軍神と呼ばれた男

なべ

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群雄割拠

第1次川中島の戦い

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「今回の戦はなかなかの成果でござったな」

評定の席にて、穴山信君が凱旋帰国してきた原 虎胤と話していた。

天文22年(1553年)7月、信濃への侵攻作戦で村上義清方の光城、上ノ山城、刈谷原城を落城しての凱旋である。
戦火としては上々であった。


「なんでも村上義清は葛尾城を捨て、越後国に落ち延びたようで。」
「いよいよ北信濃を平定すれば信濃もひと段落ですな」

前当主 信虎の時代は、信濃諏訪氏とは和睦をし、佐久郡・小県郡へ侵攻をしていたが、晴信の代になってからは駿河の今川義元、相模の北条氏康との関係を強固にしていく一方、信濃への侵攻を第一目標としていた。

信濃では守護の小笠原氏の力が弱まり、各国人領主がそれぞれ独立、争っている状態だったため、武田晴信の侵攻を食い止めることが出来なかった。

そんな中でも葛尾城の村上義清は
上田原の戦い、砥石崩れなどで武田晴信の侵攻を食い止めるが、この敗戦をきっかけに武田氏は戦だけでなく、調略を用いた侵攻を巧みに使うようになり、砥石城を調略により落とし、土豪 大須賀氏を謀反させ、室賀氏、屋代氏、石川氏など村上方の諸侯を次々と降伏させていった。

そして今回の遠征で多大な戦果を挙げての凱旋である。



「越後では先日、上田衆率いる坂戸城が降伏開城いたしたようです」
山本勘助は斥候からの情報を評定にて報告した。

「その後、関東管領上杉憲政殿の要請を受けて関東へ出陣し、北条軍を一蹴し、上野国では随分と暴れておったようです」

「なんでも戦では負け知らずとか」
近くにいた馬場 信春は近頃よく耳にする越後の若い国主に注目していた。

信濃では主だった敵がいなくなっているため、武田方の話題は自然とその隣国、越後へ向かっていった。


晴信は海を欲しがっていた。

山林部にある甲斐の国は決して裕福ではなく、甲州金山があるおかげで色々な政策が出来ているが、莫大な富を生む海に接していなく、南は今川、北条がいるため、信濃の先にある直江の津を勢力下におきたがっていた。

今後の侵攻の事も踏まえて越後の情報を集めようとしているのだが、越後には軒猿いるため、思うような情報が集められていなく、大まかな情報しかわかっていなかった。


「奇策を用いて勝利しておるようだ」
「此度の北条軍との戦では正攻法でも勝ったとか」
「調略も使いこなすらしい」
「城攻めでは成果を上げておらん」


など色々な憶測が飛び交っていたが、この時はまだ、長尾景虎の評価は高くなく、武田方から見ればそんなに苦労をせずともいけるのでは?という風潮であった。


「お屋形様いかがいたしますか?」
山本勘助がいうと…

「次の戦では北信濃へ侵攻する。その時の様子見ではあるが、越後の出方によってはそのまま越後への侵攻となるやもしれぬ。各々方、抜かりないようご準備されたし」
として武田晴信は次の戦への準備にかかっていった。



その頃、越後では先日訪れた高梨政頼と村上義清を迎え入れ、信濃出陣の準備をおこなっていた。

「信濃への出陣に対して、関東へにらみを利かすために上田長尾衆、政景殿に留守居をお頼み申す。また越中方面は大熊殿に手当てをしていただきたい。お二人ともよろしくお頼み申す。」

「景虎様、此度の先鋒はぜひ我ら信濃衆にお下知を」
猛将と名高い村上義清は、積年の恨みもあり、こればかりは譲れないと確固とした意思で告げてきた。

「勿論、そのつもりである。村上殿よろしくお頼み申す。」
景虎としても心意気を買っているし、信濃衆の強さもわかっているため、問題なく了承をした。


こうして景虎率いる越後軍は

先鋒を村上義清率いる信濃衆
越後の猛将 柿崎景家

2陣
平林城主 色部勝長
赤田城主 斎藤朝信

3陣
北条城主 北条高広
桝形城主 甘粕景持

4陣
鳥坂城主 中条藤資
揚北衆 本庄繫長

5陣
栃尾城主 本庄実乃
琵琶島城主 宇佐美定満

総勢 8000の軍勢で信濃へ出陣していた。


たいする武田軍は先に出陣をしており、川中島南方の更科八幡に布陣し、

本陣に武田晴信
山本勘助
真田幸隆 信綱親子
原虎胤
秋山信友
小幡昌盛
馬場信房
飯富虎昌
武田信繁
内藤 昌豊
小山田 信茂

総勢 12,000の軍勢で鶴翼の陣にて、越後軍を待ち構えていた。


「武田軍がお待ちだ。魚鱗の陣にて前進」
と行軍陣形から、一糸乱れず陣形を変える姿を見て武田軍からおおと歓声が上がっていた。

(思ったよりやりよるかもしれぬな…)
その姿をみていた晴信は嫌な予感がしたが、兵数でも上回っているため、多少の損害が出ても、よもや負けるとは思っていなかった。


両軍が対陣を終え、今にも開戦しそうな時

「さすが武田軍、隙らしい隙が無い。なかなかやる。
しかし…それならそれなりにやりようはある。宇佐美殿へ伝令…」

といって伝令が去った後、
「まずは越後軍の強さを思い知らしてくれる。先鋒出陣!!ほら貝を吹け」

「おおー」と威勢よく飛び出していったのは信濃衆率いる村上義清

その先にいる敵が仇敵の真田親子とあって様子見無し、力任せにぶつかっていった。

勿論、真田も歴戦の将、がっぷり四つに組み合う両者

「こらえろ、下がったら押し込まれるぞ」と武田軍も必死に支え
「押せ押せ、真田の陣を崩すぞ」とこちらも一歩も引かぬ勢いで攻め立てる

「頃合いや良し。前進」
武田の中央で戦っている真田の両隣、原、秋山が陣を前進させると、それに合わせて越後軍も色部、北条がぶつかっていく。


「我らも出る。前進」

鶴翼の先端部分である小幡、馬場の陣も前進したので、2列目から、中条、本庄が対応する

ここまではがっぷり四つでお互い譲らない戦いであった。


甲州騎馬軍団

武田軍はその機動力を使って攻めるのを得意としていたので、ここで遊撃隊として飯富、小山田の部隊が左右から回り込んで来たが、ここも景虎は読んでいて、本庄と本陣から鬼小島を出し対応していた。


