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180話 過去10
しおりを挟む「貴方の持つスキル、夢想は原初のスキルと言われているものです。」
「…………と、言いますと?」
「夢想の能力は魔力を生み出すというものです、全てのスキルを所得するためにはこの魔力が必要なのでこのスキルが1番初めに生まれたスキルなのでは? と言われることからそう言われているらしいです。まぁ、文献もかなり昔のものなので信憑性は無いのですけどね。」
「…………え?」
俺は言葉を失ってしまう。
本来、魔力というものはどこにでもある普遍的なものだ。
魔力はスキルを所得するためだけでなく、その魔力を使う事によって成長することが出来る。
だからこそ魔力はこの世界の人にとって最も普遍的だが、最も重要なものなのだ。
まれに魔力が強い場所というのもあるらしいが、そういう場所はたまたま魔力の流れがぶつかるところだったりするだけで、そこで魔力が生み出されたりしている訳では無い。
しかし、人工的に魔力が生み出せたら?
その価値は計り知れないものになるだろう。
その場所でトレーニングしたりするだけで普通よりも効果が出るのだ。
人間には寿命があるため、ある程度の境地までにしか至れない。
しかし、意図的に魔力が強い所で鍛錬を繰り返せば現在の人間では考えられない程の境地に至ることが出来る。
そんな能力が俺にあるなど、にわかに信じられなかった。
「で、でもなんでわかったんですか!? 魔力を図る装置などこの世に無いはずですよね?」
「それは、まぁ憶測に過ぎないのですが、近頃スラム全体の能力が異常な程向上しているという話がここまで届きまして、もしかしたらと思われた日曜の現人神様がそこに使いを向かわせたところ、あなたがいたという訳です。あの教会であそこまで優秀な人材が輩出されていたのもそれが原因でしょう。」
そうだったのか…………。
確かにみんなの成長は異常な程早かった。
普通に考えればあの若さであの能力の高さは流石におかしい。
セイラだって俺とあってから商人としての頭角を現し出した。
それも全て俺のスキルによるものだったという事なのか…………。
「いや、ちょっと待ってください! なら俺が全然成長していないのには説明がつかないじゃないですか! その話が本当なら魔力の中心に居るはずの俺がこんなに弱い訳ないじゃないですか!」
俺はみんなと違ってほとんどスキルも持っていなければ、身体能力も低い。
俺がそんな能力を持っているなら魔力が生まれている場所にいる俺が1番強いはずだ。
なのに、俺は弱い。
これだったら辻褄が合わないじゃないな。
俺がそう問うと黒い人は少し思案して答えを出した。
「多分、あなたの夢想にかなりの魔力を取られていたのではないでしょうか? 夢想は強力なスキルなので魔力の殆どを吸われていたとしてもおかしくはありません。」
「そんな…………。」
じゃあ、俺は成長できないってことなのか?
あんなに頑張って仕事をしてもそれに関するスキルが手に入った様子がなかったのはそのせいだったってことなのか?
…………けど、それならそれで別にいいか。
俺が苦労をした代わりに教会のみんなは良いスキルが手に入り、お金にもあまり困っていない。
俺の事なんてどうでもいいんだ、みんなが幸せならそれで俺はいい。
「…………最後にひとつお聞きしてもいいですか?」
「はい、なんでしょうか?」
「俺はいつになったら帰れるのでしょうか? 生涯ここで暮らすことになったとしても教会のみんなとは会いたいのですが…………。」
たとえ少しの間だけでも会えるのならばそれでいい。
俺の人生の全ては教会のみんななんだ。
俺がここに居ればみんなの待遇も良くなるかもしれないし、それなら俺はこの身を捧げるつもりでいた。
しかし、黒い人から帰ってきた言葉は想像を絶するものだった。
「…………申し訳ございませんが、モルフィス様にはここから出てもらうことは出来ません。常に魔力を生み出し日曜の現人神様に献上する仕事ですので、それ以外に魔力を流出させることは出来ないのです。」
「う、うそですよね…………流石に日曜の現人神様でもそこまではしませんよね?」
「…………近頃は他の七曜の現人神様たちからの攻撃も激化しています。その為日曜の現人神様も力を付けなくては行けないのです、ご容赦を…………。では、私はこれで…………。」
「ちょ、待ってくれ!」
黒い人は俺の静止を聞かず、そのまま出ていってしまった。
俺は近くにあったベッドに力無く横たわる。
ベッドは前々から使っていたベッドと比べると比べるのもおこがましいほどの高品質なものだった。
しかし、今の俺に俺を楽しむ余裕は無い。
俺は頭の中で思考がぐるぐると同じところを回っている感覚を覚えた。
俺はもうここから出れない?
そんなの、俺を人間じゃなくてただのモノ扱いしてるのと同じゃないか。
日曜の現人神様は俺たちに幸せをもたらしてくれるんじゃなかったのか?
少なくとも俺は毎日祈りを続けていた。
なのに、こんな仕打ちはあんまりじゃないか。
…………絶対にここから抜け出してやる。
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