軍神と呼ばれた男

なべ

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関東平定

歴史が動く前兆

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政虎は前回の川中島の戦いから今後の事をずっと毘沙門堂に籠り検討していた。

現状、越中も情勢不安なので懸念材料ではあるが、まずは武田、北条の二面作戦を継続するのが困難と考えていた。

特に関東方面は遠征している時は諸将もこちらに靡くが、引き揚げてしまうと北条方に付いてしまうため、なかなか進展がなかった。

関東に集中したい政虎としては、武田の動きを封じる必要があった。

また武田も前回の川中島の戦い以降、方針を変えて南に向かいたい思いがあり、そちらに全戦力を注ぎたかった。

だからといってお互い和睦が出来る状態ではないため、どのようにして落としどころをつけるか検討していた。



永禄4年11月

まず動いたのは政虎の方であった。

「先日軒猿より武田が出征の準備をしていると情報が入り、行先が西上野とわかった。」

「長野 業正殿が病死したのを良い機会とみたのでしょう。信玄と言うのは相変わらず聡いですな。」
宇佐美が皮肉を込めていった。

「北条も同調しませんか?」
斎藤はこの動きに合わせて北条も出てくると踏んでいた。

「氏康はこの機会を逃しはすまい。武田、北条それぞれ協力体制と見て間違いなかろう。おおかた武蔵へ侵攻し要となる松山城あたりを狙ってくると思われる」

「それで御屋形様はいかがしますか?」
「勿論、救援部隊は送ることになるが…」

「今回は別にひとつやっておきたいことがある。信濃へ向かい海津城に付け城を普請する。この作戦を成就させるために3方面作戦とする。」


「まずは箕輪城へ侵攻する武田だが、業正殿が亡くなったとはいえ、嫡男の業盛殿は剛の者、やすやすと落とされることはあるまい。

海津城へわが軍が向かっているとなれば、引き返す恐れもある。

ただ、ここで武田軍をそのまま引き返えさせたくはないため、足止めもしていただきたい。

難しい役目となるが…
ここは宇佐美殿にお頼み申す。
一軍を率いて長野殿を助けて頂きたい。」


「次に北条への手当ては、今回は上田衆と揚北衆に担っていただく。
政景殿に一任いたすので、松山城の城代の太田殿と協力し、よろしくお頼み申す。」


「最後に信濃へは我が指揮する。
今回は3方面作戦となる為、兵力的に厳しい戦いになるが…我に策がある。
皆はそれぞれの持ち場で一所懸命に励んでいただきたい。」

こうして越後軍は、宇佐美率いる箕輪城救援部隊に

中条藤資
北条高広
甘粕景持


長尾政景率いる北条対策に

色部勝長
本庄繫長
本庄実乃


政虎率いる海津城普請部隊に

村上義清
柿崎景家
斎藤朝信

がそれぞれの目的地に向かって出陣していった。



海津城を守る高坂昌信の元に早馬が届いた。
「越後軍が侵攻中」

高坂は早速、協議に入ったが、単独で対抗することは出来ないと判断し、籠城戦を選び、すぐに信玄に早馬を飛ばした。


越後軍はやってくると攻城に入るかと思われたが、周りに付け城を普請し始めた

「どういうことだ?」
と訝しんだが、とりあえずこちらの動きを封じる狙いなのがわかったので信玄にその旨を伝えていった。



それを受けた信玄は山本勘助と協議に入った

「政虎が海津城に付け城を普請しておるようだ。」

「また厄介なことを始めましたな。
海津城は信濃侵攻の要、そのままにしておけませんぞ。」

「わかってはおるが…
今回は氏康殿と二面作戦となっておる。
攻められてもいない状態でわが軍だけ退却するわけにはいかぬ。」


北条と同盟関係にあるが、武田としては駿河へ進みたい思惑がある為、氏康は武田を訝しく思っていた。

信玄もまだ北条とは争いたくはなかったため、今回は易々と引き返すことも出来ないでいた。

「上野へも越後軍が出張って来ておろう。
簡単には帰してくれるとも思われん…
ともかく当初の予定通り、箕輪城へ向かい現状を把握する。」



その頃、武蔵へ侵攻を計画していた北条氏康に火急の伝令が届いていた。

「佐竹義昭、里見義弘が出陣しました。
それぞれ我が領内へ侵攻しています。」

3国同盟を結んでいる北条は、武田が西上野へ侵攻していることを快くは思っていなかった。

しかし、そうすることで武田が上杉を対処してくれると踏んで、この機会に武蔵への侵攻を計画していた。

今回は上杉とは直接当たらないか、来ても援軍くらいだろうとたかを括っていたが…

まさか周りの諸将と組んで侵攻してくるとは思っていなかったため、対応に追われていた。

「里見には我が向う。
佐竹には幻庵を、武蔵には綱成を向かわせる」

(武田も我と一緒で引くに引けなくなっておるな。
政虎め、圧倒的不利な状況でとんでもない手を打ってくるわ。)


こうして各自、それぞれの思惑がありながら決戦の地へ向かっていった。


上野へ着いた宇佐美は早速長野勢と協議に入った。

「政虎殿より早馬にて詳細は聞き及んでおります。

ご助力有難く思っておりますし、我らに出来ることがあれば遠慮なくおっしゃっていただきたい。」

武田と対峙する業盛は戦人らしく、好感の持てる良い青年へ育っていた。

「父より敵に降伏してはならぬ。運が尽きたなら潔く討死せよ。それこそが私への孝養、これに過ぎたるものはないと遺言を受けておる身、武田や北条に降伏することはあり申さん。元より徹底抗戦する腹積もりです。」


「業盛殿、天晴な心意気。我らも一所懸命に励ませていただく。

当初の予定通り我らは城外にて武田に当たりまする。
なるべくこの地で武田の足を留めておくことが、今後将来にわたり寛容とのこと、お力添えをよろしくお頼み申す。」

こうして上野では長野勢と宇佐美率いる越後軍が武田を迎え撃つ布陣を組み、到着を待っていた。



その頃、武蔵にも同じように太田資正と長尾政景が共同で北条への対策を協議していた。

「此度のご助力有難く存じ上げる。

なんでも佐竹殿、里見殿も動かして頂いた様子。
これで北条もこちらへ十分に対応できなくなったと聞き及んでおり申す。

政虎殿の戦略眼には感服いたしました。」


「当初は氏康直々に参陣してくる予定だったようだが…
今回の総大将は綱成が勤めておるようですな。

なかなかの剛の者故、油断はでき申さん。」

「此度はどのように当たるおつもりで?」

「当主政虎より、状況に合わせて対処せよと承っております。
此度はこちらにて野戦を考えておりますが、いかがか?」
と政景は絵図の一点を指した。

「生野山ですな。ここなら守るに適した良い地形。
まずもって異論は御座らん。北条を迎え撃つ段取りを取りましょう。」

こうして太田資正と長尾政景は一緒に出陣し、生野山にて北条を迎え撃つ算段に入った。


北条の風魔は上杉軍の動向を把握していたため、生野山で待ち構えていることは承知していた。

「政虎め。なんでも思い通りになると思うなよ。目にもの見せてくれる。」



こうして北条もここを決戦の地として真っ向勝負に出ていった。

北条綱成率いる
遠山綱景
太田大膳
富永康景
大道寺政繁
狩野康光

北条軍10,000に対し太田・長尾政景率いる6,000が対抗していた。

兵数に開きがあるが、守勢である太田・長尾政景軍は地形を巧みに利用し、北条軍を寄せ付けないで踏ん張っていた。

開戦より数刻がたった頃、長尾政景は
「頃合いや良し。少しづつ戦場を下げるぞ」

こうしてじりじりと戦場を下げていき、最終的には籠城戦に持ち込もうとしていた。
北条の方もそれが分かっている分、野戦にて一思いに抜きたかったが、上杉軍でも精強な上田衆、揚北衆が相手では中々崩すことまで出来ずにいた。

