軍神と呼ばれた男

なべ

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群雄割拠

関東管領軍の侵攻

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翌年の永禄3年3月

「景虎様、全員揃いました。」
評定を仕切る宇佐美が声をかけた。

「この度は越中国の椎名康胤殿より支援の要請があったそうですな。」

北条高広は猛将というだけあり、戦の話しになると前のめりになって参加してくる。

「うむ神保長職に攻められ苦戦しておるようだ。早々に出陣しようと思っておる。」

越中は越後の西側で隣接しており、国防上の問題もあり、景虎としても早期に解決しておきたい案件であった。


「今回の越中での騒乱は武田が糸を引いているとか?」
「確かな情報ではないが、ない話でもあるまい」
「でしたら、我らが越中へ援軍に行っている間、どこぞを狙っておるやもしれませぬな。」


家臣たちがそれぞれで話し合っているのを見て

「信玄の考えておることは単純じゃ。
海を目指したいのであろう。

どのみち此度の遠征は親衛隊と少数の者でおこなう。
留守居として甘粕景持どの、本庄実乃どの、長尾政景どのにお任せいたす。努々油断なきようにお頼み申す。」

「越中への出陣は、斉藤朝信どの、柿崎景家どの、北条高広どのと馬廻り衆にておこなう。それぞれ出陣の用意を。」


当初重臣たちはもう少し兵を率いてはどうか?
と言っていたのだが、景虎には十分な勝算があったため反対意見を退けて少数精鋭での出陣となった。


神保長織は椎名康胤の松倉城を包囲していたのだが、景虎率いる越後軍を見るなり包囲を解いて逃げるように退却していった。

「なんじゃつまらん。」
と愚痴をこぼす北条に景虎はそのまま神保長織の居城である富山城まで追撃するように命じた。

その後、戦らしい戦はないまま、富山城を完全に包囲してしまった。
神保長織の富山城は、神通川を城の防御に利用している難攻と言われている城である。

富山城をみた本庄は「浮城ですな」と渋い顔となっていた。

軍議の席上にて
「今回はこちらも兵数が少ないため、攻め処を絞って攻め立てる。
富山城は東の出丸が比較的攻めやすいがこの度はこちらは捨て置き、南の二の丸と西の出丸を主に攻略をする。
二の丸を北条殿、西の出丸を柿崎殿にお任せする。斎藤殿には…」


その頃、自城に戻ってきた神保長織は越後軍が思ったよりも少ない人数で来ていることを知って
「こんなことなら慌てて帰ってこなくても良かったわい。この人数なら籠城で耐えられるわ」と余裕が見えていた。


翌日より早速、本庄、柿崎の攻略が始まったが守りが固く思うように攻略ができず、死傷者ばかりを無駄に出しているような状態であった。
そんな時に神保長織の元へ驚くべき報告が入ってきた。

「能登の畠山が出陣の準備をしています。」

景虎は事前に畠山へ共闘の申し出をしていて、準備が出来た旨を斎藤に伝えさせたのだ。

これにより神保長織は挟撃される形となり、このまま籠城していても滅亡を待つのみとなってしまった。
「このままでは不味い。東の出丸より脱出する。城に火を放て。その隙に増山城へ向かおう」

こうして堅城を誇った富山城もほとんど争うことなく神保長織の放火により消失した。
景虎は追撃をおこなったが戦場追撃のみにとどめて、越後へ帰国していった。

「越中ではもう少し手ごたえのある戦が出来ると思ったんじゃがな」
「北条どのが出てくるまでもなかったですな。www」
「斎藤殿が援軍要請をもう少し遅らせてくれればよかったんじゃwww」
「そんなことをしたら御屋形様に大目玉です。。。」

勝ち戦なだけに皆、楽し気に今回の戦を振り返っていたが北条はもう少しやり働きがしたかったと残念そうにしていた。
ただ、近隣の情勢が穏やかでない状況なので素早く解決できたことに景虎としては満足していた。


