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最終章 新たな天井
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「本当ですか!?」
私は、耳を疑った。三期目での入閣は、驚くことではないが。だが女性の場合は、堀のように、女性活躍などのポストから入ることが多い。まさか、いきなり農水大臣とは……。
「下田は、さすがにためらっていたがねえ。私が、三好君ならやれると言ったんだ。なに、あいつは私には逆らえんよ」
下田が総理の座に就けたのは、辻村の力のおかげなのである。
「辻村先生。もう、お礼の申し上げようもございません。心より、感謝申し上げます」
私は立ち上がると、最敬礼していた。しばしの後、顔を上げると、辻村は意外にも寂しそうな表情を浮かべていた。
「三好君。いえ、華奈さん。以前君を政務官のポストに就けた時、君は罪滅ぼしかと尋ねたね。あの時は、違うと答えた。でも、今ならばイエスと答えよう」
「辻村先生……」
「もちろん、君ならやれると思っているよ? 能力は、十分」
辻村は、穏やかに付け加えた。
「だから、その点は誤解しないで欲しい。ただ……、長い政治家人生の中で、小田切君の死は、ずっと私の心に引っかかっていたことだった。引退と同時に、彼のお嬢さんに農水大臣のポストを与えることで、私はピリオドを打ちたいんだ。自己満足と言われれば、それまでかもしれんが……」
いえ、と私はかぶりを振っていた。
「これまでも、辻村先生には何度も助けていただきました。それだけでも十分感謝していましたのに、もったいなさ過ぎる贈り物と存じます」
「おや、じゃあ辞退するかね?」
辻村が、冗談めかして言う。まさか、と私は即答していた。
「それだけは、あり得ません。私は父の遺志を継いで、必ず日本の農政を発展させてゆきます……」
そこで私は、妊娠の話を打ち明けた。そうか、と辻村が目を輝かせる。
「前回は、残念だったからな……。今度こそ無事産まれるよう、祈っているよ。なに、君なら閣僚の仕事と両立できるさ」
「もちろんです」
閣僚の任期中に妊娠、出産した女性議員は以前にもいる。私にもやれないはずは無い、と自負していた。
「小田切君が生きていたら、さぞ喜んだことだろう……」
辻村が呟く。私にはその瞳が、一瞬潤んだように見えた。
私は、耳を疑った。三期目での入閣は、驚くことではないが。だが女性の場合は、堀のように、女性活躍などのポストから入ることが多い。まさか、いきなり農水大臣とは……。
「下田は、さすがにためらっていたがねえ。私が、三好君ならやれると言ったんだ。なに、あいつは私には逆らえんよ」
下田が総理の座に就けたのは、辻村の力のおかげなのである。
「辻村先生。もう、お礼の申し上げようもございません。心より、感謝申し上げます」
私は立ち上がると、最敬礼していた。しばしの後、顔を上げると、辻村は意外にも寂しそうな表情を浮かべていた。
「三好君。いえ、華奈さん。以前君を政務官のポストに就けた時、君は罪滅ぼしかと尋ねたね。あの時は、違うと答えた。でも、今ならばイエスと答えよう」
「辻村先生……」
「もちろん、君ならやれると思っているよ? 能力は、十分」
辻村は、穏やかに付け加えた。
「だから、その点は誤解しないで欲しい。ただ……、長い政治家人生の中で、小田切君の死は、ずっと私の心に引っかかっていたことだった。引退と同時に、彼のお嬢さんに農水大臣のポストを与えることで、私はピリオドを打ちたいんだ。自己満足と言われれば、それまでかもしれんが……」
いえ、と私はかぶりを振っていた。
「これまでも、辻村先生には何度も助けていただきました。それだけでも十分感謝していましたのに、もったいなさ過ぎる贈り物と存じます」
「おや、じゃあ辞退するかね?」
辻村が、冗談めかして言う。まさか、と私は即答していた。
「それだけは、あり得ません。私は父の遺志を継いで、必ず日本の農政を発展させてゆきます……」
そこで私は、妊娠の話を打ち明けた。そうか、と辻村が目を輝かせる。
「前回は、残念だったからな……。今度こそ無事産まれるよう、祈っているよ。なに、君なら閣僚の仕事と両立できるさ」
「もちろんです」
閣僚の任期中に妊娠、出産した女性議員は以前にもいる。私にもやれないはずは無い、と自負していた。
「小田切君が生きていたら、さぞ喜んだことだろう……」
辻村が呟く。私にはその瞳が、一瞬潤んだように見えた。
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