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97話
しおりを挟む私が“漠然と思い描いた未来”に繋げる為に、こうして飛ばされているのだとしたら‥。
前回から10年以上経ったこの森の拠点の中で、きっとまた何かをする必要があるんだと思う。
「‥私、思うんだけど‥‥。カマル殿下がまだこの拠点に滞在してるってことは、カマル殿下がまだ王座を諦めていないからよね」
リセット魔法を欲しがっているところからも分かる。カマル殿下の野心はまだ彼の心の中で渦巻いているんだわ。
「そうですね。俺の存在を作り上げるには魔女狩りというイベントは必須でしょうし、カマル殿下がこのまま野心を持って王座を狙うことがやはり魔女狩りに繋がるんでしょうね」
改変前はカマル殿下が王位争奪戦に敗れて10数年後に処刑、その後すぐに魔女狩りは始まった。
ということは大きな差異がない限り、魔女狩りはそろそろ始まる可能性があるということ‥。
「いま現在の関係性ですと、カマル殿下が魔女たちを貶めて魔女狩りに発展させる‥という展開はなさそうですが‥」
バートン卿の言葉に「確かに」と頷く。
フェリシテ様も、改変前は孤独感や人恋しさからカマル殿下に惚れていたかもしれないと言っていた。
そのことからも、男女間の縺れから魔女狩りに繋がる可能性は追えたけど‥先程のフェリシテ様とカマル殿下の様子的にそんな展開にはなりそうもない。
‥‥ということは。
「その展開のきっかけを作るのが‥ここでの使命なのかしら‥」
あくまでも魔女狩りありきならば、魔女狩りに繋がるように動くのが為すべきこと‥?
「‥‥敢えて関係を壊すわけですか‥」
レオンがタンコブを摩りながら憂鬱そうに呟く。私もバートン卿も、レオンと同じように暗い表情を浮かべていた。
カマル殿下はレオンに危害を加えたし、強引なところもあるからあまり得意じゃない。けれど、魔女狩りを敢えて起こさせるということは‥
私たちが知らぬ間にも築き上げてきたはずの、カマル殿下と魔女たちの絆を打ち砕き‥彼を落とす行為。
レオンの存在が残る可能性を噛み締めて喜んでいた筈なのに、私たちの纏う空気は一気に重く暗いものになった。
そもそも、為すべき事が果たされなければ次の場面にも飛ばされない。なんて酷なのだろう‥。
*
ーーーその頃のカマル。
彼はもう何度目か分からないフェリシテとの喧嘩を終え、頬を膨らませながら森の奥の川辺に来ていた。
彼の隣には従者のジャンヌがいる。
「‥‥ケチだよなぁ。フェリシテ曰く“今の私の練度じゃ時間に関する魔法を授けられない”とか言ってたけどさ。本当かよって。だってあいつ頭の中でイメージした魔法を他人に授けられるんだろ?それならさー、できるよなぁ!」
カマルは唇を尖らせながら、透明な川の水を見つめていた。カマルはどこか幼さを感じさせる部分がある。こうして素を曝け出せる場面では尚のことだった。
兄に負けて多くのものを失ったカマルは、苦しみ続けた心を何度もこの川に癒されてきた。ここは間違いなく、カマルの心の拠り所だ。
「魔法にも練度があると発見したのは他ならぬカマル殿下ではありませんか」
ジャンヌがそう言うと、カマルは小さく唸った。
確かにジャンヌの言う通りだ。カマルが持つ“自身を癒す”魔法は、今では他人を癒したり、他人から“生命力を奪う”という真逆とも言える力まで扱えるようになった。
カマルはずっとこの拠点に潜み続けていたわけじゃない。来る日に備え、各地に散る仲間たちと共に時折政府軍と戦いながら勢力を強めてきたのだ。
そうして、魔法には伸び代があるのだと発見したのである。
「そうだけど!!あの気味の悪い果実を食べて魔力を増強させた状態なら、練度をあげるのも容易いだろうに‥。フェリシテは俺の話をまるで聞いてくれない」
「なら、聞かせればいいのです」
「‥え?」
「生命力を奪って脅せば聞いてくれるでしょう」
「いやいやいや。そんなこと、フェリシテにできるわけないだろ?!それにあいつは精神を操れるんだぞ。返り討ちに遭うに決まってる」
「フェリシテ様の生命力を奪ってはなりませんよ。彼女ご自身が発言しておりましたが、彼女の魔力は莫大な生命力から練られたもの。彼女の生命力を奪ってしまったら、カマル殿下に魔法を授ける力まで失ってしまいます」
フェリシテの魔力は彼女の無限とも言える生命力を元に生み出されたもの。
その魔力を溜めて他者に力を授けているのだが、また魔力が十分に溜まるまでは長い時間がかかってしまう。その為にあの赤黒い果実で増強させる事があるのだが、あの果実も常に採取できるものではない。
改変前にサマンサに魔法を授けた際には、果実で増強した魔力とそれまでの経験で得た練度の向上により“リセット魔法”を授けることができたのだ。
水や薬、ましてや精神的な魔法ではなく‥時間に纏わる魔法こそサマンサが求めるものだと踏んでのことである。
ーー結局、レオンの裏切りにより“魔女の母”にとっての復讐は失敗に終わったのだが。
「ジャンヌ、俺は、罪のない奴の生命力を奪うようなことはしたくない」
透明な水面に2人の顔が映っている。
怪訝そうな表情のカマルと、余裕を含んだ笑みを浮かべているジャンヌ。
ジャンヌは水を手のひらで掬い上げた。
ばしゃばしゃと音を立て、その手のひらから水が零れ落ちていく。
「ーーー何の犠牲もなく前に進めるとお思いなのでしょうか。カマル殿下が狙うのは王座です。10年以上の時を経て、まさかそのお心に秘めた牙が折れてしまったのでしょうか。わたくしはカマル殿下の野心に魅せられてここまでついてきたのです」
カマルはグッ、と息を飲んだ。握りしめる拳に力が入る。
ジャンヌは何度も水を掬い上げた。その度に音を立てながら水は落ちていく。
その光景を、カマルはじっと見ていた。
ーーああ、この手は‥。‥‥何も手にすることができていない俺の手か。
「甘いことなど言ってられません。貴方は皇帝になるお方でしょう?」
ジャンヌが目を細めてそう言うと、カマルは数秒黙り込んだ後に「あぁ」と小さく呟いた。
ーー水面に映る彼の表情は、どこか覚悟を決めたように見えた。
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