帰国後すぐに軒猿より
「今川義元が尾張へ遠征」という情報を掴んでいた。

尾張の織田信長はまだこの時はほとんど無名ではあったが、以前上洛した時にも足利将軍より、織田信長が上洛していると聞いていたため、景虎も少しは気になっており、今川軍に飲み込まれるのか?それとも何かが起こるのか?と注目していたのだ。



永禄3年5月
「今川義元、桶狭間にて討ち死」

この情報は瞬く間に全国に広がり織田信長の名前は全国に知れ渡るようになる。

ここ越後でも評定の席にて
「なんでも織田というのは3000で2万を超える今川軍に勝ったそうな」
「奇襲が上手く行ったようですぞ」
「大将自ら前線で戦っていたという」などお互いに知っている情報を話し合っていた。

「此度の戦にて今川、武田、北条の三か国同盟は崩れていこう。この機会に関東へ出陣してみてはいかがでしょうか?」
「その隙に武田が動いては面倒ですぞ。」


すると宇佐美が
「此度は武田は動かんと思われます。今、信玄は西の美濃と南の今川領に関心を持っております。
ただ北条が泣き付けばまだ同盟の体をなしている以上援軍を送らざるを得ないと思いますが、本腰を入れて攻めてくることはないでしょう。」


景虎は
「そろそろ関東衆も待ちわびておよう。関東の諸侯を率いて北条を成敗いたす。一同出陣の用意を」

そうして関東諸侯に触れを出し、関東管領・上杉憲政を引き連れ堂々の関東出陣をおこなったのである。


三国峠を越えて上野国に入った越後軍を出迎えたのが箕輪城主の長野業正である。

長野業正は戦上手で名高く、あの信玄が「業正が生きてるうちは上野国は獲れん」といわしめたほどである。

「長尾殿遠く関東の地までご足労いただき誠に有り難く存じます。」
「長野殿、私たち越後の者も元は関東が出身のものが多くござる。
皆懐かしがっております。その地を好きに暴れまわる北条は許しておけません。
ぜひご一緒に成敗いたしましょう。」

こうして、戦上手と言われた長野業正との共闘が叶ったのである。



両軍は早速、北条が支配している小川城、名胡桃城の攻略にかかった。

戦上手と言われるだけあり、長野業正の用兵は景虎との相性が抜群で、挟撃のタイミングにしかり、攻め処や、遊撃隊の指揮など旧知の仲のような戦が繰り広げられた。

「長野業正どのが味方で良かったですな。」
斎藤朝信などは素直に感心していた。

特に景虎の用兵は緻密に準備されているにもかかわらず、現場の空気で臨機応変に変化していく為、並の指揮官では理解できない場合が多く、共闘は役割をはっきりと分ける必要があったのだが、長野業正は阿吽の呼吸で対応できるため、景虎も思う存分に戦を差配できたのである。

こうなっては北条方が敵うはずもなく明間城、沼田城、岩下城、白井城、那波城など次々と攻略されていった。

そうこうしているうちに年も暮れたので、最後に関東における拠点とする厩橋城を攻略し、この城で越年することにした。


「今回は武田が大人しくしておりますな。」
本国を空けていることに多少の不安があるものの、思ったように武田が大人しくしているのと、ここまでの戦果が上々なので関東諸将に対して北条討伐の号令を下し、檄を飛ばして参陣を求めたのである。

景虎の攻勢を見た関東諸将は、景虎の下へ結集、兵の数は増大していった。

年明け北条を成敗するためいよいよ関東管領軍が動き出す。



その頃
武田領では今後の方針について評定がおこなわれていた。

まずは原虎胤が近隣の状況を話し始めた
「今川義元殿が桶狭間にて織田信長に敗れたことにより、近隣の状況が変化してござる」

「まずは三河で松平が今川の庇護を離れ独立、織田と同盟を結び申した。それにより織田は当面は美濃へ、松平は東の今川領へ戦力を集中するものと思われます。」

「この同盟は理にかなっておる。お互いの利益が合致しているため当面はほころびが出ることはあるまい。」
信玄は織田の外交戦略に光るものがあると感じていた。
「その織田から度々使者が参っており、諏訪勝頼との婚儀を望んでおる。」

