軍神と呼ばれた男

なべ

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群雄割拠

異説 第四次川中島の戦い

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「御屋形様、評定の時間です。」

越後へ戻った政虎は早速軍議を開き、信濃にいる信玄への対応を協議していた。

「信玄は我らがいけば逃げるのでないですか?」

信濃において何度も戦いを挑んではいるものの、正面からの決戦は始めの1回のみで後はすべてにらみ合いで終わっている。

ましてや今回は海津城があるため、そこから出てこないのではないか?という意見がほとんどであった。


「確かに此度も決戦は避けようとするだろう。だが海津城をそのままにはしておけぬ。
今回は海津城がある分、信玄めを決戦に引っ張り出す算段がある。
ひとまず善光寺まで出陣する」


こうして政虎率いる越後軍1万9千は善光寺へ出陣していった。


その頃海津城では
「越後軍が信濃に入った模様です。」

越後軍の対応を検討していた。
「さすが政虎よ。先日まで関東で戦っていたというのに、もうこちらに顔を出すとは、電光石火とはこのことよ」

「御屋形様、相手を褒めておる場合ではございません。
が…一足遅かったというべきでしょうか」

山本勘助は今回の戦に絶対の自信を持っていた。

「今まで戦場で煮え湯を飲まされてきたが、今回ばかりは勝ちを頂こう。皆のもの、所定の配置にて越後軍を迎え撃て」



海津城の近くに妻女山がある。

こちらの山頂は海津城よりも高いため、ここを抑えると城内が丸見えになる。

戦略上海津城の弱点ともなる場所であった。

そのため、妻女山に連なる尾根に城塞網を築き、万が一、敵に妻女山を抑えられても対応できるように武田軍は対処してあったのである。

その為、海津城がある武田軍は攻めるも、守るも戦場の主導権を取れる立場にあったのだ。

これにより信玄をはじめ、山本勘助は今回の戦に絶対の自信を持っていた。

「来るなら来てみろ。ここで決着をつけてやる」
と必勝の構えで待ち望んでいた。


善光寺に着いた越後軍は軒猿を使い、戦場の状況を把握し
「信玄め。やりよる」
と政虎を唸らせていた。

「御屋形様。一度引くのも寛容かと…」
智将として名高い宇佐美定満ですら、この配置では勝てないと考えていた。

政虎は
「いや…今回の布陣なら信玄も逃げまい。
決着をつけるにふさわしい。
今回はわが軍も2つに分ける。
一軍は宇佐美殿に率いていただき、こちらに布陣していただきたい。」

そこは海津城、城塞群より西側で平地ではあるが、どちらにも対処できる地点であった。

「親衛隊含む本体は妻女山を攻略する」

こうして越後軍は

宇佐美定満率いる1万
色部勝長
北条高広
甘粕景持
中条藤資
本庄実乃が海津城西側に着陣し


政虎率いる9千
村上義清
柿崎景家
斎藤朝信
本庄繫長にて妻女山目指して向かっていった。


武田軍は妻女山に守備部隊を置いてはいたが、この布陣から本気で妻女山へ入ってくるとは思っていなかった(通常考えれば悪手である)ため、あっさりと妻女山へ越後軍は入っていった。


この状況に信玄と勘助は

「まさかこの状況で妻女山へ入っていくとは…相変わらず正気とは思えんわ」

「しかし、これでこの戦場はこちらが完全に主導権を取りました。
攻めるも守るもどちらにしても先手が取れますぞ」

「確かに守るだけは容易い。
が、攻めるとなると…
別動隊が絶妙に嫌な位置におるわ。
それなりの損害を覚悟せねばなるまい。」

「どういたしますか?」

「ひとまず、こちらの有利な状況なのは変わらぬ。越後軍の動向を見てみよう。
なんぞ企んでおるやもしれぬからの」

こうして武田軍は妻女山に入った越後軍の様子を伺う事になった。


政虎の方では…
「信玄は動きませぬな。
このままでは埒があきませんぞ」

「少し様子をみる。そうすれば勝機が見えてくる」

と政虎は何かを待っているようではあったが、それが何かは誰もわからなかった。



しばらくお互いにらみ合っていたが
(そろそろ頃合いか…)

高櫓にて海津城をにらんでいた政虎が「評定を開く。各将を集めろ」
と小姓に命じ駆け出して行った。

「当てが外れたわ。
信玄坊主め、この状況でも攻めてこんとは…。

ここは一時退却する。
近隣の翁から明日早朝は霧が濃くなるという話しを聞いた。
視界が見えないうちは何があるかわからぬ。
霧が晴れてから別動隊と合流して善光寺まで退却する。各自準備しておくよう」

こうして妻女山に布陣した越後軍は退却するための準備にかかっていった。



これを見ていた武田軍は山本勘助が本陣に向かっていき信玄と会談に入った。

「これは勝機ですぞ。政虎が先にしびれを切らしましたな。」

「この状況をどう生かすかだ。勘助よ、良い策はあるか?」

「明日、早朝は霧が濃いため、越後軍は霧が晴れてから動くと聞き申した。
ならば先手を取ってこちらから仕掛けるべきかと…」

「うむ。そこは賛成じゃ。どのようにして攻める?」

「此度は別動隊にて深夜に妻女山へ移動し、霧が晴れて退こうとしている所を急襲いたしまする。
そして…
越後軍が逃げる先は…こちら。」
こうして絵図の一点を指した。

「八幡平か」

「そうです。ここでお館様率いる本体に布陣しておいていただき、挟撃するというのはいかがでしょう?」

「大筋それで良いが…
相手の別動隊に挟まれては、こちらが挟撃を受けてしまうぞ」

「相手の別動隊は海津城に一軍置いておき、高坂殿に率いて惹きつけていただければ良いかと。」

「良し。ではそれでいこう。

御旗楯無 御照覧あれ

今回で越後軍にとどめを刺してくれる。」


妻女山にいる政虎は武田軍の様子を眺めながら目を光らせていた。


深夜になり、武田軍は別動隊、信玄率いる武田軍本体それぞれがひっそりと霧に隠れて進軍を開始していた。

八幡平に布陣した本陣も布陣を終え、霧が晴れるのを待っていた。

しかし
霧が晴れた時に目にしたものは…

想像を超える事態になっていたのだ。


「目の前に越後軍1万2千が布陣を終えています」伝令が飛び込んできた。
「本陣の天幕をひらけ」
すでに目視できる距離に越後軍は整然と構えていた。

「是非に及ばず。
別動隊が来るまでここを死守する。
なんとしても守り抜け。
小幡に別動隊と繋ぎを取り至急こちらに向かわせろ。」



「あれが信玄か」
天幕が開いたことで、遠目に政虎は信玄を見つけた。
「ここで決着をつけてくれる。出陣じゃほら貝をふけ」



政虎は退却すると見せかけて、武田軍をおびき寄せることに成功したのだ。
(ここまでお膳立てをすれば挟撃してくると思ったわ。)
越後軍も濃霧の中進軍し、八幡平へ移動していたのだ。


こうして第4次川中島の戦いは幕を開けた。


本陣を守る武田軍に、遮二無二攻め込む越後軍。

どちらもがっぷり四つに見えるが、別動隊に主力を多く持って行った武田軍に対して越後軍は兵数も多く、先手をとった勢いもあり、どの戦場も越後軍が押していた。

ただし、武田軍も名将ぞろいのため各将が前線で鼓舞し、押し込まれても崩されることはなかった。


剣戟が本陣近くまで響いてきたその時に
「別動隊が越後軍東側に到着しました。」

これにより越後軍が挟撃される形となり、武田軍は少し楽になったかと思われたが…



遡ること昨日
越後軍の別動隊は政虎から密かに指示が届いていた。

軍を3つに分け、一軍は退却路を確保すること
もう一軍は八幡平東側にて本体と合流すること
最後の一軍は海津城を迂回し、八幡平東に現れるであろう別動隊の西側へ着陣し、別動隊が現れたら後方より突撃せよ


と政虎は完全に戦況を読んでいたのだ。


戦場に現れた武田軍別動隊は本陣がかなり押し込まれているのを見て、焦っていたこともあり、後方の備えを怠っていたのが裏目となった。

越後軍に挟撃を仕掛けたところまでは良かったが、その後ろから突撃を受けたことで、どの戦場も混沌とし、我慢比べの様子となった。

元々の兵数に勝る武田軍に対して、先手を取り戦場を読み切った越後軍が激しく抗戦する戦いになっていった。



政虎は戦場の空気を感じていた。
(良く戦ったが…
これ以上は被害が大きいか…ここらが潮時かもしれん)

退却を考慮し政虎は戦場を西に移動させるように差配していった。

移動する際に政虎と信玄の本陣が接近するようになっていた。


(好機到来)
愛馬の放生月毛にまたがり、颯爽と飛び出していった。


信玄の本陣もすでに戦場に巻き込まれ、各将が必死に防戦しているところへ、1騎の武者が乗り込んできた


「信玄覚悟」
咄嗟に手にしていた軍配にて相手の太刀を受けた信玄は相手が政虎とすぐに分かった。

数度、政虎の太刀を受けたが全て軍配で躱し、その間に周りの小姓たちが集まってきたので政虎は引き上げていった。


「大将が単騎で攻め込んでくるとは…正気の沙汰とは思えん。。。」
信玄は政虎の凄さをまざまざと見せつけられた。

その後本陣に帰った政虎は退却に移ったが、武田軍も散々に打ちのめされていたため、追撃をすることなく、陣を立て直すように指示をしていた。


双方多数の被害者を出した第4次川中島の戦いではあるが、武田軍は武田信繁、山本勘助、両角虎定、初鹿野源五郎、三枝守直ら多くの武将を討ち取られ、多大な損害を受けたのだった。


善光寺まで退いた越後軍も損害が大きく、多くの兵を失っていたため、これ以上の抗戦は不利とみて、そのまま帰国していった。

実質的に戦では武田軍は敗れたものの、海津城を始め、周辺の支配権を得たことで戦略的には武田軍の思惑通りとなったのだが、今回の戦を機に信玄は信濃、越後への侵攻よりも別のところへ攻める意識が強く働くようになる。

その為、家中に大きな問題があることに悩まされる信玄であったが。

政虎にしても、武田軍を倒し切るのはやはり難しいと考えていて、それよりも関東平定に重きを置いた政略をとるようになっていく。




これにて「群雄割拠編」を完結とし、次回「関東平定編」へ続きまず。

なお

次回よりif物語りとさせていただきます。

上杉軍がしっかりと領土を確保していけていたら…

という架空の物語りとなり、どこまで行けるのか?そのようにして治めていくのか?を作者なりに考察していきたいと思っております。
謙信公が好きな方に贈る、英雄譚としますのでお楽しみに
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