この日の日暮れには松山城に籠られてしまったため、遠巻きに包囲するにとどまっていた。

この後、度々北条軍は仕寄ってみるものの、堅城と名高い松山城をこの人数で攻略することは難しく、埒があかない状態であった。


同じ頃、武田軍も同様で場外にいる上杉軍が神出鬼没な戦いをするため、攻めるも退くも思うようにいかず、時間だけ流れていった。



武田、北条、上杉と膠着状態にある戦場を意外な人物がまとめようと動いた。

それが室町幕府 将軍足利義輝であった。

「それぞれ和睦し速やかに矛を収めるよう」にと仲介を買って出たのだ。

政虎からすれば余計なことを…と思ったが、将軍家の意向に背くわけにもいかず武田、北条が退いたのを確認したのち、各部隊を引き上げさせた。

ただ将軍から付け城を破却しろとは言われていないため、信濃に関してはそのまま継続して各付け城に城代を置き、帰国したのだった。

この海津城を囲む付け城は


村上義清
柿崎景家
斎藤朝信がそれぞれ城代として残り、海津城を監視していた。


武田は将軍家に対し、上杉のやりようを抗議したものの、元よりどうにかなるものではないと思っていたので、一旦軍備を整えたのちに信濃に向かって進軍を開始した。

一方政虎も帰国後すぐに軍備を整え信濃へ進軍を開始した。

海津城を取り囲むように築かれた付け城を見て武田軍は事の重大さを思い知らされた。
(このままでは海津城は陥落してしまう。)


誰もがそう思っているところ、信玄はもう少し違った視点で見ていた。

(確かに局地的に見れば窮地には違いないが…この状況を上手く使えないものか?)

信玄には薄々感づいているところがあった。
(これで手打ちとするということか…)


前回の川中島の戦いにて多くの武将を失っている武田軍からは和睦要請は出来ない。

だが、海津城の城兵を助けるという大義があれば、和睦は一考の余地がある。


信玄には駿河へ攻めるための休戦協定を提示しているように見えていた。
(落しどころを見誤ってはならん。)


そうしているうちに上杉より使者が来訪してきた。
(やはり、休戦要請か…)



信玄の予想通り、政虎は一先ずここでの争いに決着をつけるように考えていたのだ。



この要請は先々の事を考えた時、信玄側にも利が大きい。

仮に信濃を失ったとしても、駿河を手に入れれば大きな見返りがある。
それと北条との関係も懸念材料としてあった。

今川へ侵攻した場合、北条は間違いなく断交してくる。

そうなった時、北条と上杉が万が一手を結ぶようなことになったら、三方すべて敵となり、身動きが取れなくなる。

北条を敵に回しても、上杉と手を組ませないだけでも価値が高い。

ただし、信濃を割譲するのはそのまま勢力の減少につながり、信濃衆である真田などがどうなるかわからない為、慎重に事を進めなくてはいけないと考えていた。



政虎の使者としてきたのは斎藤朝信である。

「当主上杉政虎より、信玄公には以下の条項にて休戦協定を締結していただきたく申し上げる」

「海津城、塩置城以北の放棄、海津城周辺の城郭群の放棄、互いの領土の境界を千曲川とし、それ以北は上杉領として互いに千曲川から5里は互いの緩衝地帯とするように要望する。

以上の内容となっておりますが、いかがですか?」


妥当なところであった。


結局、上杉側は海津城を前線として村上義清が治め、武田側は葛尾城を真田が治め双方でにらみ合う形となった。


これにより上杉は関東へ進んでいき、武田は今川領へ向かうようになる。


少し意向が変わったが将軍の顔も立てた格好になった政虎は義輝より偏諱を受けて、輝虎となった。

その後、法号「不識庵謙信」を称した。
(史実とは時期が異なりますが度々名前が変わっていくのも混乱の元なのでこれより、上杉謙信とさせていただきます)



この休戦協定がきっかけとなり、各大名とも大きく方向性が変わっていくのであった。
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