「我が方としても木曾、東美濃を抑えるためにも織田の要求を受けるつもりである。」

「では今まで通り信濃への攻略でよろしいのですか?」
山本勘助が近郊の状況が変化する中でこのままで良いのかを確認してきた。

「いや、義元殿が亡くなって状況が大きく変わろうとしておる。また関東方面も動きがあるだろう。当面は信濃攻略を掲げていくが、大きく方向転換する可能性もある。皆も臨機応変に対応できるように準備しておくように。」

評定の席上では今後の方針の明言を避けたが、今川の弱体化は目に見えていた。
強敵がいる北を目指すより、南へ侵攻し駿河を手に入れた方が現実的である。
ただし、家中には嫡男の義信をはじめ、親今川派が多数いるため、まずは家中での取り込み、説得が必要と考えていたのだ。


永禄四年
厩橋城にて新年を迎えた越後軍だが、新年早々に慌ただしく動いていた。
景虎は関東諸将に対し、北条討伐の号令を下し、檄を飛ばして参陣を求めた。
唐沢城の救援や関東に入ってからの景虎の活躍を見た関東諸将は景虎の下へ結集していった。

上野からは
長野業正 (箕輪城)
由良成繁 (金山城)

下野からは
宇都宮広綱 (宇都宮城)
佐野昌綱 (唐沢山城)
小山秀綱 (小山城)
那須資胤 (那須城)

常陸からは
小田氏治 (小田城)
佐竹義昭 (太田城)

武蔵からは
太田資正 (岩付城)
上田朝直 (松山城 (武蔵国))
成田長泰 (忍城)
三田綱秀 (勝沼城)

下総からは
簗田晴助 (関宿城)

上総・安房からは
里見義堯、里見義弘 (久留里城)
正木時茂、正木信茂 (大多喜城)

そうそうたる諸将が集まって来ていた。

景虎はすぐさま行動に移す。
まだ参陣していないものは置いておき、参陣した諸将を引き連れ北条方の城へ次々に攻めていった。
那波氏の居城・那波城を攻略して、更に武蔵に南下して羽生城も陥落させていった。

進行するごとに味方を増やしていく越後軍に対して、北条軍は次々と他国衆が離反していき、兵力差がいかんともしがたくなっていた。

「このままでは不味い。同盟国の武田と今川に救援要請をしろ。また、玉縄城の北条氏繁、滝山城の北条氏照、河越城の北条氏尭は篭城に徹するように伝えろ。」
氏康は野戦では越後軍に勝つことは難しいと判断し、籠城策を採用し、景虎の脅威が去るのを待った。

この頃には関東管領軍が10万にも及ぶ規模になり、北条方の支城を攻略しつつ、本拠である小田原城も包囲していた。
太田資正の部隊が小田原城の蓮池門へ突入し激しく攻め立てるなど、各地で激戦が繰り広げられた。

しかし、北条の小田原城は難攻不落の堅城のため、大きな戦果を挙げることが出来ないでいた。

また遠く越後からの遠征では補給路を確保するのが大変で、度々遅延する事態となっていた。

それと各大名は兵糧は自前で賄うようになっているため、早期の攻略が難しいとなった今、長期の戦を続けるのが難しく撤退を要求してきていた。

なかには無断で退却するものも現れ、士気の低下はいかんともしがたくなっていたのだ。


ほどなくして景虎のもとに越後より伝令が届いた
「信玄が信濃へ侵攻を開始、属城の割ヶ嶽城を攻略されました。
さらに信濃・川中島に海津城を建設中」

「北条からの要請でしょうか?」
斎藤が訪ねると
「それももちろんあるだろうが…少し越後を空けすぎたようだな」
「どうされますか?」
「各諸将からも撤退の要求も多い。此度はこれで撤退するが、少し鎌倉に寄って行こう」

上杉憲政の要請もあって鎌倉の鶴岡八幡宮において上杉家の家督と関東管領職を相続、名を上杉政虎(まさとら)と改めた。

「信玄がお待ちだ。撤退後、信濃へ向かう」

こうして北条を後一歩まで追い込んだ越後軍は関東各地で暴れまわり、武名は一気に近隣諸国に広まわることとなったのだ。
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