最も死に近い悪女になりました(完)

えだ

文字の大きさ
98 / 123

97話

しおりを挟む

 私が“漠然と思い描いた未来”に繋げる為に、こうして飛ばされているのだとしたら‥。

 前回から10年以上経ったこの森の拠点の中で、きっとまた何かをする必要があるんだと思う。


「‥私、思うんだけど‥‥。カマル殿下がまだこの拠点に滞在してるってことは、カマル殿下がまだ王座を諦めていないからよね」

 リセット魔法を欲しがっているところからも分かる。カマル殿下の野心はまだ彼の心の中で渦巻いているんだわ。

「そうですね。俺の存在を作り上げるには魔女狩りというイベントは必須でしょうし、カマル殿下がこのまま野心を持って王座を狙うことがやはり魔女狩りに繋がるんでしょうね」


 改変前はカマル殿下が王位争奪戦に敗れて10数年後に処刑、その後すぐに魔女狩りは始まった。
 ということは大きな差異がない限り、魔女狩りはそろそろ始まる可能性があるということ‥。


「いま現在の関係性ですと、カマル殿下が魔女たちを貶めて魔女狩りに発展させる‥という展開はなさそうですが‥」

 バートン卿の言葉に「確かに」と頷く。

 フェリシテ様も、改変前は孤独感や人恋しさからカマル殿下に惚れていたかもしれないと言っていた。
 そのことからも、男女間の縺れから魔女狩りに繋がる可能性は追えたけど‥先程のフェリシテ様とカマル殿下の様子的にそんな展開にはなりそうもない。

 ‥‥ということは。

「その展開のきっかけを作るのが‥ここでの使命なのかしら‥」

 あくまでも魔女狩りありきならば、魔女狩りに繋がるように動くのが為すべきこと‥?

「‥‥敢えて関係を壊すわけですか‥」

 レオンがタンコブを摩りながら憂鬱そうに呟く。私もバートン卿も、レオンと同じように暗い表情を浮かべていた。

 カマル殿下はレオンに危害を加えたし、強引なところもあるからあまり得意じゃない。けれど、魔女狩りを敢えて起こさせるということは‥

 私たちが知らぬ間にも築き上げてきたはずの、カマル殿下と魔女たちの絆を打ち砕き‥彼を落とす行為。

 レオンの存在が残る可能性を噛み締めて喜んでいた筈なのに、私たちの纏う空気は一気に重く暗いものになった。

 そもそも、為すべき事が果たされなければ次の場面にも飛ばされない。なんて酷なのだろう‥。





 ーーーその頃のカマル。
彼はもう何度目か分からないフェリシテとの喧嘩を終え、頬を膨らませながら森の奥の川辺に来ていた。

 彼の隣には従者のジャンヌがいる。

「‥‥ケチだよなぁ。フェリシテ曰く“今の私の練度じゃ時間に関する魔法を授けられない”とか言ってたけどさ。本当かよって。だってあいつ頭の中でイメージした魔法を他人に授けられるんだろ?それならさー、できるよなぁ!」

 カマルは唇を尖らせながら、透明な川の水を見つめていた。カマルはどこか幼さを感じさせる部分がある。こうして素を曝け出せる場面では尚のことだった。

 兄に負けて多くのものを失ったカマルは、苦しみ続けた心を何度もこの川に癒されてきた。ここは間違いなく、カマルの心の拠り所だ。

「魔法にも練度があると発見したのは他ならぬカマル殿下ではありませんか」

 ジャンヌがそう言うと、カマルは小さく唸った。
確かにジャンヌの言う通りだ。カマルが持つ“自身を癒す”魔法は、今では他人を癒したり、他人から“生命力を奪う”という真逆とも言える力まで扱えるようになった。

 カマルはずっとこの拠点に潜み続けていたわけじゃない。きたる日に備え、各地に散る仲間たちと共に時折政府軍と戦いながら勢力を強めてきたのだ。

 そうして、魔法には伸び代があるのだと発見したのである。

「そうだけど!!あの気味の悪い果実を食べて魔力を増強させた状態なら、練度をあげるのも容易いだろうに‥。フェリシテは俺の話をまるで聞いてくれない」

「なら、聞かせればいいのです」

「‥え?」

「生命力を奪って脅せば聞いてくれるでしょう」

「いやいやいや。そんなこと、フェリシテにできるわけないだろ?!それにあいつは精神を操れるんだぞ。返り討ちに遭うに決まってる」

「フェリシテ様の生命力を奪ってはなりませんよ。彼女ご自身が発言しておりましたが、彼女の魔力は莫大な生命力から練られたもの。彼女の生命力を奪ってしまったら、カマル殿下に魔法を授ける力まで失ってしまいます」

 フェリシテの魔力は彼女の無限とも言える生命力を元に生み出されたもの。
 その魔力を溜めて他者に力を授けているのだが、また魔力が十分に溜まるまでは長い時間がかかってしまう。その為にあの赤黒い果実で増強させる事があるのだが、あの果実も常に採取できるものではない。

 改変前にサマンサに魔法を授けた際には、果実で増強した魔力とそれまでの経験で得た練度の向上により“リセット魔法”を授けることができたのだ。
 水や薬、ましてや精神的な魔法ではなく‥時間に纏わる魔法こそサマンサが求めるものだと踏んでのことである。

 ーー結局、レオンの裏切りにより“魔女の母”にとっての復讐は失敗に終わったのだが。


「ジャンヌ、俺は、罪のない奴の生命力を奪うようなことはしたくない」

 透明な水面に2人の顔が映っている。
怪訝そうな表情のカマルと、余裕を含んだ笑みを浮かべているジャンヌ。

 ジャンヌは水を手のひらで掬い上げた。
ばしゃばしゃと音を立て、その手のひらから水が零れ落ちていく。

「ーーー何の犠牲もなく前に進めるとお思いなのでしょうか。カマル殿下が狙うのは王座です。10年以上の時を経て、まさかそのお心に秘めた牙が折れてしまったのでしょうか。わたくしはカマル殿下の野心に魅せられてここまでついてきたのです」

 カマルはグッ、と息を飲んだ。握りしめる拳に力が入る。

 ジャンヌは何度も水を掬い上げた。その度に音を立てながら水は落ちていく。

 その光景を、カマルはじっと見ていた。


 ーーああ、この手は‥。‥‥何も手にすることができていない俺の手か。


「甘いことなど言ってられません。貴方は皇帝になるお方でしょう?」


 ジャンヌが目を細めてそう言うと、カマルは数秒黙り込んだ後に「あぁ」と小さく呟いた。

 ーー水面に映る彼の表情は、どこか覚悟を決めたように見えた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...