164 / 214
165話 凪
しおりを挟む俺は同じような平原を走る。
凪を探すためだ。
俺はこの近くに凪が居ると確信している。
俺はある気配を感じてその場に止まった。
「なにか来る…………。」
音がしたり、何かが見えた訳では無い。
というか、何も無い。
しかし、それこそおかしかった。
このだだっ広い平原の奥から、何も無いが近づいてきている。
俺は黒鉄を構え、その方向を見る。
闇だ。
俺の目には何も映らない、闇の塊のような物が近づいてきている。
暗いとかそういうレベルじゃない。
完全に光を通していない。
俺は直感的に、あれが凪だと思った。
今だからこそ分かるあの異質さ。
まるで周りの魔力を全て吸収しているような様子だ。
俺は黒鉄に魔力を込める。
凪はそれに反応したのか勢い良くこちらに近づいてくる。
近づくと、凪は金切り声とも違う本当に人間から出ている声とは思えない声を上げていた。
知性があるようには聞こえない。
だが、そんなのは関係無い。
俺の憎悪が吹き上がる。
諸悪の根源、凪への憎悪は凄まじかった。
まるで俺が俺で無くなるような感覚だった。
「…………死ね!」
俺は闇雲に黒鉄へと攻撃を放つ。
しかし、その攻撃は闇に飲み込まれ、消えてなくなってしまう。
…………なんなんだあれは?
まるで攻撃が効いていない。
俺はその様子を見て歯軋りをした。
こんなんじゃダメだ。
ゆうちゃんをあんな目に合わせたヤツが辛い思いをしないなんて、絶対に許せない。
少なくとも永遠に死の何倍もの苦しみを、いや、その程度では生ぬるい。
何よりも苦しんでもらわなければいけない。
なのにあれはなんだ?
苦しむどころが、そんな事を感じる理性もないのでは無いか?
しかも俺の攻撃は通らない。
俺の憎悪がどんどんと増していく。
凪はそんな俺に対してどんどんと近づいてくる。
その闇が俺に触れた瞬間、俺はそれに飲み込まれるような錯覚に陥った。
そして、その闇の真ん中で何かがニヤリと笑った。
「やっとだ…………僕のメインデッシュ、みぃつけた!」
「…………。」
気持ち悪い。
どこまでも気持ち悪い。
こいつはゆうちゃんをあんな目にあわせた挙句、さらに罪を重ねようっていうのか?
俺はその闇の中にいるであろう凪へと直接斬り掛かる。
「あはははははははは! 今ならそれだって…………!」
その瞬間、激しい金属が鳴り響いた。
その音は俺の手に持っている黒鉄から放たれていた。
「なんで…………。まぁ、いいっすよ、僕はメインディッシュが食べれればそれで満足っすよ!」
「…………カスが! 食わせるわけが無いだろ!」
俺は体を捻り、その吸い込まれる感覚を払おうとするが、上手くいかない。
それでも俺は凪がいるであろう場所に斬り掛かる。
その度に激しい金属音が鳴るが、すぐに手応えがなくなってしまう。
多分避けられたのだろう。
凪は姿形や音すらも消している。
ただ本人が喋ろうとしていることだけが俺に聞こえているため、凪が何処にいるかは見当もつかない。
ただ、闇雲に黒鉄を振り回すしか無い。
しかし、嫌な事に金属音がなるにつれて少しづつ俺の手や体にもダメージが入っていることに気づく。
様々な攻撃を俺の中のナニカが防いでいるという感覚はある。
この闇の中に居るだけでも俺は体を蝕み続けられているのだろう。
だが、それの殆どは俺の中のナニカが処理して俺に攻撃が届かないようにしてくれていた。
「…………やっぱり、メインディッシュなだけあってしぶといっすね。けど、それだけ美味しいってことっすよね!」
「…………。」
もう俺は凪の言葉に暴言を吐く気すら無くなってきた。
こいつは駄目だ、もう終わっている。
この世に居ていいものじゃない。
本当はじわりじわりと痛ぶって拷問という拷問をうけさせ、あらゆる苦痛を与えてつつ一生延命し続け死さえ許さない気でいたが、気が変わった。
あれは今ここで殺す。
俺はまず今ここをおおっている闇を何とかすることにした。
俺は闇に手を伸ばし、凪を掴む。
…………物凄い勢いで俺の腕が食われている。
だが、その程度では俺の再生に劣っている。
俺はそのまま呟く。
【夢奪】
俺はそのスキルを使った。
効果ははっきりいって分からない。
だが、その使い方は俺の中のナニカが教えてくれるのだ。
俺がそのスキルを使うと、瞬時にその闇に光が差し込む。
周りが色付き、凪の姿が見える。
「…………は?」
俺はその姿を見て唖然としてしまう。
それは確実に凪だった。
凪だったのだが、明らかに全てがおかしい。
何故なら、凪の姿は真っ黒な人型の影のような姿だったからだ。
凪は周りの闇が払われた事に驚いたのか、少し困惑した様子を見せていた。
なぜあんな姿になってしまったのかは分からないが、確実に碌でもない理由だろう。
少しだけ困惑していた凪だったが、俺の事をその目で見た瞬間、ニタリと笑った。
俺は腹の奥から何かが込み上げてくるような感覚に陥る。
勿論何も食べていないので何も出るはずは無い。
それでも俺は嗚咽を漏らした。
あれは生理的に無理だ。
俺は黒鉄を向ける。
「お前だけは殺す!」
俺はそのまま凪へと立ち向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる