法って自分の魔力を元に“ああしたい”っていう何か明確な思いがあってそれが形になるものだと思ってるんですけど」

「あ、うん‥。全てをやり直せるほどの過去に戻りたいって願ったわ」

「でもその“全てをやり直す”ってのは、まっさらな状態から何もかも全て新しく作り出すってわけじゃないですよね」

「え?えぇ。‥それはもちろん」


 私が望んだのはお父様とロジェが幸せに暮らしていて‥

 護衛の皆も、離宮の皆も、王宮の人たちも、魔女狩りのせいで不幸になった人たちも、みんなみんなその苦しみや悲しみから解放された世界‥。

 ーーーもちろん、レオンには隣にいて欲しい。

 何度も何度も、ずっと心の奥で願い続けてきたこと。


「魔法を発動させた皇女様の願いこそが基準だと思いますよ、俺は。‥‥その願いに繋げる為に許されるか許されないか、なんじゃないですかね。漠然としすぎてますし、そもそもあの果実食べてからの途方もない魔力での魔法なので‥ちょっと桁違いすぎて色々と予想つきませんけど」

「え‥‥‥?」

 聞き返したのは理解ができなかったからじゃない。

「‥?どうしましたか?」

「じゃあ‥‥私は思い描く通りの世界を作れるってこと?」

 目を見開いたまま尋ねると、レオンは困ったようにこめかみをぽりぽりと掻いていた。

「いや、仮定ですよ?さっきも言いましたけど、正直桁違いすぎてよく分かりません。“思い描く通りの世界”っていうと神様レベルの力なんですけど、俺たちのどの行動がどう未来に影響するのかなんて分かりませんし、“基準”とひと言で言ってもある意味無限だと思うんですよ」

 ああ、聞かなきゃよかったわ。
さっきまでは分かりやすくてスッと入ってきた気がするのに途端に分からなくなってしまった。

「基準が無限ってどういうことよ‥!」

「例えば皇女様が“帝国民たちを幸せにしたい”と願っていたとしても、その皆って一体何処の誰ですか?って話ですよ。何丁目の誰々をどんな風に幸せにしたいって願ったわけじゃないですよね?」

「‥そうね‥‥。そこまで具体的には‥」


 身近な人たちは具体的に思い描けても、さすがに魔女狩りで悲しい思いをした人たちをひとりひとり思い浮かべることなんて不可能だわ。


「例えば不幸から救いたいって願いも‥‥‥例えばですよ???極論ですけど、もしもその人にとって“死ぬ”ことが救いだったとしたら殺して救うっていう未来がある可能性もあるってことです」


 あー‥少しだけ理解できたかもしれない。

 私が望んだことが基準になっていると言っても、きっとそれはあまりにも抽象的でぼんやりとした理想なんだ。


「‥大筋は分かったけど、結局細かいところは分からずじまいってことね‥‥」

「もしその仮定が正しいのなら、ひとつ決定的な良い知らせがあるじゃないですか」

 静かに私たちの話を聞いていたバートン卿が笑う。

「‥え?なんですか??」

「皇女様の思い描く未来にはレオンも存在してますよね?」

「っ!!!!」

「ということは、きっとこの改変のあとも、そこは間違いないんじゃないですか?」


 レオンには隣にいてほしい、と‥それは確かに明確に心で思い描いていたこと‥。

 私がバッとレオンを見つめると、レオンは少し目を丸めて頬を赤くした。


「‥‥レオン」

「‥‥はい」

 ただそれだけのやりとりで胸が熱くなるのが分かる。
涙が出そうだ。‥きっと、もし本当にその仮説が正しければ‥レオンは未来でも、私の隣にいてくれるよね。

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