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179話 過去9

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 中央教会の長はその場に跪いた。

 俺もそれにならってその場に跪く。


「日曜の現人神様、夢想というスキルを持つ少年を連れて参りました。お姿をお見せください。」


 中央教会の長の声がその場に響き渡る。

 しかし、返答は無い。

 中央教会の長はそのまま跪いている。

 少したって目の前から眩い光が見える。

 ゆっくりと前の壁が開きだしたのだ。

 その中は全てが最高品質の家具が揃えられており、その真ん中にある椅子に座っている人が見えた。

 その人は20代ほどのイケメンを絵に書いた様な金髪の人で、見下すような目をしていた。

 その瞬間、中央教会の長が頭を深深と下げる。

 俺もそれに従い頭を下げた。


「ほぅ、お前が夢想を持っている少年か…………。」


 俺がちらっと目の前の人を見ると、その人はじっくりと品定めをする様に俺の事を見つめていた。

 一瞬目があってしまったような気がして、俺は咄嗟に顔を伏せた。

 やや経って日曜の現人神様は俺に話しかけてきた。


「少年、こっちに来い。」


 俺は顔を上げる。

 えっと、これは言っていいのだろうか?

 俺はよく分からなくなり、中央教会の長に視線を向けると、目で早く行けと訴えていた。

 俺は素直に立ち上がり日曜の現人神様の元へと歩いて行く。


「お前、名は?」

「は、はい、モルフィスと言います!」

「…………それは本名か?」

「…………と、言いますと?」


 本名と言われても俺が知っているのはこの名前だけだ。

 オルクスに拾われる前の俺の名はもう覚えていないし、今はモルフィスが本名だ。

 その頃の名を問われたとしても分からない。


「…………まぁ、良い、お前は夢想についてどれだけ知っている?」

「…………特に何も聞いた事はございません。」

「そうか…………。」


 日曜の現人神様は少々思案した。


「分かった、じゃあこれからお前はここで暮らせ。」

「えっ!?」


 唐突に言われたその言葉に俺はびっくりした。

 ここに住むなんて俺は出来ない。

 俺は教会で働かなくてはいかないし、そもそもここで暮らしていれば教会のみんなとは会えなくなってしまう。

 俺の生きがいはみんなと楽しく暮らすことだ。

 その為に生きていると言っても過言では無い。

 故に俺はここに居ることは出来ない。

 俺はその事を進言しようとする。


「に、日曜の現人神様、1つ頼みたいのですが…………。」

「ん? なんだ、頼み事だと?」

「は、はい、私がここに住まわせるのはやめて貰いたいのです。」

「ほう? その理由とは?」

「私はこれでも教会長でございます、故に教会に待っている人達が居ます。なので出来れば住み込みでここで働いたりするのは勘弁していただきたいのです。」

「そうか、分かった。」


 日曜の現人神様はそう言ってくれた。

 俺はその瞬間、ほっとしたが、それは間違いだった。

 次の瞬間日曜の現人神様が発した言葉に俺は戦慄したした。


「じゃあ、その教会を潰してしまうか。」


 俺は言葉を失ってしまう。

 教会を潰す?

 なんでそんな発想になるんだよ、俺は教会に戻ることを望んだのに、それを潰すのか?

 しかも自分の為の教会を自分自身で?

 俺は慌てて日曜の現人神様に訂正する。


「えっと、教会は潰さないでください! 私の家族達が住んでいる場所なのです、お願いですからそれだけはやめてください!」

「ふむ、じゃあここで暮らせるか?」

「それは…………。」

「お前のスキルの特性上ここ以外に住むと言うのは有り得ん。異論は認めない。」


 なんて理不尽だ。

 あの教会は少なくとも俺が居なくては立ち行かない。

 みんなが生きていくことは出来るだろう。

 みんなは優秀な子達だ。

 1人だとしても生きていける。

 しかし、教会はそれだけでは無い。

 みんなの憩いの場となり、孤児などを受けいれる事が出来る場所だ。

 今ではあそこを中心にスラムの生活も少しづつ良くなってきていた。

 なのに、そんな時に俺が居なくなってしまえば教会は使えなくなってしまう。

 それだけは避けたいが、潰れるよりかはマシだ。

 俺が居なくなったとしてもみんなで何とかしてくれるはずだ。

 俺は渋々その提案を了承した。

 日曜の現人神様はパチンと指を弾いた。

 その瞬間、どこからとも無く1人の人物が現れた。

 その人は黒い衣装に身を包み、ここでは無いところなら見えなくなるような見た目をしていた。

 日曜の現人神様はその人に何かを伝える。

 その黒い人は俺をどこかへ連れていった。

 俺が連れてこられたのはベッドとトイレが置かれた質素な部屋だった。


「モルフィス様は今日からここで暮らすことになります、何か不都合があればお申し付けください、私はどこにでも居ますので。」

「じゃ、じゃあ、なんで俺はこんな事をされてるのか教えてくれませんか!? 何が何だか分からなくて…………。」


 いきなり伝説級のスキルを持っていると言われてここまで連れてこられた挙句、今は監禁状態。

 圧倒的説明不足だ。

 こんな状況なら誰でも戸惑ってしまうだろう。

 黒い人は俺の質問にただ淡々と答え出した。


「あなたのスキルは日曜の現人神様にとって有用と判断されたからでございます。」

「いや、だからといってこんなところに監禁はしないですよね? そんなに強いスキルを持っているならその力を使いたい時に呼べばいい話ですし…………。」

「分かりました、お教えしましょう。」


 黒い人は口調を変えずに話し始めた。
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