「ええい。抜けぬか。いったん下がりもう一度突撃しなおす」
奇襲が成功しなかった武田の遊撃隊は一旦、距離をとり、もう一度突撃の準備に入った。



その時

右翼最先端の小山田の側面より、宇佐美隊がぶつかっていった。小山田信茂も見ていたので予備兵力をそちらへ手当をして、本陣に使いを走らせていたが、実はその宇佐美の影より、親衛隊を率いる千坂が800の精鋭を引きつれて無防備の側面へ突撃していった。

鶴翼の陣は包囲殲滅の陣形のため、特に最先端は薄く、広く構えていくのが、仇となり十分な対応が出来ずに、押し込まれていった。

しかも宇佐美は意図的に隣りの秋山の陣に圧力が伝わるように攻めていたため、全体的に左寄りに圧力が伝わっていく。

それを嫌った真田は本陣正面のため、一歩も引かずこらえるように指示。


「やはり正面がこらえたな。荷駄隊そのまま、甘粕隊にここで敵に備えさせよ。敵の遊撃隊が来る。本庄と小島隊もそのまま待機、本陣親衛隊、そのままついて来い」
と放生月毛にまたがり、颯爽と飛び出していった。

景虎に後れを取るなと本陣の親衛隊も続いて戦場に出ていき景虎を追う

「景虎様、危のうございます。一度お下がりください。」
と金津新兵衛は声をかけたが
「構わん。我には毘沙門天の加護がある。このまま進むぞ」といい、村上隊の脇をすり抜け真田と原の間から真田の側面にぶつかっていった。

景虎自ら突撃していったのを知った越後軍は

「殿を追え」
と柿崎、斎藤の部隊が続き、それまでこらえていた原、真田の陣を蹴散らした。

2列目に構えていた武田信繁、内藤 昌豊の部隊にそのままの勢いで突撃して行き、こちらもどんどん押されていく。



「殿このままでは持ちません」

晴信に勘助は現状を伝え
「遊撃部隊を左右の部隊へあて、陣を下がらせましょう」
として、遊撃部隊に現状を持ちこたえさせ全体の陣を下げていった。



「武田軍が下がっていきます。」
「このまま追いますか?」と本陣にいた金津新兵衛が聞いてきたが景虎は「いや、ここまでにする。全軍引かせろ」
と越後軍もそのまま武田軍を追わずに下がっていった。


晴信も越後軍が引いていくのを見て
「とんでもない戦をしよる。自ら戦陣に立ち突撃してくるなど正気か」
「しかし、おかげで我が陣は崩されました。またこちらの機動力をすっかり抑え込まれていたので完敗です。」
と山本勘助は冷静に分析する。

「ふん。戦で負けてもやりようはある。今回負けはしたが、見ていろ。全軍そのまま塩田城まで引く。馬場、秋山にしんがりを命じろ」

こうして武田軍はじわじわ退却していくのを越後軍は追撃するも、しんがりを任された馬場、秋山はお家芸のひとつ、かくれ遊びという戦術を使い、巧みに追撃をかわし景虎をもってして
「あの両名はやりおる」といわしめたのであった。


そのまま塩田城まで武田軍は下がり、引き籠ったまま出て来ず、越後軍も数で劣るうえ、城から出てこない武田軍に手の施しようがなく、追撃に警戒しながらこちらも引いていき茶臼山、善光寺と経由して、そのまま越後へ帰還していった。

「武田軍はなかなかやりよりますな」
「村上殿の突撃に耐えるなど相手の先鋒もやりよるわい」
「騎馬軍団といわれるだけあって、引き際が上手いですな」
「並の部隊では、後手を踏まされましょうな」

など、相手の感想をそれぞれで語り合っているが、どことなく余裕が感じられる。

大きな勝ちにはつながらなかったが、ひとまず勝利を挙げたことで、気持ちに余裕が出ていたようだ。

この戦から10年の歳月をかけて5回、川中島を舞台に武田軍と戦うようになっていくなど、この時の景虎は思ってもみなかったであろう。


帰国後すぐに景虎は京の将軍のもとへ向かい、初めての上洛を果たしていた。

後奈良天皇および足利幕府の将軍、足利義輝に拝謁し、後奈良天皇より御剣と天盃を下賜され、越後の守護として敵を討伐せよとの勅命を受け、武田軍と戦う大義を得たのだった。


遠くこの様子を見ていた武田、北条などは力のない将軍家に何ができると思っているのだが、景虎のこの辺りの外交力はなかなかやると評価はしていた。
ただし、それでどうにかなるとは思っていなかったが…


帰国した景虎に突然、とんでもない出来事が起こった。

「殿、大変でございます。」
千坂があわてて景虎の元にやってきた。

「北条高広どの謀反」
猛将と名高い北条の謀反は一度はまとまった越後国内でまたもや暗雲が立ち込めるきっかけとなっていた。
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